グランブルーファンタジー ~STARDUST MEMORY~   作:怪鳥

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第六話 月見酒

 夜の月明りが辺りの木々を照らし出す中、単眼鏡を片手に村を見つめる二つの影があった。

 一人は黒衣のローブに身を包み、長杖をつく小柄な男。

 傍らには2mを軽く超えるであろう巨躯を持つ偉丈夫が立っている。

 

「ねぇ……見てよルーネス。今日は村の守りが薄いようだけど、どうしたんだろうね?」

 

 ローブの男はさっきまで覗いていた単眼鏡を偉丈夫に手渡しながら言った。

 

「……さあな。我らには関係のないことだ」

 

「関係ないだって? 僕の手駒たちがやられたんだよ? それも、たった一人に……だ。絶対に見つけ出して殺してやる」

 

「……くだらん。我らの仕事はもう終わった……帰るぞ」

 

 ルーネスは右手を開いて前に出し、力をこめる。すると、それに呼応するように浅黒い霧が立ち込め始めた。その霧はやがて、大人一人が通れるほどの輪を形成し、ルーネスはその霧の中へと進んでいく。

 

「どうせ、結局みんな死ぬんだ。島一つ落としたところで何も問題ないでしょ……僕は少し遊んでから帰る事にするよ」

 

「……勝手にしろ。だが、忠告はしておくぞ……アレイスター」

 

 その言葉を最後に、ルーネスは霧の中へ吞み込まれていった。

 

「忠告どうも……っと」

 

 ローブの男……アレイスターは、これから起きるであろう惨劇を想像して卑しい笑みを浮かべると、深い森の闇へと消えていった。

 

 

 

~ザンクティンゼル島 『旅風亭』 ~

 

 むせかえるような酒の匂いに、色々な料理が入り混じったいい匂い。店内は、これでもかというほどの熱気と喧騒でごった返していた。村中総出の宴会が始まったのである。

 ラスラは店を手伝ってから、パルとぺルを案内役に、村を散策して色々と話を聞いてみようと思ったのだが、道中、人と行き交うたびに畑仕事やまき割などの手伝いを頼まれて、それどころではなかったのだ。結局のところ、自分に繋がる手がかりはゼロだ。

 

「先に飲んでる野郎もいるみてぇだが……みんな聞いてくれ!!」

 

 ライルの一声に、その場にいた全員が振り返った。

 

「最近、森の方の魔物が活発になったり、元々この島にいなかった魔物が現れ始めたのは、みんな知っていると思う。幸運な事に誰も襲われたりしちゃいないみたいだが……何かと物騒だったのは確かだ。けど、それも今日で終わりだ……何てったって、凄腕の騎空士様が片付けてくれたんだからよ!! さあシルヴァ、何か一言頼む」

 

 名指しで指名されたシルヴァがライルの横に立つや否や、店内が割れんばかりの歓声と拍手に包まれた。村中の視線が集まってさすがに緊張しているのか、シルヴァの足取りは、どこかぎこちなかった。

 

「えっと……皆さんこんばんは。少し遅くなりましたが、森の魔物は排除しました。もう大丈夫です……ご安心を」

 

 魔物を討伐した本人のお墨付きに、再び拍手が鳴り響く。

 

「ねーちゃん! ここはいっちょ、乾杯の音頭を!!」

 

 村人の一人が声を上げた。それに対してシルヴァは、顔を赤らめながら答える。

 

「なんだか、は……恥ずかしいな。では……乾杯!!」

 

「カンパーイ!!」

 

 カンと酒が入ったグラスの重なる音が木霊し、村の平穏を高らかに告げた。

 

 

 

 

「おらぁっ!! 今日は赤字出血大サービスだ!! じゃんじゃん食ってくれよおお!!」

 

 店内には歌って踊って騒いでいる人もいれば、世間話に花を咲かせる者もいる。

 みんな……楽しそうだなぁ……とラスラは内心で呟きつつ、料理を運んだりして店を手伝っていた。本来であればオーダーを取ってから料理を作るのが基本なのだが、なにせ、人数が人数である。ビュッフェ形式にして、料理が無くなれば追加……といった感じで何とか店を回している。

 

「騎空士なのにかわいそうだなぁ……兄ちゃん、ビール追加で!!」

 

「明日も畑仕事頼もうかしら。こっちもビールお願いね~!!」

 

「はい! 今行きますよ」 

 

 どうやら村人からかなり気に入られたようで、男女問わず引っ張りだこだ。

 ふと、シルヴァはどこにいるのだろうかと探していると、一人で店の外に出る姿を目にした。

 

―――あれ、どうしたんだろう?

