仔山羊悪魔の奮闘記   作:ひよこ饅頭

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今回は戦闘回です。
少しグロテスクな描写があります。ご注意ください。


第12話 真実への一歩

 ウルベルトは二人のフードの人物と対峙しながら、ジロジロと様子を観察していた。

 二人とも灰色に近い白のフードを目深に被っており、素顔は見えず、体格からして男であることしか分からない。一人は白を基調とした大きなグレートソードを両手で握り締めており、もう一人は魔法詠唱者(マジックキャスター)なのか何も得物は持たずにただ身構えている。

 一方、二人を観察しているウルベルトの瞳は闇を固めたような漆黒色。少し長めの髪も真っ黒で、肌は褐色ではなく真逆の白、骨と皮だけのような細すぎる肢体はひどく病的でみすぼらしい。この世界に来てから時折纏っていた幻ではなく、現実世界での子供の頃の姿だった。

 何故この姿の幻を纏っているのかというと、理由は大きく分けて二つあった。

 一つは現段階で自分が魔導国に関係ある人物だと知られることが良いことなのか悪いことなのか判断できなかったためだ。この姿がどこまで効果があるのかは分からないが、少なくとも今までこの姿の幻を纏ったことはない。本来の悪魔の姿や褐色の肌の少年の姿よりかは誤魔化しも効くだろう。

 そして二つ目の理由としては、少しでも相手を油断させるためだった。現実世界での自分の姿は、自分で言うのもなんだがかなり痩せっぽっちで強そうには見えない。子供だということも相まって、相手が油断してくれる可能性はかなり大きいだろう。しかし逆に侮られ過ぎてもいけない。情報を引き出すには、油断の中にもある程度の緊張感が必要だと言うのがウルベルトの自論であり、そのため口調は油断ならない人物として子供には似つかわしくない言葉遣いにした。これで駆け引きはバッチリだ!と思っていたのだが…。

 

 

(…なんだ、なんでこんなに警戒されているんだ?)

 

 目の前で対峙している二人の緊張しきった様子に、思わず内心で首を傾げた。大の男二人が小さな痩せっぽっちの子供一人にひどく警戒しているなど、傍から見れば滑稽なことこの上ない。

 このままだと一生睨み合いが続きそうだと判断すると、ウルベルトは若干出鼻を挫かれたような気分を味わいながらも再び口を開いた。

 

「…はぁ、いつまでこうしているつもりですか? 私も暇ではないのですがね」

「……………………」

「あなた方に許される行動は二つに一つ。一つは、後ろの二人を含めて大人しく私の質問に答えること。もう一つは私に捕らえられて楽しい拷問の末、自白することです。…さぁ、どちらにしますか?」

「………残念だが、俺たちは大人しく貴様の言い成りになる気はない!」

「おや、では楽しい拷問コースをお望みで?」

「貴様を討ち取らせてもらうっ!!」

 

 瞬間、グレートソードを持った男が勢いよく突撃してきた。グレートソードを両手で担ぐようにして構え、間合いに入ったと同時に上段から降り下ろしてくる。

 

「…〈転移(テレポーテーション)〉」

 

 小さな呟きと共にウルベルトの姿が掻き消える。未だグレートソードが降り下ろされきる前に真横に移動し、突然の気配に男は鋭く息を呑んだ。ウルベルトの小さく細い指が男のこめかみ部分にそっと伸ばされる。

 

「〈雷撃(ライトニング)〉」

「〈超回避〉!」

 

 男が反射的に前屈みになった瞬間、今まで頭があった場所に雷の閃光が一直線に駆け抜けた。

 

「〈剛撃〉っ!!」

 

 男は漸く降り下ろしきったグレートソードを握り直すと、次は下から斜め上へと振り上げた。その動きは素早く、とてもグレードソードという重量の得物を操っての動きとは思えない。

 風のような瞬撃に誰もが少年の末路を確信した。

 その時…―――

 

 

ガキンッ!!

 

 

「……これが話に聞いていた武技という奴ですか。確かに興味深いですね」

「っ!?」

 

 どこか軽い少年の声と、堅い感触。

 あり得ない…というように息を呑む男に、ウルベルトはニタァッと笑って見せた。

 グレートソードを受け止めていたのは、マフラーのように首に巻いていた“慈悲深き御手”。巨大な悪魔のような手がしっかりとグレートソードの刃を握り締めていた。

 

「来い、ギガントバジリスクっ!!」

 

 ここで今まで成り行きを見守っていたもう一人の男が動いた。

 いや、今まで召喚魔法でも唱えていたのかもしれない。

 男の背後の空間に大きな闇の穴が浮かび上がり、その中から一頭の巨大なギガントバジリスクが姿を現した。

 ギョロッとした大きな目に、八本の足と王冠のようなトサカ。10m以上もあるトカゲのような巨体はミスリルに匹敵する程の緑の鱗で覆われている。

 迫力のある魔獣の登場に、ウルベルトは目の前の男からギガントバジリスクへと意識を向けた。

 その瞬間、石化の視線を恐れてか男がすぐさまウルベルトから離れようとする。

 一瞬この場に留まらせて巻き添えにしてやろうかとも思ったが、後のことを考えて男を離してやることにした。“慈悲深き御手”の力が緩んだとほぼ同時に男は後ろへと飛び退く。

