「モモンガさん、ただいま~」
「お帰りなさい、ウルベルトさん」
悪魔たちによって地獄絵図と化していく神都の様子を心行くまで楽しんだウルベルトはデミウルゴスたちを引き連れて漸くナザリックへと帰還した。第九階層の円卓の間では出発前と同じくアインズや守護者たち、セバスやプレアデスたちも揃っている。既に進行している第三段階の指揮を執っていたアインズは、にこやかな笑みの雰囲気を宿しながらこちらを振り返って言葉を返してくれた。ウルベルトは自分の席に腰を下ろすと、アインズに応えるように柔らかな笑みを浮かべる。上機嫌な至高の主たちの様子に守護者やセバスたちも自然と笑みを浮かべ、どこか和やかな空気が室内に漂う。
しかしそんな中アインズは徐に立ち上がると、次にはズイッと勢いよくウルベルトへと身を乗り出してきた。反射的に後ろに後退りそうになるウルベルトだが、しかしその前にアインズの骨の手が問答無用でウルベルトの右腕を掴んでくる。一瞬走った痛みと思っていたよりも強い力に驚いて目を見張る中、アインズは微笑んでいる雰囲気を帯びたまま腕を掴む手に更に力を込めてきた。
「モ、モモンガさん…?」
「漸く一段落着きましたし、さっさと傷を治しちゃいましょう」
「へ…? い、いや、別に今すぐしなくても…」
「マーレ、ウルベルトさんを治療してやってくれ」
「は、はい! お任せ下さい!」
アインズに名を呼ばれ、マーレがおどおどしながらも張り切って駆け寄ってくる。
有無を言わせずマーレに右腕を預けられるのに、ウルベルトは慌てて待ったをかけた。彼らの気持ちは非常にありがたいため反抗するつもりは毛頭ないが、それよりも先にしておかなければならないことが一つあった。ウルベルトはマーレに右腕を掴まれている状態のままアイテム・ボックスを開くと、そこから一つのアイテムを取り出した。
見た目は毛糸でできた小さな人形。顔パーツの装飾などは一切なく、色も真っ白であるためまるでミイラ人形のようだ。と言っても身体には赤黒い線で奇妙な文字が所狭しに書かれており、おどろおどろしい不気味なオーラを宿している。
アイテム名は“ブードゥーの加護”。
所有者が受けた
「確か法国の連中は何回か質問すると自爆しちまうんだろ? あの女にこれを使ってくれ」
「爆発はしませんけど…、ありがとうございます。早速使わせてもらいますね」
ウルベルトの言う“あの女”とは、謎のチャイナ・ドレスを着ていた老女のことだろう。
彼女の拷問と謎のアイテムの鑑定はウルベルトが戻って来てから行おうと考えていたため、アインズは“ブードゥーの加護”を有り難く受け取るとすぐさまユリに渡し、セバスへと視線を向けた。ユリは一礼と共にすぐさまニューロニストの元へと向かい、セバスも主の意を汲んでチャイナ・ドレスを取りに一度退室する。
ウルベルトはそんな彼らの様子を眺めながら、お伺いをかけてくるマーレに一つ頷き、すぐさま唱えられる治癒魔法に大人しく身を任せた。
「…だが、まさかCプランになるとは思わなかったな」
「確かに。でもまぁ、そのおかげで色々知ってそうな人物も捕縛できましたし、新たなアイテムも手に入りましたから良かったじゃないですか」
みるみるうちに癒えていくウルベルトの右腕を見つめながら、アインズが軽く言葉を返してくる。ウルベルトも老女の価値やアイテムの存在、結局使い捨てにしてしまったアイテムなどの損得を考えて、小さく肩をすくませて一つ頷いた。
