仔山羊悪魔の奮闘記   作:ひよこ饅頭

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第2話 日常への道

 アインズが召喚した五体の黒い仔山羊の集合体から出てきた、至高の四十一人の一人であるウルベルト・アレイン・オードル。しかしその姿は幼子そのもので、アインズたちは至急今のウルベルトに必要だと思われる物を探し始めた。

 階層守護者たちを筆頭に多くのシモベたちがナザリック中を駆け回る。

 アウラ、マーレ、シャルティア、コキュートスはシモベたちを指揮して使えそうな物を捜索しアインズの執務室へ持って行き、デミウルゴスは執務室で待機して持ち込まれた物を選別する。その間、アインズとウルベルトはアルベドと共に隣室のアインズの私室で今後のことを話し合っていた。シモベの殆どが未だウルベルトの帰還を知らされていなかったが、誰一人としてアインズからの『赤子用に役立ちそうなものを探せ』という命令に疑問さえ浮かべなかった。彼らにとっては至高の御方であるアインズの言葉は絶対であり、自分たちの思考などないも等しい。故に誰が使うとも知らず、使えそうなものを手あたり次第集めてはアインズの元へと持って行っていた。

 そしてそこで待っていたのは容赦のない言葉たち。

「このような硬い布を使えと言うのですか? 燃やしてしまいなさい」

「この服は大きすぎます。もし裾を踏んで転んでしまわれたら、どう責任を取るつもりですか?」

「このような品のないものは例え玩具でも相応しくありません。握り潰しますよ」

 などなどなど…―――

 辛辣な言葉と共にシモベたちが持ってくるものを事ある事につき返していくのは、言わずもがなウルベルトの被造物であるデミウルゴスである。

 デミウルゴスからしてみれば、これを使用するのがウルベルトだと知っているため一切の妥協を許さない。それを考えれば彼の言動も理解できるものだろう。

 しかしその一方で、未だ何も知らされていないシモベたちにその辺りを汲み取れというのも、また無理なことだった。

 

 デミウルゴスは一つ息をついて周りを見回した。

 今のところ、自分の眼に叶った物はまだ数点しかない。それも、それらは布や玩具の類が殆どで実用性には欠ける。やはり一から揃えた方が良いのではないかという思いが湧いてくるが、すぐにそれを自分で否定した。この世界の物はナザリックの物よりも数段劣り、そんな物をウルベルトに献上するなどもっての外だ。しかしそうなるとナザリックで一から作ることになってしまう。それでは時間がかかってしまい、その間ウルベルトに不便をかけてしまったら…と思うだけで、デミウルゴスは自分の不甲斐なさと申し訳なさに心臓を滅多刺しにしてしまいたかった。

 

「……あ~、デミウルゴス。先にこれだけでもアインズ様のところに持って行ったら? アインズ様も確認したいだろうし…」

 

 デミウルゴスの鬼気迫る雰囲気に気が付いてアウラが引きつった顔で声をかけてくる。それにデミウルゴスはチラッとアウラを見やると、次には数点の品物へと目を戻した。

 確かに彼女の言う通り、最終的にこの品物を使うかどうかはアインズやウルベルトが判断することだ。ならば数点だけでも早めに届けた方が良いかもしれない。

 デミウルゴスはそれらの品物を手早く纏めると、顔だけでアウラを振り返った。

 

「では、先にこれだけでもアインズ様に届けてきましょう。その間、この場を任せても構わないかね?」

「うん、良いよ。いってらっしゃ~い」

 

 アウラは安心させるように大きく頷くと笑顔と共に手を振る。それにデミウルゴスは一つ頷くと、アインズの元へ行くべく踵を返した。と言っても、アインズがいるのは隣室にある彼の私室。すぐ側の扉を潜れば到着する場所に、デミウルゴスはその扉を恭しくノックして中へと入っていった。

 赤いスーツの悪魔が扉の中へと吸い込まれ、パタンという軽い音と共に消えていく。

 完全に見えなくなったその姿に、アウラはそこでやっと一息つくのだった。

 

 

 

**********

 

 

 

 デミウルゴスが挨拶と共に中へと入れば、そこにはアインズとアルベドが今後について話し合っていた。一瞬邪魔をしてしまったかと後悔が押し寄せるが、それはすぐさま呼び寄せられたことによってかき消される。

 デミウルゴスはアインズの元まで歩み寄ると、五歩ほどの距離で止まり深々と頭を下げた。

 

