Fate/Magicalwars   作:ディルーン

9 / 9
幕間の物語 その7 【トップスピード×イスカンダル】

トップスピード「ほい、どうしてもってねだるから買って来てやったぞ。」

征服王「おお!これは新作の戦略ゲームではないか。でかした!」

トップスピード「その代わり!夫が家にいる間はずっと霊体化してること。これが条件だからな!」

征服王「ふむう、どうせならそやつも呼んで3人で対戦プレイを…」

トップスピード「まあ、あんたがおとなしくしてたらその内会わせてやるよ。…ついでに子供にも…」

征服王「ん?何か言ったか?」


第9話 理想は遠きにありて

ジルが消滅したその夜、スイムスイムは早苗の亡骸を背負って歩いていた。

 

「ルーラ…」

 

初めてルーラに会った時、強い憧れを抱いた。

 

「貴女が新人ね。私が魔法少女としての生き方を教えてあげる。だから、この私に従いなさい。」

 

「はい。」

 

ルーラのその堂々たる姿はまさにスイムスイムが絵本で見たお姫様のような凛々しさがあった。ルーラは強く、賢く、美しい。自分はずっとルーラに着いて行き、教えられたことは絶対に守ろうと決意していた。しかし、そんな中、夢に出て来たねむりんがこう言った。

 

(仕える人じゃなくて貴女がお姫様になったら?)

 

その一言にスイムスイムは衝撃を受けた。そうか。自分がルーラになればいい。でも、ルーラがいたらルーラになれない。だから、ルーラを手にかけることを選択したのであった。しかし、ルーラの魔法は強く、正攻法では倒せない。おまけにジルもいるため、サーヴァントのいないスイムスイムは圧倒的に不利だ。だから、まずはルーラのやり方に不満を抱いているピーキーエンジェルズとたまを利用してキャンディーを操作することによる謀殺を計画したのである。そして、そのために必要な役者はもう1人いた。スイムスイムは必死にキャンディーを1000個増やし、召喚陣へ向かった。そして、自分の戦略に合ったサーヴァントを選んだのであった。それが…

 

「サーヴァント、アサシン。儂を呼んだのはそこの小童。お主か?」

 

李書文。それが彼との出会いであった。スイムスイムは李書文の気配遮断スキルを利用し、ルーラとジルを見張らせた。アルトリアがルーラに斬りかかろうとした時も李書文はこっそりとルーラを守った。それがマスターであるスイムスイムの指示だったからである。

 

「貴女の言ってたことは忘れません。」

 

スイムスイムはそっと早苗の亡骸を降ろして安置する。

 

「今までどうも…」

 

スイムスイムの目には一筋の涙が流れた。やがて、一礼するとそのままスイムスイムは背を向けて歩き出した。

 

「用事は済んだのか、マスター。」

 

歩くスイムスイムの頭上の木の上に李書文がいた。スイムスイムは黙って頷く。

 

「そうか。だが、あまり気に病む必要はない。弟子が師を超えたというだけだ。儂は何も言わぬ。お主は己が正しいと思う道を進むが良い。」

 

「アサシン…うん…」

 

李書文は何かを察したのか木の上から降り、スイムスイムに歩み寄る。スイムスイムは迷わず李書文に抱きつき、胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。

 

「ルーラ…私…うっうっ…うう。」

 

(こやつの真の姿は知っておる。まだ幼いから精神的にも堪えるものがあるのだろう。儂は子供のお守りはよくわからんが、せめてしばらくこのまま泣かせてやるとしようか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる日、トップスピードとリップルはある場所へ向かっていた。事の発端は他の魔法少女とも交流の広いトップスピードがシスターナナからぜひ会って話をしたいという内容のメールを受け取ったからである。2人はシスターナナから待ち合わせ場所として指定された廃スーパーへとやってきた。どうやらここは話によればシスターナナの活動拠点らしい。廃スーパーに入ると2人の魔法少女が立っていた。1人は修道女の服を着たいかにもシスターのような出で立ち。もう1人はコートに身を包み、足元まである長いマフラーをした男性とも見紛うような魔法少女であった。やがて、修道女のような魔法少女がリップルに会釈する。

 

「初めましてリップルさん。私はシスターナナと申します。こちらはヴェス・ウィンタープリズンです。」

 

「どうも。」

 

そして、間髪入れずにシスターナナは話し始める。

 

