こんな素晴らしい異世界生活に祝福を!   作:橘葵

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第一章6 戦いの終結

「君たちを、助けに来たよ」

 

 燃えるような赤髪、純粋な『正義』を映す空色の瞳。

 余計な言葉を取っ払うと、それはまさに――

 

 イケメンだった。それも、かなりの。

 

 その類稀なる容姿や、そこから発される威圧感に場にいる全員の時が止まる。

 しかし、赤髪の青年はそれには気も留めず、ただ黒髪の女だけを見つめる。

 忌々しい物を見るような目線。それだけがこの場を支配する。

 

「今、その金髪の女性に突き立てようとしているのは、北国特有の刀剣だね。そうして、黒髪黒目だ。そこまで特徴があれば見間違えたりなどしない。――君は、『腸狩り』だ」

 

「「「「は?」」」」

 

 聞いたこともない名前に、カズマ達はぎょっとする。

 名前の物騒さは勿論だが、女のこれまでの行動をフラッシュバックすると、そう呼ばれるのは間違いないだろうと思わせる行動がたくさん、出てくる。

 そんなカズマ達の様子を見て、青年はさらに続ける。

「女の特異な殺し方から付いた異名だよ。ただの傭兵だ、という話もあるが、王都でも危険視されている――超一級の危険人物だ」

 見ず知らずであるカズマ達の様子にも気を配っているのか、青年は説明口調で話す。

 

「――――」

 

 今更ながらに知った女の情報を聞いてどうする事も出来ずにいる四人に代わって、沈黙を破ったのは黒髪の女だった。

 空色の双貌をしっかりと見据え、挑発口調で煽る。

「あら。『剣聖』ラインハルト。騎士の中の騎士と呼ばれるお方とこうして手合わせ出来るだなんて―――雇い主には、感謝しなくてはいけないわね」

「聞きたい事はたくさんあるが、まず投降する事をお勧めするが?」

「ここまでの最高のシチュエーションに加え、現れたのは最高のステーキ。血に飢えた肉食獣が我慢するとでも?」

「まあ、そうですよね」

 

「じゃあ――――遠慮なく行かせてもらう」

 

 

* * *

 

 ここまでの会話をただ黙って傍観していた四人――正確には銀髪の少女含め五人だが。

 目まぐるしく変貌する状況、そして聞いた事のない言葉の数々。四人は、混乱していた。

「ねえねえカズマさん。あの男の人とても強そうだから、私達もう退散しましょうよ。こんな危ない所にいても何も変わらないと思うの」

「ちょっと待てアクア。ここまで引っ張ってきてダクネスのペンダントが取り返せないなんて絶対に嫌だぞ。後お前、ずっとあのアンデッドが忌々しいだの何だの騒いでただろ。あの人と一緒に行って浄化して来いよ」

「あ、そういえばそうだったわね! ダクネスがずっと顔を真っ赤にして女に突っ込んで行ってたからすっかり忘れてたわ!」

 

「それについては否定できない…………っておいダクネス! お前邪魔になるから戻って来い! 何で突っ込みに行く!」

「あの男は尋常ではないほどの質量を切り刻む! それを受けた私は、はあ……どうなってしまうのか……そう考えると勝手に体が……!」

「おい待て! そのままだとお前も一緒に死ぬぞ! 頼むダクネス、戻ってこい――!」

 