「どうだ、使えそうな物は見つかったか?」

「はい、幾つかは…。しかし、身を包める布や玩具として使えそうな物ばかりでして…、実用的な物は未だ見つかっておりません」

「ふむ、やはりそうか。まぁ、大体ユグドラシルに赤子用のアイテムが存在しなかったからな。赤ん坊のNPCを作ろうとしたメンバーもいなかったし、仕方がないか…」

 

 まだ赤ん坊のNPCでもいれば、それに合わせてアイテムを作ろうとするメンバーも出てきたのであろうが、今更言ったところで仕方がない。

 因みに、この赤ん坊のNPCにヴィクティムが入りそうな気もするが、種族の問題もあり、この場では彼は除外された。

 

「ですが、ウルベルト様をずっとあのようなお姿にさせておくなど耐えられません! 至急、見繕えるものを準備してみせます!」

「う、うむ…」

 

 デミウルゴスの意気込みを大いに含んだ言葉を受け、アインズは気圧されたようにしながらも戸惑ったような声と共に寝室の部屋へと目をやった。そこにはいつもは閉められているはずの扉が開け放たれており、大きな寝台が鎮座する室内が見て取れた。

 キングサイズのふかふかの寝台の上には、小さな白い塊がポコリと転がっている。恐らく眠っているのだろう、大きく動くことはなく、ただ静かに小さく上下にクゥクゥと動いていた。

 その可愛らしい様子に、愛しさと共に思わず笑みが浮かびそうになってしまう。

 しかしデミウルゴスは何とか顔を引き締めさせると、ふとアルベドが目に入り、あることを思い出して口を開いた。

 

「そういえば…、アルベド。確か子供服を作っていましたね。一時で構いませんのでお借り出来ませんか?」

「なっ!! あれはアインズ様とわたくしの…!!」

「もちろん分かっていますよ。ですので一時で構いません。ウルベルト様のお洋服が用意できればすぐにでもお返しします」

「……………………」

 

 デミウルゴスとて今自分が口にした案が最善だとは思っていない。いくらナザリックの品質の良い物でも、“ウルベルトの物”でなければ意味がないのだ。他者のために作られた物というのは、つまりその者専用の物ということだ。それを間借りしてウルベルトに献上するなど、通常であれば決して許されぬこと。しかしデミウルゴスにとって己が創造主が碌に身支度もできない現状の方がよっぽど許し難いことだった。

 そのため“一時的に”という言葉を強調する。

 しかしアルベドは納得していないのか、美しく輝く金色の瞳を小さく細めさせた。

 

「……デミウルゴス、それはどうかと思うわ。その服はアインズ様とわたくしとの未来の子供が着るために作られた物。それを一時とはいえお貸しするなんて、ウルベルト様にも未来のアインズ様の子にも無礼ではないかしら?」

「そうですね。しかし今の現状では着て頂ける服がありませんし、新しく用意しようにも時間がかかります。その間、ウルベルト様に不便をおかけしてしまうことこそ、最も無礼ではありませんか?」

「でもウルベルト様にも好みがおありでしょう? わたくしなどが作ったものでは、かえってウルベルト様をご不快にさせてしまうかもしれないわ」

「…あくまでも拒否するつもりですか、アルベド。私の創造主であり、至高の御方の一人であらせられるウルベルト様に粗末な姿でいろとでも?」

「あら、私はウルベルト様のことを思って言っているのよ」

 

 笑みを消したデミウルゴスと暗い笑みを浮かべたアルベドが不穏な空気を纏って睨み合う。二人の間に見えないはずの火花がバリバリと散り、二人の背後にドス黒いオーラが噴き出す。

 その常にない光景に、“アインズとアルベドの子供”というフレーズに混乱していたアインズはハッと我に返った。

 正直、先ほどのフレーズについてアルベドかデミウルゴスに問い質したい。しかし今は二人の争いを止める方が先決だ。目の前で子供同然に思っている二人が言い争うのに苛立ちと悲しみが湧き上がってくる。

 

 

「お前たち、いい加減に…―――」

 

 

ガンッ!

