BIOHAZARD:OBLIGATION   作:麦ご飯

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Chapter〈B〉:1-1

 床主市国際洋上空港。

 

 その名が表す通り、太平洋に面した床主市の沖合に建造された空港だ。

 バイオハザード発生に伴い、ここはまさしく『孤島』と化した。1時間前から、避難民を運ぶためのフェリー乗り場との連絡が取れない。

 フェリー自体も姿を現さなくなったことから、向こうでなにがあったのか容易に想像できる。

 その証拠に、優先的に乗せてきた政府高官や技術者たちの家族の中かに〈感染者〉が紛れ込んでおり、この場所も一時は危機的状況に陥った。

 しかし、ここにはテロ対策の為に特殊急襲部隊〈SAT〉が配備されていた。彼らの奮闘もあり、床主空港は全滅の危機を免れていた。

 

「こりゃまた壮観だな」

「ええ、まったくだわ」

 

 それから再び1時間後。

 夕日に朱く揺らめく海の向こうから十数機のヘリコプターが接近してくるのを、南リカと|田島崇史〈たじまたかふみ〉は眺めていた。

 普段ならば、何事かと臨戦態勢に入るところだが、今回に限りそれはあり得ない。

 

 現在、床主市は自衛隊によって完全に外界から隔離されており、陸海空と、外部から一切の進入を不可能な状態としている。

 無論、それに安心しきってしまうほど愚かではないが、少なくとも、彼らは敵ではない。

 

「北米支部だったっけ?これから共同戦線を張るのって」

 

 けたたましいメインローターの駆動音を響かせながら降下するヘリの側面には、世界地図の描かれた〈BSAA〉のマーク。水色の背景であることから、北米支部で間違いないようだ。

 

「実戦部隊の隊長は大物だぜ。なんたって、あの〈オリジナルイレブン〉クリス・レッドフィールドだからな」

「オリジナルイレブン……組織発足時からのメンバーのことね」

 

 田島から双眼鏡を受け取り、滑走路へ視線を落とす。

 もう本来の意味で使われることのない滑走路の一角に、あれよあれよと言う間に営巣地が作り上げられていく。

 

 〈BSAA〉と〈SAT〉。互いの指揮官が敬礼を交わしている傍で、ひときわ目を引く男がいた。

 濃い茶髪は短く、そのおかげでメリハリのある輪郭がはっきりと見てとれる。捲り上げた半袖からは丸太のような腕が露わになっており、ゴリラでさえも殴り飛ばせそうだ。

 彼がクリス・レッドフィールドで間違いないだろう。

 超自然的なものを信じる彼女らではなかったが、その男から発せられる『オーラ』のようなものを感じた。

 

『こちら臨時作戦本部。狙撃支援班の南、田島両名は、直ちに〈BSAA〉特殊作戦部隊〈SOU〉テントに集合。ブリーフィングに参加よ』

 

 リカと田島に通信が入る。

 

「おいおいどういうこった?まさか〈BSAA〉からのスカウトじゃないだろうな」

 

 警察におけるリカの階級は巡査長でありながら、国内でも五指に入るほどの射撃技術を持ち、彼女の影に隠れてはいるが、田島もまた、観測士ではあるが狙撃の心得はある。そして、彼女の相棒を務められるだけの実力を持っていた。

 

「ないでしょ。大方、現地ガイドでしょうよ」

 

 リカは肩をすくめ田島に双眼鏡を返すと、着崩していた着衣を整えはじめる。

 だろうな。そう一言だけ呟くと田島は苦笑した。

 

 

 -----

 

 

「〈BSAA〉白米支部のクリス・レッドフィールドだ。よろしくたのむ」

「〈SAT〉より出向いたしました南リカです」

「同じく田島崇史です」

 

 2人はクリスと握手を交わす。信じられないくらいに大きな手だった。

 サイズとしてもそうだが、なによりもその手に積み重なった彼の戦いの経歴が、ひと回りもふた回りも大きく感じさせる。

 

「早速だが、今回の作戦の概要を説明する」

 

 テント内に集まっているのは、クリス、リカ、田島を合わせて14名。

 隊員達は統一感を出しつつも、それぞれの個性が反映された装備に身を包んでおり、その辺はさすが自由の国とでも言ったところか。

 クリスは周辺の地図を広げた。

 

