佐世保鎮守府にした訳は自分が寒いのが嫌いだからです。
大湊は青森ですから寒そうですし…。
佐世保鎮守府は長崎にあり、主に九州を中心に西日本を守護する海軍施設で広い海域を守るために艦娘も100名居る大きな鎮守府だ。
そこに一人の男性…もとい、男装をした女性が正門をくぐる。
その人物は樹であった。
男装は命令書に記載されていたわけではなく、彼女自身が艦娘の心に刻み込まれた男性への嫌悪や憎悪を無くす為にと考えた結果だった。
女性の自分に馴れても自分の身に何かあり、他の男性提督に変わってまた一からなど効率の悪いことなど意味がない。
「お待ちしておりました。私は大淀ともうします。」
「出迎えご苦労。長宗我部・ティルピッツ・樹少将だ。」
正門をくぐって直ぐの所に大淀が立っており、敬礼をしながら挨拶をしてきたので同じように返す。
樹は挨拶を済ませながら大淀を観察する。
口調や態度は異常はないが大淀の目には強い憎悪とそれと諦めが見てとれる。
「では、執務室にご案内いたします。」
「ああ。」
大淀が歩き出したので樹はそれに続く。
鎮守府内は想像に反して綺麗にされており、推測だが本部の人間や上官からは隠すためと考えるのが妥当だな。
そうこうしてる内に執務室に到着し、大淀が予定を読み上げる。
「本日の予定は鎮守府内を見回り、施設の説明をしたのちに経営プランを建てていただきましてその後に編成・出撃・遠征などの指示をしていただきます。」
実に事務的な読み上げだ。
確かに仕事としては理想的とは言えるが、私はその仕事ぶりと予定が気にくわない。
「…却下だ。」
「…え?」
私の一言に固まる大淀にもう一度言う。
「却下だといったんだ。」
「で、では、どうすれば?」
動揺する大淀を尻目に時間を確認する。
ヒトマルサンマルか…。
「本日は食堂を切り盛りする間宮を除く全艦娘は休日とし、間宮も可能な限り休めと伝えろ。それからヒトヒトマルマルに全艦娘はグランドに集合だ。」
「は、はい!かしこまりました。」
「では、頼んだぞ。」
大淀の動揺は激しさを増すが集合まで30分しかなく、慌てて執務室から出ていく。
「…ふぅ。」
その間に私は鞄から取り出したあるものを所持してから書類作業を始める。
それから大淀が呼びに来たので私もグランドに移動した。
――――――――――
グランドには鎮守府にいる全艦娘が集まり、至るところから何事かと口々に声があがるが、そこに樹が現れると声は静まる。
壇上に上がる樹をあるものは睨みあるものは怯えて目を背けてと様々な反応をする。
「本日よりこの佐世保鎮守府に着任した、長宗我部・ティルピッツ・樹少将だ。」
樹は敬礼をしてから挨拶をするもそれに返礼したりするものは一人もいない。
しかし、樹は臆することもなく続ける。
「私が目指すのは一人も轟沈することもなく、安全にかつ効率の良い出撃・遠征を出来るようにしていくつもりだ。」
樹は自分が目指すスローガンを語るがそれに言い返して来るものもいた。
「はっ!轟沈をなくす?そんなの信じれるかよ!!」
天龍であった。
大声で抗議する天龍に樹は言う。
「別に直ぐに信じて貰おうなどと甘い考えは持っておらん。」
「じゃあ、どうやって信用を得るんだ!あぁ!!」
「ふむ…。」
天龍はヒートアップしていき今にもつかみかかって来そうな雰囲気に辺りに緊張が走る。
その中で樹は天龍の左の腿にある弾創が目に入る。
「待て。その腿の弾創はどうした。出撃や遠征の怪我なら入渠してこい。」
「話をすり替えんな!!」
「すまないが気になったら我慢できない性分でな。答えてくれ。その後にお前の質問にも答えよう。」
樹の言葉に天龍は舌打ちをして答える。
「こいつはなぁ…お前ら提督が付けた傷だよ!チビどもを無理矢理犯そうとしたあのクソ野郎に俺を身代わりに出したらやられてる最中に『締まりがよくなるから』とかほざきながら何発も同じところを銃で撃ち抜きやがったんだ!!その後に入渠も許されずに今じゃ入渠しても治りゃしねぇんだよ!!!」
天龍は叫ぶ。
その目からは涙を流しており、後ろで整列している何人かの駆逐艦の少女達も泣いている。
樹はその余りに悲惨な姿を見て強く歯を食い縛ったが直ぐに自分を落ち着かす為に深呼吸する。
「ふぅ…わかった。辛いことを話させたすまなかった。」
「うるせぇ!!それよか今度はこっちの質問に答えやがれ!」
「……わかった。」
樹は何かを決心して腰に差している自動小銃を取り出す。
艦娘達はいきなり武器を取り出した樹を見てどよめく。
「てめぇ!!何をしやがる!!」
パンッ、パンパンパンパンパンパンパンパン!!
「ぐっ!!がっ、くっうぅぅ!!」
艦娘達のどよめきを他所に樹は自分の足を…天龍が撃ち抜かれた同じ場所、左の腿に銃口を向けて躊躇いなく撃ち抜く。
顔を苦痛に歪めるもマガジンに入っていた9発の弾丸全て撃って銃を後ろに投げ捨てる。
その足は血が流れ白の軍服を真っ赤に染めていくが樹は気にしなかった。
「な、なにやってんだよ!!お前は馬鹿か!?」
「はぁ…はぁ…天龍…質問に答える。私を信用しなくていい。だから契約をしよう。」
「は?契約だと?」
「あぁ…ここにいる皆と私の契約だ私は必ずここをいい方向に変えてみせる。もし出来なければ私の命をやる。煮るなり焼くなり好きにすればいい。」
「あ、あぁ、わかった。」
艦娘達は戸惑うが了承するのを見て樹は満足そうに頷く。
「よし。では、ヒトサンサンマルに各艦種のリーダーを決めて執務室に集合せよ。今後の方針についての会議を行う。では、解散。」
樹は左の腿から血を流し、激痛が走るが歯を食い縛って我慢して歩き出す。
艦娘達はその姿を見送るしか出来ず、その場で暫く呆然と立ち尽くしていた。
―続く。
読んでいただきありがとうございました。
自分で自分の足を撃つ…自分は絶対に無理ですねー(汗)