大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜 作:疾風迅雷の如く
▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲
長兄雄大の協力を得た雄山は別れを告げ、東堂と共に旅館へと向かい、到着した。
「あー…疲れた…」
東堂がそんな声を出し、車から降りると雄山は冷えたお茶を取り出した。
「冷たっ!?」
「疲れたならこれを飲んでおけ。明日から忙しくなるぞ」
「それじゃ頂きます…」
東堂がペットボトルを持ってその中身を飲んだ。
【pipipi!】
端末が音を立て、雄山はポケットの中から端末を取り出し、その相手をみると非通知と書かれており相手が誰だかわからない。確かめる耳に当てた。
「もしもし。」
【雄山。元気か?】
その声は雄山のような濁声と同じく、地の底を這うような低い男性の声だった。
「勇姿か!?」
その声は雄山の弟、勇姿そのものだった。雄山の顔は驚愕に満ちる。
【いけね…仕事から元に戻し忘れてた】
低い声から透き通った中性的な声に変わり、雄山の顔が悄気る。
【あー…あー…これでいいかな?】
「…なんだよ。裕二か」
電話の相手は雄山の兄であり、雄大がヒロと呼ぶ弟、裕二だった。
【なんだとは失礼な言い方だな。一応これでも血の繋がった雄山のお兄さんなんだよ?】
「確かに血は繋がっているが婿入りした身だろ? それで何のようだ?」
裕二は婿入りした身であり現在、妻の姓を名乗っている為、大和一族とはほぼ無関係。あえて言うならば裕二は繋ぎとしての役割がある。
【
裕二の言う
「盗聴した、の間違いなんじゃないのか?そう言うの得意だろうが。」
【ははっ、まあ盗聴しようが誰から聞いても立場は変わりないんじゃないかな?】
「それもそうだな。会長の家に婿入りしたとはいえ会長本人は虫の息。裕二も大和一族として乗っ取った方が手っ取り早い。」
そう…裕二は現会長の家に婿入りしており、仲が悪くなった会長派と
【まあそういうこと。大和一族に戻ってもう一度妻を嫁として迎えれば問題ないし、勇姿が帰ってきた方が都合がいい。それより本題行こうか】
「本題?」
【雄山がやってもらいたいことって東堂って娘を大和一族の傘の下に入れることでしょ?】
「まあな…妖魔連合会の残党はいくらか残っているからな。東堂が狙われない理由はない」
【オーケィ! で、その娘を保護下に入る方法は至って単純…妖魔連合会と繋がっていた連中を一網打尽にすることだ】
「おいおい、こっちは相手がわからないんだぞ? そんな相手を一網打尽にしろと言われても流石に無茶が過ぎるぜ」
【そこで取引しよう。今の僕は表向きは会長一派で公に大和一族の関係者、つまり雄山を助けることは出来ない。けれど取引なら許されている】
「…つまり後で何かやれってことか?」
【そうでもしないとこっちの家から怒られるんでね。雄山の陰陽師復帰が終わった後でいいから僕の会社に来て。その時に僕が出す条件について話そう】
「わかった。そこに行こう」
二つ返事で了承し、雄山は頷いた。
【それじゃ雄山も了承したことだし妖魔連合会と裏で繋がっていた連中について話そうか】
「もう調べたのか!?」
裕二のあまりの手際の良さに雄山が驚く。雄大が連絡したと考えられる時間を計算するとおよそ15分にも満たない。盗聴説が正しくともそれだけの情報を掴むのには相当な時間を要する。
【まあね。もっと褒めても良いんだぞ?】
「ああ、褒める褒める。偉い偉い。それでどんな奴らなんだ?」
雄山が皮肉げに言うが裕二は相変わらず、笑っていた。しかしその笑い声を止めると裕二の声が真剣そのものとなった。
【妖魔連合会が薬品を使っていたことを大から聞いてピンと来たんだ。その薬品、オーバーから割り出した結果、日本セル研究所の角田所長が手引きしていた】
裕二は雄山の持っている僅かな情報からそこまで推測し、そこだけを集中して調べていたのだ。雄山はそんな推測ができた兄に脱帽した。
「日本セル研究所の角田所長…って言ったら確かノーベル賞を取ったあいつか? なんでそんな奴が大和財閥に喧嘩を売るような真似をしたんだ?」
しかしそれ以上に理解出来なかった。それは角田という男だ。角田はノーベル賞を授与し、富や名声等様々なものを持っている。そのような人間がわざわざ大和一族に敵対する理由がない。
【10年以上も前になるけど当時無名だった彼は一度、大和財閥にスポンサーを頼んできたんだ。だけど当時の大和財閥の代表取締役社長だった父さんを除く幹部達が猛反対して大和財閥を逆恨みしているんだ。】