 

「ライルさん、すいません。ちょっと時間貰っていいですか?」

 

 疑問に思ったラスラは手早く仕事を片付けて、厨房に立つライルに言葉をかける。

 

「ああ、もちろんだ!! 今日はホント、助かったわ!!」

 

「ええー、あんちゃん一人だけズルいぞ」 

 

「……僕たちの仕事、増えちゃうね」

 

「お前らはまだ働いてもらうからな?」

 

 一緒に手伝っていたパルとぺルが抗議の声を上げるものの、仕事から解放されるのはまだ先のようだ。何だかかわいそうだが「すぐ、戻ってくるよ」と言って、エプロンを脱ぐ。それから、酒を入れた木製の杯を両手に持ってシルヴァの後を追った。

 

 

 

 店内とは打って変わって、外は静かだった。先ほどまで熱気に包まれた空間にいたからか、時折吹く風が肌に触れる度に清々しい気分になる。村の道は、何かで舗装されている訳でもなく、砂利をならしただけの簡素なものだ。そんな道沿いを少し歩いていると、木の根元に腰を下ろすシルヴァの姿があった。

 彼女の姿を見ると、少しずつ歩調を速めてラスラは近づいていく。

 

「こんなところで、どうしたんです?」

 

 シルヴァは後ろから急に声を掛けられて驚いたようだが、ラスラの顔を見ると安堵のため息を漏らした。

 

「なんだ……君か。君こそどうしてここに?」

 

「いやさっき……シルヴァさん店から出て行ったじゃないですか。それもこっそりと……何かあったのかなって」

 

「見られてたのか……しまったな。正直、あんまりガヤガヤしてるのは好きじゃないんだ」

 

 照れくさそうにそう言うシルヴァを見て、ラスラは微笑んだ。

 

「なら良かった……でも一人なんて、そんなの寂しいですよ。これお酒です、もうぬるくなっちゃってるかもですけど……」

 

 ラスラはシルヴァの横に腰を据えながら、ビールの入った杯を彼女に渡した。

 「ありがとう」と柔らかな笑みを浮かべながら杯を受け取る彼女は、月並みな言葉では表現できないほどに美しく、ラスラは思わず目をそらしてしまう。一口ビールをあおって、込み上げてくる熱いなにかを強引に押し流す。特段、苦い味がした。

 

「月を見ながら飲む酒も、なかなか良いものですね」

 

 空を見上げるとくっきりと月が浮かび上がっていた。この世の優れた画家を集めようと描けないような……それほどまでに美しい月だった。

 

「……うん。素直にそう思える君が、なんだか羨ましいよ」

 

 それから二人は時間を忘れて語り合った。

 シルヴァには血が繋がっていない2人の義妹がいる事……親友と仲違いをして今でも後悔している事……他の島の事……。まるで、昔からの親友のように語り合った。

 急にシルヴァは申し訳なさそうな顔をして、ラスラを見つめる。

 

「実は、君に謝らないといけなくて……」

 

「……え?」

 

「一週間前……君が倒れた日の晩。村に入るときの事なんだが……」

 

 「ああ、門での事ですよね」とラスラは相槌を打つ。

 

「聞きたかったんですよ。あの時何で、俺の事”騎空士”って言ったんですか?」

 

「ああ……実はな、不思議なことが起きていて、私がこの島に降り立ってから艇は出入りしていないんだ。となれば、何か別の手段を講じて君はこの島に来た事になる。それも森に異変が起き始めた時期に……だ。」

 

 ラスラは何か恐ろしいものを感じて、生唾を吞み込んだ。

 

「それじゃつまり……俺が異変に関わってるかもしれないから嘘をついたって事ですよね……?」

 

 シルヴァはこくりと、弱々しくうなずく。

 

「……本当にすまない。ライルさん達には事情を説明したんだが、村のみんなを困らせたくなかったし、君の事も……放っておけなかったんだ」

 

―――なんだ、そんな事だったんだ

 ラスラは両の拳をぎゅっと握って、深呼吸をした。

 

「……シルヴァさんが謝る必要なんてないですよ! みんなに迷惑ばっかかけて……謝らなきゃいけないのは、むしろ俺の方だ」

 

「でも私は……君の事を疑ってしまった」

 

「そんなの、仕方ないですよ。シルヴァさんは当たり前の事をしただけだ。もうこれ以上……自分を責めたりしないでください。俺を助けてくれた、大切な人……なんですから」

 

「……ありがとう」

 

 本音だった。これ以上、シルヴァに悲しい顔を浮かべてほしくなかった。

 二人は夜空を前にして、互いに気持ちを吐露しあう。

 もしかすると美しい星々や月の持つ不思議な力が、そうさせたのかもしれない。

 

「ラスラ、そろそろ私は仲間の元に帰らなくちゃならない。君が良ければなんだが……私と一緒に……」

 

 シルヴァが何か言いかけた、次の瞬間。

 地面が揺れるほどの衝撃と共に、爆音が鳴り響いた。

 

「なんだ……これ……」

 

 音の鳴った方に目を向けると、ラスラは絶句した。

 森の方角から噴煙が立ち上っていたのだ……。

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