 お馴染みの性癖も、女を倒すのに邪魔で仕方がない。

 アクアを戦場へ連れ出したカズマは、思わず叫んでダクネスを止めに行く。

 しかし、ダクネスは体をくねらせてその場を動かないままだ。

「ああもう、何でお前はいつもいつもその妙な性癖を暴走させるんだーー! もう言い、力づくで引っ張っていく!」

「カズマ……カズマなのか……! 私には構うな! このままだとお前が死んでしまう! さあ逃げろ!」

「このままだと死ぬのはそっちの方だ! もういい『ドレインタッチ』――!」

「ひゃぁぁぁっ!」

 不意に体力を吸われ始めたダクネスが声を上げる。しかし、カズマはそれに構わず、

「アクア!俺に支援魔法をかけろ!こいつ筋肉と鎧のせいで全っ然動かねーんだよ!」

「わかったわ! 『パワード』――!」

 支援魔法を打った後、青年の元へ駆け寄っていくアクア。

 まだ攻撃をしていないにも関わらず、青年が発する恐ろしいまでの剣気によってか、蔵の床が圧力によって抜け落ちる。

「おいカズマ、何度も言うが私はか弱い乙女の端くれ。筋肉が重いのではないのだ。そう、これはきっと鎧のせい、鎧のせいなのだから筋肉が重いなどとは言わないでくれ!」

「ぶつくさうるせーよ! いいから立ってこっちに黙って来い! 今あそこに言ったらお前まで一緒に死ぬぞ!」

「一向に構わん! もう我慢ならない! お前の拘束をふりほどいてでも行ってやる!」

 

 危険なことをさらっと言い放つダクネスを、強化されたステータスによって何とか拘束するカズマ。しかし、もう辛抱ならないのか、懐から、お金の袋を縛っていたひもを取り出し、ダクネスの手首に向かって投げつける。

「そうはさせるか!『バインド』!」

「う、ううう……」

 手首を絞められ、振りほどこうにも振りほどけない状態となったダクネスは、諦めたのかとたんにおとなしくなる。

 

 カズマは、ダクネスを引き摺って戻る。めぐみんと老人は、その場でただ突っ立っているだけだった。

 

* * *

 

「さあ――舞台の幕を引くとしようか」

 

 青年ははっきりと言った。その言葉と共に、壊れていた床の範囲がさらに広がる。

「ちょ、ちょっとま! 落ちちゃう!落ちちゃうんですけどー!」

 崩落する床に巻き込まれたのか、アクアは叫ぶ。

「ここで戦うのは、僕一人だけでいい。――あなたは向こうに戻っておいてもらわないと、僕が本気を出せないからね」

「でも、カズマが戦えって言うんだからしょうがないじゃない! そして、あの忌々しいアンデッドにさっさと女神アクア様の超凄い浄化魔法を喰らわせてやるわ!」

「――女神……? 変わった魔法が使えるようだがそれと何か関係があるのか……?」

 

 青年はアクアの言葉に疑問を持つ。しかし、今はそれを後回しにして目の前に向き直る。

 集中力を極限にまで高め――――辺りに風が吹き荒れる。

 アクアは必死で飛ばされないように踏ん張る。

 女は何とか特徴的な刀剣を振り回し、青年に当てようとする。しかし、それでは届かないと知ったのか、今度は投擲行為へ――

 

 しかし、それは牽制の役目も果たされることはなかった。

 刀剣は物理法則を無視して横に逸れ、床に落ちた。魔法の概念がある世界でも、ここまで理不尽な光景は見た事がなかった。

「生憎だが、飛び道具は僕には通用しない」

「『矢避けの加護』――! あなた、本当に愛されているのね」

「生まれながらに与えられたものなのでね。不公平だと思わないでほしい」

 

「では、失礼いたします――!」

 青年が一歩踏み出す。大ぶりの剣を持って。

 怯む女には隙が生まれる。

 それを好機ととらえたカズマは、アクアに指示を出す。

「アクア、最上級の浄化魔法を唱えろ!」

 『剣聖』の本気の一閃、そしてアクアの浄化魔法の詠唱によって、辺りが光に支配される――

 

 女も、荒れ狂う光には身動き一つ取れないようだった。

 

「アストレア家の一閃を――!」

「『セイクリッド・ターンアンデッド』――! 今度こそ天に召されなさい!」

 

 青年の一閃、アクアの最上級の浄化魔法によって、女は声を上げることもなく天に召されたのだった。

 アクアはやりきった達成感からか一息ついて、言った。

「やっと終わったわね。ああー、本当にすっきりしたわ!」

 

 この戦いが終わった事を感じ取った銀髪の女は、今迄深くかぶっていたフードを外し、アクアの方を見てちょいちょいと手招きする。

「ん? なに? 私に何か用があるの?」

「――」

 女は無言で目的の物に指を差す。

 それで気付いたのか、アクアは、

「あー、そういえばさっき勝手に入ってきて勝手に殺されちゃってた人もいたわね。まあいいわ、『リザレクション』!」

 