「そういや親父の代の専務達が辞めていったのはその為か?」
【当時の専務達は欲と傲慢の塊だったから角田の要求を受け入れられなかったから反対したんだろうね。あんなの害にしかならないからこの世から退場して貰ったよ】
むしろ最小限の害であいつらを利用出来た父さんは凄いと思う。と付け加え、裕二は感心していた。それほどまでに専務に対する裕二の評価は低かった。というか裕二の口からこの世から退場して貰ったというあたり末恐ろしい。
「つまり、日本セル研究所以外に会長派の奴らと手を組んでいるのはいないんだな?」
【それ以外に考えられるけど専務達は大や父さんじゃない誰かにやられたから大和一族に恨みを持っているのは極少数。所詮逆恨みでしかないから出来ることもほとんどない…だから1番高いのは日本セル研究所。あそこを当たってみるといいよ】
「ありがとう裕二」
そして雄山は電話を切ろうとすると裕二が慌てた。
【わーったったった!ちょっと待ってよ。】
「今度はなんだ?」
雄山は裕二の声にイラっときたがそれでキレる程短気ではない。しかしイラついた声で語る姿は
【雄山、ゲームの俳優やってみない? 給料出すよ?】
「裕二の会社の主力、VRMMOシリーズに俺が出ていいのか?」
【悪役顔で物凄いインパクトあるキャラっていうのが今のところ周りに雄山しかいないんだよ】
「…その前に素人、プロ問わないで募集したらどうだ? あのシリーズは人気だからかなりの人数集まる…その中からキャラクターを作れば良いんじゃねえか?」
【あ、そうか。でも気が変わったら僕に連絡してよ。一声でメインストーリーに絡ませることも出来るから】
「そうか。まあ気が向いたらそうする…じゃあな」
そして本当に電話を切ると東堂が興味深そうに雄山を見つめていた。
「今のってユーザン先生のもう一人のお兄さんですか?」
「そうだ…世間じゃ財閥のトップの大兄貴よりも名前が知られているはずだぞ」
「…でも大和財閥以外に有名な大和さんって名前全然知らないですよ?」
「こう言えばわかるか?5年前に世界史上初のVRMMOを作りあげた歩くゲーム・端末製造機…」
「それなら聞いたことがあります! 九条さんよね!」
「そうだ。ゲーム・IT業界の超大手企業
「またとんでもない大物が身内にいますね…ユーザン先生の車も大和財閥が作ったものですよね?」
「ああ…俺の車は18になった時親父が誕生日プレゼントにくれたんだ。ちなみに伊崎先生のラジオは親父と裕二が共同で設計して販売されたものだ。懐かしいもんだ…」
雄山が思い出に浸ると勇姿のことも思い出す。あの頃が1番幸せだった…雄山がそう感じていると東堂が再び声をかけた。
「でも何で裕二さんの苗字が大和じゃなく九条なんですか? 会長がどうたらとか言っていましたが…それと何か関係あるんですか?」
東堂の疑問も最もで裕二は大和の姓ではない。大和一族という巨大な一族の御曹司でありながら何故会長の家の姓を名乗るのか疑問に思うのは当然のことだった。
「裕二は会長が倒れる一ヶ月前に会長の妹と政略結婚して婿入りしたんだよ」
「何でそんなことを?」
「大兄貴は勇姿をライバルだと思っていた。…だが会長のことはライバルとして見ていなかった。会長は努力しても勝てなかった。どんなに頑張っても接戦がやっと。勉学やスポーツ、陰陽師としての力、全てにおいて会長は大兄貴に勝つことはなかった…あの日まではな」
「あの日?」
「勇姿がいなくなった日だ。あの日から気力のなくなった大兄貴を出し抜くのは容易かった」
「あ、それで会長になれたんですね」
「そうだ。だが会長は全力を出した大兄貴に勝ちたかったことに気づいたんだ。会長になった会長は腑抜けたままの大兄貴にキレて会長は大兄貴を殺そうとするまでに憎むようになったんだ」
「殺されかけたんですか!?」
「まあ大兄貴は腐っても大和一族の宗家当主だ。会長を抑えた後、裕二を婿入りさせて会長の下に降って会長を怒りを鎮めた。早い話が嫉妬が原因でこうなったんだ。…もっとも大兄貴が勇姿を評価していたことを話さなきゃこんなことはわからなかったがな」
「へえ〜…でも会長さんは危篤状態で大和一族は会長さんから力を取り戻すチャンスってことですか?」
「そのチャンスのキーマンは俺と東堂。俺らの動きにかかっている。俺らはそのチャンスを与える代わりに一族の保護下に入るって訳だ」
「それじゃ私達の行動次第で待遇も決まるってことですか…」
「だがその前に登録してテストに合格しなきゃいけない。部屋は別々にするが明日に備えて早く寝ろ」
雄山はその後、和風の旅館で受付を済ませ別々の部屋で就寝した。