グランブルーファンタジー ~STARDUST MEMORY~   作:怪鳥

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第二章 ~ポート・ブリーズ群島~
第十話 引き合う二人


 どこまでも続く快晴の空。ラスラ達を乗せた騎空艇は、渡り鳥のように悠々と大空を駆け抜けていた。遠くの方ではさっきまで滞在していた島、ザンクティンゼルが小粒ほどの大きさに見える。

「すげぇ……あんな大きな島が浮いてるなんて。一体どんな原理で浮いているんでしょう?」

 甲板上から浮き島を眺めながら、ラスラが呟いた。

「さあな。島自体に浮力を生じさせる何かがあるとか色々、諸説はあるが……今のところ謎のままだ」

 凛とした声音でそう言ったのは、すらりとした長身に、腰まで届く銀色の長い髪を揺らめかせる美しい女性、シルヴァだった。シルヴァは床に布を広げて、愛用の狙撃銃を分解し、掃除している。

「そういえばシルヴァさん。この艇どこに向かってるんでしたっけ?」

「あれ、言ってなかったか? ポート・ブリーズ群島だ」

「ポート・ブリーズ?」

 知らない島の名前……というより忘れてしまっているだけかもしれないが、聞きなれない単語を聞いて、ラスラは疑問符を浮かべた。

「ああ。ポート・ブリーズはファータグランデ空域内でも、指折りの交易都市だ。まあ、ここ最近の魔物騒ぎのせいで、貿易がかなり制限されてしまっているが……」

「へぇ……って事は、魔物騒ぎはザンクティンゼルだけじゃないんですか?」

 ラスラの脳裏にローブの男……アレイスターと、魔物達の姿がよぎる。

 ――島に魔物を放ったのはヤツの仕業だ。もしかして、他の島でも……

「君にはしっかりと話しておいた方がいいな。例の男の件もある……話せば長くなるが」

 シルヴァはゆっくりと語り始めた。

 一か月ほど前。軍事国家エルステ帝国のトップにオルキス王女が即位し、帝政を捨てエルステ王国を再建すると宣言した……そんな頃。ファータグランデ空域の各島々で、新種の魔物が現れ始めたのだ。被害を広めない為に最低限の貿易のみで、外部からの入島を制限し始める国々。ファータグランデを混乱の渦中に追い込んでいた背景もあってか、エルステ王国に疑いの目が掛けられていたが、エルステ王国はそれを否定。事実、エルステ領内にも魔物は現れて対応に追われていたのだ。

 そこで、エルステ王国は何かと縁の深い騎空団に、事件の真相究明をと協力を仰いだ。

 その騎空団こそが、シルヴァの所属している騎空団なのだという。

「……そんな事があったんですか」

 長く喋りすぎたのか、水を飲みながらシルヴァは頷く。

「ああ。私がザンクティンゼルで魔物を討伐していたのも、それが理由だ……とりあえず団長に会おう。何か判るかもしれないしな」

「え……ええ」

 ラスラの心にどろっとした黒い塊が落ちる。自分がその騒動に関わっているのかも……何だか妙な胸騒ぎがして、ラスラは顔を曇らせた。

 その時。ひと際大きな駆動音が鳴り、騎空艇がゆっくりと減速を始める。

「……本艦は現在、ポート・ブリーズ群島へ向け、西へと航行中。一時間後には定刻通り……」

 アナウンスが順調に航行中だと告げる。どうやらさっきの音は故障ではなかったようだ。

 ラスラはホッと胸を撫でおろしながら、手元のバケットに目を移す。

 ――そうだ、二人から昼ご飯もらってるんだっけ

 バケットはザンクティンゼルを出る際、エリザからお昼ごはんにともらったものだった。

 太陽はちょうど、空の真上を通っている。お昼どきにはちょうどいい。

「そろそろゴハンにしませんか? お腹減ってきちゃいました」

「もうそんな時間か……うん、ご飯にしよう!」

 バケットを広げると、中にはサンドイッチと可愛らしくカットされたりんごが入っていた。

「うわぁ……うまそうだなぁ……いただきます!!」

 サンドイッチの一つを手に取って、頬張る。

 ――お……美味しい……

 こんがりと焼いたパンに塗られた、濃厚なバターの味。その味の先には新鮮な野菜とベーコンのピリッとした辛さがアクセントになっていて、すごく美味しい。さすが、島で唯一の宿を経営するだけある。