彼らの言うCプランとは、法国がこちらに刃を向けてきた場合の戦略プランである。もしも彼らが自分たちに反発し刃向かってきた場合、控えさせていたシャドウデーモンたちに援護させ、こちらは刃向かってきたことを理由に改めて宣戦布告する計画だった。他にも法国がこちらの属国の提案を受け入れた場合のAプランや、何やかんやで法国が白を切ろうとした場合のBプランも用意していたのだが、彼らが選んだのはまさかのCプラン。アインズやウルベルトたちはAかBで来るだろうと思っていただけに、まさかCで来るとは予想できず内心大慌てだったのはシモベたちにも秘密である。
「あ、あの、まだ痛いところとか違和感はありませんか?」
「…ああ、大丈夫だ。ありがとう、マーレ」
治癒魔法をかけ終えたマーレが不安そうに問いかけてくる。
ウルベルトは完全に癒えた右腕に掌を握りしめたり開いたりを繰り返して確認すると、安心させるように右手でマーレの頭を撫でた。途端にマーレが嬉しそうな笑みを浮かべる。
ウルベルトがマーレの頭からゆっくりと手を離すと、今まで填めていた指輪を外してアイテム・ボックスへと放り込んだ。代わりに、今まで外していた指輪を再度填め直す。
アインズと同じように全ての指に指輪を填めていく中、退室していたセバスがノック音と共に戻ってきた。両手には綺麗に折りたたまれた美しいチャイナ・ドレスが乗せられており、セバスの手によってアインズへと手渡される。
「さて、どんなアイテムなのか…。こんな状況ですが、やっぱり少しワクワクしますね」
「まぁな。…これでゴミアイテムだったら割に合わねぇ」
「ははっ、確かにそうですね。それでは…、〈
チャイナ・ドレスに手をかざし、アインズが魔法を唱える。ウキウキとした雰囲気がこちらにまで伝わってきて、ウルベルトも思わず笑みを浮かべた。
ユグドラシルでの楽しさ要素は未知を解明したり戦闘に勝利したことも例に挙げられるが、その中でも謎のアイテムの発掘は醍醐味の一つと言えるだろう。まさかここにきて、またこの楽しさを味わえるとは思わなかったと純粋な喜びが湧き上がってくる。
アインズと同じようなワクワク感を密かに味わいながら、しかしふとアインズが微動だにしていないことに気がついてウルベルトは思わず小首を傾げた。いつもなら既に何か知らのリアクションを出しているはずなのに一体どうしたのかとアインズの様子を伺う。
「………ウゥ、ウル…ウルベルト、さんっ!!」
「…どうした、モモンガさん?」
「し、信じられない! 見つけた! 見つけましたよっ!!」
「………………?」
「
「うえぇっ、マジかよっ!!」
ウルベルトは勿論の事、この場にいる誰もが驚愕に目を見開かせた。まさかそんな大層なものだとは夢にも思わなかったのだ。加えてシャルティアの犯人である証拠としても手に入るとは予想外過ぎた。
「アイテム名は傾城傾国! 効果は耐性を持つ相手をも洗脳できるみたいです!」
「なるほど、だからアンデッドのシャルティアも精神支配できたのか…。あっ、てことはあいつら俺を精神支配しようとしてやがったな」
法国でのことを思い出して途端に顔を顰めさせる。
しかし洗脳系の
何はともあれ、これ以上被害が出る前に手元に確保できたことに安堵を覚える。
「傾城傾国、か…。確か美しさから人を惑わし、国や城を傾け滅ぼす程の絶世の美女のことだったよな。まぁ、着てたのは絶世の美女とは程遠かったが…」
「ああ、確か恰幅の良い老婦人でしたっけ」
「……あれは見るに堪えなかった。アルベドとか似合うんじゃないか? まさに傾城傾国の名に相応しそうだ」
