こんな素晴らしい異世界生活に祝福を!   作:橘葵

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第二章5 二日目の午後

 めぐみんは体をさっと洗い流し、湯船にドボンと浸かった。

 カズマからは目を離し、じっと前を向いている。

 

 この浴槽はとても広い。

 いつぞやのように対角線上のところにめぐみんが座るとカズマが湯気で見えなくなる。

 服を着ているときは一緒に入りたくないだのなんだの言うめぐみんだが、一緒に入っていてカズマの顔が見えなくなるのは嫌らしい。

 

「それにしても広いお風呂ですね。こんなお風呂にはいれる事、私が紅魔の里にいた時では考えられませんでした」

「確かにそうだなーー俺たちも屋敷を手に入れるまでは銭湯に通っていたし、一般人はこんな広い浴槽を持てるわけもないもんな」

「まあ、紅魔の里には混浴温泉がありましたけど」

「あれは温泉じゃない。水の中に魔法突っ込んで温めただけだろ」

 

 以前紅魔の里に行った時、温泉だと期待していったらただのお湯だったことを思い出し、二人は笑う。

 

「ふう。今日はなんだか疲れましたね。誰かさんのせいで道にも迷いましたし」

「おい。紅魔族随一の天才よ、お前も道に迷う一因だったんだぞ」

「うぐぐ……それに触れられると返す言葉もありませんが、大体、ちょっといい雰囲気になってるからって違和感を感じた時に地図を見なかったカズマが悪いんです」

 

「そりゃめぐみんと甘酸っぱい会話をしながら歩いてるときに道に迷ったからと言って地図を出せるか!」

「普通は早く帰れることを優先しますよ」

「え……普通友達と一緒に帰る時、永遠に家にたどり着かなかったらいいのになとか考えたりしないか?」

「しないですね」

 

 めぐみんがきっぱりと言い切る。

 クールでドライ、その性格はいまだ変わっていない。

 だから、紅魔の里でもゆんゆん以外、気軽に付き合える同年代の友達があまりいなかったのではないか。

 

「そういえばダクネスは何してるんだ? とはいっても一日俺といためぐみんはわからないか」

「そうですね。スバル辺りに聞いたらまた話は別でしょうが」

「……あいつも使用人として頑張ってるもんな。何で好き好んで労働するのか分からないけど」

「そうですかね。なんだか浮足立っていたのでその場のノリで格好つけて言ったような気もするのですが」

 

 内心をはっきり見抜いた気になって得意げになっているめぐみん。

 半分正解で半分不正解だ。

 

「あいつに限ってそれは……ありえるな。あいつ自己肯定感高いんだか低いんだかわからないんだよ。女の前で格好つけたいのかつけたくないのかはっきりしろよって話」

「カズマがそれを言いますか? 普段は格好つけようとして失敗し、肝心な時にはヘタれるくせに」

「お前だってそうだろうが」

「私は格好良さを追及し続けているので一緒にされると困りますよ」

 

 めぐみんは紅魔族節を流暢に、得意げに説明する。

 カズマはそれを聞いて辟易しながらも、いつものめぐみんを再確認する。

 

「んじゃ、俺は先に体を洗わせてもらうよ」

「どうぞ。あ、ちょっと思ったんですけど、このお湯はとても綺麗ですね。ここは使用人たちがお風呂場掃除に力を入れているのでしょうか」

「いや、さっきアクアが入ったと言っていたからそれだと思うぞ」

「あー、アクアが入っていたんですか。それなら納得ですね。アクアはあれでも浄化の腕は一級品ですから」

「浄化だけは、だな。あいつ、俺が見ていない時にエミリアをアクシズ教に入信させてそうで冷や冷やするんだよ」

 

 アクアを心から信頼しているからこそ出る心配を、めぐみんに語る。

 いい意味でも、悪い意味でもカズマとアクアは互いの本心を知りすぎているようだ。

 まあ、それはお互い本心を隠そうとしないうえに、痴話げんかにしか見えないガチ喧嘩を日々繰り広げているからであって。

 

「……さすがにそんなことは……アクアならやりかねませんね。でも、アクシズ教の勧誘方法に比べると温いものですよ。エミリアみたいな純粋な子だったらすぐに入信書にサインさせられてそうですね」

