・エゥーゴ共和国軍特地派遣部隊アルヌス前線基地
異世界の軍隊によるダカール市への侵攻、通称「ダカール事件」から3ヶ月が経った頃、門の向こう側にあたる場所にはエゥーゴ共和国軍の前線基地が建設中であった。
現地の言葉でアルヌスと呼ばれるその場所は周辺に目立った建物は無く、基地の外には延々と続く地平線と遠くに青々とした森林が見えるのみである。
そんな異世界の景色を面白く無さげに眺める青年がいた。
周囲は軍服や作業着といった格好の者がほとんどの中、その青年は革ジャンにジーパン、指貫グローブという比較的ラフな格好をしている。佇まいも軍人といった感じではない。
黒髪に黒い瞳には強い意思が感じられ、顔立ちも整っており女性からも好まれそうなスタイルの良さもある。
実際に、遠目から青年に視線を向けて何やら囁き合う女性隊員の姿も見えた。
そんな視線に気づいた様子は見せず、青年は小さくため息をつく。
「ここが異世界か。なんか思ってたより普通だな。」
どこかがっかりしたような口調で一人呟く青年の後ろから、エゥーゴ軍の青い制服を着た青年が近付いてくる。
「普通だなって、光太郎さんはどんな世界を想像してたんですか?」
「そりゃあ異世界だぜ。やっぱりドラゴンとか魔法使いが空飛んでたり、でっかい魔王城があったりするもんだと思ってたんだけどなぁ。」
「RPGのやり過ぎですよ。」
軍服の青年が呆れ気味にツッコミを入れると、光太郎と呼ばれた青年は拗ねたように唇を尖らせる。
「でもよ、ダカール事件の時はドラゴンに乗った敵もいたそうじゃねえか。アムロも戦ったんだろ?白いドラゴンスレイヤーとか、ダカールの英雄ってニュースでやってたぜ。」
「やめてくださいよ。僕は英雄なんて柄じゃ無いです。」
心底嫌そうな表情で光太郎の言葉を否定する青年。彼こそ、エゥーゴ共和国軍において『白い流星』の異名を持つトップエース、アムロ・レイ大尉である。
彼はダカール事件の際、モビルスーツ部隊の一員として反攻作戦に参加し、多数の敵航空戦力を撃破する抜群の功績を上げた。
その功績はエゥーゴ共和国を中心としたメディアで大々的に取り上げられ、一年前のネオ・アクシズ打倒の件と合わせて『救国の英雄』と祭り上げられていた。
ただ、アムロ本人は自分の活躍を持ち上げメディアに露出させることで、軍のイメージアップを狙う政治的人事の匂いを感じ、素直に喜べないでいた。
「そうは言っても、お前のおかげで救われた人がいたのは疑いようの無い事実だ。彼らにとっては、アムロは救いの英雄なんだろ。」
「ダンさんまで。」
「おっ!なんだダン、たまには気の効いた事を言うじゃねぇか。」
「たまには、が余計だ。」
苦笑を浮かべながら新たに現れたのはウルトラ警備隊の制服を着た男性。名をモロボシ・ダンと言う。
このアムロ・レイ、モロボシ・ダン、南光太郎の3人こそ、ネオ・アクシズとアポロン総統の野望を阻止し、世界を救ったZEUSのメンバーである。
彼らはとある任務を受け、異世界へと派遣された。
「それにしても、これからどこに行けばいいんだ?」
「確か、派遣隊の誰かが迎えに来るってハロが言ってましたけど。」
光太郎の問いにアムロが答えると、丁度よく3人の前にジープが止まる。
ジープのドアが開くと、中からメガネを掛けたエゥーゴ軍の軍人が出てきた。
「失礼、皆さまがゼウスの方々でしょうか?」
「ええ、はい。そうです。」
アムロが問いかけに答えると、メガネの軍人は畏まった様子で礼をとる。
「ハザマ大将の御命令によりゼウスの皆さまを本部にお連れすることになりました、ヤナギダ中尉です。どうぞこちらにお乗り下さい。」
そう言ってヤナギダはジープの後方ドアを開く。アムロ達が礼を言ってジープに乗り込むと、ヤナギダも運転席に乗り込みジープを発進させる。
4人を乗せたジープが基地内を進んでいく。
窓を開き外からの風を感じていると、ゼウスの3人の鼻を異質な感覚が擽る。
「この匂いって…」
「焼けた肉と硝煙の匂いだな。」
窓の外に目を向けると建物が途切れ、基地の外の様子がはっきりと見てとれた。
そこに広がっていたのは抉られた大地と、おびただいしい数の弾痕。そして、物言わぬ死体の山であった。
「…つい先日、帝国とその周辺国による連合軍の反攻がありましてね。概算で約6万人。ダカールと合わせて約12万人。これで帝国が我々の力を正しく認識してくれるといいんですけどね。」
