吸血画家テトラは妖魔ヴェルディと人形レジンを引き連れて、
マドレイユの山奥にあるという隠れ集落を目指していた。
そこにいるであろう魔術師様に色々と聞きたいことがあるのだ。
「オウルベア出てこないかな。そしたら死んだフリしてみたいなぁ。三人で川の字。」
「死んだフリは良くないとこの前聞いたが、
うむ。フリでも死体が3つも転がっていたら少しは戸惑ってくれるかもしれんな。」
ヴェルディは、後ろの方から聞こえてくる妙な会話に動揺しつつも先頭を歩いていた。
手には目的地までの道のりが丁寧に描かれた地図。
ガラクタ屋のマスターから『ノクティルカ』と一緒にもらったものだ。
なんとも気前のいいおじさんだ。
三人は地図のとおりに山道を歩いた。
途中、茂みの奥へ進み、小さな川をまたぎ、天然の石階段をよじ登った。
描かれたとおり、順調だ! …ったのだが。
「…ねぇ。まだ、着かないんけ??」
「おかしい…。天然岩のアーチをくぐってしばらく真っ直ぐ行けば、
集落があるはずなんだが……」
いくら歩いても辿り着けない。
ほんのりと不穏な気配。
「……なんかアレ、あそこ、またアーチがある。」
二度目のアーチ。
三人の不安ゲージが急激に上昇した。
半ばヤケクソ気味にくぐり抜け、先ほどより足早に直進する。
「あっ……………また、ある。岩のアーチ。
たぶんまったく同じ形。…………………………………
同じところグルグルしてるコレ?!?!」
さすがに三度はくぐれず、止まった。
「これはマズイな。たぶん引き返しても岩のアーチが無限に続くんじゃないか?」
「じゃあ横にそれてみるとか……?」
「いや、そういう問題ではないんじゃ……」
レジンはハッとして、辺りを見回す。
そこらじゅうにワサワサと生い茂る草木たち。
彼らの「緑」に囲まれていたはずが、気付けば葉がすべて「紫色」なのだ…!
それによく見ると、なんだかグニャグニャ揺れている。
三人の不安ゲージはMAXに達した。
瞬間、心臓をざくりとひと突き。
何者かの妖艶な声が刺さる。
『おまえ達……なにも知らず足を踏み入れた訳ではあるまい……』
何処からともなく響いてくる、
炎のように静かで、氷のようになめらかな声。
『おまえ達がこれまでに犯した罪……それをひとりずつ、言え。
……正直に言えば、生きたままこの無限の山林から出してやろう……』
美しくも残酷な声。
次の発言で生きるか死ぬかが決まってしまいそうである…
生と死の狭間、コショコショと話し合う三人。
上手く誤魔化せないかな?ムリだろ。
無言は?たぶんヤバイ。
軽度なイタズラ話とかは? やめた方がいいだろう……
どうあがいても逃れられない雰囲気。
なんか最終的に、三人とも目をスッと閉じ、無の表情に。
そしてとうとうテトラから順々に懺悔し始める。
「実は私たち、来る途中で対魔士様方を痛め付け……いえ、
なんと言いますか、しばき倒して、しまったんです。
悪気は無かったんです……ごめんなさい。」
『……………………しばき…………???』
「俺は基本的に、金持ちとか性根腐ったクソ貴族からしか盗まない主義だったんだが、
実は一度だけ(略)……申し訳ない事をしたと思っている……」
『??????』
「私は昔、テトラとフィエール歌劇を観に行った際、一度この小柄な人形の身体を
駆使して楽屋裏を覗きに行った事があった。楽しかった…いい思い出だ。」
『……フィエール歌劇か……』
「そういえば声似てる。あなた、『ニーキスさま』と声そっくり。
昔はいっつも歌ってたな私。声マネしてた。憧れの人…」
『憧れか……』
「ほんとに好きなのは、でも声じゃなくて目かな。目がセクシーで。」
『…………』
「エッチなこと考えてそうな目」
『どんな目じゃ!! 考えてない!! もういい、カメレオン解け!』
瞬く間に紫うごめく山林は消え、緑の世界に「声の主」が現れた。
頭髪だけでなく、服も真っ黒の女。
どうやら無限山林は彼女の使い魔・カメレオンが見せた幻だったようだ。
「え~~~~~~~~~~?!? ニーキスさまだ???!」
「なんという事だッ!!!?」
「何だ。どうしたんだ、……誰だ?」
二人のとてつもない盛り上がりに着いていけず、ちょっぴり寂しいヴェルディ。
黒髪の女はヴェルディに向かって話した。
「私はニーキス。そこのソイツラが言っている憧れの人とやらは、劇場で一時は…
歌姫などとも言われた『かつての私』。私の幻なのだ。」
ニーキスは目線をテトラの方に向ける。
「すべては幻、すべてウソだった。すまないな……」
「ニーキスさま、あの、握手、してください!!」
「あ、あぁ。」
握手。
テトラは力強くニーキスの手を握りしめた。
「今もニーキスさまは私の憧れです!! きっと、これからも!!
それはウソじゃないです……!!!」
そのテトラの言葉にニーキスは強く握りかえし、柔らかく美しい笑顔を見せた。
それを、朝焼けを見るような目で見守るレジン。
ヴェルディは、なんだろう、さっき俺たちその女に危うく殺されるところだったんだけど…
などと、よく分からない感情の芽生えを感じていた。