アルベドを振り返ってニヤリとした笑みを浮かべるウルベルトに、アルベドはいつもの柔らかな笑みと共に慎ましく一礼して応える。アインズの時のように嬉々とした声は上げなかったもののやはり嬉しかったのだろう、腰の両翼がパタパタと可愛らしく動いている。
「それで…、これからどうする?」
「本格的な進軍はあの老婆から情報を引き出してからの方が良いと思います。それまでは低位モンスターで戦力を計りましょう」
「…あぁ、確かレベルが低い順に進軍させる予定だったか。今はどのレベルまで進軍させているんだ?」
「まだ10レベルですよ。ウルベルトさんが唱えた〈
「ええ、でも召喚される悪魔って数だけで、そんなにレベル高くないはずだろ」
「確かこの世界では30レベルでも脅威らしいですからね。仕方ありませんよ」
「ますますプレイヤーがいる可能性は低くなったな。それじゃあ、40レベルまで行けたら俺たちも進軍するか」
ニヤリと悪戯気な笑みを浮かべる仔山羊にアインズも楽しそうに嗤う。
広い円卓の間に異形種たちの笑い声が不気味に響く。
アインズは“傾城傾国”をパンドラズ・アクターに預けると、徐に椅子から立ち上がった。
「これから氷結牢獄に行きますけど、ウルベルトさんはどうしますか?」
「…あ~、せっかくだけど俺は少し休ませてもらうよ。ちょっと疲れた。自室にいるから、何かあれば呼んでくれ」
「分かりました。アルベド、デミウルゴス、供をせよ。コキュートスは次に出すモンスターを順にシャルティアの〈
「「「はっ!!」」」
アインズの命令に、アインズとウルベルト以外の全員が一斉に跪き頭を下げる。
セバスやプレアデスたちは通常職務に戻り、ウルベルトも指輪の力でさっさと自室へと転移した。
室内で待機していたメイドや
しんっと静まり返った静寂の中、徐々にウルベルトの薄い肩が震え始める。
傍から見れば泣いていると思われたことだろう。
しかし右手の隙間から覗く口は三日月のように弧を描き、喉の奥からクククっと弾くような音が鳴っていた。
ウルベルトは邪悪な笑みに歪んでいるであろう顔を覆い隠しながら、顔を掴む右手に力を込めて必死に湧き上がってくる衝動を抑え込んでいた。そうしなければ今にも天を仰いで高笑いしてしまいそうだ。アインズに言った言葉は嘘ではないが、自室に篭った一番の理由は強すぎる高揚感を鎮めるためだった。
嗚呼…、楽しい、愉しい、娯しい……!
法国での惨劇が頭を離れない。
逃げ惑う多くの人々、響き渡る悲鳴と怒号、舞い散る血飛沫、散らばる肉片、倒れる聖職者、顔に浮かぶ絶望の色。
全てが津波のように押し寄せ、ウルベルトを高ぶらせていく。
嗚呼、俺も遊びたかったなぁ…。
魔法を放ち、血を撒き散らし、絶望を味わい、命の生温かさをこの手に握り締める。
鮮やかなまでの鮮血を浴びたら、どんなに楽しいことだろう。
熱いかな、冷たいかな。
温度は? 匂いは? 味は? 感触は?
お前たちはどんな色で俺を彩ってくれる?
絶望の悲鳴をBGMに人間たちとダンスを踊る。
しかし、だけど…、嗚呼、それでも……。
きっと脆すぎて退屈だ。
弱すぎる玩具は面白いけれど面白くない。
必死に抗い、怒りに叫び、それでも絶望に染まり、諦めの涙を流して。
命惜しく震える手で自分に縋りつくのだろうか。
そんなもの、全くもって面白くない。
嗚呼、でも楽しくはありそうだ。
楽しくて、美味しくて、退屈で…。
愉しく遊んでいた下等な悪魔たちが羨ましくて仕方がない。
嗚呼…、嗚呼……、足りない…、溢れる、止められない………!!!