 ウルベルトはポツンと独り立ち、雄叫びを上げながら突進してくる巨大な魔獣を見つめた。

 傍から見れば悲鳴ものだろう光景。

 しかしウルベルトはただのほほんと近づいてくる魔獣を眺めている。

 因みにギガントバジリスクの石化の視線は、状態異常の完全耐性によってウルベルトには全く通じなかった。

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)かと思っていましたが、ビーストテイマーでしたか。…〈二重最強化(ツインマキシマイズマジック)・〉」

 

 ウルベルトが軽く両手を広げ、その両隣の空間に赤い大きな球体が形を取り始める。

 

「〈火球(ファイヤーボール)〉」

 

 どこまでも静かな声。しかし、それによって形作られた魔法は絶大だった。

 直径30cm程の紅蓮の球体が火の粉すら巻き込んでギガントバジリスクへと勢いよく放たれる。頭と首の根元辺りに着弾し、鋭い爆音と共に熱風が一気に広範囲へと膨らんだ。緑一色だった巨体が一瞬で紅蓮に染まり、周りの草木も巻き込んで大きな渦を巻く。火柱となって血すら焼き尽くす炎に、ウルベルト以外の全員が呆然とギガントバジリスクだったものを見つめた。

 

「…弱すぎますね。強化していたとはいえ、まさか〈火球(ファイヤーボール)〉二つで死んでしまうとは」

 

 やれやれと言うように肩をすくめて首を横に振るのに、男たちはジリジリと小さく後退りし始めた。フードの隙間から見える部分だけでも、彼らの顔が青白く染まり、冷や汗を流しているのが見てとれる。“嘘だろ…”や“信じられない”といった声が小さく聞こえてくるが、ウルベルトからしてみれば逆にここまで弱いのが予想外だった。あそこまで時間をかけて、あそこまで自信満々に召喚していたため、どれだけ強化して召喚したのかと思っていたのだ。ウルベルトからすれば先ほどの魔法は唯の小手調べだったというのに、それであっさり死んでしまうとは思ってもみなかった。

 

「…はぁ、まったく拍子抜けですね。興がそがれました。…大人しく質問に答えて頂ければ、回答如何によっては無事に帰して差し上げても宜しいですよ?」

「っ!! ……断るっ!」

「……あまり舐めないで頂きたいですね。異形の者に慈悲を請うつもりはありません」

「それはそれは…」

 

 怯える様子さえ見せながらも食ってかかる二人に、ウルベルトは呆れたように小さく肩をすくませた。

 何故そんなに頑なになるのか、ウルベルトにはまったく理解できなかった。

 人種だとか異形種だとかを気にすること自体は、ウルベルト自身も理解できる部分があるため納得もできる。しかしウルベルトを異形種だと見破ることができたのなら、自分たちとの力量差も感じ取れたはずだ。逆転の秘策でもあれば話は変わってくるが、目の前の様子からしてそんな雰囲気もない。それともフードの奥で実は嫌らしい笑みでも浮かべているのだろうか。

 ウルベルトはマジマジと二人の男を見つめると、不意に片腕をブンッと横に振り払った。

 瞬間、無詠唱で放たれた突風の波が二人の男を襲う。突然のことと大きな風に対応が遅れ、男たちのフードが勢いよくはためき吹き飛ばされた。今まで隠されていた二人の素顔が傍目に晒される。

 男たちはどちらも白い肌に輝くような金色の髪を持っていた。

 グレートソードの男は短い金髪をオールバックにきっちりと後ろへ流し、涼やかな目元が今は鋭く細められている。もう一人のビーストテイマーの方は、濃い金髪をショートボブの形にまとめており、赤茶色の垂れ目が柔らかな印象を作っていた。

 どちらもムカつくほどに整った顔立ちをしている。

 少し前からこの世界の容姿の平均水準はバカに高くないかと思っていたが、二人はその中でもイケメンの枠組みに入るだろう。

 

(…なんか、興をそがれるどころかムカついてきたな。)

 

 心の中でブツブツ文句を言う中、苛立ちが威圧感となって放たれていたのか二人の男は冷や汗をダラダラと流しながら蒼褪めた顔を引き攣らせていた。

 

 

「……それにしても、本当に困りましたね。まさかここまでの化け物だったとは」

「ああ…。前に遭遇した吸血鬼といい、一体どうなっているんだ」

 

「…ほう、吸血鬼ですか」

 

 小声で交わされる会話。

 二人の男とはそれなりに距離があったが、異形種であるウルベルトには二人の声がはっきりと聞こえていた。

 “吸血鬼”という単語を耳にした瞬間、漆黒の双眸が細まり、小さい身体から放たれていた威圧感が威力を増す。息苦しさすら感じる激しさに、風が吹いているわけでもないのに大気がビリビリと震えていた。

