「ルルーシュ起きなさい」
名を呼ばれルルーシュはうっすらと瞼をあげた。
カーテンから射し込む陽光のせいで正しく像を結べなかったが、朧気な視界でも声の正体が何者なのかはわかった。聞き慣れた母の声である。
「今日はユフィと遊んであげる約束をしたのでしょう? もうユフィはあなたを待ってるわよ」
優しい声。次に暖かい手が自分の頬に触れた。ルルーシュにはその手が酷く懐かしく感じた。
「母上?」
目の前にいるのは確かに母、マリアンヌだ。
自分が受け継いだであろう黒髪も、父帝自ら后妃に、と望んだと言われてる美貌も、自分の記憶と照らし合わせても相違はない。敬愛する母だと言える。
なのに何故ーー母でないような気がするのだろう。
自分を見下ろしている母にルルーシュは不安を覚えた。
「あなたまだ寝惚けてるの? いいから起きなさい」
下から見つめていると、マリアンヌは頬に触れていた手を頭に移しルルーシュを優しく撫でた。その仕草、表情は慈愛に満ちている。
そして額に唇を落とし、
「ユフィのとこに早くいきなさい。あんまり待たせるとあの娘いじけるわよ?」
忠告だからね、とルルーシュの寝室を出ていった。
扉が閉まり母の姿が消えるのを見送ると、ルルーシュは撫でられていた頬に手を当てた。
ーー優しい温もりだ。
だが、両親とは親子関係が破綻していたような気がするのは何故だろうか。それにさっきみたいな暖かい家庭の、それも模範解答みたいなやり取りをするわけがない、と根拠はないが、そう思ってしまう。
「馬鹿馬鹿しい。まあ夢だろう」
ーーそれより早くユフィの元へと行かなくては。
そう決め込みルルーシュは体を起こし、クローゼットに目を向けた。
さて、今日は何を着ようか。
ユーフェミア・リ・ブリタリア。
母は違うが父を同じとするルルーシュの異母妹である。
争うことが是とさせるブリタリアに置いては、血の繋がった兄妹だろうと良好な関係を築くのは難しい。
皇帝を目指す者にとって、血の繋った兄弟が何よりも敵であるからだ。
しかし、ユーフェミアの姉、コーネリア・リ・ブリタリアは違うのだろう。
マリアンヌに憧れている彼女は、アリエスを度々訪れる。
その訪問が縁となり、リ家姉妹とは、一緒に御茶を楽しんだり、遊び相手になってくれたりと、ナナリー含めて可愛いがって貰っている。
そのリ家姉妹の片割れ、妹のユーフェミアは探すまでもなく居た。
「えっと、そのユーフェミア、離れてくれないか?」
よく御茶を楽しむ場所にだ。
アンティーク調の白い丸テーブル、それに合わせた白い椅子が置いてある。そこにユーフェミアは愛らしく微笑み桃色の髪をゆらゆらと風に揺らし座っていた。
「嫌です! 久しぶりにあったんですから、こうしてもいいでしょう? ねえルルーシュ?」
しかし御茶を楽しむどころか淹れる事も叶わない。茶器すらもテーブルに乗せれてないのである。
原因は会うと同時にユーフェミアが身をすりよせ両手をルルーシュの後ろに回して抱きつき離さないからだった。
「久しぶりって三日前に会っただろう?」
頬が熱を帯びてくる。
異母妹であっても女性と触れ合うのは気恥ずかしい。
だから状況に甘んじているだけではなく、優しく振り払おうともした。が、その度にユーフェミアが悲し気に瞳を揺らすので半ば諦めている。
「え、ええ、三日、三日前ねえ……」
はあ、と呆れたようにユーフェミアため息をついた。
その様子にルルーシュは左目を押さえ考える。
ーー何故呆れる。三日前に会ったのは事実だろう。それを久方ぶりと取るか、取らないかは個人の裁量である。もしや言い方が悪かったのだろうか。
「ユーフェミア、ごめ」
「ユフィと呼んでください。さっきからユーフェミアユーフェミアユーフェミア! いつからそんな他人みたいな接し方するようになったのですか」
「いや何故だかわからないがユーフェミアと呼んだ方がしっくりくるんだ」
「ゼロ生活が長かったからかしら。いやルルーシュはきっと心の中では私の事ユフィと呼んでいた筈……役に入り込み過ぎた弊害……?」
ぼそぼそとユーフェミアは呟いている。
聞こえた単語はよくわからなかった。だが『弊害』とあまり聞こえの良くない言葉で評されるのは心外である。
「それじゃあ俺自体が悪い人間みたいじゃあないか」
