やめろ…、やめてくれ…!
俺が一体何をしたって言うんだ。どうして俺が、俺がこんな目に会わなきゃいけないんだよ。
なぁ、頼むから…それ以上、やめてくれ。
それ以上…、それ以上…!
服を買い物籠に入れるのを止めてくれ…!
「…もう充分買っただろう。なぁ、もう服を買わないでくれ」
頼むから…。
手に持っている籠に次々と入れられる服を見て、そう思わずにはいられない…。
なんでそんなに買う必要があるんだ…?というか明らかにフォウ用のものじゃなくてガイドさんが欲しい服も混ざっているだろ、おい。
「…ん?ユウイチ、何か言いましたか?」
言ったよ。抗議しているよガイドさん…。
「ユウイチ、男にはわからない事もあるのデスよ。ここは私に任せておくのデス」
万事解決なのデスよー、と意気揚々に言っているがガイドさん、支払いは全部俺なのだが。
ヤバい…、なんとかしなければ俺のライフポイント…もとい財布ポイントがなくなってしまう。
そもそもこんな事になったのは日が地平線に沈む頃に、いきなりガイドさんが
金髪ポニテの変えの服はないのでしょう?
と言われたのが事の始まりだ。
確かに今、フォウは俺の服を着ている為少し浮いている。個人的にも女の子に自分の服を着せるのはあまり芳しくない。
だから、軽い考えでガイドさんの意見に賛成したのだ。フォウは、そこまでして貰われては恩を返そうにも返しきれない、と相変わらず遠慮していたが、俺と、主にガイドさんが説得して押し切った。
ガイドさんに半ば強引?にフォウの世話を任された身の上、ここは俺が支払うと言ったのだが…。
正直、俺は女子というものを甘く見ていた。そういえば、彼女に自分の財布を持たせるな、なんて言葉を耳にした事があったような、なかったような…。
「こ、こんなに買っても良いのか…?」
駄目だ。
「良いんデスよー。ユウイチが全部奢ってくれるんデスから!」
フォウ、頑張ってこの悪魔を止めてくれ。今はお前だけが頼りなんだ。
守備力1500の力を見せてくれ!攻撃力1000のガイドさん程度なら止められるはずだ!
…と考えている間に、ズルズルと奥の、恐らく試着室があるだろう場所にフォウを引っ張られていくフォウ。
どうやら、休日でテンションの上がっているガイドさんの攻撃を防ぎきれなかったようだ
俺は手持ちの財布を確認しながら、ため息をついた。
はぁ、少しでも被害を減らせるように後を着いていくか…。
少し遅れて着いた試着室だが、手荷物を押しつ…預かり外で待っている事になった。
近くに用意してあった椅子に腰掛け、どれくらいで終わるかを予想してみるが…
「ま、待ってくれ。これを全て着なければならないのか!?」
「大丈夫デスよすぐに終わりますよー、サイズが合わなかったらユウイチに変え持ってきて貰えばいいのデスから」
……考えない方が良いかもしれない。というかガイドさんさり気無く俺をパシリ…もうなっているか。
他の事、他の事を考えてみよう。
そうだ、デッキ、昨日弄った幻影騎士団デッキについて考えていよう、それがいい。
明と宵の逆転を入れた事で手札の幻影騎士団モンスターをほぼ任意のモンスターに入れ替えることが可能になった。
まぁ、必然的に光属性の戦士族を入れなければならなくなってしまったが…、だが これは逆に光属性戦士族を無理なく入れることが出来るわけだ。
が、光戦士の星3に優秀な奴らがまるでいないのが問題だった。ギリギリ採用出来たのはレベルウォリアーだけ…だったのだが、フォウのお陰で光戦士星3をサーチ出来るようになった為この問題は解決した。
「……デカいデスね」
「お、おいっ、触るな揉むな!」
……ま、まぁ、このデッキには未だ改善の余地が腐るほどある。今度はトラブルダイバーあたりを星4の戦士族に入れ替えてみようか。
となると星4光戦士を何にするかだな…。星3と違って選択肢が豊富でかなり迷うなぁ…、プリズマー、ライデン、トライデントウォリアー、後は…、沈黙の剣士か。
フォウをデッキに入れようと思った時に沈黙の剣士も入れようと思ったのだが、手元になかったのと値段が…沈黙の魔術師に比べれば半分程度だが…、簡単に手を出せるものではなかったので仕方なく断念していたが、どうしようか。
折角なのだから少し無理をしても買ってみようか。と、なると何か依頼をこなさないといけないな…。最近はサボりがちだったからな…。
と思考の海に潜りかけた時、シャーッと試着室のカーテンが開いた。お披露目という事か。
中にいた2人の女性の姿が露わになる。
「どうデスー?似合ってるでしょー」