 

「その吸血鬼の話、詳しく聞かせていただけますか? …やはり、吸血鬼の娘を精神支配したのはあなた方で?」

「っ!! …こいつ、まさか!」

「逃げるぞっ!!」

 

 二人の男は一気に顔色を変えて大きく息を呑むと、次には弾かれたように正反対の方向へと駆け出した。ビーストテイマーの男は荷馬車の方へ、グレートソードの男はウルベルトの方へと向かってくる。その際、ビーストテイマーの男は駆けながら召喚魔法を長々と唱え始めた。今度こそ強力な召喚魔法をしようとしているのかと思ったが、すぐにそうではないと気が付く。

 男の駆け抜けた後の空間に、複数の大小様々な闇の穴が出現した。

 中から現れたのは六羽のクリムゾンオウルと四体のギガントバジリスク。

 クリムゾンオウルは名前の通り深紅の羽が特徴のフクロウの魔物で、通常のフクロウよりも二回りほど大きい。血のような深紅の羽も鋭い嘴や鉤爪も美しいが、今は鬱陶しいだけの雑魚魔獣だ。

 

「〈魔法三重化(トリプレットマジック)魔法の矢(マジックアロー)〉」

 

 三十もの光の球体が現れ、我先にと矢のように男とクリムゾンオウルたちに襲いかかる。

 しかしここで先ほどとは逆の意味でウルベルトの予想は外れた。

 ギガントバジリスクが〈火球(ファイヤーボール)〉二つで死んだため第一位階魔法の〈魔法の矢(マジックアロー)〉でも大丈夫かと思っていたのだが、男を襲った光球たちは蒼穹の鎧に弾かれて足止めさえできなかった。クリムゾンオウルも一羽あたり五つの光球でやっと倒れ、まだ半数が残っている。

 レベル差があり過ぎる中、しかし殺さずに捕えなければならないため魔法の選択も難しい。捕縛魔法を取得していないため尚更だ。

 せめて強化くらいはしておけばよかったと小さく舌打ちする中、ウルベルトは再び“慈悲深き御手”でグレートソードの刃を受け止めた。敵を…それも前衛である戦士職を二度までも間合いに入れてしまったことに苦々しく思うものの、あちらが複数に対してこちらは一人なのだから仕方がないとすぐに気を取り直す。

 ウルベルトは“慈悲深き御手”を操って握り締めているグレートソードごと男を投げ飛ばすと、振り向きざまに“慈悲深き御手”を再度振るった。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)風の刃(ウィンド・サイズ)〉!」

 

 一羽を“慈悲深き御手”で引き裂き地に落とし、残りを風の魔法で一刀両断に切り裂く。

 ギガントバジリスクはどこだと目を走らせた、その瞬間…―――

 

 

『ううぅぅるぅべるとさまぁぁあぁぁああぁあぁあぁっっ!!!』

「うおっ!!?」

 

 突然繋がった〈伝言(メッセージ)〉と、そこから聞こえてきた怒号にも似た叫び声。

 あまりにも予想外のことに、ウルベルトは思わず驚愕の声を上げた。

 一瞬誰からか分からず、しかしすぐさま残してきたシャルティアからだと気が付いた。

 

『い、いきなりどうした!』

『ア、アインズ様が吹き飛ばされて…! ああ、またっ! 至高のっ、至高の御身をよくもぉおぉぉおおっ!! あんの肉ダルマ、下等生物の分際でぇぇっ!!』

『落ち着け、シャルティア!』

『ウルベルト様! すぐにあの虫けらを消しtっ』

『いけません!!』

 

 アインズが攻撃を受けでもしたのか、〈伝言(メッセージ)〉越しにシャルティアがハッスルしている。

 ウルベルトは咄嗟にシャルティアの言葉を遮って止めながら、反射的に立っている場所から飛び退いた。

 瞬間、今まで立っていた地面が勢いよく弾け飛ぶ。

 地面を滑るように移動しながら見てみれば、先ほど探していたギガントバジリスクの一体が地面から頭を上げてこちらを睨みつけていた。

 

「ちっ、…雑魚のくせに鬱陶しい! 〈吹き上がる炎(ブロウアップフレイム)〉!」

 

 勢いよく噴き上がる炎にギガントバジリスクを焼きながら、死角から飛び出してきたもう一体の攻撃を反射的に避ける。

 

『いいか、シャルティア。どんなにモモンガさんが攻撃を受けて負けそうになっても、一切手を出そうとするな!』

『し、しかし…!』

『全てはモモンガさんの計算の内だ! いいか、絶対に大人しくしてろよ! この命令に背いてモモンガさんを助けた方が不敬であると心得ろ!』

 

 ウルベルトは一方的に〈伝言(メッセージ)〉を切ると、〈転移(テレポーテーション)〉でギガントバジリスクの背後に飛んだ。無造作に強化した〈火球(ファイヤーボール)〉を二つ放ち、後の二体を探す。また死角を狙われぬように警戒しながら周りを見回し、視界に飛び込んできた“それ”に思わず目を見開いた。

 

(うえっ!? マジかよ!)