「………フフフ…、…ハハハっ、アハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!!」
ウルベルトは勢いよく立ち上がると、顔から手を離して笑い声をあげた。
絶対者のオーラが一気に膨れ上がり部屋中を…、いや、ナザリック中を揺れ動かす。大きすぎる爆発的な威圧感に、ナザリックに属する者たちは全てハッと大きく反応した。既にナザリックを発ったアウラやマーレやパンドラズ・アクター以外の守護者たちも例外ではなく、誰もがウルベルトの変化に顔を蒼褪めさせ衝動のままにウルベルトの元へと向かう。アルベドやデミウルゴスと共にいたアインズも彼らの様子に気が付き、何事かが起こったのだと慌てて彼らの後を追った。ウルベルトの自室の前で揃ったアインズや守護者たちは、アインズを先頭に次々と室内へと押し入っていった。
「ウルベルトさん、一体何が…!!」
「ウルベルト様、ご無事ですかっ!!」
「ウルベルト様!!」
中へ足を踏み入れながら発せられた言葉たちは、しかし全て一様に最後まで紡がれることなく消えていった。言葉の続きを口にするのも忘れ、ただ呆然とその場に立ち尽くす。
「…あれ、どうしました、モモンガさん?」
こちらに背を向けていた影がゆっくりと振り返ってくる。
そこに立っていたのは二足歩行の仔山羊…ではなく、ゆったりとした漆黒のローブを身に纏った山羊頭の悪魔だった。
本来の姿に比べれば未だ若く見えるが幼くはない。高くなった身長や成長した顔つきから、おそらくは二十歳前後だろうか。
ウルベルトは未だ呆然となっているアインズたちに小首を傾げると、次には自身の身体へと目を向けた。
「…あぁ、何か急に成長したんだ。驚かせて、すまない」
「本当に、ウルベルトさん…なんですか……?」
「正真正銘、俺ですよ。…と言っても俺自身、一気に成長しすぎて訳が分からないんだが…」
ウルベルトは肩を竦ませると、次にはニヤリとした笑みを浮かべる。
着実に元の姿に戻りつつあるウルベルトに、アインズは大きな喜びを感じては感情抑制を発動させるのを繰り返していた。守護者たちも懐かしい至高の御方の姿に誰もが喜びの表情を浮かべる。中でもデミウルゴスの喜びは大きく、身体を小刻みに震わせて宝石の瞳を感涙に濡らしていた。
やはり自分の考えは正しかったのだと胸を打ち震わせる。
未だ完全に戻ってはいないけれど、あともう一歩のところまで来ている。本来の姿に戻ればきっと弱体化も治るはずだ。
デミウルゴスは次にすべきことを瞬時に考え始める中、ふとウルベルトが呼んでいることに気が付いて慌てて傍まで駆け寄った。一気に近くなった目線に感極まりながら、恭しくこうべを垂れて拝聴の姿勢を取る。
ウルベルトは深々と礼を取るデミウルゴスを見つめながら、少し悪戯気な笑みを浮かべて小首を傾げた。
「…デミウルゴス、お前に預けていたものを持ってきてくれないか」
「っ!!」
「ウルベルトさん、まさか…!」
ウルベルトの言葉にデミウルゴスはハッと顔を上げ、アインズも驚きの声を上げる。
ウルベルトは小さく目を細めさせると、優しげな表情でアインズやデミウルゴスを見つめた。
「…多分、もう大人用の装備も着れると思うんだ。モモンガさんが許してくれるなら、改めて受け取りたいんだが…」
「っ! デミウルゴスっ!!」
「はっ! すぐに!!」
途端に声を上げるアインズと、一礼して走り出すデミウルゴス。
鮮やかすぎる二人の行動にウルベルトは苦笑を浮かべ、他の守護者たちはぽかんとした表情を浮かべた。
恐らく第七階層の赤熱神殿まで取りに行ったのだろう、デミウルゴスが戻るには少し時間がかかりそうだ。
アインズは懐かしい友の姿に浮足立つ心を感じながら、自身を落ち着かせるためにも先ほど手に入れた情報を早速報告することにした。
「…そうだ。ウルベルトさんのアイテムのおかげで色々と情報が手に入りましたよ」
「ああ、あの婆さんか。何が分かったんだ?」
「まず、名前はベレニス・ナグア・サンティニ。法国を統治している最高神官長の一人で、火の神官長を務めていたらしいです」