ルルーシュは肩を竦めてみせた。表情は鏡を見ないとわからないが、恐らく引きつっているだろう。
「まあ」ユーフェミアは口に手を当てる「本当に何も覚えてないのね。私だけなのかしら。さっき会ったマリアンヌ様も何も覚えてないみたいですし」
「覚えてない? それに母上も……」
確かにルルーシュは朝のやり取りで何か忘れているのでは、と不安を覚えた。しかし、それはーー夢を見て、それと現実が混濁しただけだ、と判断したものだった。
「貴方は記憶を思い出さない方が良いと思います。辛いだけですから。それでも、これから先に起こる悲劇は貴方の協力なくしては回避出来ないわ。だから思い出して欲しい」
ユーフェミアの声に揺れはない。ましてや、からかっているようなふざけた物でもない。それに彼女は質の悪い悪戯をするような女性ではないのだ。
ーーどうすれば良い。
この状況に暫くルルーシュは呆然と立ち尽くしていたが、ユーフェミアが回していた両手を離して、何かを思い付いたかのように、ぽん、と手を打ち、
「そうよ。あの緑の魔女さんが居ればもしかすると」
そしてその考えを頭の中で確かめているのか、二度、三度と頷いている。
「でも、思い出させるのもルルーシュには酷だわ。それに方法も……あまり気の良いものではないですし」
「ユフィ? 緑の魔女とは一体ーー」
魔女に色があるのか、とルルーシュは尋ねたようとしたが、後ろから肩に手を置かれ邪魔をされた。
「その答えは私がしよう。なあ坊や」
振り向くと、そこに居たのは若草色の長髪の女性だった。瞳は金に近い琥珀色。物言いも、浮かべている顔もルルーシュが皇族だというのに敬意がない。
「お、お前っ! 何処からきた!」
そう、言いたい事は山程ある。が、まずはその事が重要である。庶民出と蔑まれてるとはいえ、仮にも后妃が棲む離宮だ。警備はどうなっている。
「ユフィ、俺の後ろに隠れてくれ! 大丈夫直ぐに誰かが来る筈だ」
「おいおいつれないなあ? 体も坊やになると精神はますます坊やだな」
緑髪の女性はからかうように手をひらひらさせて笑んでみせる。ルルーシュは眉を寄せすぐさま反論した。
「黙れっ! 俺は坊やではない」
「むきになるのが坊やの証だ。相変わらずイレギュラーには弱いな」
「お前が俺の何を知っている! ふざけるのもいい加減にしろC.C.」
その言葉に緑髪女性もユーフェミアも目を丸くする。
「おいルルーシュ。お前本当は覚えてるんじゃないのか?」
「ルルーシュは私をからかっていたのかしら」
ユーフェミアは訝るよう目を細めたが、ルルーシュは何を疑っているのか見当もつかなかった。
「とりあえずジェレミア、いや咲世子でもいい、来てくれ! こいつを取り押さ」
「ほお、またも知己の名を出すか。しかし、ルルーシュ。あれだけ皇族であることを嫌っていたのに権力を使うとはーーがっかりだな」
失意と言うわりに、緑髪の女性は笑みを浮かべている。まるで面白い玩具を見つけた子供のよう。
だが、その笑みがルルーシュの誇りに傷をつけた。
「違う! 俺が皇族なのは確かだろう。身の危険を感じ人を呼ぶのが何が悪い」
どうもこの女性には勝てる気がしない。むきになっては相手の思う壺であると判るが、引くに引けない。
女性に対してあまり口悪く言うのが嫌い(隣にいるユーフェミアなどにもっての他)ではあるのに、この緑髪の女性に対しては何を言っても良いと思えるのだ。
「おいユーフェミア。こいつ昔はこんな感じだったのか? 私の記憶では聡明で優しい子だった気がするが」
そう緑髪の女性が問うと、ユーフェミアはルルーシュに視線を這わせた。が、気まずそうに顔を伏せ、
「えっと、そうねーーこれはこれでルルーシュじゃないのかしら、ね」
とぽつりぽつり消え入りそうな声で呟いた。
ーー落胆しているだと。ルルーシュは肩を落とした。
「私は嫌だぞ、こんなルルーシュは。共犯者として見る影もない」
自分の気持ちを知ってか知らずか、言いたい放題である。いや、きっと理解しているのだろう。
視線を合わせると緑髪の女性は笑みを深くした。
「まあ、いい。とっとと記憶を戻すか」
そして、目を合わせたままルルーシュに近より、両手で顔を押さえた。
「は? ちょっと待て何をする気だ? 触るな!」