「私は今の現状が間違っていると思うのです。人助けをするための力とサーヴァントという仲間を与えられた我々が、憎み合い、いがみ合い、蹴落とし合う。それで一体何が得られるというのでしょう。」

 

シスターナナはリップルの手を急に取り、顔を伏せる。

 

「現にもうねむりんさんにルーラさんが命を落としています。こういう時だからこそ我々は団結しなくてはならないと思うんです。」

 

リップルは嫌そうな顔をしている。その空気を察したトップスピードが話を切り出す。

 

「団結するって言ってもどうするんだ?」

 

「まずはそこから考えましょう。実は運営に抗議文も送りましたが、黙殺されてしまいました。ですが、ここで諦めるわけにはいきません。」

 

何だ具体案もなく私達を呼び出したのか…リップルは怒りを通り越して呆れまで覚えた。

 

「尊い犠牲を無駄にするわけにはいきません。ああ、ねむりんさん、ルーラさん。どれほど苦しく、哀しかったでしょうか…」

 

その時、ヴェスが声を上げた。

 

「君達の他に誰かいるのか?足音が聞こえる。」

 

その言葉にリップルとトップスピードは同時に後ろを向く。廃スーパーの暗がりから現れたのはリップルのサーヴァント、クーフーリンだ。

 

「さっきから聞いてりゃわけわからんことばかり抜かしやがるぜ。そもそもサーヴァントはな、戦うために存在するんだ。あんたのその考え方、俺達の存在を否定してるんだぞ。」

 

やれやれと言った表情で頭をかくクーフーリン。その一言にシスターナナは凍りついたように黙る。するとまたトップスピードが口を開く。

 

「待て。ランサーの考えも一理あるが、それはあまりにも極論じゃないか?」

 

何とかリップルとシスターナナの間を取り持とうとするトップスピード。しかし、この後さらに混沌とした議論になってしまうことはさすがに彼女は予想できなかった。

 

「ならば!折衷案といこうではないか!」

 

クーフーリンを追って来たのかついにトップスピードのサーヴァントのイスカンダルまで姿を現した。ドンと足を踏み鳴らし、皆の注目を集める。

 

「全員、余の軍門に下るのはどうだ?皆が我が配下となれば少なくともここにいる魔法少女同士で争うことはなくなる!どうだ、余に忠誠を誓うというのであれば纏めて面倒を見ようぞ。」

 

「おい、本気で言ってるのかそれは…」

 

「馬鹿にしてんのかてめぇは!何で俺達がお前の配下になるんだよ。」

 

「しかもそれ、折衷案になってないし。」

 

すぐさまヴェス、クーフーリン、リップルから反対の声があがる。すると、イスカンダルは頭をかきながら指で輪を作ってこう言う。

 

「待遇は応相談だぞ?」

 

「あらまあ、どうしましょう。確かにそれだと争わなくて済みますが、残念ながらウィンタープリズンが納得いってないので…他に方法はありませんか?」

 

なぜかシスターナナは真面目にイスカンダルの話を聞いて、考え込んでいる。だんだん議論がおかしな方向に進んできた。

 

「まあまあ、もうしょうがないからこの話は保留と行こう。また日を改めさせてもらうぜ。構わないだろ?」

 

このままでは拉致があかないと判断したトップスピードは話を切り上げてリップルを引っ張って行く。シスターナナはまだ言いたいことがありた気な顔をしていたが、しぶしぶ頷いて了解してくれた。舌打ちしながら去るリップル、腕を組み、配下を増やすにはどうするかブツブツと独り言を言いながら歩くイスカンダルに、2人を押していくトップスピード。最後にリップルのサーヴァントであるクーフーリンが残り、横目でシスターナナを見ながらボソリと呟く。

 

「いずれあんたはその平和ボケから嫌でも目が覚める時がくるだろうな。」

 

それだけ言うとクーフーリンもトップスピード達の後を追うのであった。

 

 

 

 

 

「お話はお済みですか、マスター?」

 

「ええ。ですが、残念ながら賛同してくださるかはまだわかりません。」

 

シスターナナの後ろの暗がりから姿を現したのは赤い軍服を身に纏った女性だった。

 

 

「マスター、貴女のことは少し心配ですね。貴女は何かに蝕まれつつある…その兆候が見えます。」

 

「あら、気にかけてくれてありがとうございます。でも、多少リップルさんの説得は疲れましたがこれと言って体調に問題はありませんよ?」

 

