カナト×シヅカ。
本編後、ウエハーマンのつぶやきにて耶馬都を去った後にシヅカがその後を追った後を描いております。
無事にカナトと合流でき、カナトの引き起こした真実と内に抱えている闇を聞いてシヅカが導き出す答えは……?
※在学中の二人の関係は恋人と捏造しておりますのでご注意ください。

1 / 1
※本作品は縦読み推奨です。横読みだと読み難いかもしれません。


仮面の中のアナタを知っても

 外海獣による学園都市、耶馬都と鳳凰学園への襲撃事件。

 それから暫くの時間が過ぎ、鳳凰学園卒業後、鳳凰院神那人(以下カナト)は、家督を継がずに外海へと旅立った。

 外海へと旅立つ理由。

 その真実である、カナトが主犯であった事。私情によって鳳凰学園の壊滅を願い犯行に至った事を知る者は極一部であり、養父である鳳凰院麗雅はその一人であったからこそ反対はしなかった。

 だが、四方院家を統べる中央の鳳凰院の跡継ぎが居なくなる事は、彼の旅立ち後に暫くの間、耶馬都の中で論議の的になった。

 だがそんな事は旅立ったカナトと従者である剣剣(以下ケン)が考慮する事ではなかった。元より、家を継ぐ資格など自分にはないと自覚していたからなのかもしれないが。

 そして、親しい間柄であった者達には何も言わずに去って行った彼等を追う少女も、耶馬都の喧騒などどうでもよかった。

 冴樹志津華(以下シヅカ)。四方院家には及ばぬものの、名家出身の彼女も周囲の制止を振り切り、実質的に姿を晦ます形で耶馬都を去ったカナトを追ったのだから。

 時間は掛かった。

 しかし、彼女は外海の深い森の奥、比較的穏やかで排他的ではない外海獣の縄張りで再び、カナトとケン達に出逢う事が出来た。

 カナトの驚きは一入であった。

 あの事件で負い目があったのも事実だが、身勝手に捨てるように去った恋人が、自分を追ってくるなど夢にも思っていなかったのだ。

 そんな不誠実な男は、シヅカが何よりも嫌う人種だと知っていたから。

 たとえ魂獣であるカグヤが居るとはいえ、耶馬都から遠く離れたこの地から実質一人で帰す事に不安がなかったとは言えないが、自分の都合に彼女を巻き込む事を嫌ったカナトは、有無を言わさずにシヅカを耶馬都へと帰そうとした。

 しかし、シヅカもまたその首を縦に振る事はなかった。

 そんなやり取りが毎日続く事数週間。それは、カナトがひた隠しにしていた、襲撃事件の真相を語るという事によって終結する。

 

 