抵抗も虚しく緑髪の女性はルルーシュに唇を重ねた。
自分が反逆者ゼロになった経緯。
黒の騎士団を、超合衆国連合を設立した歩み。
血の繋がった兄妹を手にかけた後悔。
何よりも大切だった妹を、弟を失った喪失感。
ーー全てを思い出した。
「記憶を戻してくれた事には礼を言うが、C.C.。何故キスをする」ルルーシュは唇に残る感触を袖で拭う「それにだ。俺は何故ブリタリアに居る。俺は確か皇帝と母上を消した筈だ」
「必要だったからだ。 どうした? 顔が赤いぞ」
「うるさい。いいから答えろ」
そう詰め寄ると、C.C.は鼻を鳴らした。
「私にも理解出来ないが、おそらく『神に明日を願った』お前が、枢木に『ゼロレクイエム』、つまり自殺の相談をしたからだろう。私の最後の記憶はそれだ」
「確かに俺もスザクにゼロレクイエムの事を伝えてからは記憶がない。起きたらブリタリアだった。ーーしかし、お前自殺って、あれはスザクと俺の罪、世界を思ってだな」
「いや、ただの自殺だ。お前は罪の意識に耐えきれず死に逃げただけではないのか」
ーー耐えきれず逃げた、か。
胸を抉るような言葉だ。
C.C.は続ける。
「それに、残された者に全てを託すのは無責任だろう。上手くいかなくても責任は取ったなど胸を張って言うつもりか。人には笑って死ね、と言う癖に、言った本人は安易にか。あまり私を失望させるな」
周りから見れば壮大な自殺計画なのかもしれない。それでも納得して出した答えを、そう簡単に否定されては立つ瀬がない。
それよりもだ。避けてはいけない事柄がある。
「C.C.話は後だ」ルルーシュは息を飲み、ゆっくりとユーフェミアに目を向ける。
相対すると胸が締め付けられ痛みが走った。
彼女は言葉を待っているのか黙っている。
「ユフィ、君には何を言っても許されないだろう。言い訳にしか聞こえないだろう」
数えきれない程の命を犠牲にした自分が吐き出すのは、謝罪ではいけない。
謝って救われるのは本人だけだ。
だから許しを乞うわけにはいかない。
けれどーー
「卑劣な罪を君に被せ、この手で殺した俺が言うのもおこがましいがーー愛してた。今でもだ」
伝えたい事は伝えた。今さら生に執着はない。望まれるなら命さえも捧げよう。彼女にはそれだけの権利がある。
「私はそれだけで充分です」
しかし、ユーフェミアは柔らかく微笑み、ルルーシュを否定するわけでも、責めるわけでもなかった。
「貴方は潔いから罪を認め後悔はしても言い訳をしないでしょう。私が事故だから、と言っても貴方は自分を責め続けるでしょう。だから私も多くは言わないわ」
ユーフェミアは両手を広げる。
「私もーー愛しているわ。勿論今でもよ」
そして、ルルーシュの胸元に顔を埋めて抱きしめた。優しく壊れないように、全てを包みこむように。
一度は、どうする事も出来ずに自分が犯した過ちだと、背負うべき罪だと、切り捨てた筈だった。
だが、自分の決意は甘かった。彼女の声を聞くだけで、彼女に触れて貰えるだけで、涙が止まらないのだ。
ぼろぼろと流れ落ちる滴は、罪の清算ではない。
泣くだけで許されるわけではない。
それが理解出来ているのにーー彼女を抱きしめたい。
自分には許されるだろうか。
ルルーシュは自問自答の末に両腕を動かした。
「ちょっと待て」
だが、C.C.がユーフェミアの背に回しかけていた手を取った。
「そこまで私は許したつもりはないぞ。見ているだけの私に悪いと思わないのか」
不機嫌そうな声にルルーシュは目を吊り上げ、C.C.を睨みつけた。
「ああ、思わないな。むしろ邪魔だとしか」
「このシスコンが」C.C.は鼻で笑う「流石、妹の為に世界を変えようとしただけはあるな。何だ、次はユーフェミアの為に世界を変えるのか?」
「お前、それはどういう意味だ」
「共犯者を忘れ、妹に無償の愛を注ごうとしているお前の事を言っている」
「何だ」ルルーシュは口角を上げる「忘れてなどいない。ただ今は、邪魔者以外の何者でもないと言う事だ。いいから黙ってろ。それが嫌なら目でも閉じているがいい」
何も蔑ろにしているつもりではない。C.C.とは後でいくらでも語り合える。無論それはユーフェミアにも当てはまるが、優先すべきは傷つけた彼女である。
「ユフィ、君に触れる権利はまだ俺にあるかな」