 そこまで思案して、ラスラはシルヴァを見つめた。

「ん? どうかしたか?」

 きょとんとするシルヴァを見て、ラスラは自分の頬を指差しながら、くすくす笑っている。

「シルヴァさん、ほっぺほっぺ!」

「ほっぺ? ……んにゃっ!?」

 シルヴァは自分の頬を触って、いつもとは違う素っ頓狂な声を上げた。頬にはサンドイッチのソースがべったりとついていたのだ。

「……うぅ、そんなに笑わなくたって……いいじゃないか」

 顔を赤らめさせながら上目遣いの角度で言うシルヴァを見て、思わずドキリとしてしまう。

「だってシルヴァさん。いつも大人びた人だから、ついおかしくって……ぷぷ」

「もうっ!! 大人をからかうんじゃない!!」

 涙目になりながら抗議するシルヴァ。何だか距離が縮まった気がして、嬉しく思うラスラだった。

 それからしばらく経って……。

「島が見えてきたぞ」

 シルヴァの指差す方に目を向けると、小さな豆粒ほどの島がいくつも見えた。騎空艇がゆっくりと減速を始め、小さな島がどんどん大きくなってくる。

「おー、すげぇ……」

 ラスラは思わず声を漏らした。

 人が多く集まる島なだけあって、ザンクティンゼルよりも数倍大きな島だ。中央に位置するひし形のような島を中心に、大小様々な浮き島が周りを囲むようにして浮いている。ポート・ブリーズ群島と呼ばれる所以であった。

「周りの浮き島に人は住んでいない。中央の大きな島……見えるか? あの島、エインガナ島に人が集まっているんだ」

 シルヴァが丁寧に説明してくれる。

「お二人とも~もうすぐ着きますからね~」

 のんびりと間延びした声が聞こえて二人が振り返ると、そこにはシェロカルテがいた。

 ――やっぱり、子どもにしか見えないよなぁ……

 ヒューマンと比べて少しとがった耳に、愛くるしい子どものような見た目。体格的にはパルやペルとそう変わらないだろう。こんなに小さくても、れっきとした大人なのだというのだから驚きだ。

「すまないな、シェロ。急に呼び出してしまって」

「いえいえ~シルヴァさんはお得意様ですからね。お安い御用ですよ~」

 昔からの仲なんだな、とラスラは二人の話を聞いていると、艇が着艦体制に入った。

 艇を操る操舵士の腕前は相当なものらしく、小さな浮き島の間をひょいと最短コースで すり抜けていく。一見、危なそうに見えても甲板上には揺れ一つ立たなかった。

 ザンクティンゼルよりも造りのしっかりした桟橋に、艇は着艦した。

「聞いてますか~? ラスラさん」

「え? 俺ですか? ごめんなさい、初めての経験ばっかで……つい気を取られちゃって」

 ラスラが謝ると、シェロカルテは「仕方ない人ですね~」と言った。

「これからグランさんに会うんでしょ?」

 ――グラン? どっかで聞いた事があるような……シルヴァさんが言ってた団長の事か

 ラスラは「ええ」と言って、相槌を打つ。

「グランさんはですねぇ……筋肉ムキムキのマッチョマンです。あと……」

 まあ、騎空団を束ねる団長なのだから、よほどの人間じゃないと務まらないのだろう。ラスラのイメージ図に、筋骨隆々の偉丈夫が浮かぶ。それも、口元に白髭を生やした歴戦の猛者って感じの。

「常にふんどし一丁で、語尾はゴザルでござる~」

「はぁっ!?」

 ――何だよ、ふんどし一丁って……完全に変態じゃねーかっ!!