「ああ、確かに神官ぽかったな。…ということは、あの場にいた他の連中も?」
「はい、他の最高神官長たちです。途中で乱入してきたのは漆黒聖典という聖典の一つで、法国の切り札的存在だったようですね」
自然と近くの椅子に向かい合うように座りながら、守護者たちも交えて情報を伝えていく。
ベレニスの話によると、シャルティアと思われる吸血鬼を精神支配したのも漆黒聖典と“傾城傾国”を装備していたカイレという老婆だったという。しかしカイレはシャルティアの反撃により死亡し、高位の聖職者で唯一の女性であったベレニスが代わりに“傾城傾国”を所持することになったらしい。
他にも、漆黒聖典の目的や他の聖典の役割と戦力。
百年ごとに現れるプレイヤーと六大神という存在について。
六大神が残したという神器と神人と呼ばれる存在。
ウルベルトはアインズの話が進むにつれて顔を顰めさせ、最後には気に入らないというようにフンッと鼻を鳴らした。
「聖典っていう組織がある時点できな臭いとは思っていたが、これは予想以上だな。六大神の神器に神人とは…、なかなか楽しくなりそうだな」
「神人がどのくらいのレベルで、六大神の神器がどの程度のアイテムなのか気を付ける必要がありますね」
「全部
「分かりません。…恐らく違うとは思いますが、油断はできませんよ」
「そりゃそうだ。まぁ、マーレが監視してるんだ。それなりのレベルまで行けば相手の力量もある程度は推測できるだろう」
「そうですね…。コキュートス、現在どのくらいまで進んでいる?」
「現在、30台レベルマデ出撃シテオリマス」
「ほう、なら後1ラウンドで俺たちの出番だな」
30台レベルと言えば、この世界ではすでに脅威と言えるほどのレベルだ。
果たして持ち堪えられるのか…、自分たちの元まで辿り着けるのか……。
ウルベルトが楽しそうに笑みを浮かべる中、数回のノック音と共にデミウルゴスが戻ってきた。一直線にウルベルトの元まで歩み寄り、その場に跪いて持っていたものを両手で差し出してくる。悪魔の手に掲げられているのは、以前彼に預けたウルベルトの最終装備だった。
「ありがとう、デミウルゴス」
ウルベルトは礼と共に装備を受け取ると、アインズに一度頷いて立ち上がった。隣の寝室へと一人で向かい、ガサゴソと小さな物音が聞こえてくる。数分後、再び姿を現したウルベルトはユグドラシル全盛期での輝かしい姿に戻っていた。
時計型のマジック・アイテムを飾った漆黒のシルクハットに、顔の右半分を覆う鳥のような深紅の仮面。漆黒の細身のスーツを纏った腰にポーチが付いた深紅のベルトを巻き付け、黒に裏地が赤のマントを肩から背へと流している。左肩には品のある深紅の薔薇が飾られ、尾てい骨辺りからは彼がワールド・ディザスターだと証明する“慈悲深き御手”が両側から姿を現していた。
山羊頭の
悪の大災厄と恐れられた、“アインズ・ウール・ゴウン”魔法職最強のワールド・ディザスター。
少し伸びてきた顎髭を弄びながら、ウルベルトはこちらを凝視してくるアインズたちに笑ってみせた。
「…あぁ、やっぱりこの装備が一番しっくりくるな。どうです、モモンガさん?」
「……っ…、…似合ってます。すごくかっこいいです、ウルベルトさん!」
表情は変わらないものの、その声が小さく震えているのは決して気のせいではないだろう。
ウルベルトは大分近くなったアインズの肩を軽く叩くと、気分を変えさせるようにニタリと悪戯気な笑みを浮かべてみせた。
「さぁ、そろそろ俺たちの出番だ。我らが“アインズ・ウール・ゴウン”の力を見せてやりましょう」
力強く頼もしい友の言葉に、アインズの紅蓮の灯がゆらりと揺らめいた。
**********
法国の神都は丸一日を経たずして既に壊滅状態にまで陥っていた。
人間の国家では最大戦力を誇る法国の神都が悪魔の軍勢に襲撃された事件は瞬く間に周辺諸国に知れ渡り、世界中を震撼させた。
兵や聖騎士たちや神官たちの奮闘によって最悪の事態は免れたものの、それでも被害や損失は膨大なもの。