 

 ウルベルトの視線の先にあったのは、残りの二体のギガントバジリスクの背によじ登ろうとしている男たちの姿だった。

 ビーストテイマーの男と、荷馬車の中に隠れていた二人の男たちだ。

 

(おいおい! 乗れなくはないだろうが、騎獣じゃねぇだろうが!)

 

 ここまで来て逃がしてたまるか!と転移魔法を唱えようとする。

 しかしその瞬間、ズクンッと衝撃のようなものを感じて、ウルベルトは思わず動きを止めた。

 

(っ!?……くっそ、こんな時にっ!!)

 

 まるで心臓を鷲掴みにさたような激痛が走り、思わず小さく息を呑む。

 身体が痛みに硬直し、反射的に左手で胸元を握りしめた。背を丸め、痛みに耐えようと歯を食いしばる。

 しかし不意に感じた悪魔の第六感に、ウルベルトは咄嗟に半歩下がって身体をずらした。

 瞬間、先ほどウルベルトの左半身があった場所にグレートソードが勢いよく通り過ぎる。身体を逸らして避けたことによって男の鋭い双眸と目がかち合った。

 ウルベルトは胸元を掴む手に力を込めることで何とか口を緩めると、右手で男の心臓部分を指さした。

 

「〈雷撃(ライトニング)〉!」

 

 青白い雷が空間を裂き、怒号のような轟音と共に男を襲う。

 男は咄嗟に上体を仰け反らせて避けようとしたが、少し遅かったようで直撃は免れたものの首元から顎の辺りまで酷い傷と火傷を負った。バチバチと弾けた音と、肉が焼け焦げる臭いが辺りに漂う。

 

「ぐっ、〈流水加速〉!!」

 

 しかし流石と言うべきか、雷撃の傷に怯むことなく男はすぐさま反撃に転じてきた。男の動きが素早くなり、自分の動きが鈍くさえ感じられる。

 まさか時間系の魔法か!?と驚愕する中、それよりも危険な状態に気が付いてウルベルトはハッと目を下へと向けた。いや、正確に言えば男が振り下ろしたグレートソードだ。

 ウルベルトは当初、男が最初の時と同じように上段から攻撃してきたのだと思っていた。しかしそれは間違いだった。先ほどの攻撃はブラフで、その証拠にグレートソードは下の土に触れてさえいない。男の狙いがこの次の攻撃だったのだと理解した瞬間、ウルベルトは反射的に魔法を放った腕を盾のように伸ばしていた。

 下から振り上げられるグレートソードと、迎え撃つウルベルトの細い腕。

 スピードが全く違う両者に防御が間に合うか一瞬焦りが過ったが、何とか腕を盾にグレートソードを迎え撃つことができた。

 しかし…―――

 

 

バキッ!!

 

 

「なっ!?」

 

 ウルベルトを襲ったのは激しい衝撃と、心臓からのものとは別の激痛。

 足の踏ん張りがうまくいかず、衝撃のままに数歩後ろへと後ずさる。

 チラッと右手を見やり、ウルベルトは思わず驚愕に目を見開かせた。

 “斬られた”と言うよりかは、“へし折られた”と言った方が正しいだろうか。グレートソードの刃は肉を断ち切るには至らなかったようだが、前腕の真ん中辺りが九十度近くまで屈折し、折れた骨の先端が皮膚や肉を突き破って外に飛び出ていた。

 自分の状況を目で正確に理解した瞬間、苛立ちと怒りが一気に噴き出して視界が真っ赤に染まる。

 明確な攻撃を受けたことで幻影も崩れ、もはやそこに立っていたのは怒りに目をギラつかせる仔山羊頭の悪魔だった。

 

「………こ、の…、クソがぁぁああぁぁぁああぁあぁぁあぁあぁぁあっっ!!!」

 

 怒気と殺気が小さな身体から放たれ、この場にいる全ての者を威圧する。

 血を流し使い物にならなくなった右腕をぶら下げながら歩いてくる様は、さぞや恐怖に映ったことだろう。

 しかし恐怖に凍り付いた男たちにとっては幸運なことに、ウルベルトはまたもや足を止めることになった。

 忘れていた心臓からの痛みが再びウルベルトを襲い、思わず左手で胸元を握りしめる。

 先ほどよりも強い激痛に耐え切れず、ウルベルトはそのまま身体をくの字に曲げて蹲った。

 

「っ!! 今ならやれるっ!」

「何を言っているんですか! 今のうちに逃げますよっ!!」

 

 前方から男たちの怒鳴り声が聞こえてくる。続いて地響きのような足音が鳴り響き、大きな気配が前を通り過ぎていった。

 慌てて俯いていた顔を何とか上げれば、こちらに背を向けて走り去る二つの大きな緑色の背が目に飛び込んでくる。二体のギガントバジリスクの背に乗った男たちを確認し、ウルベルトは悔しさと怒りにギシギシと歯を噛みしめた。

