大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜 作:疾風迅雷の如く
第17指導 協会の概要
とあることがキッカケで教師を辞め、陰陽師に戻ることになってしまった大和雄山。それと式として保護されなくてはならなくなった吸血鬼の女子高生、東堂美帆。二人は車を使い、陰陽師協会へと向かっていた。
「ユーザン先生、そういえばこれから会う人ってユーザン先生のお兄さんなんですよね?」
「ああ。大兄貴がどうした?」
「ユーザン先生のお兄さんが現時点での陰陽師協会のトップって言っていましたけど会長さんはどうしたんですか? お兄さんは確か会長代行のはずじゃないですか?」
それは確かにそうだ。雄山の兄、雄大はあくまで会長代行でしかなく、会長そのものではない。しかしそれにもかかわらず会長と同じ立場にあるということは異常なのだ。
「会長は5年前からすい臓癌で入院中だ。6年前、20代という異例中の異例の若さ…それも同期の大兄貴を凌いで会長に就任したのにわずか一年しか活躍出来なかった。不運にも程がある…そんな会長に代わって大兄貴が5年前から会長代行として会長の仕事を処理しているって訳だ」
「でも会長代行じゃなくても会長になったらいいんじゃないんですか? 今の会長さんの病気のすい臓癌ってものすごく苦しいみたいですし、引退しても文句は言われないと思います」
「アホ抜かすなよ…今の会長が辞めたいと思っても辞められない状況なんだ。前にも言ったが陰陽師協会は会長と大兄貴の二つの派閥が出来ている。大兄貴が会長になろうとしたら現会長一派が防ぐはずだ。今でも大兄貴を蹴落とそうとしているのに下手に動いたら真っ先にやられる。会長代行になれただけでも凄い方だ」
「まるで暴力団ですね…」
「そんなもんだ。俺みたいな奴が陰陽師だからな」
確かに雄山の顔は顔面凶器と呼ばれる程凶悪なもので下手な暴力団(ヤクザ)やマル暴よりも恐ろしい顔つきである。そんな顔つきの男の所属する組織が普通なはずがない。
「でだ…もうわかっているとは思うが一応説明するぞ。東堂、お前が陰陽師協会に登録する理由…」
話を変え、雄山は東堂に語りかけた。
「陰陽師協会の保護下に入っておく…ってことですよね?」
「そうだ。陰陽師協会に登録すれば陰陽師から狙われる確率は低くなる。同業殺しをするなんて真似は余程の事がなきゃしないからな」
「テロリストみたいな人達じゃない限り安全ってことですよね」
「…そういうことだ。でだ、これから大兄貴に会う理由についてはまだ話しちゃいねえし、詳しく話す」
「…」
東堂は唾を飲み、雄山の言葉を待つ。
「ただ陰陽師協会に登録するだけなら大兄貴に会う必要はねえ。むしろ大兄貴と会う理由はそんなことじゃない。大兄貴と会う主な理由は後ろ盾を得るためだ」
「後ろ盾?」
「自分の意思でないとはいえお前が大暴れしたことは時間を巻き戻さない限りは不可能だ。それはわかるな?」
「ええ、まさか興奮剤が混ざっているなんて思いもしませんでしたから…」
「そういった過去を利用して何度も弄られる可能性がある。だが大和一族の下に入れば別だ。大和一族は情報操作が得意な一族だ。鴨川の種族…竜人なんかがいい例だろうな」
「情報操作…」
「要するにお前の過去を書き換えることも容易いってことだ。そうなれば俺もお前も皆ハッピーな展開だ。俺は東堂を守れる。東堂は命の危険がなくなる。そして大和一族は新しい戦力が手に入るって訳だ。その為には大和一族の長たる大兄貴に会わなきゃ話にならねえってこった」
「そういうことですか…でも私一人の為にそんな情報操作して大丈夫なんですか?」
情報操作をするにはかなりのコネと多額の金が必要であり、借金を負わされるのではないかと不安になった東堂は眉を寄せた。
「心配ねえよ。そういうアピールをすることで宣伝になるし、宣伝のおかげで戦力が増して、大和一族はデカくなって来たんだ。だから傘の下に入れば借金を負う必要もねえ」
「う〜ん…でも相当お金かかりそうですね。本当に私一人でそんなに情報操作しても大丈夫なんですか?」
「安心しろ。逆にそういう情報が役に立つんだよ。国とか富裕層とかの脅しとかにもな」
「案外現実的ですね…」
「現実的であってこその人生ってのは上手くいく。理想的過ぎるのは良くないからな」
30分のトイレ休憩にするぞ。と付け加えると雄山はSAに寄ってトイレを済ませる。
そして雄山は自販機を見つけ、腕を組む。
「…女子高生って何が好きなんだ?」
雄山は女子高生ではない。共学の男性教師である。しかもその男性教師も辞めてきた。はっきり言って雄山はそんなことがわかるわけないのだ。
「…まあこれとこれにするか。いざとなりゃ交換すればいいしな」
自販機にあるペットボトルのお茶を二つ、唐揚げと焼きおにぎりをそれぞれ一つずつ買って戻ろうとした。
「…っ!?」
だがその過程で今までとは全く異なる視線を感じ、雄山は違和感がない程度に当たりを見渡すが何もいない。
「(気のせいか? まあそういうこともあるだろうな)」
