比企谷くんの同級生(仮)   作:ほーき。

4 / 9
比企谷くんの心情は変わりやすい

 三年間しかない貴重な高校生活の数秒を大魔王にひれ伏したことに後悔しつつも、残りの高校生活を考えれば有意義な時間だとも言えなくもない。

 

「一旦整理しない?」

 

 そんな雪ノ下の号令に平民もとい、俺らは従うことにした。大人しく指示を待つ――二堂はもともと静かだが。

 

「わたしは加害者代表かな? で、比企谷くんが被害者だ。そして、二堂ちゃんは……起因者でいいのかな?

 どう、比企谷くん」

 

 どう、と聞かれても答えずれぇよ。でも、まあ、確かにあの事故の当事者が奇跡的に全員揃っている。ここで、事故のことを清算するには良い機会かもしれん。

 

「……なんか、裁判所みたいだな」

「比企谷さん……学級裁判と仰ったほうが的確かと」

 

 そ、それは違うよ!! ……うん、違うと思うな。二堂のはボケなのか、素なのか――判断に困る。二堂に視線を向けるも、涼しい顔をして紅茶に口をつけていた。

 素なんですね。

 む? 若干口元を歪ませている。雪ノ下と二堂は机を挟んで対面しており、雪ノ下からはカップに隠され見えていないが、俺は扉に近い一辺に座っているので嫌でも見える。

 分からん。こいつの頭の中がどうなっているのか。

 

「うーん……、学級裁判じゃなくて、三者会談というか三者反省会が妥当かな?」

 

 雪ノ下は雪ノ下で理由(わけ)の分からないことを思案顔で宣っている。おまえまでボケてたら収集がつかないんですけど――。

 

「雪ノ下……話を戻さないか?」

「そうですね。話が逸れてます!」

 

 二堂はか細い声で力強く俺に賛同する。

 あなたのせいな気がするんですが――気のせいですか、そうですか。

 

「君たち仲良しだね。……では、まず二堂ちゃんに質問があります」

 

 呆れたふうに言葉を洩らすも、すぐに切り替えわざとらしく咳払いをし、二堂を指差す。

 指差すなよ。母ちゃんに言われなかったの? 訝しむように雪ノ下に視線をやる。

 あ、降ろした。

 こっち見て、舌をだすな。ちっ、ちょっと可愛いじゃねぇか。

 二堂は震えながら「はい」と答える。雪ノ下は確認すると口を開いた。

 

「二堂ちゃんはさ、どうして今になって直接、比企谷くんに謝ろうとしたのかな?」

「……そ、それは……恥ずかしかったからです」

「ふーん、そっかそっか。照れ屋なんだね」

 

 雪ノ下は感心があるのか、ないのか中途半端な受け答えをする。

 

「……でもさ、一年も経って謝るのって失礼じゃない? たとえ、手紙で謝罪していたとしてもさ」

 

 先ほどの温厚な声はなく、黒く淀んだ冷たい声音で二堂に言い放った。だが、どこか純粋に分からない、理解できないと――。雪ノ下は言ってしまえば、お嬢様である。公の場で雪ノ下自身が謝罪することはないだろうが、そこら辺の礼儀に対して一家言あるのかもしれない。

 でも俺は二堂の肩を持ってしまう。

 いや、肩を持つというのは語弊か――心情は理解できる程度だ。

 二堂椿は一歩踏み出せない。

 ふと、そんなことを思ってみる。

 昨日、今日の様子をみるに俺みたいなぼっちにも会話もできるし、雪ノ下みたいなリア充とも話ができている。

 なら、何故――雪ノ下曰く直接謝らないのか。

 そんなの簡単だ――怖いからである。

 人は怖い。それがどんな善行だったとしても裏があるのでは? と勘繰ってしまう。

 しかし、これは俺の意見だ。二堂椿に当てはまるとは限らない。そもそも今、二堂が何を思いここにいるのか、俺には理解はできない。なら……。

 

「別に失礼じゃない。……謝罪なら両親にしてるし、入院している間手紙で何度も謝られた」

 