「まあお前がそれを言う資格はないけどな」

「おい! アクシズ教の勧誘と格好いい名乗り方を教えるのを一緒にしないでほしい!」

 

 めぐみんはアクシズ教への入信と紅魔族風の格好いい名乗り方を一緒にしてほしくないようだ。

 紅魔族としてのプライドが許さないらしい。

 カズマとしてはどっちもどっちなのだが。どっちもエミリアに対して悪い影響を与えてしまう。

 

「カズマー、お前、めぐみんと入ってるのかー?」

 

 シャワーを浴びる音が場に響いた時、ぐぐもった声が浴室内を反響した。

 

「その声はダクネスか? 入ってるよ。とはいってももうちょっとで上がるところだけど」

「ならばもう少し待とう。ちょうど、めぐみんと二人で話したいことがあってな」

「いやいやいや、遠慮する必要は無いんだ。入って来いよ。仲間同士での隠し事は禁物だろ?」

 

 ダクネスも風呂に連れ込んで裸を拝みたいという思惑が見え見えである。

 それをしっかりと理解しているダクネスだが、仲間のことになると弱いーーというか、全体を通して押しに弱すぎる。

 

「いや……でも……それは……!」

「何照れてるんだよ。まったくわかりやすい女め」

「何が分かりやすい女だ! そんなだからカズマは女たらしだといわれるんだぞ!」

「俺はそんな自覚ないから大丈夫だ」

 

 きっぱりと言い切って、ダクネスには見えないのにサムズアップ。

 

「カズマ、そんなことを言うからカスマだのクズマだのという不名誉な通り名が定着するんですよ?」

「お前だって頭のおかしい爆裂娘っていう超不名誉な通り名が定着しているだろうに」

「な、なにおう!」

 

 軽口の応酬をひとしきり終え、カズマは持っていたタオルで体をふき始めた。

 

「まあいいよ。これ以上入っていたらのぼせそうだし、今日のところは勘弁しといてやる」

「わ、私は何もされた覚えがないのだが……!」

 

 そう言ってカズマは浴室のドアを開けた。

 裸のダクネスが恥ずかしそうに体を押さえていた。

 

「お前、やっぱり一緒に入りたかったんだろ」

 

 

* * *

 

 想像以上のハプニングもあったが、カズマは着ていたジャージを着て脱衣場の外に出た。

 

 しばらく廊下を歩いていると間の伸びた声が背後から降りかかった。

 

「カズマ君、であってるのかーぁな? ちょっとついてきてもらいたい所があるんだーぁけど」

「あ……は、は、はい、何でしょう」

 

 驚いて振り向くと、領主がそこには立っていた。

 道化のメイクも合わさってちょっと怖い。

 

 何も言わずに歩きだしたので、焦ってついていくカズマ。

 突っ込みたい点はたくさんあったが、あえて何も言わなかった。

 出来るだけ目上の人には逆らわないようにし、波風を立てずにいたい。

 

 階段を上がり、二階を通過する。

 ーーと思った時だった。

 

「ーーさっさと出ていくといいのよ!」

「は?……え、ちょっ、おまーー」

 

 扉が突如開き、何が起こったかわからずに目を回しているスバルが飛び出してきた。そして、屋敷に来た時、初めて出会ったベアトリスの怒声が響く。

 壁にぶつかっている。痛そうだ。

 幸い、加減がされていたのか調度品には何処にも傷がついていない様子。

 

「……はい?」

 

 目を丸くした。

 慌ててその場所へと駆け寄る。

 

「いやー、あはは、それはカズマか? お恥ずかしいところを見せて申し訳ありません、っと」

「……お前、一体何をやらかしたんだ?」

「いやー、扉から何か手ごたえ? みたいなのを感じて入ったらドリルロリがまた中にいたのよ。んで、それで俺がまたスキンシップを試みようといろいろ試してたところ、魔法で外に放りだされていたーーっていうオチですよ」

「ドリルロリ……? ベアトリス……? アクアの結界破りがないと会えないんじゃないのか?」

「どうも俺はそうじゃないみたいなんだよな。なんか今日一日で三回くらい会ってる気がする」

 