 しかし続く激痛に遮られ、再び顔を俯かせて胸元を握りしめる手に力を込めた。耳元で心臓の鼓動が大きく鳴り響き、痛みも脈打って、まるで全身が心臓になってしまったかのようだ。

 ウルベルトは無理やり食いしばっていた口をなんとか緩めると、意識して大きく深呼吸を繰り返した。これで痛みがなくなるとも思わなかったが、効果があったのか徐々に痛みが治まっていく。ウルベルトはゆっくりと胸元の手を降ろすと、最後にもう一度大きく息を吐き出した。

 

「………逃がしたか…」

 

 男たちが去っていった方を見やり、苦々しく顔を歪ませる。

 少々調子に乗り過ぎて油断した自分が恥ずかしく、軽い自己嫌悪に陥った。もし今の体たらくをギルメンたちに知られれば、さぞや何をしているのだと怒られ、ど突きまわされたことだろう。

 しかし、まさかこんな怪我を負わされるとは思わなかった…とウルベルトは自分の右腕を見やった。

 通常であれば、あの程度の攻撃ではウルベルトの身体に傷一つつけられない。では何故今回このような状態に陥ったのかというと、多くの要因はあれど、一つは男のグレートソードにウルベルトの弱点である神聖属性が付加されていたためだろう。そしてもう一つは、ウルベルトの肉体がひどく弱体化していたためだった。

 

 黒い仔山羊の集合体に触れた時、何を奪われたのかは未だに分からない。しかしそれによって常にある体調不良や先ほどの発作だけでなく、肉体の弱体化やステータス異常まであったとは予想外だった。右腕の痛みは悪魔であるためか我慢できないほどではなかったが、しかし果たして自己治癒がどこまで働くのか…。

 ウルベルトは一度大きなため息をつくと、まぁ何とかなるだろうと軽く肩をすくませた。

 アインズたちへの説明は面倒くさくなるだろうが、これはこれで利用できるだろう。

 あの男たちに関してはウルベルトの命令で今もなおフレズベルクが後を追って監視している。

 話を聞けず逃がしてしまったことは残念だが、少なくとも連中がどこの誰かは分かるはずだ。

 

 

『…ウルベルト様』

 

 再度シャルティアから〈伝言(メッセージ)〉が繋がり、ウルベルトは無意識にこめかみに指を添えた。

 

「…シャルティアか、どうした? モモンガさんがまたピンチにでもなったか?」

『い、いえ、試合が終わったでありんす』

「そうか。最後まで我慢できたんだな、偉いぞ、シャルティア。さて、それで今はどこにいるんだ?」

『闘技場の上空でありんす。アインズ様とあの人間の男もいらっしゃるでありんす』

「分かった。すぐにそっちに戻るよ」

 

 プツンッと切れる〈伝言(メッセージ)〉にこめかみから指を離すと、ウルベルトは少し離れた場所に放置された荷馬車を見やった。荷馬車に繋がったままの二頭の馬が怯えたように立ち竦んでいる。ウルベルトは左手と“慈悲深き御手”で馬を解放してやると、次に〈中位悪魔作成〉の特殊技術(スキル)を発動させた。

 ゆらりと揺らめく影が五つ姿を現す。

 ウルベルトの目の前で跪き深々と頭を下げるのは五体の影の悪魔(シャドウデーモン)という悪魔たちだった。

 見た目は鋭利な爪と被膜の翼を持った痩せこけた人型で、その名の通り全身が影のように漆黒に染まっている。対象の影に潜むこともできるため、情報収集や監視にも長けている便利な悪魔だった。

 

「二人はここで荷馬車の中を探索し、何か見つけたら持ってこい。残りの三人はフレズベルクを追いかけ、あいつが監視している人間について探れ」

「御意のままに」

 

 代表だと思われる一体がウルベルトに応え、残りの四体ともども再度深々と頭を下げる。二体が荷馬車の方へと歩み寄り、残りの三体が空間に溶けるように消えていくのを確認すると、ウルベルトは改めて小さく息をついた。

 早くシャルティアたちの元へと行かなければと思う中、戦闘中にも〈伝言(メッセージ)〉を送ってきた時のことを思い出してフッと小さく笑みを浮かべた。

 敬愛するアインズが危機的状況に陥って暴走しそうになってはいたが、何とかギリギリのラインでこちらに連絡をしてきたことは、これまでの彼女の行動から考えれば大きな成長だと言えるだろう。

 ウルベルトとて何もシャルティアをただ連れまわしていたわけではない。彼女の教育係になったあの日から、何かと時間を見つけては授業まがいに多くのことを教え、注意を言い含めてきたのだ。中でも最初に口を酸っぱくして教えたのは、現実世界での社会人の三原則と言われる『報・連・相』についてだった。