 

 

 アインズの言葉を遮るように響いてきた大きな音。

 その音は寝室から聞こえ、三人は反射的にそちらを振り返った。

 

「ウルベルトさん!」

「ウルベルト様っ!!」

 

 アインズが驚きの声を上げ、デミウルゴスは叫びにも似た声を上げて寝室へと走る。

 寝台の上にいた筈のウルベルトが地面へと転がり、小さな身体に纏わりついた白い布にジタバタともがいていた。メェェェェ…と小さな鳴き声が布の中から聞こえてくる。それにアインズとデミウルゴスは慌てて蠢く布の塊へと手を伸ばした。大きな布がバサッと捲られ、中から小さな仔山羊が姿を現す。

 仔山羊はプルプルと頭を振ると、薄べったく細長い耳がぴろぴろと揺れた。まるで自分に何が起こったのか探るように桃色の可愛らしい鼻をスピスピと動かす。

 

「大丈夫ですか、ウルベルトさん!」

「ウルベルト様、痛いところはございませんか!? ああ、お助けできず申し訳ございません!!」

 

 アインズとデミウルゴスが口々に声をかける。

 しかしウルベルトは不思議そうに小首を傾げた。

 その瞬間、小さな身体に不釣り合いなほど大きな角の重さに耐えかねたのか頭からころんっと地面へと転がる。再びジタバタともがくのに、アインズは掬い上げるように仔山羊を抱き上げた。

 

「…仕方がない、宝物殿に行ってみよう。もしかしたら何かあるかも知れない。ウルベルトさんも行きましょう」

 

 柔らかな白い毛を撫でながら穏やかにウルベルトに声をかける。

 アインズは背後で心配そうにウルベルトを見つめている悪魔を振り返ると、徐に腕の中の仔山羊を悪魔へと差し出した。デミウルゴスは慌てたようにウルベルトを腕に抱きとめる。困惑の表情でアインズと腕の中のウルベルトを交互に見やり、それでいて大切そうに腕の中の創造主を抱きしめた。

 赤いスーツや黒い革手袋越しに温かな体温を感じる。柔らかな白い毛皮や肉の感触、どこか甘い香り。腕全体に感じられる小さな身体の重みが幸福で、敬愛する創造主に触れているのだと歓喜に胸が一杯になった。

 仔山羊は小さくキョロキョロと周りを見回し、次には金色の瞳でじっとデミウルゴスの顔を見上げてくる。暫くじっと悪魔の顔を見つめ、何を思ったのか目を閉じてこてんっと赤いスーツの胸元へと顔を押し付けてきた。目を閉じたままスリッと頭を摺り寄せ、小さな手がキュッとスーツを掴む。まるで甘えるようなその仕草に、デミウルゴスは頭が破裂しそうになった。創造主の可愛らしい仕草と、それをされているというのが自分だということに感激で身を震わせる。

 しかしこんなところで創造主を抱えたまま立ち尽くしている訳にはいかない。

 デミウルゴスは必死に歓喜を押し込めて大切にウルベルトを抱えると、目の前のアインズへと目を向けた。

 

「私は宝物殿に行く。デミウルゴス、ウルベルトさんを抱いて供をせよ」

「はっ!」

「…ではアインズ様、わたくしも」

「いや、お前は執務室でデミウルゴスの代わりに選別をしていてくれ」

 

 寝室の手前で頭を下げるアルベドに命を下し、後ろに控えるデミウルゴスに手で合図を送る。そしてリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを発動させて姿をかき消したアインズに、デミウルゴスは慌ててウルベルトを見下ろした。

 

「ウルベルト様、失礼いたします」

 

 柔らかな声で語り掛け、未だスーツを握り締めている仔山羊の小さな右手に恭しく触れる。

 右手の薬指にはめられた、アインズの物と同じリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 アインズの言葉を考えれば、おそらくウルベルトの持つリングの力で共に宝物殿に来いと言うことだろう。だがデミウルゴスには一時とはいえウルベルトからリングを外し、借りることなどできるはずもない。ただのシモベが御方の御手に触れるなど恐れ多い、と思いながらもそっと仔山羊の右手をリングごと包み込んだ。掌に感じる柔らかな手と固いリングの感触に魔力を込め、そのスキルを発動させる。

 

 一瞬で変わる目の前の景色。

 周りを見回せば堆く積まれた金貨の山がいくつも鎮座し、財宝と呼ばれる物も多く山の中に埋もれている。一見ひどくぞんざいな扱いに見えるが、それはこのナザリックにとってそれだけの価値しかないからだ。本当に価値がある物はこの奥にある幾つもの大きな闇の扉の先にある。

 しかしアインズはこの金貨の山の中に埋もれている物で何か使える物がないか探すつもりらしい。パンドラズ・アクターを引き連れ、何かを話し合っていた。

 

「アインズ様、お待たせしてしまい申し訳ございません」

「いや、問題ない。…さて、ここで使えそうな物を探そうと思うのだが…―――」

 