 庇うわけじゃないが、この話はもう終わっている。

 雪ノ下が今さらぶり返すことじゃない。

 

「比企谷さんは……そんな人ではないですよね?」

「……なに、が」

「あなたは誰かを――すみません。失言でした。……とにかく、そのことについては申し訳ありません。としか、言いようがありません」

 

 二堂は俺に頭を下げるもその声の質は恐ろしい。だが、雪ノ下にはっきりと強い意志を示す。

 ああ、やっぱり駄目だ、手紙でやりとりしていてた心優しい子とのギャップで冷や汗が出てきた。

 二堂は俺のことを知っているように話す。確かに手紙を交わした――でも所詮その程度だ。手紙から伝わる性格なんて微々たるもの。

 現に俺は二堂の根幹の部分に触れて揺らいでいる。

 揺らぐ? 何にだ? ……少し落ち着こう。

 この二日間、久しぶりに人と会話をしテンションが上がっていたんだ。俺らしくない。……ほんと、学ばないな俺。

 あの手紙でどこか浮かれていたんだ。

 雪ノ下陽乃という、目の前の脅威に怯え――名前も知らない存在に逃げていた。

 顔を覆いたくなるほど恥ずかしい。

 二堂椿は変わった――これは正しくないか。変わったんじゃない手紙の彼女と先ほどの発言をした彼女は同じ。本質は見抜かなくても良い、こいつは雪ノ下陽乃と似た物を持っている。そして、二堂椿は雪ノ下陽乃と比べ器用じゃない。本性を知られてもそれを隠すことなく武器にする凶暴さがあるのではないか。ここまでが俺――比企谷八幡の考えである。

 だから、うわべだけの優しさを掬い取ればいい。

 これが正解かは分からない。

 正解を知っている者がいたとしても俺は聞かないだろう。……そう、聞く勇気がないだけなのだ。

 難しいことを考えるのは止めよう。

 ほんとに、どうしようもなく舞い上がってしまっている。

 くくっ、つい自虐的な笑みが漏れる。

 

「比企谷くーん、わたしたちまだ話してるんだけどー?」

 

 雪ノ下がじーっと不審そうに俺を責める。

 

「悪い……で、どうなった?」

「信じらんない! 比企谷くん聞いてなかったのー? ま、でもいいか。だいたいは解決したよ。 ね? 二堂ちゃん」

「はい、私が知っている限りのことは答えたと思います」

 

 雪ノ下が文句たらたらに話し、二堂は静かにうなずく。

 二人にはさっきまでのどろどろしたものはない。

 雪ノ下と二堂が話していた内容をまとめるとこうらしい。

 

 Q.いつ、手紙のやりとりをしてたのか?

 

 A.二堂は学校に行く前に病院を訪れ手紙を預けており、俺はそれを受け取り午前中に読み、返事を書き昼頃に預ける。

 

 Q.ペンネームの件は?

 

 A.もともと、二堂が初めて送った手紙にフロルの飼い主とだけ書かれていた。まあ、そのせいで名前を今日まで知らなかったわけで……。俺もフロルの救世主と調子に乗り書いた。そして、何回かやりとりを重ねているうちにルビを振っていた。

 追記:ルビについては俺は二堂が、二堂は俺が――と始めた人については意見が食い違ったことを記しておく。

 

 と、至極単純なことだった。

 

 三者三様……そんな言葉がこの場の雰囲気にはぴったりじゃないだろうか。それぞれがしたたかな志しを孕んでいる。

 

 俺からしてみれば魔王のもとに天使のふりをした悪魔が召還され徒党を組んだと、言ったほうが正しいんですけどね。

 どうして、二堂をこんなに警戒してるのか自分でも分からない――が、分からない上で俺のアンテナが異常を示している。これだけで十分だ。人間関係なんて、フラグ管理と一緒。……いや、知らないけどさ。人間関係が成り立ったことないからね♪ っべー、悲しくなってきた。