外の現状に言葉を失ったゼウスの面々に、ヤナギダはそう説明する。
その説明を受けつつも、アムロの脳裏にはアルヌスに来る前に行ったゼウス本部で行ったやり取りを思い出していた。
話は数日前に遡る。
・ダカール市参謀ビルZEUS本部
ダカール市にある軍事施設、参謀ビル。その5階のフロア丸々一つがZEUSの本部となっている。
先のテロとの戦いが終結した後に活動を停止していたZEUSの本部には、約1年ぶりにメンバーが集まっていた。とはいっても、急な召集だった為に集まることが出来たのはアムロ、ダン、光太郎の3人のみである。
3人が並んで立つと、総司令であるネットワーク・コンピューター『ハロ9000』から音声が流れる。
「皆さん、お久しぶりです。早速ですが、皆さんに集まって頂いた理由について説明します。」
「おいおい、ちょっと待てよ。せっかく久しぶりにこのメンバーが集まったんだから、もう少し感慨深い事でも言うべきじゃねぇか?」
「人工知能である私に光太郎さんは何を求めているんですか?コンピューターの私に感慨を求められても、最初からそんなものプログラムされていません。」
「けっ!相も変わらず口の減らないコンピューターだぜ。」
光太郎の文句に対し、機械音声にも関わらずどこか呆れたように聞こえる返答をする。
そんな1人と1台にアムロとダンは懐かしさを覚えていた。
「さて、話が逸れかけましたが今回皆さんに集まって頂いたのは、皆さんに特地の実地調査に行ってもらうためです。」
「実地調査?」
「はい。エゥーゴ政府が帝国に責任者の処断と賠償を求め軍を侵攻させ、門の向こうに拠点を建設中なのは皆さんもご存知でしょう。しかしながら、未だに敵の拠点に対し侵攻する具体的な計画は出来ていませんが、その理由を光太郎さんはわかりますか?」
「俺に聞くなよ…」
「現地の情報が十分に集まって無いからだろ。」
光太郎が答えられない質問にダンが答えると、正解とでも言うようにハロ9000からピロンッ!と機械音が鳴る。
「その通りです。ダカール事件で確保された帝国の兵士から向こう側の世界の情報は得られていますが、聞いた話と実際に見た情報ではどうしても乖離している部分があります。なので、既に現地に駐屯している部隊でも調査隊を編成し、近隣の集落や帝国首都までの道中に派遣する事が決定しています。」
ハロ9000の説明に光太郎はなるほどと頷く。
「つまり、敵を知り己を知らば百戦危うからず、ってやつだな。」
「微妙にニュアンスが合って無い気がするのですがまぁいいでしょう。それに加え、エゥーゴ軍の事情も影響しています。先のテロとの戦いから1年、今もまだエゥーゴ軍は戦力回復の途上にあります。また、水面下に潜っているテロリストの残党の存在もあり、軍は大規模な軍事行動を起こせません。以上のような事情もあり、小隊による調査及び現地人との接触を以て帝国の人間と交渉の切っ掛けを得る考えにあるのですが、我々ゼウスにも調査隊に同行してほしいとエゥーゴ政府から要請が来ています。」
「へぇー、面白そうじゃねぇか。異世界なんてワクワクするな。」
そう言って光太郎は笑顔を浮かべるが、アムロとダンは難しい表情になる。
「ハロ9000、本当にそれだけが今回の任務なのか?こう言ってはなんだが、正直僕たちが参加する意味が少ない気がするんだが…」
ダンの言葉にアムロも同意を示す。ZEUSは対テロを想定した部隊である。いくら動かせる戦力に限りがあるとはいえ、わざわざ自分たちを調査隊に同行させる理由としては弱いと二人は感じていた。
「流石ダンさんとアムロさんです。今まで語った任務は表向きの任務に過ぎません。本当の任務は現地の派遣部隊の監視です。」
「なっ!?どういう事だよ、オイッ!」
「現在のところ、安全面を考え門の中に入れるのは軍の関係者に限られています。一部の政府関係者はその現状が門内部での軍閥化に繋がるのではと警戒しています。」
「そうか、政府はティターンズの二の舞を犯したく無いんだな。」
ティターンズは元はエゥーゴ軍のエリートを集めた独立性の強い部隊であったが、ネオ・アクシズに同調しクーデターを起こそうとしたのだった。
幸いZEUSの活躍や内部での裏切りもあってクーデターは失敗したのだが、ダカール市をはじめとする主要都市が占領され、対ネオ・アクシズにおいてエゥーゴ軍は戦う前から大きなダメージを受ける事となった。