 アインズの言葉が不意に途中で止まる。

 眼窩の灯がじっとデミウルゴスの腕の中に納まっている仔山羊を見つめ、見られている本人であるウルベルトはじっと奥にある闇の扉を見つめていた。

 

「…ウルベルトさん、そっちが気になるんですか?」

 

 アインズがデミウルゴスの方へと歩み寄り、腕の中のウルベルトへと声をかける。しかしウルベルトはチラッとアインズを見るだけで、すぐさま闇の扉へと目を戻してしまう。どうやらよっぽどそちらが気になるのか、それからはピクリとも動かない。

 アインズはフッと笑みにも似た息をつくと、仔山羊が見つめる先…闇の扉へと歩み寄った。目の前の闇を見上げ、朗々と定められた言霊を唱え始める。

 

「“かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう”」

 

 アインズの声が唱え終わるのとほぼ同時に、闇の扉が消え失せて道が開かれる。残ったのは薄暗い大きな通路と、扉の闇を吸い込んで凝縮した空中に浮かぶ球体。通路には多くの装身具が整頓して左右の壁に並べられていた。

 アインズとウルベルトを抱いたデミウルゴス、最後にパンドラズ・アクターが順に目の前の通路へと足を踏み入れていく。

 多くの指輪にネックレス、ブレスレット、アームレット、バングル、フェロニエール、アンクレット、ティアラ、ピアス、イヤリング。他にもロザリオやパンドラズ・アクターが着けているような懸章や飾緒、懐中時計、中には簪や首輪のようなものまで並べられている。しかしそのどれもが今のウルベルトには身に着けることは困難だろう。いや、身に着けることができる物もあるだろうが、それは身を飾るだけであって実用性がある物かと問われれば大いに疑問が残る物だ。

 そのため、誰もが足を止めずに奥へと突き進んでいく。

 薄暗い回廊を抜け、次に足を踏み入れたのは長方形の白い部屋だった。どこかの待合室をイメージしているのか、がらんとしたその部屋にはソファーとテーブルしか置かれていない。壁には自分たちが通ってきたものと同じような幾つもの大きな通路がその口を開いている。

 その中でも一つだけ雰囲気の違う大きな通路。重々しい威厳にも似た雰囲気を漂わせるその通路を、仔山羊は真っ直ぐに金色の瞳を向けていた。

 

「…アインズ様、あちらは」

「この先は霊廟だ」

「霊廟、でございますか?」

 

 デミウルゴスが困惑の表情を浮かべて“霊廟”と呼ばれた通路を見やり、腕の中の仔山羊を見つめる。

 “霊廟”という名に不吉なものを感じ、それを凝視する創造主に不安が湧き上がった。

 一体ウルベルト様は霊廟に何を求めていらっしゃるのか……。

 最悪の結末を想像しそうになる自分の思考に、デミウルゴスは必死に心の中で頭を振ってそれを打ち消す。それでも不安は消えることはなく、アインズに尋ねるのも憚られて背後のパンドラズ・アクターを振り返った。

 

「……パンドラズ・アクター。この霊廟には、一体何があるのですか?」

「このナザリック地下大墳墓に保管している世界級(ワールド)アイテムです。そしてこのナザリックを去った至高の四十一人の御方々が残されていったアイテムも保管しております」

「至高の御方々の…。ということは、ウルベルト様の物もっ!」

 

 デミウルゴスは霊廟にあるであろう創造主の装備品に思いを馳せ、天にも昇る気持ちに胸を震わせた。今まで胸を支配していた不安は消え去り、甲殻に包まれた尻尾までもが狂喜に揺らめく。

 恐らく今のウルベルトでは、自身の装備アイテムですらサイズが合わず身に纏うことは難しいだろう。しかしウルベルト自身がそれを求めたという事実がデミウルゴスを歓喜させた。

 

「デミウルゴス、ウルベルトさんのリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを外してパンドラズ・アクターに預けよ」

「アインズ様? それは、どういう…」

「霊廟に仕掛けられた罠だ。この奥にいるゴーレム、アヴァターラたちは指輪を持つ者たちを迎撃するように設定されている。それは私やウルベルトさんでも例外ではない」

「なるほど…。承知致しました」

 

 デミウルゴスは一度深く頭を下げると、腕の中のウルベルトを見下ろして小さな右手に手を伸ばした。スーツを握る創造主の手を放させることも、その指から栄光ある指輪を外させることもひどく口惜しい。しかし単なるシモベ一人の感情で御身を危険な目に合わせる訳にはいかない。