* * *

 

 時は少し前に遡る。

 

「菜月昴さん。ようこそ、死後の世界へ」

 

 白銀の少女が、無様に死んだスバルを迎える。

 何が起こっているのか分からない。確かにさっき自分は死んだはずだ。

 なのに――

「どうして意識どころか肉体もあるってんだよ。まさか異世界召喚した張本人だったりする展開?」

 暗い神殿のような場所、その中でも光が当たっている所に自分は座っており、白銀の少女――? と対峙していた。

「何を言っているかわかりませんが、私は幸運をつかさどる女神、エリス。あなたの人生はつい先ほど――終わったのです」

 

 確かに人生はもう終わっている。さっき謎の黒い女に腹を切りつけられた。

 しかし、それならばここに意識が存在しているのは、絶対にあり得ないことだ。

「ちょっと質問していいか?」

「はい」

 一息置いて、スバルは女神エリスに質問する。

「俺はこの後、どうなるんだ?」

「復活魔法をかけてもらえたならば一度限り復活できるのですが。――しかし、おかしいですね。あなたが死んだ場所は、私の管轄外の地域なんですが……」

「は……はあ」

 

 どうやら、復活魔法というものをかけてもらう事が出来たのならば、自分は復活できるらしい。

 しかし、とはいっても自分の周りにいた人たちは果たして復活魔法を使えるのだろうか。

 そして、エリスの言った、管轄外の地域という言葉も気になる。

 とはいえ、もし自分が復活出来たとした時の事を考えておいた方がいいだろう。

 そして、

 

「今、サテラ――銀髪のかわいい子だ。は、今どうしているか?」

 自分を救ってくれた少女は無事なのか――それが気がかりだった。

「生きてますよ。あなたは今、膝枕の状態で寝かされています」

 

 生きていればさぞかし天国のような状態だっただろう。

 とはいえ、自分のせいで徽章が取り戻せなかったのなら、それはそれは申し訳ない。

 ごめん、と心の中で謝っても、何を今更。遅すぎる事なのだが。

 

 もし復活できるのならば、自分は真っ先にサテラの手助けをしたい。復活できる可能性に、賭けたい。

 しかし、そうなった時、再び死なないように、目の前にいる女神にこの異世界の事をいろいろ聞いておいた方がいいだろう。

 

「あのー、エリス様、俺この世界に召喚されたばっかりなんだから、もし生き返ってったとしてもまた死にそうだから、この世界の事いろいろ教えてくんない?」

「分かりました。でも今、あなたは私の管轄外の地域にいるので、情報は確かではないですよ」

 この世界では地球からの召喚者が多いのか、エリスは自分が召喚された、と聞いても動じることはない。

 聞き取れる事は聞き取れるだけ。今は余計な雑念を振り払ってエリスの言う事にだけ耳を傾けた。

 

 ――――今、この女神の話を聞いても後々混乱するだけという事は、スバルには分かっていなかった。

 

「――それにしても不思議ですね。あなたは現世で一回も死んでいないのにこの世界に招かれた訳ですか。普通なら、この世界にやってくる前に女神の説明があると思うのですが。

 まあ、それは置いておいて。この世界では、今魔王軍が侵攻を続けており、今世界全体が侵略される可能性があります。

 それを止めるために、今、日本で若くして死んだ人を特殊な装備や力などを与え、それを止めようと頑張ってもらっております」

「――――」

「そして、魔王軍以外にも、この世界にはモンスターというものが生息しており、普段の冒険者はそれらを狩って生計を立てています」

 

 沈黙。

 スバルは、自分の身の回りで起こっていた事を整理する。

 というよりも、どこか引っかかっている事が多い。

 

 まず、自分の周りにモンスターと呼ばれる物はいたか。

 ――否。いたものと言えば獣人かと思われる人や、荷物を運ぶ竜、それに精霊。

 人に害を与える生物など、どこにもいなかったはずだ。

 

