テトラ達は、黒髪の魔術師ニーキスに導かれながら天然岩のアーチをくぐった。
アーチの向こう側には深々と茂る緑の世界が見えていたはずなのだが、
くぐった瞬間、彼らは目的地の入り口にいた。
…………『マドレイユの隠れ集落』…………
「ようこそ、名も無き村へ。」
ニーキスはそう言うと、また静かに歩き出した。
彼女の背中を追う三人組。
男二人は一応、警戒心を保ったままチラチラと村を見回したが、テトラはやはり
好奇心の塊となってキョロキョロと村を、魔術師たちの世界を、全身で堪能していた。
「草も木々の葉っぱも全部チョコレート色だ。空は金色!」
「外から村を見えにくくする結界とか、なるべくクロリム(魔力の源)が外に出て
いかないようにする結界、……色んな結界術のせいで色が違って見えちゃうんだよ。」
「へぇ~~。なんだかロマンチックです!」
「ここの空は、昼間は金色・夕方はオレンジ・夜はネズミ色に染まるんだ。」
そよ風が吹くと、風がキラキラと光って見えた。これも魔力のせいなのだろうか。
立ち並ぶ建て物たちの多くは、クリーム色の石を積み、赤い屋根を乗っけたような感じだった。
その内のひとつに入っていくニーキスと三人。
外の清々しい印象とは裏腹に、建て物の中はゴチャゴチャと散らかっていた。
…床には、生命力が爆発したような複雑な模様のじゅうたん。
その上にはカボチャやドクロ、土器やら陶器やらがゴロゴロ。
植木鉢からは、おそらく草花ではない別のナニカが生え出ている。
……壁には、大量の魔方陣と額縁に入れられた絵画が数点。
壁際には本棚や魔導具棚や鏡。鏡は何故か水面のようにユラユラと揺れ、
向こう側で魚が泳いでいる。
そして………建て物の中央には、
いかにもな魔術師のお婆様が一人。水晶の前に座っていた。
「ケイオス様だ。一応、この村の長になるのかな。私の師匠……魔法の先生だ。」
↑クソ雑ケイオス様
「はじめまして、お嬢さん方。ワシの名はケイオス。ただの魔法好きの年寄りじゃ。
……まあ、お座りなさい。」
ポポポンとケイオスが出したイスに座る三人。
「私はテトラと申します。コッチの奴らは、その、友人です。」
「ヒヒヒ…。獣人妖魔に人形。なかなか楽しそうじゃのう。
わざわざこんな山奥の村を訪ねてくる理由も察しがつく。
ワシらがそうであるように、お主らも『魔と共に生きる者たち』なんじゃろう。」
「はい。…ズバリ、魔力が失われていってるのは一体、何が原因なんでしょう??」
「ウム。その事じゃが、……実はワシら魔術師もまだよく分かっておらんくてのう。
『何かがクロリムの循環を壊してしまった』ということなんじゃろうけども……」
「…そう、ですか……」
「ワシの弟子ヘルレイオスなら、あるいは何か知っておるかもしれんのじゃが……」
ニーキスが補足説明した。
ヘルレイオスは、ニーキスと共に大魔術師ケイオスの下で魔術を学んだ魔術師。
と言っても、ニーキスは早々に修行から逃げて劇場に入り浸り、いつしか劇団入りし、
その後十数年もの間を歌劇の人として生きてきた。ので、その力の差は歴然。
月とスッポンだ、と彼女は言う。 ……月とスッポン??
「ヘルレイオスの力量はとうの昔にワシのそれを上回った。
現時点で恐らく最強の魔術師じゃ。コレがどういうわけか、行方知れずでのう……」
ニーキスが再び言葉を紡ぐ。
「始めは『魔術師狩り』で捕まった者たちを逃がすために
一人でエストルーズに乗り込んで行ったんだと思っていたんだが、
……まったく音沙汰がない。」
もしかして…処刑、されてしまったんでは、と気まずそうに呟くテトラ。
「いや、それは無い。というかそもそも魔術師狩りとは、
処刑だとか牢屋にぶちこんだりだとか、そういう事ではないらしい。
勿論、魔術でよっぽどワルイ事したなら話はベツだろうがな。」
「……ただ、のう……」
少し、言いよどむケイオス様。
「推命術(占い)で、近い内にニーキスとヘルレイオスとが、
……『相対することになるであろう』、と出ておるのじゃ。」
「だから生きてはいるだろうが、『クロリムの循環を壊したモノ』か、
少なくとも良くないコトには関わっているかも……」
「相対するって、戦うってことですか?」
「もしそうなれば私に勝ち目は無い。
道を誤った出来損ないの私が、最強の魔術師に勝てるワケがない…」
『ニーキスさま』が出来損ない………????
「いえ。ニーキスさまは負けません。」
テトラは言った。めずらしく、わずかに憎しみが込められたような、低い声色。
「だって、信じているから。
フィエール劇場でニーキスさまの声に焼き焦がされた人、洗い流された人、
吹っ飛ばされた人、飲み込まれちゃった人みんなが、美しいカッコいい力強い
ニーキスさまを信じているから。
たとえニーキスさまが信じられなくても関係無いんです。
道を誤ったなんて、勝てるワケがないだなんて、…………
そんなのは!! ウソなんだ!!!」
勢いよく建て物の外に出ていってしまうテトラ。
だが。何処へ行こうにも、初めての土地。
なんだかややこしい事になるなコレと我に返り、すぐにニーキスたちの所に戻る。
「ヘルレイオスさんを探しに行きましょう……!
そして、万が一ワルさでもしてたら、華麗な技で叩きのめすっ!
それが、みんなの信じているニーキスさまです!!」