比企谷くんの同級生(仮)   作:ほーき。

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長くなったのでとりあえず、ここまでです。



2話

 雪ノ下陽乃という人間について、少しだけ触れた放課後の翌日――比企谷八幡は昨日と同じ教室にいた。

 六限が終わり、HRもつつがなく進行しクラス担当の教師が『解散』と言うと、生徒たちは三々五々解散していった。かくいう俺もこの流れに乗るために帰宅準備をする。

 まばらに残っている生徒たちは部活に行くまでの時間潰しのためか、だらだらと駄弁っている。

 くっ、羨ましいなんて思ってないんだからね! ……帰ろ。鞄を掴みリア充の喧しい声を背に教室を出る。

 

「比企谷、部室はそっちじゃないぞ」

 

 後ろから非難の声がかかる。

 振り返ると平塚先生が左肩に出席簿を担ぎ、右手は腰に当てて立っていた。

 ……なにそれ、かっこいい。

 部室という不穏な単語を聞いたが気のせいだろう。――気のせいですよね!

 

「部室と言われても俺には何のことか分からないんですが」

「陽乃から聞いてないのかね?」

 

 雪ノ下? そういや、俺が昨日何するか聞いても教えてくれなかったな。ただただ弄ばれた。あの女、絶対に許さないリストに追加しておこう。

 聞いてないので頷くと先生はため息をつく。

 

「ふむ、あいつらしくない。では、改めて説明する必要があるな。比企谷、先に昨日の教室に行きたまえ――私も後から行くのでな。」

 

 と今に至るわけで――。

 

 密室に美少女と二人っきり。

 緊張しないわけがない。若干挙動不審になりながら、まわりを見渡す。

 準備室ということもあり、机と椅子が後ろを独占するように、組上げられている。その分前の方は幾分余裕があり、窓際には昨日雪ノ下が淹れた紅茶のパック入れ、ポットとカップが置かれている。

 そして、長机を縦に挟み俺と雪ノ下が座っている。雪ノ下と対面していると思うと気まずいので、机に肘を置き黒板のある位置に椅子ごと動き、鞄から読みかけの本を開く。

 平塚先生が来るまで読書をして時間を潰すことにした。

 時計の秒針の音だけが聴こえる。

 案外こういう時間も言いのかもしれない。まだ一日しか過ごしていない場所は俺の安寧の地になりつつある。

 

「比企谷くん」

「ん? なにか」

「大人しいんだね」

 

 こいつがいなければ――。

 大人しいもなにも、話しかけられれば答える。

 自分で話しかけないのは、俺の経験則からだ。二人っきりだからとか、班行動だとかで調子に乗って普段喋らない女子に声をかけるのはナンセンス。

『あ、うん。ヒキタニって、そんな感じなんだね』って、最後にボソッとキモっ、と言われたのは忘れない。なんなら夢に出てくるまである。

 てなわけで、基本受け身なのだ。受け身すぎるのか、俺の死んだ目の問題なのか女子に話しかけられることはまずない。

 そして、こいつの勘違いを正さなければならない。

 

「雪ノ下、俺は大人しいんじゃない。誰も話しかけないから大人しく見えるだけだ。この場合は雪ノ下が悪い」

「そ、そうなんだ」

 

 さすがのコミュ力お化けの雪ノ下も引いたようだ。しかし、すぐに表情を戻すと、よよよ、と泣くふりをし『そんな環境で過ごしてきたからあんな……』とボソッと呟きこちらを一瞥する。

 おい、聞こえてんぞ。俺を歪んだ環境から生まれた化け物みたいに言うなよな。

 さすがに今の発言は自分でもどうかと思う。反省、反省。

 雪ノ下は机に広げていた参考書を閉じ、ぐーっと、両手を上げ背を伸ばす。

 あ、こいつ意外とデカイ。チラチラと、黒板と雪ノ下に視線を交互に移す。しかし、どうしても雪ノ下を見てしまう。

 こ、これが万乳引力の法則か――。ちっ、なんて卑怯な。

 邪心を払うため、話題を変えることにした。

 

「なあ、ここって、結局何する所なんだ?」

「言ってなかったっけ? ここはね――」

 

 そこで雪ノ下は言葉を切らす。

 何やら考え込みだした。

 

「比企谷くん、私たち自己紹介した?」

「昨日はしてないぞ」

「てことは、一年生のあのとき以来だね」

 

 覚えてない訳がない。俺と雪ノ下、天と地ほどの差がある俺らに唯一の共通項を見つけるとしたら、あの事故だろう。

 

 

 * * *

 

 

 高校一年生の春、さんざんだった中学時代を忘れるため、同級生が多くない高校を選んだ。そして入学式の朝、慣れない制服に袖を通しいつもよりウキウキした気分で家を早目に出た。

 家を出て数分後、ギコギコと自転車を漕いでいると、前方から犬が飛び出してきた。そのまま通りすぎ対向車線へと駆けてゆく。しかし、対向車線にはどこの金持ちなのかリムジンが走行していた。このままだといけすかない金持ちに引き殺される。