そう思い、雄山は車に乗り込んで東堂にお茶と唐揚げ、焼きおにぎりを渡すとその場を離れた。
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陰陽師協会に着いた雄山達は受付をしていた。
「予約を入れた大和雄山だ。会長代行に会わせてくれ」
女性の職員にそう言って受付をするが職員は首を振った。
「会長代行は不在です。おかえりください」
まるで関係ないと言わんばかりに雄山に言い放つと雄山は顔を顰めた。
「不在なはずがない。会長代行がここにいることはわかっている」
「何度でも言いますが会長代行は不在です。おかえりください」
ブチッ…と雄山の頭の中で何かがキレる音が聞こえ、職員の頬を顎ごと右手で掴んだ。
「おい、いい加減にしろ。こっちはこの時間帯に会長代行と予めここで会うように連絡を取っているんだ。それでも不在というならてめえの顎壊すぞ」
ミシミシと職員の骨の音が響き、職員が真っ青な顔になる。
「ユ、ユーザン先生!」
東堂が必死に止めるが雄山はまだ続けた。
「黙ってろ…こういう身内のバカはきっちり教育しなきゃいけないんだ」
「止めろヤマ」
だから…と続けようとしたところで一人の男がやってきた。その男の顔つきは雄山とは違い、柔和な笑顔が似合う好青年だ。一言でいうならイケメン王子様と言った感じだろう。
「会長代行…ご久しぶりです」
それを見た雄山はすぐに職員から手を離し、礼をした。この男こそが雄山達兄弟の長兄、大和雄大だ。
「ヤマ…私がいない間にそんなことをしていたのか?」
「いえ…こいつが会長代行に会わせろと言っても不在だと抜かしたのでつい…!」
「そのついとやらで使い物にならなくなったらどうするつもりだ?」
「もともと使い物にならないものを使い物にする方がおかしいだろうが! 大兄貴!」
「逆ギレか。まあいい。後で説教するのはともかく…納谷さん。今日の仕事は切り上げてくれ。明後日から長野支部の方で働いてもらう。こんな奴がいても仕事がやり辛いだろう?」
雄大は受付をした職員、納谷の肩に手を乗せる。
「…はい」
「うちのバカが迷惑をかけたな…迷惑料だ。これで美味いものでも食べてくれ」
そして雄大は手元から薄い封筒を取り出してそれを納谷に渡した。
「ありがたく…!?」
頂戴いたします…と告げる前に納谷はそれを渡されて狼狽えた。
「会長代行…これ何が入っているんですか?」
見た目に反してそれはかなり重かった。一万円千枚…つまり千万円で1kgある。しかし、この封筒の中身はそれと同じくらいの重さであるにもかかわらず千万円あるとは思えないほどの薄さだ。納谷はそれが何なのか気になり、尋ねた。
「金塊1kgだ…それだけじゃ不満か?」
「と、とんでもございません!!では失礼します!」
納谷がすぐにその場から立ち去ると雄山が口を開いた。
「流石、大兄貴だな。無能な優しい上司のふりをしてあいつを始末するなんて…中々えげつない」
「人聞きの悪いことを言うなヤマ…あいつが邪悪なる心の持ち主でなければ良いだけのことだ。それよりもその子がヤマの言っていた式候補か?」
「あ、はい! 東堂美帆です。ユーザン先生にはお世話もなりますがご迷惑をおかけしないように頑張ります!」
雄大が東堂を見つめると、東堂が自己紹介してアピールする。
「ヤマ…中々面白い奴を拾ったな。確かにお前らしいな」
「これから話すことも俺らしい内容だ。場所を変えよう。大兄貴、どこか空いている場所ないか?」
雄山がそう言うと雄大は電話をかけた。
「もしもし私だ、大和雄大だ。受付一人寄越してくれ。それとこれから6時間は私の部屋に蟻一匹たりとも通すな。用件があれば電話で聞く。以上だ」
雄大は電話を切り、背中を向けた。
「ヤマついてこい」
それだけ告げると雄大は歩き出し、奥へと進んだ。
「ユーザン先生。質問いいですか?」
「何だ?」
雄山達が歩いていると東堂が話しかけて来て雄山はそれに応える。
「さっきの納谷って人の始末がどうたらって言ってましたけどあれってどういうことですか?」
「ああ…あれか。昔から金を持ちすぎると心が汚れる…なんて迷信があるだろ? 心が汚れれば妖怪が寄り付くようになる…その汚れが汚いほど強い妖怪に襲われて死ぬって訳だ。そうならない為には金を綺麗なところで洗浄するか強くなって妖怪諸共ぶち殺すしかねえ。大和一族は後者を選んで強くなったって訳だな」
「へぇ〜…」
「あの納谷って奴はどういう理由だかはわからねえが俺と大兄貴を会わせまいとしていた。自分の不正を無理やり通そうとした奴にそんな金を渡したらどうなる?」
「欲を剥き出しにしたから殺される…ってことですか?」
「そう言うことだ。殺されなきゃ奴の背後に会長派があるってことがわかる。どっちにしても有利になったことには違いねえってことだ」
雄山がそう断言すると雄大が止まった。
「ヤマ…甘いな。会長派はその程度じゃ全く動じないし、すぐに納谷を切り捨てるだろう。私はそれとは無縁の小さなゴミをゴミ箱に入れただけのことだ」
雄大は再び歩き出し、更に奥へと進んだ。
「大兄貴はやっぱりえげつないな…」
「…ですね」
二人はそれを追いかけた。