大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜 作:疾風迅雷の如く
東堂と長門は森の香りが漂う木製の廊下や藺草の香りが漂う和風の部屋を見渡し、匂いを感じながら歩いていたが雄山はそれらを無視し、階段を下っていく。
「ひ、広いですね…」
元々身体能力が高い訳ではない長門は息を乱しながらそう呟いた。
「あと少しだ。我慢しろ」
しかし雄山は無情にも長門の方に振り向かずに前へと進む。
「長門さん、乗って」
雄山の辛辣過ぎる態度に東堂が息を乱している長門に同情し、屈んで背を向けた。
「そんな…悪いですよ」
「いいから!」
東堂は問答無用と言わんばかりに長門を背負い、歩く。長門はそれに不満顔であったが東堂の温情に感謝もしていた。
だがそれも束の間だった。
「グワアアァァァッ!」
そんな叫び声と共に聞こえてきたのは地の鳴る轟音。地面が揺れた後、脈のある死体が雄山の目の前に転がり、それを雄山越しに見ていた東堂や長門は混乱していた。
「全く…相変わらず荒っぽ過ぎねえか? 師匠」
呆れたように雄山がそう呟くと雄山達の目の前に現れたのは見た目三十代前の女性だった。
「雄山、お前に言われたところで痛くも痒くもないね」
その師匠は脈のある死体を片手で担ぎ、雄山にそう答える。
「ユーザン先生、この人がユーザン先生の御師匠様なんですか? 見た感じユーザン先生と年齢が同じくらいに見えますが…一体?」
「ホッホッホ…雄山、お前の弟子は嬉しいことを言ってくれるな。こう見えてワシは今年で69だぞ」
「へえ〜今年で69ですか! 随分お若く見え…? ろくじゅうきゅう!?」
「え、えぇぇぇーっ!?」
雄山の師匠のトンデモ発言により、東堂と長門はお互いに見つめ合い、雄山の師匠を二度見する。二人が動揺するのを見た雄山と雄山の師匠は笑ってしまった。
「あり得ない…雄大さんや裕二さんといい、もしかして大和一族って皆若く見えるの?」
「そ、それだとユーザン先生が大和一族じゃなくて佐竹先生が大和一族になってしまいますよ」
「長門、それはどういう意味だ?」
長門の毒舌に反応した雄山の顳顬に青筋が入る。雄山の元同僚の佐竹は確かに小学生のような外見であり、年齢よりも外見が遥かに若い…というか若すぎる。故に外見年齢が若い佐竹が大和一族だと思うのは理解できる。だが長門の最後の言葉は雄山に対して実年齢よりも外見年齢が老けていると言っているようなものだ。
「そのまんまの意味じゃろう? 雄山」
雄山の周りに味方はいない。その事実に雄山は顔を引きつらせた。
「…それよりも師匠、それにお前達にそれぞれの事を紹介する」
雄山は顔を元に戻し、デフォルトである強面な顔になる。
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長門が東堂の背中から降り、制服の皺を伸ばして服装を整えると雄山が口を開けた。
「さて改めて紹介するぞ。こっちにいるのは俺の師匠こと大和春。俺の父方の祖母にあたる方だ。これからよくお世話になるからしっかり挨拶をしておけ」
雄山は二人に雄山の師匠、春を紹介すると春が笑みを浮かべた。
「大和春じゃ。よろしくのお嬢ちゃん達」
「…ユーザン先生のお婆ちゃんなんですか!?」
東堂と長門が再び目を見開き、合わせる。その理由はやはり見た目であった。
「そーじゃよ、文句あっか」
「うわぁ…ユーザン先生にそっくりです。納得しました…よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
東堂と長門が春の言動に雄山を重ね、納得すると同時に頭を下げ、敬礼した。
「それで雄山、お嬢ちゃん達の紹介はまだかいな?」
春が目を合わせると雄山が口を開き、東堂に手を向け紹介し始めた。
「この女子高生が東堂美帆。こう見えても吸血鬼だ」
「よろしくお願いします!」
東堂はハキハキとした声で春に頭を下げ、挨拶をする。
「おやおや元気な子だねぇ…」
その言葉を聞いた春は東堂に微笑み、東堂はそれを見て満足げに笑顔となる。しかしそれを後ろで見ていた雄山は苦笑していた。その様子からして見て少なくとも東堂に対して苦笑したのではなく、むしろ春に対して苦笑していた。
「でだ。こっちの子は長門奈恵。人間の超能力者だ」