そう告げると、ユーフェミアは胸元に埋めていた顔を上げた。
「ええ、そうしてくれると私も嬉しいわ」
そして、頬に伝うルルーシュの涙を指で撫でた。
「それで、お前はこれからどうするんだ?」
ユーフェミアとの触れ合いを、黙って見ていた(瞳に浮かべていたのは不満の色だった)C.C.が、話を進めようと、ルルーシュからユーフェミアを引き剥がし、膝を合わせる事にした。
ルルーシュが座った位置を時計で表して、十二時とするなら、ユーフェミアは四時、C.C.は八時である。
「まずは御茶だ。ユフィは紅茶でいいか」
ここは、もともと御茶をする為にあるような場所だ。
顔を突き合わせて言葉を交わすにしても手元が寂しい。
「ルルーシュが淹れるの?」
ユーフェミアが首をかしげる。もっともな意見だ。
「ああ、必要に応じてだな。ナナリーの為に覚えたようなものだが。それにそこの魔女が紅茶などを淹れるわけがない」
「契約だからな。ルルーシュが私に尽くすのは当然だ」
「どんな契約だ! まあいい、C.C.お前も紅茶で」
「ピザがいい。ここにはチーズ君がいない。ポイントを貯めるのに前回はお前の懐に遠慮していたが、今回は本気を出せる。お前が皇族であるかぎり金は湯水の如く使えるだろ?」
C.C.はそう瞳を輝かせた。
ーー皇族の務めを説きたい。ノブレス・オブリージュの意味を叩き込んで、その瞳を曇らせたい。
怒りで紅茶を注ぐ手元が狂いそうになった。
「お前、あれで遠慮していたつもりか? それに皇族を何だと考えている」
「ほお」C.C.は口を歪ませる「皇族である事を嫌い、皇族を批判していたお前が、高貴たる者を気取り、その役目を説くつもりか」
「ふざけるな、話が違う。お前が俺の立場を利用し、私利私欲の為にピザをたかるからだ!」
「だが、お前が私にピザを提供するのは義務だ。務めを果たせ」
どんな理屈だ、とルルーシュはテーブルを叩きかけたが、何を言っても無駄と悟り、深々と息をはいた。
「Cの世界からも見ていたからわかってはいたけど、仲が良いのね」
二人のやり取りを眺めていたユーフェミアは、ふっと笑った。
「でも、まじまじと見せつけられると、少し複雑です」
誤解だ、と椅子から腰を上げたが、C.C.が一歩速かった。
「そうだろうそうだろう。永遠を誓った共犯者だからな」
「もうお前は紅茶を飲んで黙っていろ」
淹れ終わった紅茶をルルーシュは配った。
カップからは湯気が立ち上り、揺らめいている。
「それで、この現象が神の仕業なのはわかった。時間が巻き戻ったのも別にいい。だが、何故この時代だ。それに何故ユフィは記憶がある。しかもさっきCの世界から見ていたと言ったが、それは死んでから全てを見渡していたという事なのか?」
カップに口をつけ矢継ぎ早に言う。
するとユーフェミアは口に運んでいたカップを止めた。
「そうね気づいたら別の場所に居たわ。そこでは見たい物が見れましたし、他に亡くなった方とも話ができました」
手元のカップを揺らしている。
「シャーリーさんやロロ、クロヴィスお兄様ともね」
その名を聞いて、含んでいた紅茶の味が無くなった。
他にも犠牲にした命は多々ある。命の価値は万物平等である。
だが、その三人はルルーシュにとって特別だった。
反逆を決意する為に殺した、異母兄のクロヴィス。
親を奪い、記憶まで奪って犠牲にしたシャーリー。
最後には命をかけてまで救ってくれたロロ。
水分が消え喉が渇き、再度紅茶を含んだ。
「ユフィ、三人は俺を恨んでたか?」
ーー聞いてどうする。救われたいのか。
そう思ってはいても、ルルーシュは聞かずにいられなかった。耐えられなかった。
「いいえ、三人とも恨んでなかったわ」
我ながら細い神経だな。
カップを持つ手が震えている。それを止めてくれたのはユーフェミアだった。
そっと手を伸ばしルルーシュの手に触れた。
「それどころか、貴方の気持ちを汲んであげれなかった事を嘆いていました。それは私も同じです」
目頭が熱くなり、ルルーシュはカップに目を落とした。水面に波紋が広がる。ゆらゆらと湯気が踊り、自分の顔は霞んでいたが、それでも情けない表情を映していた。
「泣き虫め。まるで子供だな。いや今は子供だったか」
C.C.の指摘に、ルルーシュは無言を貫くことにした。