 体が勝手に反応していた。自転車を投げ捨て犬を抱き抱えこむ。そこからは記憶がない。気が付いたら病室にいた。

 右足骨折となかなかの重症を負い、その他いろんな箇所に切り傷ができていた。

 様子を見にきた主治医が一ヶ月は入院しろ、と仰っていたので高校デビュー作戦は呆気なく終わった。

 別にぼっちでも良かったけど……。

 ほんとだよ? うん、まじ――真剣と書いてまじと読むくらいまじだから。

 やべぇ、まじがゲシュタルト崩壊してる。

 話が逸れまくってるな。

 ともかく、こうして俺の高校一年生は入院生活から始まった。

 入院生活二日目――珍しく、というか絶対に来るはずのない客人が見舞いにきた。ちなみに、来るはずがないとは、見舞いに来る知り合いがいないと言うことだ。両親は事故初日に病室に来て、「おまえはそういう運命なんだよ」と肩に手を置き慰められた。親父、いくらなんでもひどすぎるだろ。

 母さんは暇なら読みなと、ラノベを十冊手渡してきた。……ありがたいけど、息子にもう少し気を使っても良いんじゃないですかね?

 尋ね人は高校の制服を着ており、世間一般で美少女と呼んでいいレベルの女の子だった。

 

「失礼します。――この度は申し訳ありませんでした」

 

 入ってくるなりペコッと両手を横に揃え頭を下げた。

 

「あ、頭を上げて欲しいんだが」

 

 状況が飲み込めず、上ずりながら声を発する。

 すると、少女はおぞましい笑顔を作り近寄ってくる。

 

「骨折だけで済んだって聞いたけど……大丈夫? 顔色悪いよ?」

 顔色が悪いのは雪ノ下のせいだ。なんて言えるはずもなく。

 表情をひきつらせながら考える。

 目の前にいる少女の笑顔は明らかな作り物――少なくとも俺にはそう感じた。確信はないのだが、どこか見下した表情をしているように見えた。

 この顔は言うなれば、他人が俺にぶつける負の感情が具現化したような――クラクラしてくる。

 後に分かるのだが、彼女は彼女以外の全員にこの仮面をつけ振る舞っていた。

 しかし、当時の俺は自分にだけ向けられた刃物に怯え、相手の本質にまで考えが及ばなかった。

 

「ああ、足以外特に異常なしだ。ところで、あなたは誰……なんですかね?」

「そうだったね。自己紹介が遅れてごめんね! わたしは雪ノ下陽乃、よろしくね♪」

「比企谷八幡だ。よ、よろしく」

 

 雪ノ下は人当たりの良い挨拶をする。さっきまでの違和感はそこにはなかった。

 

 雪ノ下の話によると、俺をひいたリムジンは雪ノ下家の車らしい。そして、俺が身一つで守った犬は幸いかすり傷一つなかったそうだ。

 雪ノ下家は両親が一代で成り上がった家らしく、些細なことでも弱みを掴まれたくないようで示談で解決を提案してきた。

 事故の詳細はすでに両親に伝えているので、雪ノ下が全責任を負うことはない。

 一応両親は常識のある大人なので妥当なところで手を打つだろう。あとは、大人が解決してくる。

 大人って、素敵。……なりたくないけど。

 

 簡単なやりとりを交わしその日は帰っていった。

 

 翌日の夕方、リンゴを剥きながら雪ノ下は口を開く。

 

「昨日、雪乃ちゃんがねー、あ、雪乃ちゃんはわたしの妹で――」

「雪ノ下、あの、ちょっと聞いてくれ」

「なにー、せっかく比企谷くんに可愛い妹の話してあげようと思ったのに」

 

 雪ノ下はそう言うと、ぶうたれる。

 この子、何しに来たんだよ。まあ、あの様子をみれば見舞いなんだろうけど。

 しかし、どうしても裏があるのでは、と勘繰ってしまう。女子が男子に優しくするのは打算的な考えから――これが、中学時代に学んだことだ。

 そして、昨日――雪ノ下はある約束事を作った。

 俺が入院している期間、勉強の面倒をみてくれること。

 何でも一つ言うことを聞いてあげるとのこと。

 最後のはニヤニヤしながら言っていたのでスルーすることにした。

 

「もし、事故のせいで昨日の約束を考えたなら無しにしてくれ」

「駄目だよ。これはわたしがしたいの」

 

 表面上の会話。この時の俺は彼女が彼女の親に無理やり言われて俺の世話をしている――そう思っていた。

 

 今になって思えば、この的はずれな思考のおかげで助かったのだが――。

 当の俺はそんなことにも気が付かず、女子の優しさにただ困惑していた。

 それと同時に警戒レベルを最高ランクに上げた。

 