 ラスラは話をもとにグランを思い浮かべてみる。

 町はずれの森の中、魔物に襲われる少女。絶体絶命の状況で魔物を斬り伏せる男の姿が!

「HAHAHA!! お嬢さん、もう大丈夫でゴザル!!」

 ここまでは良い。若干、というかもう既に怪しいが……。

「キャアアアアッ!!」

 少女は逃げ出した。マッチョでふんどし一丁のおっさんが立っているのだ、仕方ない。

 ――やべぇ変態だ……どう想像しても美化できねぇ……そんな奴に会いに行くのか俺は!?

「何だか胃が痛くなってきました……」

「……あまり真に受けるなよ、ラスラ」

「会ってからのお楽しみ~。……うぷぷぷ」

 そんなこんなでラスラ達は無事、ポート・ブリーズに降り立つのであった。

 

 ――うーん、困ったなぁ……

 ヒューマンやハーヴィン、うさぎのようにぴんと尖った耳を持つエルーンに、牛のような角を生やした筋骨隆々のドラフ族。多種多様な種族が行き交う噴水広場のベンチで、ラスラは頭を抱えていた。

 シルヴァ達とはぐれてしまったのだ。

 さすが交易都市といったところか、ザンクティンゼルと比べると雲泥の差があるほど人の数が多い。街に入るとごった煮状態で、気付けば人の波に飲まれて置いて行かれていたのだった。

 ――もうはぐれてから結構経つし……探してみるか

 ベンチから立ち上がり、人の多いバザーの方へ足を踏み出した……その時。

「あたっ!!」

「うおっ!!」

 曲がり角で誰かとぶつかってしまい、ラスラは思いきりしりもちをついた。

「あたた……すみません! つい、不注意で……」

 少女の声だった。少女は透き通ってしまうほど淡い真っ白なワンピースを着ていて、胸元に拳大ほどの青い宝石の嵌まった胸飾りを身に着けている。買い物をしていたのか、フルーツの入った紙袋を抱えていた。

「いや、俺の方こそごめんなさい。ボーっとしてたから……立てるかい?」

 ラスラは少女に手を差し伸べる。

 華奢な腕。それでいて、人形のように白い肌。

 少女は地面まで届きそうなほど長い空色の髪を揺らめかせながら「ありがとう」と言って立ち上がる。

「ああ……オイラのりんごがぁ……」

 今度は少女の声ではない。声のした方へ目を向けると、羽の生えたトカゲのような生き物が、紙袋から転げ落ちたりんごを拾っていた。

「ドラゴンが喋った!?」

「オイラはトカゲじゃねぇっ……って、え? 兄ちゃんもう一回、言ってみ?」

 ラスラは口をパクパクさせながら二回目のしりもちをつく。

「何ってお前……どっからどう見てもドラゴンだろっ!」

「うわー! ビィさんの事”ドラゴン”って言った人、初めて見たー!」

「生きてて良かった……ルリアぁぁああっ!!」

 羽トカゲのビィは泣きじゃくりながら少女に飛びついた。

「あの……ぶつかっといて何なんだけど、君たち島の人だよね? 俺、ここに来たばっかで、大事な人とはぐれちゃってさ……大通りまで出たいんだけど、こっちで合ってるかな?」

「そういう事ならオイラたちに任せとけっ! なあルリア、この兄ちゃん助けてやろうぜ」

 少女は一瞬だけうーんと思案したが、すぐラスラに笑顔を向けた。

「そうですね! 悪い人じゃなさそうだし……私はルリアと言います。ラスラさんの探し人、見つけてみせます!」

「えっ……いいの? 買い物してたみたいだけど」とラスラ。

「任せてください! 何てったって”きくうし”ですから!」

「それじゃ、お言葉に甘えて……よろしくな、ルリアとちびドラゴン」

「ちびは余計だぁっ!! この野郎!!」

 こうして二人(+一匹)の珍道中が始まった。




グラフェス行きたかったぁ……(´・ω・`)

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