楽しげな表情の隣に、着替え終えたフォウが恥ずかしいのか両手を前で弄りながら若干俯き立っていた。
白いワンピースに紺色の長いスカート、胸にこれまた紺色のリボン……胸がどうこうはきっとここを留める時に、いや、変に考えを巡らすのはやめよう…、視線を上に向けると髪留めも紺色のリボンに変わっている。
男物の不格好な姿から清潔な白と紺色を基調とし、見間違えるほど変わったフォウを思わず眺める。
「……まぁ、良いんじゃないか。可愛いと思うぞ」
と、ややぶっきらぼうに感想を言ったらガイドさんに睨まれた。適当すぎたか…。
「ふ〜ん。かわいいと、思う、デスか。そうデスか。まぁ良いデス」
そのうち言葉も発せなくなるから別にいいデスよー、と言って男に着替えを見て貰うのが初めてなのか、赤面しているフォウと一緒に再び試着室の中に籠る。
……。6時までにはかえりたいなぁ…。
あの後、ひたすら着せ替えられていくフォウを見ながら時間が過ぎていった。
ワンピースやらキュロットやらなんだかよく分からないもの…、途中でブラマジガールの衣装を着させられたのは正直驚いたが…、そんな事よりも段々と疲弊していくフォウの様子が心配だった。
フォウでたっぷりと遊んだガイドさんは満足気な表情を浮かべている。
「いやー、今日は楽しかったデスねー。まさに今の私はサティスファクション!」
楽しそうで何より、ガイドさん。後はこっちにも少し気を効かせてくれれば俺も満足なのだが…!!
「………」
後ろで灰のように白くなりかけているフォウを見ながら、ガイドさんはやっぱり悪魔だと思った。小悪魔なんて生易しいものじゃないな…、流石は制限カードといったところか…。
「あ、ユウイチ、支払いよろしくデス」
と、言うや否や大量の服が詰まっている籠を俺に押し付けてちゃっかりレジに並ぶガイドさん。
…やっぱり悪魔だ。
会計を、…予想よりは少ない被害で済んだのはガイドさんの僅かな良心のお陰だろう多分、済ませるとすでに陽が沈みあたり一辺は闇に包まれていた。
いつもフリーな俺とは違い、明日からはまたバイトづくしのガイドさんはそろそろ戻らないとマズいそうだ。
ガイドさんのおもちゃになってひたすら疲れた様子のフォウを支えながら帰路につく。
「いやぁ、たくさん奢ってもらって悪いデスねー、ユウイチ」
と、紙袋を抱えながら言うガイドさん。
「…この借りは必ず倍にして返す」
片手に紙袋2つを提げて言い返す。覚えていやがれこの野郎。
「怖い顔して言わなくても良いじゃないデスかー。そんな顔していると嫌われますよ?」
彼女とか、私とかに、と付け加えて言うガイドさん。
そうかよ、と短く言い、寄りかかっているフォウの様子をみるとうつらうつらとしていた。
…フォウの反応が薄いと思ったら、船を漕いでいたのか。
そんなフォウの様子に気がついたのか、ひょこっと覗き見るように出てきたガイドさんに、
「あちゃー、結構疲れてしまったみたいデスね。ごめんなさいデス」
謝るガイドさんだが、すでにまどろみの中にいるフォウには届かなかったようだ。
「…慣れない土地に一人きりで来たのだから疲れも溜まるだろう普通」
あはは、そデスね…。と、苦笑しながら言うガイドさん。
小柄なガイドさんではフォウは支えられないので必然に俺が背負っていく事になった。
そして、お互いにしばらく、やれ、プロデュエリストが戻ってきただの、新発売のカードがどうのこうの、同僚の白い奴がウザいだの、といった具合にたわいのない話を続けていた。
そしてそろそろ別れるところでガイドさんが、
「……で、デスね。あとどれくらいなんデスかユウイチ?」
いきなり話の方向を変えられ、なんの事だと思ったがすぐに例の件の事だと思い当たる。
あとどれくらい、を確認する為にデュエルディスクから一枚のカードを抜き出し確認する。
「……まだ1/10といったところだ」
ほとんど何も書かれていないカードを見ながらそう言う。いや、若干下の方が色がついている様だ。
「そデスか。先はまだまだ長そうデスねー」
そのカードを見ながらガイドさんが呟く。
その会話を最後に、それじゃあ、とガイドさんと別れる。いたいけな少女の寝込みを襲わない事デスよーと言われた。いや、襲わないって。
ガイドさんと別れた後にフォウを背負い、自分の家に戻る。
なんとなく上を見上げると、満月の月が悠々と輝いている。
すっかり陽も暮れてしまったな…。夕飯とか、貯金とか、どうするか…。まぁ、とりあえずフォウをベットに運んでからにしよう。
