激震に見舞われた揚陸艦の
だが、時既に遅く分枝の外……次元振動を続ける分枝世界間に飛び出してしまっていた。
「チッ――クソッタレ、
『現在確認中です……分析終了、分枝の崩壊に依るものと断定。モニターを復旧します』
女声のAIの声の後に目の前の空間に光が現れ、個人用のホログラフモニターが復旧して外の景色を映し出す。
そこに映し出されたのは、崩れ落ちていく時間樹の枝葉。崩れ落ちる、世界の終末の姿だった。
「崩壊が加速したってのか? 前兆も無しに……」
一体、どれだけの命があそこに息衝いていたのか。それを考えただけで、新たな怒りが沸いてくる。あの創造神を、絶対に許すな、と――ホログラフのモニターを睨み付けて。
「――フガッ!?」
そのモニターを突き抜けてきた、黒いポニーテールに顔面を直撃された。勿論、椅子に座った衝撃の逃げ場がない状態で。
「うきゅ~……痛いよ~、じっちゃ~ん……」
「俺の方が痛いわァァァッ! だから座ってろって言っただろ!」
手製の舵輪を持って操舵している気分を味わい、艦橋の最前で騒いでいたルプトナの頭突きを受けたアキががなる。
「ええい、おぬしら騒ぐでないわ! 集中できぬだろうが!」
その脇、火器管制席に着いているナーヤが崩壊する分枝の破片をピックアップ。アキの改良により搭載された、抗体兵器の『地ヲ祓ウ』の赤いレーザーや『空ヲ屠ル』の追尾弾で迎撃する。
その間も次元振動により船体が軋むが、『峻厳ナル障壁』で崩壊は免れている。気を取り直して進路を探り、観測席のサレスが示す破片の少ないルートを算出しながら進み――
「前方、来るぞ! でかいな……回避不能!」
「了解、代表……主砲、開け!」
「よし、主砲用意じゃ!」
『艦長』であるアキの使用許可に応え、ナーヤがコンソールから突き出てきたトリガーを番える。それに答えるように、艦首の装甲が開いて大型砲が現れた。
「主砲……てェェェェェッ!」
トリガーが引かれる。放たれるのは、抗体兵器の最大技である『天ヲ穿ツ』。世界一つを滅ぼしうるという、極太の赤黒い閃光は――大陸と思しき分枝の破片を両断して活路を開いた。
それにより、再び分枝世界に入る事に成功した。
「ふう……ヘビーなサーフボードだったな」
「お、おう……少し酔っちまった」
「右に同じ……」
安定した空間に入った事で、操舵をAIに任せたアキが軽口を叩く。答えたソルラスカとタリアは、共に口を押さえている。
「こうしてみると、ものべーって凄い神獣だったんだな……空達が三人でやってる事を、一匹でやってたんだから」
「ふふ、ちょっとは見直した、望ちゃん?」
等と、望と希美が会話したりもしている。艦橋には一同が介しており、次元振動する分枝世界間を避けて、根源まで直接移動する為に理想幹をめざしている。
策戦としては、そこで二手に別れる予定となっている。
「ふにぃ……びっくりしたぁ」
「ハハ、いや全くだぜ。けど、心外だな……俺の操舵が不安だったのか?」
と、自分の席を離れたユーフォリアがアキの膝の上に座る。球体のコンソールから手を離し、びしょ濡れの掌を自らの服で拭うと、その蒼穹色の髪を手櫛で梳る。
別行動と分かってから、まるで充電でもするように引っ付いてくるその少女。アイオネアもその点で理解を示しているのか、羨ましそうな思念こそ伝えてくるものの、化身化したりはしない。
「むぅ、だってお兄ちゃん、スピード狂だから」
「ふむ、それは否定できないな……何故なら俺は、文字通り世界を縮める男だからな」
「『物理的な加速度じゃなくて概念の達成度だから』でしょ? もう……お兄ちゃんは少し、足元を見るようにした方がいいよ?」
プリプリと頬っぺたを膨らませながら、有り難い言葉をくれる最愛の少女。おべっかや令色の無い、等価に在るからこその、正しく金言。
そんなパートナーを得た、己の幸運に。柄にもなく感謝してみたりして。
「クー君、医務室のベッドなら空いてるわよ?」
「余計なお世話ですよ、姐さん……」
ニヤニヤ笑うヤツィータの言葉に、琥珀色のジト目で。
「今からだと、三回くらいしかできないッしょ?」
「何の話だ、何の! 全く、どうしてこう、最近の人間どもは人前でイチャイチャと……」
「カリカリすんなよ、嫉妬か?」
「馬鹿を言え……ただ、どうも……思い出してしまう奴ばらが居るだけだ」
「な、なんですか、フォルロワさん?」
やはり巫山戯て、化身化したフォルロワの【聖威】による突っ込みを受けた。
それを白刃取りで受け止めると自然、フォルロワはユーフォリアと真正面に見詰め合う事となり――
「娘……昔、何処かで会った事はなかったか?」