ナイチンゲールの心配な眼差しを他所にシスターナナは笑顔を向ける。しかし、ナイチンゲールはまだ怪訝な顔をしている。

 

「ですが、マスター。外傷はなくともその、内側と言いますか。そちらが私の気になる部分なのです。」

 

「ふふ、心配性ですね。でも、大丈夫です。自分の身体のことは自分がよくわかってますから。」

 

「シスターナナもそう言ってる。だから、君は安心していいよ。」

 

すると、ヴェスがナイチンゲールの後ろから声をかける。ナイチンゲールはやれやれと言った表情で頭をかき、ため息をこぼす。

 

「では、問診はこれまでとしましょう。ですが、マスター。身体に不調を感じたらすぐに報告してください。いいですね?」

 

「うふふ、さすが看護師のサーヴァントですね。頼りになります。」

 

まったくどちらがバーサーカーなのか。呑気なシスターナナに背を向けてどこかへ去っていくナイチンゲールをヴェスは複雑な表情で見送っていた。

 

(彼女の精神的に不安定な部分を初見で見破るなんてさすがはナイチンゲールだ。でも、ナナのことは僕に任せてほしい。頼むから過干渉はやめておくれよ…)

 

にこやかなシスターナナと少し俯き加減なヴェス・ウィンタープリズンの2人だけが廃スーパーに残ったのであった。

 

 

 

ヴェスはその後、ナナを先に家に帰らせて変身を解除する。ヴェス・ウインタープリズンの真の姿。彼女の名前は亜柊 雫。男性と見間違うような端正な容姿だが、れっきとした女性である。雫はコンビニで明日のための買い物をし、帰路につく。そして、自宅であるマンションの駐車場で立ち止まり、こうつぶやいた。

 

「いるんだろう、アサシン?隠れてないで出てきたらどうだい。」

 

すると、物陰から背中に刀を差した着流しの男性が現れた。彼は日本有数の剣豪にして、宮本武蔵の好敵手と知られる佐々木小次郎…厳密に言えばその名を借りた1人の名もなき侍なのだが。

 

「はは、さすがは我がマスターだ。私の気配に気づくとは。」

 

「嘘を吐け、本当は気づかれることわかっていたくせに。」

 

亜柊 雫…いや、ヴェス・ウインタープリズンのサーヴァントはどうやらアサシン、佐々木小次郎であったようだ。小次郎は召喚システムの中ではレアリティは☆1というかなり低い位置である。しかし、ヴェスが小次郎をサーヴァントにしたのはわけがあった。

 

ヴェスはシスターナナにどうしても生き残ってほしいという願いがあった。だから、そのために強いサーヴァントを引き当ててもらおうと彼女はシスターナナに自分のキャンディーを1000個転送した。ちなみにこのキャンディーはスイムスイムから転送されてきた分も含まれているため、その直後すぐに2人でサーヴァント召喚に向かった。そして、手に入れたのは…

 

「サーヴァント、バーサーカー。ナイチンゲールです。私が来たからにはどうか安心なさい。すべての命を救いましょう。」

 

ナナは10連召喚を行い、☆5のサーヴァントであるナイチンゲールを召喚することに成功した。しかし、ヴェスはナナにほぼ譲渡してしまったため、キャンディーの残量を考え、召喚は1回にした。そして、引き当てたのが佐々木小次郎なのである。

 

「それで何の用かな?」

 

「なあに、今夜は月が綺麗な夜だ。マスター、私と一杯月見酒でもどうか。さすがに1人で飲むのも飽きてきたところよ。」

 

「お誘いは嬉しいけど、今夜は家でナナが料理作って待ってるからね。また今度でいいかい。」

 

「はは、つれないな。」

 

小次郎の誘いをあしらったその時、マジカルフォンにメールが来た。送信者の欄には『森の音楽家クラムベリー』と書いてある。

 

「何々…『ぜひ一度、貴女達と会って話がしたい。高波山でお待ちしています。』か。これはナナに要相談だ。アサシン。君も着いて来てほしい。」

 

雫は小次郎に後ろ手で手招きするとマンションに入る。

 

「きな臭さも感じるが、マスターの頼みであれば致し方ない。お供しよう。」

 

小次郎も雫に続いてマンションの扉をくぐるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




現在確認された組み合わせ

シスターナナ×ナイチンゲール(バーサーカー)

ヴェス・ウィンタープリズン×佐々木小次郎(アサシン)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。