「そう……」

 カナトの口から、鳳凰学園襲撃の真実。そこに至るまでに行っていた数々の所業を告げられたシヅカは、俯き加減に小さく呟いた。

 ――これで、彼女との関係も終わりだ。

 一抹の寂静感を覚えつつも、カナトは自分に言い聞かせた。

 自分の本当の両親の事故死、自分を救ってくれたにも拘らずお門違いな勘違いと思い込みを真実だと思い続け、義父であるレイガの事をずっと憎み続けていた事。

 彼の権力の象徴である鳳凰学園を破壊する為に、生徒会の会長にまで上り詰めるように、周囲から好かれる鳳凰院神那人を演じていた事。

 その中の一つとして、才色兼備であるシヅカに近付いた事を真実と小さな嘘を交ぜて言った。

 学園長である光明司凱と、転入生である火群、いや光明司魁の関係。彼が魂獣と人間の間に産まれたハーフである事。

 あの、鳳凰学園全体を巻き込んだ、学園長による火群カイ討伐令の真実を最初から知っていた事。

 そして、その只中で及んだ凶行。因使と魂獣にとって最も嫌悪されるべきだろう、強制契約破棄と強制契約を白面金剛九尾イヅナと結び、機が熟すまで行方を晦ませた。

 そして、冬を迎えた日に、あの事件を引き起こした、と。

 全てを語り終えたカナトは、対面に居るシヅカを見遣った。

 俯いて前髪が掛かった彼女の表情は見えないが、ギュッと強く結ばれているのはわかった。

 怒りか、悲しみか、或いはそのどちらもか。

 糾弾も誹りも、受ける覚悟はカナトにあった。それが当たり前だ。

 彼女は当事者として学園の防衛に当たり、掠り傷とは言え無傷ではいられなかったのだ。

 だから、どんな言葉を投げつけられても、いや、投げ付けられるべきだとカナトは思っている。

「うん。だから、僕は……僕は、君が思っているような人間じゃない。卑劣で、狡猾な、君が最も嫌う人間だ」

 自分の心の中で激しく渦を巻く感情を噛み締めるように、泣き出すのを堪えるように、シヅカはゆっくりと顔を上げて、真正面からカナトを見据えた。

 潤んだ赤い瞳に、憤怒はなかった。悲哀はなかった。美しい貌を儚げに小さく歪ませて、困ったようにシヅカは薄く笑った。

「そうね、私は大嫌い。そういう人が。でも、なんでかしら……?」

 それは、自分でも不思議そうな声で、カナトは戸惑った。

 平手打ちの一つは問答無用で飛んでくると思った。その後、罵声が来ると思っていた。

 けれども違った。彼の想像を超えて、シヅカは寛雅に落ち着いた様子でカナトの瞳を見続ける。

 その真っ直ぐな眼差しに引け目を感じて逸らそうと思ったが、伸びた白く細い彼女の掌が、逃げ出そうとするカナトの両頬に添えられてしまう。

「アナタに、カナトにこうして、あの事件の真相をやっと聞かせて貰えて、嬉しいって思っている自分がいるの。元副会長としては失格ね。公私を混ぜるなんて」

 それは秘密を打ち明けて貰った事に対する、優越感かもしれない。けれど同時に、それを話して貰える間ではまだあった事に対する安堵でもあった。

 何よりも、彼女は確証こそなかったが、カナトが姿を消した時期と襲撃事件後に戻って来た事に対して、何も考えなかったわけではなかったのだ。

 信じたくはない。けれど、そう、もしかしたらカナトがこの事件を引き起こしたのかもしれない。

 そう思ってしまう自分が居た事を、シヅカはこうして、カナトの口から真実を語れてようやく認められた。

「シヅカ……」

「あの事件で、死者は奇跡的に出なかった。多くの人が協力してくれたから。でも、負傷者は出たわ。その事に関しては、私はカナトを許せない」

 決然とした意思を込めて、シヅカはカナトに告げた。

 安堵する己の心を卑怯だと思いながら、カナトは首肯して、本当の意味で別れを告げようとする。

「許さないで、欲しい。僕はこれから、一生を賭けて償っていくつもりなんだ。だから」

「だから、私に耶馬都へと帰って欲しい。何度も言わせないで。嫌よ」

「シヅカ……!」

 許さない、それならと思って告げようとした言葉を遮る形で、先程よりもなお強く、シヅカは頑強な意思を言葉にしてカナトに放つ。

「あの事件が、カナトの企みで起きた。その事を聞いて、私はますますアナタの傍から離れられなくなりました」

「どういう……」

 困惑するカナトに、硬く結ばれていた口元を緩めて、茶目っ気のある表情でシヅカは、カナトの罪を許さないと言った真意を語る。

 すぐ傍にある、シヅカの表情に思わず、カナトは見惚れてしまった。

「だって、私が傍に居れば、アナタはずっと罪の意識に苛まされるでしょう? アナタが望んでいるのは、贖罪じゃなくて、本当は罰じゃないかしら?」

「それ、は……」

 思わずカナトは言葉に詰まった。

 求めて、望んでいる事を見破られてしまったから。

 どこかで、彼女が傍にいる事で自分は、己の罪をずっと背負い続ける事が出来る事を望んでいて、まるでシヅカをその為だけに傍に置いておきたいと思っているようで、自分でも認められない部分を。

「だとしたら、私は適任じゃないかしら? 私が傍にいる事で、あの事件の只中に居た存在が、たとえ、上辺だけだったとしても恋人であった私が居るのなら、罪を感じるのに最適だと思うけれど?」