「まず、任務に差し当たって、1時間ほど前からここと内陸地を繋ぐフェリー乗り場からの通信が途絶えている。

 よって我々は、ヘリ6機の3個分隊で空路を使いフェリー乗り場へ向かい、屋内、屋外両方から〈感染者〉を掃討しつつ、生存者の救出をおこなう。

 制圧が終了した(のち)、増援を要請。避難用キャンプの範囲拡大を図り、同時に救出部隊の拠点を設営する」

 

「了解」と一同の声が重なる。

 

「おれたちアルファチームは屋上から突入、内部の制圧を行う。差し当たっては、チームを2つに分けたいと思う。1つはおれが、もう1つはピアーズに任せる」

「了解!」

 

 指名を受け、ピアーズは勇ましく返した。

 

「2人には、まずは共に屋上に〈感染者〉がいた場合の対処に当たってほしい。内部へ突入した後は、南はおれと。田島はピアーズのチームに加わってくれ。あなたたちは内部の構造に明るい。頼りにしているぞ」

 

 やはりガイドか、とリカは思う。

 しかし、悪い気はしなかった。

 音に聞こえたあの〈BSAA〉の英雄と肩を並べて戦えることができるのだ。

 リカは……いや、田島も同じく、これ以上ないくらいに気分が高揚していた。

 ピアーズに負けず劣らずの返事を返した。

 

「ひとつ、よろしいですか?」

「どうした?」

 

 おもむろに挙手したリカに、クリスは尋ねる。

 

「通信がややこしくならないよう、それぞれのチームの呼び名を決めませんか?例えば……」

 

 リカは田島に視線を移し、そのあと自分の腰に手を当てた。

 

「〈美女(Beauty)(and)野獣(the Beast)〉とか」

 

 たちまち周囲に笑いが起こる。

 

「いいだろう。では、おれたちは〈ビューティ〉。ピアーズたちは〈ビースト〉で連絡を取り合うこととする」

 

 クリスも頬に笑みを浮かべていた。

 

「この作戦の結果次第で、いまだ避難の目処が立たない床主市民の運命が決まると言っても過言ではない。作戦開始は10分後だ。各自、怠るな」

 

 隊員達が一斉に席を立った。

 

 そう。この作戦は、市外への脱出口から遠い、沿岸側に取り残された人々にとっての希望とならなくてはならない。

 単に敵を撃ち倒すだけでは駄目なのだと、南と田島はかたく拳を握った。

 

 その時、2人に「ヘイ」と声を掛ける人物が1人。

 ピアーズ・ニヴァンスだ。26歳という若さながら、クリスのパートナーとして彼の背中を預かる人物だ。

 

「あんた達の噂は聞いてる……が、くれぐれもおれたちの足を引っ張るようなことはしないでくれよ」

 

 つっけんどんにピアーズは言う。

 そういえば、と田島は思い出す。美女と野獣のくだりで、彼だけが険しい表情を浮かべていた。

 

「あら、愛しの隊長と離れるのが寂しい?それともママが恋しいのかしら『ボーヤ』?」

「なんだと!」

 

 南が皮肉って返すと、ピアーズの目が鋭くなった。

 無論、そのままの意味で図星だった訳ではないが、当たらずとも遠からずと言ったところだった。

 

 彼は、クリスという人物を深く尊敬し、彼と共に戦う自分に対して誇りを持っている。

 そんなピアーズに、自分達はあくまでよそ者として映っているのだろう。

 そしてその真意を、リカは理解できない訳でもなかったのだが、つい苛立ちを抑えられず返してしまった。

 

「おいよせ。こんなくだらんことで歪みあってる時じゃないだろう」

 

 この中で一番の年長者として、田島は双方の肩を掴み諌める。

 

「……ちっ」

「……ふん」

 

 前途多難な様子に、田島はやれやれと溜息を吐き出した。

 しかし、不思議と不安は覚えなかった。ピアーズも南も子供ではない。分野は違えどその道のプロフェッショナルだ。

 実戦になれば、自然と協力体制ができあがるだろう。信頼を勝ち取るならば、そこで結果を出せばいい。

 

 テントを後にする2人の姿が、どこか似たもの同士のように思え、田島は苦笑した。

 

 そして10分後。

 床主空港から6機のヘリが出撃した。

 




明日から私用のため、次話の投稿が大幅に遅れます。

読んで下さっている皆様にはご迷惑をおかけします。
申し訳ありません。
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