後に軍内部でもティターンズに対する危険性を指摘する者がいたが、ティターンズから賄賂を受けていた軍上層部や政府関係者が揉み消していたことが公表され大きな問題となっている。
閑話休題
「政府は我々に特地での軍の行動を監視し、場合によっては現地で鎮圧することを望んでいます。無論、こちらの任務は秘密裏に行ってもらいますが。」
「なんつうか、思ってたよりも厄介そうな任務だな。っていうか、アムロ的には自分たちの仲間を監視することになるけど、そこんとこはどうなんだ?」
「確かに思うところはあります。けれど、過去の事を考えると派遣軍の独走を危惧するする人がいても仕方ないと思いますし、そこは自分の役割として割りきれますよ。」
アムロの答えに光太郎は納得したのか、そうか、と短く返して頷く。
「光太郎さんにも今回任務の意義を理解して頂いたところで、詳細について説明していきます。まずは、出発の日時についてですが…」
こうして、各種細かい点を詰めていきながら、3人は出発までの準備を進めていった。
話は特地に戻る。
アムロが意識を再び基地の外に戻すと、数十名の隊員が重機を使って諸国連合軍の死体を回収していた。
死体は感染症の恐れがあるため、1ヶ所に纏めて土に埋められる。その遺骨や遺品が遺族の元に届くことは恐らく無いだろう。
アムロは名も知らぬ魂に黙祷を捧げた。願わくば、彼らの死が意味のあるものだと祈りながら。
そして、目の前に広がる異世界の地に思いを馳せた。
この地には未採掘の資源が山ほど眠っていることが予想される。未知の物質や、魔術の存在もだ。目立った環境汚染も無い。おまけに技術、軍事格差は圧倒的だ。
このような状況、強かな野心家であれば考えることは自明の理である。
特地とエルピスの安定がZEUSの双肩にかかっていると言ってもよい。
そのような事を考えていると、ジープが真新しい白い建物の前に止まる。
「着きました。こちらです。」
ヤナギダに促され3人はジープを降りる。
アムロは強い責任感と僅かな不安感を胸に、ホコリ一つ落ちていない玄関に足を踏み入れた。
・ヒーロー戦記における各キャラの設定及びキャラ紹介
アムロ・レイ
御存じ、原点にして頂点な『ガンダムシリーズ』初代主人公。
人物的には『逆シャア』の頃に近く、穏やかで落ち着いた性格をしており感情的に成る事はほとんど無い。
その一方で、若干ドライでニヒルに受け取られる言動をする事があり、特にテロリスト相手には容赦の無い辛辣な皮肉を利かせる事がある。
なお、仮に年齢を『逆シャア』の頃のアムロに合わせた場合、メインキャラの中では他の2人よりも一回り近く年上になる。
本作開始時で使用する機体は『νガンダム』。作中におけるモビルスーツは巨大ロボットではなくパワードスーツのような扱いをされており、パーソナル転送システムという物を使う事でどんな場面でも即座に装着出来る仕様になっている。
モロボシ・ダン
『ウルトラマンシリーズ』2作目の主人公の地球人よりも地球人を愛した大バカ野郎。
ゲーム中においてウルトラ族は宇宙人では無く、『惑星エルピス』に古くから在住し、正体を隠しながら怪獣や侵略者から人々を守ってきた超人的存在として扱われている。
アムロと同じく普段は穏やかで冷静沈着な人柄であるが、アムロに比べると感情的に成る事が多く、命を弄ぶ卑劣な罠を使う敵に対して怒りに身を任せ特攻しようとした。
作中ではメインツッコミも務める。
また、ゲーム中に登場する敵性宇宙人からは「ウルトラセブンは美女に弱い!」と見なされており、実際美女に化けた宇宙人にウルトラアイを盗まれたり、弟共々井戸に突き落とされたりしている。
南光太郎
歴代最強の呼び声もある、最後の昭和ライダーにして最初の平成ライダー。
そして、ゲーム中における最大のキャラ崩壊。
元の作品にあった『過酷な宿命を背負って戦う孤独な戦士』というような悲劇的な要素が大幅に削られた結果、『陽気で明るい熱血バカ』というキャラになった。間違っても『てつを』では無い。
恐らく女にモテようとして自分が仮面ライダーである事を告白したのはコイツだけである。
上記のように、ゲーム中ではウルトラ族と違い仮面ライダー達は自分の正体をオープンにしており、その活動は広く市民に知られている。しかし、光太郎はまだ仮面ライダーとしては新参のため認知度はあまり高く無いようである。