 デミウルゴスは失礼します…と一言声をかけると、涙を呑んで震える手で小さな指から指輪を抜き取った。それを後ろに立つパンドラズ・アクターに預ける。

 アインズも自身のリングを外して空間から取り出した指輪用収納箱へと収めると、霊廟の中へと入っていった。デミウルゴスもその後に続いて霊廟の中へと足を踏み入れる。

 

 そこは薄暗く、縦長に伸びた静寂が包む場所だった。壁の左右には複数の台座が連なり、その上には黄金色のアヴァターラが一体ずつ鎮座している。

 アヴァターラは一体一体形が違い、その身に纏う装備具はどれもが絶対的な力を持つ物。

 その中でデミウルゴスは一体のアヴァターラを見つけてその場に立ち尽くした。

 

「……ウル、ベルト…様」

 

 目の前に佇むアヴァターラは見間違えるはずがない、創造主であるウルベルト・アレイン・オードルを模ったもの。何より身に纏っている装備具がそれを証明していた。腕の中の仔山羊もじっと静かに自分のアヴァターラを見上げている。

 一体何を考え、何を思っているのか…。

 彼を抱いているデミウルゴスにはその表情を伺い見ることはできない。

 何と声をかけようか迷う中、不意に腕の中の重みが消え去った。ハッと見てみれば腕の中に創造主の姿はなく、白い小さな影が宙に浮かんでいた。

 

「ウルベルトさん、何をするつもりですか!?」

 

 アインズもウルベルトの行動に気が付いて声をかけてくる。しかしウルベルトはこちらを振り返ることもなく、ふわふわと浮いてアヴァターラへと近寄っていった。恐らく〈飛行(フライ)〉を使っているのだろう、危なげなく宙を飛んでいく。その先は厳密にいえばアヴァターラではなく、アヴァターラが身に着けている一つの装備具だった。

 腰のベルトの後ろに装備された、赤黒く細長い布。

 “慈悲深き御手”と呼ばれる布の両端が悪魔の手のようになっているそれは、ワールド・ディザスター専用の装備アイテムである。このナザリックにおいて、ワールド・ディザスターであるウルベルトだけが持つことを許されたウルベルト専用のアイテム。

 “慈悲深き御手”はまるで近づいてくるウルベルトに反応するかのように、その悪魔のような手をそっとウルベルトへと差し伸ばしてきた。シュルッという音と共にアヴァターラから滑り落ち、まるで蛇のように白い小さな身体を捉え、ぐるぐるに巻き付いてくる。

 

「ウルベルト様!!」

 

 勢いよく白が赤に変わっていき、その凄まじさにデミウルゴスが咄嗟に駆け寄ろうとする。しかしそれはアインズに止められ、気が付けばウルベルトはまるで服のように神器級(ゴッズ)アイテムを身体中に巻きつけていた。

 

「……う~む、もうこうなったら服ができるまでこれでいいか?」

 

 まるで袈裟を巻き付けたインド僧のようになっている仔山羊を見やり、アインズが困惑したように言葉を濁す。

 デミウルゴスはふわふわと戻ってきたウルベルトを腕に抱き留めながら、アインズの言葉に返答することができなかった。

 神器級(ゴッズ)アイテムほど至高の御身を飾るにふさわしい物はない。形状が布であることを除けば、白と黒の毛皮に覆われた美しき肢体も隠せている。一時であれば、粗末な服を着て頂くよりもこの神器級(ゴッズ)アイテムを纏って頂いた方が良いかもしれない…とデミウルゴスはウルベルトを見やった。

 ウルベルトはまるで用はすんだとばかりにデミウルゴスの腕の中でぬくぬくと眠りにつき始めている。

 悪魔は神器級(ゴッズ)アイテムに身を飾った己が創造主を暫く見つめると、そっと包み込むように抱く腕に力を込めた。

 

 

 




今回のウルベルト様捏造ポイント
・ウルベルト様の装備《慈悲深き御手》;
後ろの腰の辺りから垂れ下がっている、両端が悪魔の手のようになっている赤黒い布。(11巻キャラクター紹介のイラスト参照)
ワールド・ディザスター専用装備アイテム。
本来は防御と、攻撃した相手のMPを奪う能力(攻撃力は皆無)だが、ウルベルトが更に手を加えたため攻撃ができるようになり、MPほどではないもののHPも吸い取れるようになった。
何とも名に相応しくない、まったく慈悲深くないえげつないアイテム。
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