 過ぎゆく時間を感じながらも、どうしようもないことをとりとめもなく浮かばせては沈めていく。

 会話がなくなり中途半端な空気が流れる中、そろそろ最終下校時間が来ようとしている。

 普通なら「そろそろお開きにするか」と提案するのだが、あいにく俺にはそんなことを喋ったことがない。

 なので、「どうすんの?」と確認の意味を込め二人に目配りする。

 雪ノ下は気ままに紅茶を啜っている。こちらに気づく気配がない。気づいていても敢えて無視している可能性も、なきにしもあらず――だが。

 二堂はこちらの意図を汲んでくれたのか、前髪で隠された目を雪ノ下に向ける。

 

「雪ノ下さんたちは部活動をしているのですか?」

「ん? そうだよ! 奉仕部って言われても分かんないか。わたしも雰囲気でしか理解してないし、……ここは困った人を手助けするのが目的なの」

「そうでしたか。平塚先生にご相談したらここを訪ねろ、とだけ言われたので……ゲームのNPCでも、もう少し具体的に教えてくれるのに」

 

 平塚先生、もっとちゃんと説明して! 二堂さん怒ってるよ! ていうか、それだと先生のことを暗に機械以下だと仰ってるけどいいのん?

 二堂は残念と言わんばかりに肩を落とす。

 こうしてみれば、感情表現は案外豊かなのだが顔を半分ほど前髪に覆われているので言葉でしか判断がつかない。

 二堂の顔を見ながら考えていたら、こちらに身体ごと傾け呼びかけられる。

 

「比企谷さん」

「おう、なに?」

「比企谷さんは奉仕部に入部されているのでしょうか?」

「む? まあ、そうだな……一応入ってる……よな?」

 

 ほぼ、平塚先生の強制だったような……。俺の意思は挟まれていなかった。

 確認のため雪ノ下に疑問系で伺う。

 

「静ちゃんは入れたがってたみたいたみけど、入部届を預かってないから正式には入ってないよ。さらに言えば、今現在、奉仕部はわたししかいないから部とも言えない」

 

 部でもなかったんですね。俺の疑問を意外な事実と共に教えてもらい、困惑し言葉に困っていると――。

 二堂が首をひねりつつ迷っているのか小出しに言葉を紡ぐ。

 

「ということは……比企谷さんはどうしてここに?」

「……ひ、平塚先生に脅された」

「……そうですか。あの人は……」

 

 最後のほうは小さすぎて聞き取れなかった。

 けど、平塚先生の評価がどんどん下がっているのは察することができる。

 二堂は再び聞こえるように声のボリュームを上げる。

 

「では、比企谷さんは強制的に入部させられたんですね?」

「ま、そうなるな」

「じゃあ、入ることはありません。私も付き添いますので断りに行きましょう」

 

 ……声がでない。まさか、二堂がここまで踏み込んでくるとは思わなかったからだ。

 そして、二堂は正論を突きつけてくる。

 ああ、確かにこれで俺には奉仕部に入る理由が消えた。

 なのに、ほんの少し心がざわつく。

 もしかしたら、何となくだらだらとこの部にいるのも悪くないと感じていたのか。雪ノ下という、魔王がいることには変わりないがそれでもこの空間の雰囲気は嫌いじゃなかった。

 俺は金縛りに遭ったように動けずにいた。

 

「だ、駄目だよ! 二堂ちゃん! 比企谷くんはわたしが監視しないといけないの!」

 

 雪ノ下が珍しく慌てて大声を出す。

 雪ノ下陽乃が述べる言葉にしては不自然な台詞。

 駄々っ子のようなわがままさを思わせるその言葉にまたも俺は困惑する。

 駄目だ。都合の良い解釈をするな!

 そう、どこか客観視した声が聞こえる。

 そうか、そうだった。平塚先生に頼まれてたな。

 俺は危なっかしいから――見守れと。

 はっ、その通りだ。雪ノ下の仮面越しの台詞に動揺しているくらいだし。

 

 雪ノ下陽乃は俺を見守ることをこの部にいる理由にしているとしよう。

 なら、俺は雪ノ下陽乃が覆っている鎧を解いてくれる勇者が現れるまでの手下でいても許されるのでは?