家に着き、ベットにフォウを乗せ、朝と同様にテキトーな夕飯を作ったのだが、フォウは余程疲れていたのか何をしても起きなさそうだった。
ので、無理矢理起こすのも可哀想だと思い、そのまま朝まで寝てもらう事にする。
隣でスヤスヤと無防備に寝ているフォウを横目で見ながら、やっぱりガイドさんのところに預けておいた方が絶対いいのでは…?と改めて思うが、ガイドさんが首を縦に振るのが想像出来なかったので諦めた。
さて、…俺は女の子が寝ている隣で何をしているのかというと、パソコンを開いている。…別に盗撮とかでは断じてない。
だが、前の様にカードを検索する為じゃあない。今回は俺の仕事…これを仕事と言っていいのかは人によって違うとは思うが…、の為に使わせて頂く。
電源をつけ、パスワードを入力し、ネットに接続する。そして、ブラウザを開きとあるサイトに行き着く。
「……こいつを利用するのは三週間振りか」
薄暗い部屋の中、俺は1人ネットオークションのページを開いた。
無論、その目的はお金を得る為。今日でそこそこ使って…と、いうか使われてしまったのである程度は懐を肥やさないと先が不安だ。それに、フォウもしばらく同居する事が確定したので生活費も1人分から2人へと増えるのである程度の余裕が出来る程度は欲しい。
俺が出すのは当然カードだ。それ以外に何を出せと言うんだ。
巷で有名になったカードや流行りのカード、大会優勝者が使ったカードや汎用性が高いカードなんかは高値をつけられるので、主にそういったカードを中心にオークションに出している。
ここに来た当初は、この方法であら稼ぎをしていたなぁ…と、幾分か昔の自分を思い浮かべて苦笑する。
さて、今回は何を出そうか。ギャラクシーサイクロンやコズミックサイクロンあたりがいいだろうか…、いや、インフェルニティは今後使う機会がないから持っているやつをまとめてだすのもいいな。
ページを巡り、相場や、雰囲気などを確認しながら、今の手持ちで一番良さ気なのを考える。
ネットを巡ってみて分かった事だが、今、話題になっているのはテラナイトらしい。
…俺はあの集団はあまり好きじゃあないな。堅実にアドを取るよりかは一気にドバッと稼ぎたい派なのと、当時のフェイバリットであったコアキメイルが殆ど歯が立たなかったのには流石に舌を巻いた。
それになんだあの専用カウンター罠は…。一枚ドローは余計だろ。くそ…、いかんいかん、思考が明後日の方向に向いてしまった。
俺はテラナイトを使うつもりは毛頭ないので出してみるか……、それだったらデッキ単体としてまとめて売りに出してしまった方が良いな。それからそれから……
夢を、見ていた。幼い頃の…。
ママに抱っこされる私。それを側で周囲を過剰なまでに警戒をしながら見守るパパ。
そして場面が移り変わる。
『今日からしばらくの間世話を見る事になった娘だ。二人とも仲良くするんだぞ』
大人の女性の声が聞こえる。
『はぁ〜い!ねぇねぇ、なまえはなんていうの?』
『……よろしく』
まだまだ幼く、人見知りをする私に元気良く話しかけてくる少女と雰囲気暗めの少年。
そして場面が移り変わる。
『お、あれが噂のお嬢様か〜』
『あれで実力も伴っていれば完璧だったによ』
『天は二物を与えずとはよく言ったもんだな』
「私」は俯いていた。まわりの音を聞こえないように。両手で耳を塞いだ。
そして場面が移り変わる。
『パパ、またしばらく出張なの…?』
『……』
『…ママも最近忙しいね』
『……すまない』
背を向けるパパの姿に、「私」は手を伸ばした。
そして場面が移り変わる。
『……ママもすぐに行っちゃうの?』
『……ごめんね』
『大丈夫だよ。いい子で待っているから』
そう言うと「私」の頭をママは撫でてくれた。
でも、すぐにに背を向ける。その後ろ姿に「私」は手を伸ばす。
私は自分の手を見下ろした。
そうだ、いつだって届く事のないこの手。どんなに強く願っても、努力しても、諦めずに伸ばしたこの手はいつも虚空を掴むだけ。
そんな「私」に嘲笑が浴びせかけられる。
その彷徨う手は、いつしか求めるものを遠ざけ、それでも伸ばし、自分でも訳がわからないまま、いたずらに手を伸ばし、空を薙ぎ、やがて手を伸ばす事を止めた。
そんな「私」に嫌気がさす。
そうして私はずっとそこで立ち止まって、耳を塞いで、目を閉じて、何もかもを無視した。
そんな「私」は道を見失った。
そして場面が移り変わる。
目の前には、たくさんの人影。
ゆらゆらと揺れるそれは口を揃えてこう言う。
『お前は、忌み子だ』
聞きたくないっ……!