「無視するのか。せっかく慰めてやろうと思ったのに」
ここで何を言っても穴を掘るだけだ。それに打てば響く奴の事、これ幸いと面白がるだけだろう。
「そうか、お前がそういう態度をとるなら私にも」
「何をする気だ? 言ってみろC.C.」
だが、ルルーシュは口を挟んだ。
不穏な芽は、花開く前に刈り取る方がいい。
「ナナリーにショックイメージを」
「やめろっ! 何を言っている!」
C.C.が言いきる前にルルーシュは声を出した。
「じょっ、冗談だ、冗談。お前凄い顔だぞ。ナナリーが見たら泣くんじゃないか」
「誰のせいだ。誰の」
「だが、私のおかげでいつも通りのお前に戻れただろう?」
「お前、それで俺が感謝するとでも思っているのか。まあいい、お前はナナリーと接触禁止だ。これを守れるなら、後で……どうにかしてピザでも作ってやる」
そう言うと、C.C.は満足げに頷いた。
「素直じゃないが、話はわかるな。流石私の共犯者だ」
「言ってるがいい」ルルーシュは首を振る「さて、本題に入ろう。今後の方針も大事だが、まずは誰が、記憶を持っているかだ」
二人に話を聞くと、C.C.は目覚めた時から、ユーフェミアはルルーシュを見てから、記憶を取り戻したらしい。
「それぞれで違いがあるが、どう思う?」
ルルーシュはぐるりと見渡した。
「多分、人によって印象深い出来事、また関わり深い者との邂逅だろう」
C.C.の意見にユーフェミアは不服そうに目を伏せた。
「でも、お姉様は私を見ても何も思い出してなかったみたいです」
表情は固い。否定したいのだろう。あれだけ仲が良い姉妹だ。無理もない。
「まあ」C.C.は自身の唇に触れる「これが事実だと、私とルルーシュは繋がりが深いという事になるな」
「それなら私もルルーシュと繋がりが深いとなります」
ユーフェミアを一瞥したC.C.は小さく笑う。
「だが、ルルーシュは私とのキスで記憶を取り戻した。お前はルルーシュを見て思い出した。さてどちらが繋がりが深いのかは、簡単だろう」
ーー論点はそこじゃない。何を争っている。
ルルーシュはかつりかつりとテーブルを指で鳴らす。
「それはどうでもいい。記憶があると迷惑な奴らがいるという事だ」
コーネリアに記憶が無いと知れただけでも収穫だが。
「最低でも、シャルルや母上、ナナリーにV.V.、そしてシュナイゼルには探りを入れたいところだ」
「黒の騎士団や中華、枢木はいいのか?」
C.C.の問いにルルーシュは頷いて返した。
「ああ、構わない。だが、スザクに記憶があるとユフィは嬉しいんじゃないか?」
「いいえ」ユーフェミアは頭を振り「確かに私の騎士ですけれど、私にも思うところがあります」
それは、とルルーシュは問いかけた。
「私は敵を討てなど一度も思ってませんでした。それなのに、スザクったら頑なにゼロを目の敵にして、最後には『君はユフィの敵だ』、何て言ってルルーシュを困らせるんですもの」
「まあルルーシュも悪いが、枢木の態度もあれだ。両親殺したばかりの奴によく言えたな、と私はある意味尊敬したよ。お前も大勢殺しただろうに」
C.C.も同意らしい、カップに口をつけそう言った。
「あの時、誰もが罪を持っていた。ルルーシュもそう、枢木だってそう。黒の騎士団、ブリタニア軍もだ。誰もが敵であるべきだ」
「お前もか?」
ルルーシュがそう笑むと、C.C.は肩を竦めた。
「ーー私はC.C.だからな」
「確かにお前はそういう奴だ」
「それより、お前は私を恨んでないのか? 私がギアスを授けなければ、シャルル達の事を黙ってなければ」
「恨んではない。お前には感謝している。ギアスがなければ俺は死んでいた。ナナリーを残し、両親の秘密をも知らずにだ。お前が黙っていたのも仕方ない」
それにーー
「らしくないな。全ては過去の事。そうだろうC.C.」
全てを計画通りに進めてきたわけではない。傷ついて、失って、それでも反逆の道を歩んできた。それを誰かのせいにするつもりはない。自分の責任である。
「だが、それでも……」
C.C.は言葉に詰まっている。
「俺が良いと言っている。なんだ、お前は恨まれたいのか? 」
「初めてだよ。お前みたいな男は」
「俺も初めてだ。お前みたいな女は」
互いに目を合わせ、笑った。