だが雄山はその苦笑もすぐに止めて長門を紹介し、超能力者であることを告げた。
「よろしくお願いします」
「ふむふむ、こっちの子は若干声が出ておらぬな」
「師匠、厳しくしすぎないでくれよ?」
「わかっておるわい」
雄山と春の会話の中に長門が春に鍛えられるような事を聞いた東堂は恐る恐る手を挙げた。
「ユーザン先生、一体どういうことですか?」
「どういうこととは?」
「まるで春さんが長門さんを鍛えるみたいなことを言っていましたがどういうことですか?」
「え゛っ!?」
長門がそれを聞いてア行濁点使いとなり、雄山をまじまじと見つめるが雄山はまるで気にしていなかった。
「その通りだ…とは言っても師匠は超能力専門じゃないからな基礎だけ教えて終わりだ」
「そうですか…よかったね、長門さん」
東堂が同情するように長門の肩に手を置く。長門は知らないが雄山は裏世界ではキラーマウンテンと呼ばれるほどマフィア達から恐れられる男である。そのキラーマウンテンの師匠に鍛えられるともなれば例え軽めであっても地獄のような日々を迎えることになるだろう。しかも春の性格は雄山の兄達よりも雄山に似ているから尚更そう思い込むのは無理なかった。
「東堂、何他人事みたいに言っているんだ?」
「へっ?」
東堂はその時、長門と同じように口を動かしたような感覚に襲われ、硬直してしまう。
「徹底的に師匠からしごきを受けるのはお前の方なんだからな」
その言葉を聞いた東堂が口を開けたまま暫くの間愕然とし、硬直する。
「はぁぁぁぁーっ!?」
そして東堂はまるで聞いていないと言わんばかりに春の方へ向くが、すぐに雄山へと振り返り、首元を掴む。
「一体全体訳を聞かせて下さい!」
東堂は雄山の口からしごくという言葉が出たことと春に鍛えられることに対して理解できなかった。自分はあくまで式である。故に雄山と一緒に戦い、鍛え上げる方が有効的かと思っていた。しかしまさか雄山の師匠に鍛えられるとは思ってもなかったのだ。
「さっきも言っただろうがお前は俺の式としての訓練をしなければならない。その理由は今のお前は封印を解いた時の妖力に振り回されているからだ」
雄山が首元を掴んでいた東堂の手を払い、冷静にそう告げた。
「振り回されている?」
「妖力その物に頼るのはそんなに悪いことじゃない。むしろ敵に対抗するようならそれを使え。だが東堂の場合はただ暴れるだけでしかないということだ。ゴルフで例えるならスイングのヘッドスピードは出ているのにも関わらず球筋が曲がってしまい飛距離が出ない…そんな状況だ」
「つまり伸びしろはあるってことですか?」
雄山はそれに頷き、返事を返した。
「そういうことだ。妖怪の力を伸ばすには妖怪の力を知らなくちゃいけない…妖怪退治を俺よりも経験している師匠の方が適任だ」
「そういうことじゃな美帆。この孫は儂に土下座してまでお主を鍛えるように頼み込んだんじゃ。ここまでされては流石の儂も重い腰を上げてお主を鍛えるしかないわ」
「師匠!」
余計なことを言われた雄山は春に大声を出し、睨む。
「事実じゃろうに…美帆、お主も雄山に義理があるなら儂に師事して少しでも雄山の役に立つことじゃな」
「…ふぅ、仕方ないですね。元々私が裏の世界に関わりたいとユーザン先生に我儘を言ってしまったからにはユーザン先生の式として戦いましょう。その代わり、ユーザン先生…」
「ん?」
「せ、責任取って下さいね?」
東堂が顔を紅潮させ、小さいながらもよく響く声で雄山にそう言った。
「ああ取ってやる…お前が俺の式だということで行き遅れたら吸血鬼の男を紹介してやるよ」
雄山の発言はやたら生々しく、そして現実味のある言葉であった。
「そう言うだろうと思ったわい…雄山」
春は東堂に同情するような目を向け、雄山に呆れた声を出した。
「師匠、それよりも例のところへ行こう」
「その前にこの馬鹿弟子の始末をしてからな」
春は脈のある死体を担ぎ、外の隙間を見つけるやいなやその脈のある死体を投げ飛ばした。
「それじゃあ行こうかね、弟子達よ」
二人の女子高生達はそれを見て雄山の行動に首を突っ込んでしまった事に途轍もない程の後悔をしてしまった。
「頑張れよ。俺は俺でやるべきことがあるからな」
雄山がその場からいなくなり、二人に残ったものは後悔などのネガティヴな言葉ばかりであった。