 シャルティアは“血の狂乱”だけではなく、頭も少し弱い分類に入る。最も、それは彼女自身が悪いのではなく、彼女の創造主であるペロロンチーノが頭の弱い少女の方が好みだということで、そう設定したせいなのだが…。それは兎も角として、シャルティアはどちらかというと自分の欲望に忠実であり、あまり深く物事を考えずに突っ走ってしまう傾向にある。故に、ウルベルトはまず最初に『報・連・相』を徹底すると同時に、プライベートを除いてアインズやウルベルトに命じられたこと以外で何か行動しようとする際、必ずウルベルトに連絡するよう厳命したのだ。これが功を奏したのか、今回シャルティアはウルベルトに連絡し、それによって大事には至らなかったと言えるだろう。教え子の成長を感じられ、ウルベルトは嬉しさに笑みが深くなるのを止められなかった。

 しかし、次には自分の右腕を見やり、深々とため息をつく。

 シャルティアが必死に自重して連絡してくれたというのに、先生である自分がこんな怪我をして戻るとは何とも情けない。

 ウルベルトは項垂れて小さく頭を振ると、重たくなる口を何とか開いて詠唱を唱えた。特殊技術(スキル)を使って〈飛行(フライ)〉と〈転移門(ゲート)〉の魔法を同時に発動させる。

 数十cm地面から浮く小さな身体と、空間に現れる闇の扉。

 ウルベルトはふわふわと宙に浮いたまま、ぽっかりと口を開いた闇の中へと入っていった。

 視界が暗転し、すぐに明るい光が視界を彩る。

 闇の扉に続いていたのは空の中…、シャルティアと共にいた闘技場の遥か上空だった。

 

 

「ああ、ウルベルト。一体どこに行って…、なっ!?」

「きゃああぁぁっ、ウルベルト様ぁっ!!?」

 

 ウルベルトが闇の扉から姿を現した瞬間、アインズは言葉を失い、シャルティアは鋭い悲鳴を上げた。アインズにマジック・アイテムでも借りたのか、アインズの横で浮いているアインザックも驚愕に目を見開かせている。

 三人の視線の先には、ウルベルトの負傷した右腕。

 未だに血を垂れ流して治る兆しも見せない右腕の悲惨な状態に、シャルティアとアインザックは顔を蒼白に蒼褪めさせた。

 一方、アインズはと言えば…。

 

「………………ズが……」

「……え…?」

「………クズが…、ゴミが、虫ケラがぁぁっ!! 俺の友を、ウルベルトさんをっ、よくもおぉぉぉっ!!」

「ウルベルト様をっ、至高の御身をぉおおぉっ!! 誰がっ、誰がっ!! こ、殺してっ、殺してやるぅぅっっ!!!」

 

 大きすぎる憤怒にアインズの眼窩の灯りがどす黒く染まる。顎の関節を限界まで伸ばし、大きく開いた口から呪詛のような怒号を迸らせた。あまりの怒りにアインザックが更に顔を蒼褪めさせる中、シャルティアもまたアインズに引き摺られる様に激しい怒りを露わにした。深紅の瞳がギラギラと血走り、可憐な少女の姿に似つかわしくない鋭い威圧感を撒き散らす。

 

「ウっ、ウルベルト、誰がぁ、誰がこんなっ!!」

「…いやいや、とにかく落ち着け」

「至高の御身をぉぉぉっ!! 身の程をしれぇええぇぇっ!!」

「だぁっ、うるせぇっ! シャルティア、お前も落ち着け! 帝国の連中にバレるだろうが!!」

 

 とにかく一度落ち着かせようと声をかけるも、どうもウルベルトの声は全く聞こえていない様子だ。アインズの場合は感情抑制がかかっているはずだが、怒りが強すぎてあまり効いていないのかもしれない。二人が感情のままにハッスルするせいで、大きすぎる威圧感に地上の人間たちがこちらの存在に気が付いた気もする。

 ウルベルトは小さく顔を顰めさせて大きなため息をつくと、問答無用に〈集団転移(マス・テレポーテーション)〉をアインザックを含めた自分たちに唱えた。

 一瞬で視界の景色が変わり、次に視界に広がったのは静かな森と霊廟の光景。

 未だハッスルしている二人の声を背中で聞きながら、ウルベルトは取り敢えず帝国から戻ってこられたことに安堵の息をついた。キョロキョロと少し不安そうに周りを見回すアインザックを見やりながら、これからどうしたものかと頭を悩ませる。

 まずはアインズやシャルティアを正気に戻らせるのが一番なのだろうが、果たしてどうすれば正気に戻るのか…。

 何だか面倒くさくなってきたなぁ…と遠い目をする中、不意に霊廟の方から気配を感じてウルベルトはそちらを振り返った。出迎えに来たのだろうプレアデスのユリとエントマ、そして三人の一般メイドと視線が合う。

 

「きゃあぁぁあぁぁぁぁああぁぁっ!! ウルベルト様ぁぁっ!!?」

「な、なんてこと!? 一体何がっ!!」

「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛、ヴル゛ベル゛ドざま゛ぁ゛ぁ゛っ!!」

 

「……………おぅ……」

 

