「こりゃあひどいな」
口にするつもりはなかったけれど自然と言葉が漏れていた。反対側の座席に座っていた他星の者もそうですね、と軽く返してくる。大分前に訪れた星の住民と似たような姿形をしている。猫耳のようなものを頭から生やしている上に厳つい顔立ちをしているがそれ以外は地球人と殆ど変わらない。
「あんたは地球に何しに来たんだ」
着陸まであと僅かな時間しかなかったが、この時初めてずっと反対側に座り続けていた乗客に話しかけてみようと思った。
「私ですか」
「あんた以外誰がいるのさ」
「まあそれもそうですね」
声質からして性別は女、か。喋り方は片言だがこの言語に長期間触れている事だけは確かだ。
「世話になった人の元から独り立ちしてふらりと彼方此方へ旅をしていたんですけれど、白咀という病が地球で流行っていると聞いて不安になって…… 」
「それで様子を見に来たってわけか」
「はい。その人ももう歳でしたし、白咀が無かったとしても数ヶ月後にはこの船に乗っていたと思います」
顔に合わない丁寧な話し方をする女は目を伏せる。この女は白咀に惹かれてやってきただとか地球を征服しようとしているわけでもない。ただ単純に、この青い星に住む大切な人に会いに来ただけなのだ。
「その人の居場所はわかっているのかい」
「勿論です。何年も住んだ大好きな街ですから」
あれほど荒れ果てちゃあ以前の記憶だけを頼りに目的地に辿り着くのは困難な作業かとも思うが、地球への船が出入り禁止された今の時代にこの密船に乗ってやって来れただけでも賞賛ものだろう。そういえば人が少ない原因はそれも一つだな。
「会えるといいね、その恩人に」
「そうですね。…… ところで、貴方は何故地球に来ようと思ったのですか」
「それは…… 」
実を言うと何もない。過去に居た事があるけれどもどうも記憶がぼんやりしていて思い出せないからもう一度来てみた、だなんて納得のいく説明には全くなり得ない。神楽の話を持ち出してみるか、それしか真っ当な理由はないけれど自分でもどうも腑に落ちない。
「実は地球に妹がいて…… 」
『間も無く地球に到着致します。衝撃で揺れる可能性がありますのでしっかりとシートベルトをお締めください』
訝しげな顔をする女に時間がない、話はまた後でと言葉を投げかけ外を見れば、荒れ果てた地上はもうすぐそこに迫っていた。手荷物だなんて帰り賃しか持って来ていないから纏める必要もない。女の方は沢山持って来ていたようで、シートの上に広げていた荷物を慌てて片付けている。センスのない風呂敷だなぁ。
「もうそろそろ到着ですね。お互い目的が果たせますように」
「ああ。よい地上生活を」
「そちらこそ」
着陸場に着いたので待ちきれずに座席を立つ。十数人の乗客達も皆立ち上がっていた。灰色のマントを被って傘を右肩に担ぎ、ゆっくりと入口へと足を運んだ。