「いや、だけど……危険が伴う」

 反射的に返しそうになった本音を堪えて、カナトはそれでも、自分の事情にシヅカを巻き込みたくないと説得しようとするが、シヅカは譲らない。

「それは、あの頃と変わらないでしょう? 私だけじゃないわ。香具耶も居る。カムイも居る。ケンケンも、ナイアも。それに……カナトが居るわ」

「え……」

 呆然と漏らした声。添えられていた掌が動いて、コツン、とカナトの額にシヅカの額が重なった。

 照れくささを隠し切れないのか、頬だけでなく耳まで赤くした少女が、優しく微笑んだ。

「守ってくれるでしょう?」

「そ、それは当たり前だけど! いや、そういう問題じゃなくてだね!」

「私は、カナトの傍に居たいの。……私が大嫌いな性格でも、私はカナトの事が好き。この気持ちは、変わらないみたいなのよ。私は勝手にアナタを支えるわ。カナトは自分でして来た事の罪を目の前に置いて、罰を受ける。それで良いじゃない?」

 すぐ傍で感じる事の出来る互いの息遣い。そして、本音。

 これではダメだ、と訴える己の心の存在を、カナトはより強く自覚するが、もっと根本的な本意が、目を逸らせない程に近付いて来る。

「む、無茶苦茶じゃないか……」

「生徒会時代に散々アナタの無茶を聞いて来たのよ? それなら、私がやり返しても良いじゃない」

「意趣返し、かい?」

「ええ」

 そう言って、シヅカはカナトの頬に添えていた掌を放して、両腕を背中に回して、あやすようにカナトを抱き締めた。

 その腕の中で、もうシヅカの意思を覆す事は出来ず、そして本当に自分が望んでいる事から逃げられないと、諦めたように小さくカナトは笑った。

「……こうなった時の君は、梃子でも動かない程に頑固だから、ね。……情けない話、好きと言って貰えた時、安心した自分がいる」

「見抜けはしなかったけれど、今まで見せてくれなかったカナトを、これから見せてくれるなら楽しみなのよ、私は?」

「そう、かい。はは……僕はきっと、シヅカには一生頭が上がらないし勝てないんだろうなぁ」

「それは、これからも一緒に居て良いという事かしら?」

 シヅカから離れて、カナトは困ったように笑った。

「ダメと言っても今までのように強引に付いて来る気だろう、君は」

「勿論」

 即答で帰って来るシヅカの答えに、苦笑を隠し切れないカナトの心に、悪戯心が生まれる。

 このままでも良いかもしれないけれど、終始シヅカの掌の上に居た気分でもあったのだ。

 それなら、最後に少しだけ、彼女を虚をつくくらいの事はしても許されるだろう、と。

「それなら、一緒に居て貰った方が僕も安心出来るから。……ああ、それと一つ訂正する事があるよ」

「何かしら?」

「さっき、シヅカは上辺だけの恋人と言っていたけど……確かに、君の想いを利用していた所もある。だけど……君に、惚れていた……好きだったのは、嘘偽りない、僕の真意だよ」

「えっ」

 瞬間、シヅカの頬が一気に真っ赤になって口をパクパクと開いて言葉を探すが、見つからなかったのか、拗ねたように唇を尖らせて一言。

「あっ、ば、バカ……」

 そう、呟いた口元は、漸く何も隠さずに本音で話し合えるようになった愛しい人の傍に居られる嬉しさを隠せないように、和やか笑みを作っていた。

 

 

 

 

 そんなお互いのパートナーを見ていた魂獣の二人は、いや、カグヤは生温かい眼差しで視線の先に居るカナトとシヅカを見つつ、カムイに欲する。

「……カムイー、すっごく濃い無糖のコーヒー頂戴」

「ある訳がないだろう。気持ちはわかるが」

「砂糖吐き出しそう」

「止めろ。……というか、お前は私には何もないのか?」

 ふと気になった疑問に、カムイはカグヤの方を向くが、その本人は別段気にした様子もなく、寧ろこれ幸いとばかりにニヤリと黒い笑みを浮かべた。

「ん、シヅカが納得したのなら私がとやかく言う事はないかな。まあー……あの時散々苦労したから、これからは扱き使ってあげるからね、カムイ」

「私だけなの、か?」

 言外に、外海獣を操っていたナイアは無罪なのかと込めた言葉は、楽しそうに笑うカグヤにはぐらかされる。

「んふふー♪ 秘密」

 弾んだ声の彼女の真意は誰にもわからない。少なくとも、カグヤの目の前にいる鈍感なカムイには。

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。