食い殺され、残虐に殺された多くの人々。建物は多くが激しい戦闘によって破壊され、正常の役目を果たせるものは数えるほどしかない。大きく割れ、抉れた壁や地面は真っ赤に染まり、白いところを見つける方が難しい。
この惨劇の背景に魔導国の存在があると知り、周辺諸国の人間たちは不安を募らせた。特に隣国のバハルス帝国やリ・エスティーゼ王国の人間たちは誰もが恐怖の悲鳴を上げた。帝国はつい先日闘技場に魔導王が現れ、王国は実際に悪魔の襲撃と魔導王の恐ろしさを味わっている。これで恐慌状態になるなという方が難しいだろう。
しかし混乱がピークに達する前に、まるで見計らったかのように王国とエ・ランテルにはモモンが、帝国には鮮血帝が事のあらましを国中に伝えた。
ウルベルト・アレイン・オードルという新たな支配者の存在。
法国がウルベルトに対して行った行為。
一度は慈悲を与えようとしたものの、再度法国がウルベルトに攻撃を仕掛け、そのためこのような惨劇となったのだという事実。
モモンに扮したパンドラズ・アクターは言うに及ばず、ジルクニフもアウラの監視の元、大人しく魔導国の大義名分を国中に広め、全面的に魔導国を支持する形を取った。
王国と帝国それぞれの信頼が厚い二人の言葉に、両国の人間たちは小さな不安を残しながらも落ち着いていく。
その他の国々もアインズたちの力を恐れて沈黙を保っている。
完全に法国は孤立状態となり、その全てがアインズたちの計画通りだった。
今もなお兵や聖騎士たちだけでなく、多くの神官たちも懸命に闘っている。恐らくこれまでにないほどのアンデッドや悪魔たちを滅してきただろう。しかし敵の数は全く少なくなったようには見えず、それどころか増えてさえいるように思われた。悪魔やアンデッドの強さもどんどん強くなり、誰もが恐怖と絶望に押し潰されそうになる。
一体どこから現れ、いつまで続くというのか…。
また一人また一人と仲間が悲鳴と共に倒れていく中、不意に頭上の空が大きく動き、誰もが驚愕の表情で空を見上げた。
厚い暗雲が立ち込めていた空が一気に晴れ、澄んだ星空が姿を現す。
しかし闇夜に大きく浮かぶのは血のような赤い月。
そして赤い月に照らされて現れたのは、空を覆うほどの異形の大軍だった。
先頭は巨大なドラゴンが翼を羽ばたかせ、その後ろには名も知らぬ神話級の魔獣やアンデッドや悪魔の軍勢が控えている。ドラゴンの背には大小さまざまな六つの影が乗っており、その頭には二つの影が悠然と佇んでいた。
禍々しいオーラを放つ黄金の杖を握りしめた死の支配者と、顔の半分を奇怪な仮面に覆った山羊頭の悪魔。
二人はドラゴンの頭から、まるで見下すように地獄と化した下界を見下ろしていた。
「法国の人間どもよ。我が友、我が子らに刃を向けた罪は重い。国ごと沈み、罪を贖え」
「けれど簡単に沈んでしまってはあまりに面白くありません。さぁ、全力で抗ってみせなさい。血を撒き散らし、地を這いずりながら、私たちの元まで辿り着けることを期待していますよ!」
死の支配者が朗々と死の呪詛を唱え、災厄の悪魔が嬉々として絶望の歌を詠う。
ドラゴンの背に控えていた守護者たちが一斉に一礼し、次には主たちの言葉に応えるようにそれぞれ下界へと飛び降りた。背後の大軍もそれに続くようにして進軍を開始する。
アインズが魔法を唱えた瞬間、黒曜石で造られた巨大な土台が周りの建造物をなぎ倒しながら鎮座し、アインズとウルベルトを乗せたドラゴンがその上へと舞い降りた。
土台と地上を繋ぐのはたった一つの漆黒の階段。
それはまるで挑戦者を待つステージのよう。
ドラゴンという最強の玉座に腰かけながら、アインズとウルベルトは自分たちの元まで来るかもしれない挑戦者を思い浮かべて静かに嗤った。
ついに青年にまで成長してしまったウルベルトさん。
だ、題名が語弊になってしまう…(汗)
次回はいよいよ最後の戦闘回です!
漆黒聖典や番外席次の強さが原作でも不透明なので、まだ書いてもいないのにどんな文章になるかガクブルです…(汗)
あの人たちレベルどのくらいなんだろう……。
*今回の捏造ポイント
・“ブードゥーの加護”;
世界級アイテムと超位魔法以外のダメージを一回だけ肩代わりしてくれるアイテム。