 

 仮に許さない奴がいるなら……それは、二堂椿――。

 直感めいた答えは果たして正解か不正解か……。

 

「とにかく、比企谷くんにはわたしのおもちゃに……相手をしてもらうからね」

 

 平静さを取り戻すと雪ノ下は冗談めかして、ウインクをしながら言う。

 これで、さっきまでの不自然さを帳消しにする。このあたりは、流石と言わざるを得ない。

 

「まあ、おもちゃは勘弁だが、相手くらい……なら」

 

 言い淀みながらも最後まで振り絞ることができた。

「じゃあ、はい」と、雪ノ下は入部届を手渡してくると書くように促す。

 素直に受け取り、鞄からペンケースを持ち出しペンを走らす。

 雪ノ下に渡そうと顔を上げると二堂がこちらに目を向けていたことに気づく。「なにか?」と目を細めるとその言葉を待っていたのか、すぐに口を開いた。

 

「いえ、比企谷さんも雪ノ下さんも……可愛いな……と思っただけです。……雪ノ下さん、良かったら是非私も奉仕部に入れてもらえないでしょうか」

 

 思いもよらない二堂の発言に雪ノ下と俺は目を合わせる。……雪ノ下はともかく、俺のことも可愛いって視力大丈夫かよ。……もしかしたら、前髪で見えてないのかも。真剣にそう考えてしまう。

 

「へぇ、面白いこと言うね♪ 二堂、ちゃん?」

 

 仮面を付けることなく、どす黒い微笑みを浮かばせ入部届を渡す。

 二堂も口元を歪ませながら受けとる。

 こっわ、怖くない? 異世界転生したら、いきなりラスボス戦でした。みたいな理不尽さを体感しているようだ。

 

 ふははは、……助けて勇者様!

 

 

 

 * * *

 

 結局、奉仕部には新たに二人加入することになった。

 最終下校時間を知らせるチャイムが鳴り、お開きになった後俺はどっと疲れを感じながら駐輪場に歩を進めていた。

 

「比企谷さん! 待ってください」

 

 後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。だいたいの後ろから掛けられる声は俺の前を歩いている人に向けられての声だったりするが、ここまで正確に名前を呼ばれては振り向かざるを得ない。

 歩きを止め、首だけ後ろに回すと、二堂が小走りで近づいてきた。身体ごと二堂に合わせ、対面する。

 

「……何か用か?」

「はい、比企谷さん。感謝の気持ちです。受け取ってください」

 

 差し出された小さな両手には綺麗にラッピングされた小箱が乗っている。

 

「……言ったろ、もう過ぎたことだって」

「ふふ、そうですね。なら、これでおあいこにしましょう。私はもう比企谷さんに事故の負い目で関わりません。ですが、今の比企谷さんは面白い。……間近で見ていたいです。……駄目ですか?」

 

 ほら、やっぱり俺の勘は正しいみたいだ。二堂椿はずいっと、距離を縮めると耳元で怪しくも妖艶な悪魔が囁く。近づいた距離のぶん、女子特有の甘い香りが漂う。やっぱりこいつも女子なんだなと、当たり前のことを思いつつ、恥ずかしいので一歩距離をとる。

 

「……勝手にしろ」

 

 ささやかな抵抗――。

 ほぼないに等しい男子としての誇りを保つため投げやりにボソッと洩らす。

 

「はい、そうさせていただきます。……その、手作りですが、味は保証します。味わってもらえると嬉しいです」

 

 二堂はそれだけを言い残すと「さようなら」と帰っていった。

 はあ、心臓に悪い。

 

 初めて貰う手作りのプレゼントにドギマギしながら包みを丁寧に開く。

 

「ん? ……どうやって作ったんだよ!」

 

 そこには綺麗な抹茶色をした羊羮が並んでいた。

 ……悔しいが美味しかったです。

 





多少違和感があると思いますがご愛敬ということで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。