『お前は、親の七光りだ』
とっさに耳を塞いだ。目を閉じた。
『お前は、』
やめろ、やめてくれ…!
叫ぼうと、顔を上げる。口を開く。
誰か助けてっ…!
声が、止んだ。
潤んだ目を開くと、そこにはパパとママがいた。
安堵した。パパとママが助けてくれたんだ…!
そして2人は口を揃えてこう言った。
『出来損ないだ』
ガバッ!っと私は飛び起きた。
ハァ、ハァ、と荒い息をしている。全身は汗でぐっしょりとなった服が張り付いているようで……。
「……大丈夫か?」
隣から聞こえてくる声の方を向くと、青年がいた。
あれ、なんで私はここに、ってそうだ。家を飛び出して、それから、ユウイチに世話になってもらうことになって、それから…。
『出来損ないだ』
「……っ!」
先ほどの夢の内容がフラッシュバックし、胸を切り裂くような、心が引き裂かれるような痛みと、不安と、絶望がぐちゃぐちゃに混ざりあって私の頭をかき乱す。
出来損ない、の言葉が頭をグルグルとまわる。
「…悪い夢でも見たのか?」
何をしたらいいのかわからず混乱する私の顔を、ユウイチが見つめてきた。
その探るような瞳が私の瞳孔を捉える。
『お前は、出来損ないだ』
また、その言葉が聞こえた様な気がして、私の体が不安と絶望と恐怖と諦めの沼に落とされる。
違う、そんなんじゃない。私は、出来損ないじゃない。
そう、否定する私がいる。けど、出来損ないだと、諦めている私もいる。そして、パパとママに失望されるのを必死に嫌がる私もいる。
もう、わけもわからず、ただただ温もりと、安心と、この負の感情を振り払ってくれる人を求めて
私の事を、あのカードを出来損ないだと言わなかったあの人に
ユウイチに、助けを求めた。
時刻は0時を過ぎた頃、
何やらフォウの様子がおかしいと思って少し様子を見ていたら、案の定、フォウが起きた。
起こしちゃったかな、と思ったがフォウは全身汗だくで、呼吸も激しい。明らかに何かあったようだ。
声をかけるとこちらを振り向いてくれた。
が、酷い顔をしており、とても目覚めが良かったとは思えない。おそらく、悪夢でも見たのだろう。
よく見ると震えているように見える。
寝付けないなら、側にいようか、と言いかけた時、フォウが俺目掛けて飛んできた。
「ちょ…!」
いきなりの行動に無防備を晒していた俺は、そのままフォウにがっちりとホールドされる。相当汗をかいたのか服が湿った感触が布越しに伝わってきた。
「うっ……グスッ……」
……泣いているのか?
顔を胸にうずめてきたフォウから嗚咽が聞こえてきた。そこまで、怖い夢だったのか…。
……泣いている女の子を無理に突っ撥ねる必要もないだろう。
そう思い、フォウの背中を子供をあやすように優しく叩き、もう片方の手で優しく頭を撫でる。
……私、は、でぎそこない、なんかじゃ、ない…
しばらく、そうしてフォウをあやしていると、フォウがそう小さく呟くように、だが、俺にははっきり聞こえるように言った。
そう言えば、前にもフォウは出来損ない云々と度々言っていたな…。おそらく、彼女のコンプレックスだろう。きっと家出の原因もこれだろうな…。
出来損ないなんかじゃないと繰り返すフォウに、俺は、
「ああ、お前は出来損ないじゃない」
と、フォウに向かって言う。
それを聞いたのか、あるいは否か。フォウはまた眠りの中に入っていった。
そうだ、出来損ないじゃない…。
俺のデッキを見ながら、あのデッキの中に入っている魔導剣士のカードを、フォウを、思い浮かべてそう思う。
……俺がそれを示してやる。
あんな小さな店の中じゃダメだ。もっと、もっと大きな、全国の人が見に来るところでフォウの可能性を見せなければ。
パソコンでオークションをしている時に、ふと現れた一つの広告。
第79回、全国決闘者トーナメント。
フォウ、お前は出来損ないじゃないだ。俺がそれを証明してやる。
……ところで、フォウががっちりとしがみついたままなんだが、どうすればいい…?
は、知らねーデスよそのまま寝てろデス。
ふーん、決闘者大会デスか…。あ、第79回ってのはテキトーにつけたんデスね。私も参加しようかなー、なんて。
次回、いや、1ターンに1回しか特殊召喚出来ないから③の効果に制限ないんだぜ?それをターン1ついてないからってお前…、そんな過労死させんなよ…。