 カズマはベアトリスは初日の夜に出会って、それっきりだ。

 対してスバルはどうも複数回顔を合わしているらしい。

 扉から手ごたえを感じる、というが、カズマにはわからない感覚だ。

 

「こんなところから、ちょうどいいタイミングでのお出ましだーぁね。スバル君もちょっと一緒に来てほしいところがあるんだーぁよ」

「お、まさか俺の実力が認められてーー、ってそれはないか。カズマもいるし」

 

 こんなタイミングでスバルも合流し、黙ってついていく。

 三階を抜け、四階へ。

 二人は一際豪奢な扉の中へ案内された。

 

「ここが私の部屋だーぁよ。なに、緊張することはない。リラックスして望んでもらえればいーぃかな」

 

 本棚にはぎっしりと本が詰まっており、領主の豊富そうな知識を感じさせる。

 机から、その他調度品からあふれ出る気品。

 二人は領主にそう言われていても緊張してしまうのは仕方のないことだろう。

 

「単刀直入に言わせてもらうと、君たちの魔法の属性、それを調べたいんだーぁよ」

 

「魔法? ちょっとわくわくしちゃうなー!」

「魔法か……俺は別に冒険者としてとっているスキルがあるからな……こっちの世界の攻撃魔法が使えるっていうのならいいことなんだけど……ちょっと爆裂魔法っぽい感じだとめぐみんに怒られそうだ」

 

「カズマ君はちょっと何の話をしているのか分からないんだーぁけど、この世界での魔法の属性をちょっと説明するねーぇ」

 

 こく、とうなずく二人。

 領主はそれを見届け、

 

「この世界には、火、水、風、土の四つの属性がある。それぞれのマナに働きかけ、魔法を行使する。

 普通なら一つの属性に適性があるんだーぁよ。まあ、才能なし、と判定されることもあるねーぇ」

 

「ちなみにロズワールは何の属性なんだ?」

「私はすべての属性に適性があるかーぁな」

「何だそれ」

 

 なるほど、だから私兵を持たないのか。

 カズマは一人で納得していた。

 この世界では何の属性に適性があるのだろうか。期待が高まるも、もしかしたら才能なし、と判定される可能性があることで少し緊張する。

 

 カズマは冒険者ギルドで才能を判定してもらった時、ステータスが幸運を除いて軒並み低く、冒険者になることを余儀なくされた男。

 この世界くらいでは何か異世界的な才能を発見してみたさもある。

 

「じゃ、スバル君から失礼するねーぇ」

 

 領主はおでこに手を当て、属性を調べ始める。

 カズマは吹き出すのを堪えるのに必死だった。

 何せ効果音がーー

 

「みょんみょんみょんみょん……」

 

 どんな効果音だ。

 しかも領主自身が発しているというからさらにおかしい。

 

「えっと……陰属性だーぁね。他の属性とのつながりはとても薄いよ。

 しかも、魔力量も少ない。私を十とすると、君は生涯をかけて特訓してもせいぜい三、といったところかーぁな」

 

 領主の顔が一瞬綻び、すぐもとに戻る。

 ーーまず陰って何なんだ。さっき言っていたことと違うではないか。

 

「ちょっと言いたいことはたくさんあるけど、まず俺の属性、カテゴリーエラーしてるぜ?」

「陰属性と陽属性は適合者が少ないから説明をはぶいたんだーぁけど、まさかスバル君がその適合者だったとは思わなかったーぁよ」

 

「それって特別ってことか?」

「極めればほかの属性の追随を許さないほどすごいものなんだーぁけど、スバル君の場合魔力量が少ないからねーぇ、相手の視界をふさいだり、足を遅くしたりすることくらいしかできないかーぁな?」

「敵弱体化特化? なんか地味だな……」

 

異世界に召喚された人、というのは何かしらのチート能力を持っているというのがデフォルトらしいが、どうもそうではないらしい。

 その「お約束」を十分に理解していたであろうスバルはがくりと肩を落とした。

 

 アクアとともに異世界転生したばかりだったカズマも、最弱職にしか就けないとルナに言われた時は内心落ち込んだものだ。

 

「じゃあ、カズマ君も調べさせてもらうよーぉ?」

「あ、はい、お願いします」

 

 

「えーっと、本当に言いにくいんだけど」

 嫌な予感しかしない。妙に間を取るのが、その証拠だ。

 

「カズマ君は、残念ながら魔法の適性がないようだーぁね」

 

 ーーそうですねああもうチックショーー!