 めっちゃ叫ばれた…。

 三人の一般メイドは悲鳴を上げて泣き叫び、ユリとエントマは驚愕と怒りと嘆きの声を上げる。エントマなどは感情の爆発で声がひび割れており、大丈夫かとこちらの方が心配になってくる。

 どこもかしこも大騒ぎで、これを今から自分が治めなければならないのかと思うと頭が痛くなってくるようだった。

 しかし、ウルベルトが口を開こうとしたその時、不意に後ろからドサッという音が聞こえてきて慌ててそちらを振り返った。何が起こったのかと周りを見渡し、地面に倒れているアインザックが目に入る。よく見れば大きな身体は痙攣したように小刻みに震えており、泡を食って白目をむいていた。何かしら攻撃を受けたわけではなく、アインズたちの強すぎる威圧感に耐え切れなくなったようだった。アインズやシャルティア二人だけでもきつかった威圧感に、更にユリとエントマの殺気も加わって卒倒したようである。

 

「うわぁっ、死ぬな、アインザック! 耐えろぉっ!!」

 

「クソがぁぁっ!!」

「ウルベルト様がぁぁっ!!」

「至高の御身がぁぁっ!!」

 

「お前ら、いい加減正気に戻れ!!」

 

 ウルベルトがどんなに怒鳴ろうとアインズたちのハッスルは止まらない。

 最終的に騒ぎを聞きつけたアルベドが駆け付けるまで、この騒動は続いた。

 

 

 

**********

 

 

 

 アルベドが何とか騒動を治めてから一時間後。

 所変わって第九階層にある円卓の間では、何とか我を取り戻したアインズやシャルティアを含め、ウルベルトと守護者たちが集まっていた。

 因みにアインザックは同階層にある空き部屋を客間として、そこで休ませている。もし意識を取り戻した時は、控えさせている一般メイドから知らせが来るはずだ。

 それは兎も角として、現在ウルベルトたちのいる円卓の間は常にない緊迫した重苦しい空気に包まれていた。

 原因は一目瞭然、ウルベルト以外の全員が激しすぎる憤怒の表情を浮かべて威圧感を放っているためだ。あの反抗的だったアルベドでさえ殺気を漂わせているのは驚きである。

 

 

「……それで、一体何があったんですか?」

 

 両手の指を組み合わせて口元を隠しながら、アインズが厳かに問いかけてきた。

 口調はいつもと同じなのに、その姿はまさに魔王そのものである。

 怒っている、これはかなり怒っている…。

 ウルベルトは久々に見るアインズの怒った様子に内心ヒヤヒヤしながら、何とか気を引き締めさせて一つ咳払いを零した。

 

「端的に言えば、モモンガさんが闘技場で会った不審な四人組が気になって後を追い、彼らと戦闘になりました。この怪我は…、まぁ俺の油断が原因です」

 

 小さく肩をすくませるウルベルトに、すぐさまアインズが食って掛かる。

 

「どうして一人で行ったんですか! せめてシャルティアを一緒に連れて行っていればっ!!」

「それは俺のミスです、油断していたと言う他ありません。だが、今では彼女を連れて行かなくて良かったと思ってる」

「………何故ですか…」

「恐らく…だが、かなりの確率でその四人組はシャルティアを精神支配した奴らだ」

「っ!!?」

 

 アインズだけでなく、この場にいる者全員が大きく息を呑んだ。

 部屋に満ちていた威圧感が霧散し、違った意味合いで全員がウルベルトを凝視する。

 アインズなどはあまりに予想外のことだったのか、組んでいる骨の手が小刻みに震えていた。

 

「い、一体それはどういう意味ですか…!?」

「彼ら自身が吸血鬼について口を滑らしましてね。どうやら俺と同じくらいヤバい吸血鬼に会ったことがあるようだ。…その吸血鬼と精神支配について尋ねると、一気に顔色を変えましたよ。仮に当事者じゃなかったとしても、何かしら関わっているのは間違いない」

「……………………」

 

 何か考え込むように黙り込むアインズに、ウルベルトは大きなため息をついて苦々しく顔を顰めさせた。

 

「…はぁ、本当は捕らえて尋問する予定だったんですがね。捕らえるどころか、怪我して逃げられるとか最悪だ…」

「ウルベルトさん……。…少し思ったんですけど…」

「何です?」

「確か、ウルベルトさんは〈支配(ドミネート)〉の魔法が使えましたよね。どうして使わなかったんですか?」

「……………………」

「………………?」

 

 黙り込んで凝視してくる仔山羊悪魔に、アインズは疑問に小さく首を傾げる。

 しかしその沈黙は長くは続かず、次の瞬間、ガンッというけたたましい音と共にウルベルトが円卓へと額を打ち付けた。

 

「えーーーっ、ウルベルトさん!?」

「ウルベルト様!!?」

 

 アインズと守護者全員から驚きの声が上がる。しかしウルベルトは構わずガンガンと額を打ち付け続けていた。堅い音の合間に、ウルベルトの悲痛な声が漏れ聞こえてくる。

 

「…うおぉ、俺の馬鹿、アホぉ! 恥ずかしい…、死にたいっ、いっそ殺してくれぇぇっ…!」

 