 有言実行。

 雪ノ下はそれから毎日、今日習った授業の内容を解りやすく教えてくれた。もちろん、ありがたいのでご厚意に感謝していたが、彼女に心を開くことは決してしなかった。

 彼女の笑う顔が、不貞腐れる顔が、色々な表情を見せる顔全てが嘘で塗り固めた偽りの顔だとしたら一体何を信じればいいのだろうか。

 まあ、嘘なのだろう。証拠はないが、確信はある。

 

 

 退院の日も甲斐甲斐しく見舞いにきた雪ノ下は嬉しそうに「退院おめでとう」と言ってくれた。

 

「あれだ、勉強教えてくれて助かったわ」

 

 礼を述べる。単純に感謝の気持ちを伝えたかったからだ。

 そして、もう一つ言わないといけないことがある。

 

「どういたしまして♪ 比企谷くんが素直にお礼言うなんて思ってもみなかったよ」

「なあ、雪ノ下――何でも言うこと一つ聞くってやつ、使っていいか?」

 

 確認をする。もうすでに言質は取っている。雪ノ下も分かっているはずだ。俺が入院している間、まるで彼女のように振る舞っていた。そう勘違いしてしまいそうになるほど――。

 

「うん、そうだね。約束なんて軽々しくするもんじゃないよね。……でも、約束は守らないと――だね。何をすればいいのかな?」

「ああ、俺の願いは……学校で俺に関わらないことだ」

 

 はっ? と目を見開き驚く。初めて見せた表情に一矢報いることができた、と訳もなく誇らしくなる。

 しかし、すぐに「ふーん」と鋭くこちらを見る。

 

「そっか、そっか、分かったわ。比企谷くんが言うならそうしようかな」

 

 雪ノ下はそう言うと踵を返し歩きだす。

 二歩、三歩と進んだところで雪ノ下はゆっくりとこちらを振り返る。

 

「あのさ、君は何を見てるのかな? ううん、何でもないわ。……なんか、がっかりしちゃったな」

 

 何でもないなら、俺に聞こえないようしゃべって欲しい。

 雪ノ下が唯一語った本音を俺は呆気なく聞き流した。

 勝手に期待して失望する。そんな彼女の思考が彼女を通して俺の中学時代と重なり気づく。

 同族嫌悪、いや自己嫌悪だ。

 

 今、思えば彼女の発した本音は俺なんかと比べるのがおこがましいほど次元が違っていた。

 

 俺はその言葉の真意に気付かず、こいつもそこら辺にいる女子と変わらないのだな、と場違いも甚だしいことを考えていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「二年F組の比企谷八幡だ」

「二年J組の雪ノ下陽乃です! よろしくね」

 

 二度目の自己紹介は俺からした。

 今なら、彼女の言っていたことが理解できるかもしれない。

 雪ノ下陽乃を中学時代の『女子』に重ね、嫌っていた高校一年の俺。

 目の前の彼女を雪ノ下陽乃として、好きになれそうにない俺。

 

 そして、彼女も俺を嫌っていたはず。

 彼女は優秀だ――事故で重症の俺を甲斐甲斐しくお世話することによって、角が立たずに円満解決。

 保険にすぐに俺を無害認定すると、『何でも言うことを聞く』という言葉を用い告白させる。

 雪ノ下なら後腐れなく振ってくれるだろう。

 それで終わりだ。

 こいつはそもそも、俺なんかを見ていない。

 面白い面白くないで、面白くないと判断したのだろう。だから、あれから一年雪ノ下との接点はなかった。……昨日までは。

 

 俺があのとき感じていたのは女子としての恐怖心であり、雪ノ下が付けていた仮面ではない。

 今にして思えば、グッジョブと褒めたいのだが、当時は言い知れぬ怒りをもて余していた。

 ともかく、彼女は自分の仮面を見抜けずに失望したのだろう。

 今も気付いてないふりをしているのだが、彼女にはばれているのかもしれない。

 

「平塚先生が部活とかなんとか話してたけど――」

「そうそう昨日、嬉しくて言いそびれちゃった。ここはね、奉仕部っていう部活なの」

 

 何が嬉しかったんでしょうか? にしても、奉仕部か、なんか卑猥だ。……俺も高校生だし、この思考回路はしょうがない。

 

「比企谷くん、エッチなこと考えてたでしょー」

 

 楽しそうに弄る雪ノ下。

 

「ばか、ばっか、おまえ、あれだ。世界平和をだな」

「はいはい、そんなテンプレじみた台詞言わなくていいからね」

 

 軽くいなされる。

 

「わたしもよくは聞かされてないんだけど困っている人を助けるのが活動目的になるのかな?」

 

 どうやら雪ノ下も詳しく聞かされてないらしい。

 

「とりあえず、平塚先生が来るらしいから待ってようぜ」

「そだね、紅茶淹れるけどいる?」

「おう、もらうわ」

 

 

 平塚先生が来るまでの一時を紅茶と読書で過ごす。

 悪くない。

 

 

「比企谷くん、通報レベルでニヤニヤしてて、少しキモいんだぜ」

 

 悪くない!!!

 

 

 

 




話が進まない。
オリキャラは次に持ち越しです。
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