 カズマは心の中で叫んだ。

 この世界くらいではちょっと位はちやほやされたかった。

 

 

 その後、色々と雑談を交えながら領主との交友を深めた。

 別に深める必要性も見られなかったが。

 

 そうして、日が完全に落ちるころ、二人は部屋を出た。

 扉が閉まるとき、領主が顔を歪めたが、仲睦ましげに笑う二人には届くこともなく。

 

 藍色の空が物憂げな領主を照らしているだけだった。

 

 

* * *

 

 

 その後、夕食の時間になった。

 妙に機嫌の良いアクアが宴会芸をふるまい、場の空気を盛り上げる。

 ちなみに、この場では酒を出されていない。

 

「アクア、今の芸は一体どうなってるんだ?」

「こんな小さな布にどうやったらそんな大きなものが消えるんですか?」

「アクア様、今の芸はどうやってしているの?」

 

 女性三人は口々にアクアを褒めたたえる。

 そうして、もっとしてほしいといった時、アクアは決まって

 

「芸は請われてするものじゃないの」

 

 と言って断る。

 しかし、放っておいたら勝手に場を盛り上げてくれるので、種はわからずとも楽しいひと時を過ごすことができる。

 

「……アクア、まさかそれ、この屋敷の調度品を使っているわけじゃないよな?」

 

 カズマがちょいちょいとアクアをつつく。

 芸に夢中になっていたアクアは、

 

「もちろん、初日の反省を生かしてちゃんと庭からとってきたものを使っているわ!」

「それがダメだって言ってるんだろうがーー! 今度は二人に謝れ! 庭を荒らして御免なさいってな!」

 

 食事中というのに、カズマはアクアの首根っこを掴み、ラムとレムのほうに引きずっていく。

 ーー案外抵抗力強いな、こいつ。

 

「わ、私が良かれと思ってやったことなのにぃぃぃ!」

「おい、ちょっと泣くなって!」

 

 ポカポカとカズマをたたくアクア。涙目だ。というか思い切り大泣きしている。

 事情を知らないものからすると、どう考えてもカズマがアクアを泣かせている図にしか見えない。

 ーーここにはめぐみんやダクネスというカズマたちの日常をよく知るものがいるので何とかなりそうだが、人前で大泣きするのは勘弁してほしいものだ。

 

 アクセルの町では一日一爆裂と並んでもう日常茶飯事となっていることだが、この世界でそんなことがあったらおかしいだろう。

 もうちょっと自分たちの置かれている状況を考えてほしいーーといってもどうせ無駄だろう。

 

「アクアって妙なポリシーを持ってるんだな……尊敬できるわ」

 

 スバルが後ろから近寄り、椅子の後ろから言葉を投げかけた。

 

「ホントあいつ、芸だけで食っていけるというのに頑なにしようとしないからな。俺にはよくわからないけど」

 

 アクアが芸をふるまうと、その周りには必ず人が集まり、おひねりを投げかける。

 しかし、アクアはそれを頑なに受け取ろうとしない。

 まさに宴会芸の神様である。

 

 その後も和やかな夕食時間は過ぎ、それぞれの部屋に帰っていった。

 ダクネスは事務作業、エミリアは王選の勉強がまだ残っているようだった。

 夜になっても気の休まらぬ人のほうが多い事実。

 

 カズマとめぐみんはそれぞれの部屋に帰った。

 

「明日、料理やってみるか!」

 

 二人(+一人)で広大な屋敷を管理しているらしい使用人たちのことを気にかけ、カズマはのんびりと夜が更けるのを待つだけだった。

 

 

 

 

 

 




 カズマさんに風属性の適性がある案もありましたが、どうにもしっくりこないので適性なし。この世界の魔法は使えません。

 作中で語られることはないですが、アクア様は水、めぐみんは火、ダクネスは何だろう……土属性ですかね……

 後、叡智の書には本編四章の記述に重きを置いていると思っているので、ロズワールはそこから逆算して行動しているのかなーと。
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