 そして、冒険者、と言われるような人物は居たか。

 ――不明。確かに護身用と思われる剣や、ナイフを携帯している人は居た。

 実際自分もナイフを携帯している人に殺されそうになったものだ。

 しかし、冒険者と呼べるかどうかはまた別の話だ。自分が見てきた中では、冒険者が生活していそうなところ、というのは王都中を探し回ってもどこにもなかった。

 

 スバルが自問自答しているからか、エリスは言葉を続けない。

 それを終了し、前を向き直るとエリスはにこっと笑って

 

「まあ、それほど心配する必要はありませんよ。強い敵と戦う事がなかったら、普通は死ぬことなんてありません。あ、でも……ふふ、カズマさんの時はおかしかった」

「なら安心した。――――ところで、今出てきたカズマって誰だ?」

 

 すぐ人を質問攻めしてしまうスバルの癖がここでも出てしまう。

 エリスは笑って、

「木から落ちて首の骨が折れて死んだり、『上から来るぞ、気をつけろ!』なんて日本で有名なセリフを言ったのにもかかわらず下に落ちて死んだり……天界の規約を曲げて何回も蘇生しているんだから、もうちょっと身辺には気を使って生きてほしいものですよ」

「……」

 

 あまりの死に様の情けなさに心の中でせせら笑うが、自分も大概なので口には出せない。

 

「まあでも、その人たちの生活は本当に楽しそうですよ。余計なごたごたに巻き込まれたりはしますが――って、あなたに言っても意味ないですよね。話しているとついつい楽しくなっちゃって」

 

 エリスはそう言って笑った。その笑顔は、心から楽しんでいる風に見えた。

 とはいえ、この女神の発言から簡単に人が死ぬ世界であるが事が分かる。

 しかも、天界の規約を曲げて蘇生している、という事はその人物、只者ではないのかもしれない。

 少し興味が湧く。一度でも話してみたい。

 

「……あれ? まさかアクア先輩? 何で管轄外の地域に居るんですか?」

「ちょ、ちょっと何だ?」

 エリスが驚きの声を上げる。

「何が起こっているか、私にも分かりかねます。――でも、あなたは復活出来るようです」

「――――」

 スバルの体を、青い青い魔法陣が、光が包み込む。

 どうやら、アクアと呼ばれる人物がこの体に復活魔法を掛けてくれたらしい。

 ――先輩呼びが気になるが。

 しかし、これは諸手を挙げて歓迎するような状況。すべてが片付いた時、復活魔法をかけてくれた人に礼を言う必要があるだろう。

 

「それでは――――行ってらっしゃい!」

 

 天界の門が開かれ、ナツキ・スバルは再び意識を取り戻した。

 

 

* * *

 

 すべてが片付いた。カズマは、アクア以外の三人を引き連れて蔵の入り口付近――アクアがたった今、復活魔法をかけた場所へ歩いて行った。

 途中、床が抜け落ちていた所があったので、そこにはまらないように慎重に歩く。

 そうして、アクアの元へとたどり着き――たった今アクアが復活魔法をかけた、腹を切られた少年の死体を見て驚いた。

 

 その少年が着ているものが、地球特有の衣装であるジャージだったからだ。

(まさか、こいつも異世界転生してきたチート持ちか? でも待てよ、それなら絶対こんな簡単に死ぬわけがないし……)

 

 カズマが疑問に思っていると、どうやらこの少年の意識が戻ってきたらしい。

「――んー、ん?!」

 目を開いた少年は、今自分の置かれている状況に驚く。

 思わず跳ね起きて言った。

 

「俺の名前はナツキ・スバル。天下一の無一文にしてたった今世に蘇ったもの!」

 

 ……はい? 

 復活したばかりなのにやたらハイテンションな少年だ。名前からして日本人なのは間違いないが。

 カズマの背後に縮こまって隠れていためぐみんが、つかつかと少年の前へ歩み寄り、言った。

 (あ、これ、だめなやつだーー。絶対触発されてる)

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

 

 

 その場にいる全員が固まった。

 




 次話で第一章が終わります。第二章の方針がまだ決まっていないので、活動報告のアンケートに御協力お願いします。
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