 〈支配(ドミネート)〉の存在をすっかり忘れていて、そのあまりの間抜けさに羞恥と自己嫌悪が湧き上がってくる。近くに控えていたデミウルゴスやマーレに止められて何とか額を打ち付けるのは止めたものの、ウルベルトはずーーーんっと重い空気を背負って力なく項垂れた。顔を突っ伏したまま微動だにしない仔山羊に、気を使ったのかアインズがわざとらしく咳ばらいをしてくる。

 

「と、とにかく…ウルベルトさんの話が本当なら、どこの連中なのか調べる必要がありますね」

「………………今、フレズベルクとシャドウデーモンに追跡させてる。何か分かれば戻ってくるはずだ」

「ジルクニフにも詳しい話を聞くべきですね」

 

 顔を突っ伏したまま、くぐもった声でウルベルトが現状を伝えてくる。

 アインズは一度ため息をつくと、次には勢いよく立ち上がった。

 

「今からジルクニフの元へ行く。…デミウルゴス、帝国にその旨を早急に伝えよ」

「はっ、すぐに!」

 

 デミウルゴスが頭を下げる中、アインズはその後も他の守護者たちに命令を下していく。

 ウルベルトはやっと顔を上げて支配者として的確に行動するアインズを見つめていたが、不意に傍らに気配を感じてそちらに目を向けた。先ほど命を受けたデミウルゴスが、心配そうにこちらを見つめている。主からの命には迅速に行動する悪魔にしては珍しい様子に、ウルベルトは思わず小首を傾げた。

 

「…どうした、デミウルゴス?」

「ウルベルト様、どうか…どうか腕の怪我の治療を……」

 

 彼にしては珍しく戸惑ったように言いよどむ。

 悪魔の視線の先には、ウルベルトの今もなお全く治っていない右腕が力なく垂れ下がっていた。服の袖は取り除かれているものの、裂けた肉や皮膚も、それらを突き破っている骨も全てそのままだ。痛々しい腕の様子に、悪魔の顔が怒りと悲しみに大きく歪められる。しかしそれでも強く言えないのは、ウルベルトが意図的に腕の傷を治していないからだった。治癒魔法は勿論の事、自然治癒能力やあらゆる耐性などを抑制する代わりに経験値を多く取れる指輪をはめてまでわざと傷をそのままにしている。アインズや守護者たちがどんなに言っても、ウルベルトは決して治療を受け入れなかった。

 

「何度も言っているだろう。この怪我は利用できるかもしれない。今治癒するべきじゃないんだ」

「ですが! ウルベルト様の玉体に傷を残しておくなど…!」

 

 耐え切れない!というように言葉を詰まらせる悪魔に、良心と思われるものが少し疼く。

 しかしウルベルトは頷く訳にはいかなかった。

 痛みは我慢できないほどではなかったし、何よりこれから自分が考えている計画を実行するのであれば、この傷はあった方が好都合なのだ。心配してくれるのは嬉しいし有り難いことではあったが、ここは心を鬼にして何度も首を横に振った。

 

「この腕は当分治すつもりはない。…ほら、早く帝国に行って来い」

「ウルベルト様っ、どうか…!」

「…デミウルゴス、俺に何度言わせるつもりだ?」

「っ! ……申し訳、ありません」

 

 悲痛に顔を歪めて、力なく頭を下げる。泣きそうなその様子に胸が痛み、ウルベルトは思わず下げられた頭に左手を乗せた。後ろに流すようにセットされた髪を乱さないように気を付けながら、柔らかく優しく撫でる。デミウルゴスから息を呑むような音が聞こえたが、この際気にしないことにする。頭を下げたまま硬直しているデミウルゴスの頭を撫で続けながら、やっと全員に命令をし終えたアインズを振り返った。

 

「ああ、モモンガさん。鮮血帝に会うなら俺も同行させて下さい」

「それは良いですけど…。次は何をするつもりですか?」

「ふふっ、楽しいことだよ、モモンガさん」

 

 未だピクリとも動かないデミウルゴスを撫でながら、ウルベルトはにっこりと可愛らしい笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それより、いい加減その怪我治して下さいよ」

「デミウルゴスにも言ったけど、当分無理だな」

「もう、ウルベルトさん!」

 

 




私の勝手なイメージですが、現実世界でのウルベルトさんはモモンガさんよりも過酷な貧困層であるイメージがあります。
彼の両親の過去があるからですかね…?
今回出てきた聖典さんは勝手に漆黒聖典にしております。
原作(書籍)では“聖典”としか明記されていないのですが、もし間違っていれば申し訳ありません。この小説では漆黒聖典だったということにして下さい…。
外見の描写は設定資料のイラストを参考にしております。

*今回のウルベルト様捏造ポイント
・〈風の刃〉;
第二位階魔法。かまいたちのような風の刃を放つ。
・〈集団転移〉;
多くの二次創作様で拝見する転移魔法(笑)言葉通り、集団で転移する魔法。
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