「い、いえ……ありませんけど」
頻りに首を捻りながら、そんな事を言ったのだった。
………………
…………
……
漆黒の空間に浮かぶ、マナの海。そこに存在する、立方体を組み合わせた僅かな足場と、絡み付く大樹の根元。
そこに布陣する、エト=カ=リファの軍勢。五色のエターナルアバター達は、来るべき敵の襲来に備えてそれぞれの永遠神剣を構え――。
「遅ェな――全く、蝿が止まって見えるぜ」
その先頭の白を左手の【真如】の『ゲイル』にて斬り伏せ、最速の男が
「疾く駆けろ、灼熱のマナ……」
即応して、赤魔法『ライトニングファイア』を唱えたのは――赤のエターナルアバター。彼女は右腕に双刃剣を担って、徒手の左腕を突き出して……精霊へ祝詞を捧げる
それに呼応し、赤い精霊光の花が咲く。さながら、死に逝く者への手向けのように。
【――アクセス。この地に漂うマナよ、我が元に集え】
その言霊が紡ぎ終わる前に、右手の【聖威】が言霊を発する。赤のマナによって形作られる筈の槍は、
「一閃、護身の剣――虎破の型!」
そして紡がれた、死の宣告。巨刃剣に纏わり付くオーラフォトンが神速を以って、赤のアバターの
そこに、青いエターナルアバターが地を蹴って飛翔する。
「この剣がもたらす……」
凍えた西洋剣が、【聖威】を振り抜いた姿勢の青年に迫る。その間の空気すら、凍結させながら。
「――不可避の、死を」
振り抜かれた一撃、凍えた衝撃波『フューリー』が草と地を凍らせながら駆けて――斬り裂いた。
「――?!」
「ヒュウ、危ねぇなぁ。最速じゃなきゃ死んでたぜ」
青のアバターの西洋剣が、『虚空の型』を振るったアキの【聖威】によって。それを振るったアバターごと。
更に、右翼側のアバターが音速を越える速さで投擲した槍により串刺しにされて……至近距離で迫撃砲でも受けたような大穴が、
緑のマナにより、音速を越えた投擲『ソニックイクシード』を行った緑のエターナルアバターが、無感動な瞳を上げた。
「邪魔だ……どけェェェッ!」
そして、その眉間に突き付けられた【真如】の『ペネトレイト』により頭を吹き飛ばされて。
「――さて、本番だ。いくぞてめぇら!」
【【【【【――――承知!】】】】】
それにより空いた空間に着地したアキは、【真如】と【聖威】を仕舞って腰の五挺に手を掛ける。
先ず抜かれたのは、凍結片『遠雷』を使用した蒼いコルトパイソン【連理】、その放つ『アイスブレス』。マナを奪う氷の射撃に緑の『アキュレイトブロック』が粉砕され、更に凍結片『焔英』を使用した紅いデザートイーグル【比翼】の『ファイアブレス』が緑を消滅させた。
「黒い月――見せてあげるよ」
「悪いな――また今度頼むわ」
そこに『星火燎原の太刀』で斬りかかった黒の神剣を凍結片『再緑』を使用したトーラス・レイジングブル【海内】の『ネイチャーブレス』が打ち砕く。
そして、凍結片『聖威』と『運命』を使用した【天涯】と【地角】。その『フォトンブレス』と『ダークブレス』に――黒は原型すら残さずに消え去った。
敵を全滅させ、拠点を確保した『根源回廊第一階層・ハマラ階層』。その風景に、思わず神世の記憶が甦る。
「懐かしい、な……」
そう思うのも、
その時、通信機代わりにアキに随伴するイルカナが現れた。
「兄上さま、お姉ちゃん達が『星天根』に到着したそうです」
「そうか……流石はものべーだぜ、速いな」
隣に立った人影達も、同じ。ものべーで『最深層・星天根』に直接向かった望班を除く、ソルラスカを筆頭にした『創造神の軍勢との対決』を任務とした空班一行は、ハマラ階層に降り立つ。
そして、その眼前に――
「――こりゃあ、また」
「壮観ってレベルを越えてるわね……」
苦笑混じりに呟いたのは、ソルラスカ。ヤツィータもその隣で溜め息を吐き、スバルとタリアは気を引き締め直すように表情を固くして。
「――なぁに、この程度。スールードの悪魔どもに比べりゃあ少ない位だぜ」
「その代わり、強さは悪魔とは比較にならないわよ、クリフォード」
場を和ませようとしたのか、軽口を叩いたクリフォードをミゥが窘める。ルゥやゼゥ、ポゥ、ワゥまでもが同じように彼を見遣った為、流石のクリフォードも肩を竦めた。
「ベルバ……折角拾った私達の命、今ここで燃やし尽くしましょう」
「承知――久方ぶりに本気が出せそうだな」
見た目は、あっけらかんと。しかしその実、悲愴なまでの決意と共に。エヴォリアとベルバルザードは――階層に犇めくエターナルアバターを睨み付けた。
「おい、フォルロワ……どこが減ってンだよ?」
【や、喧しい……我にも思い違う事くらいはある……】
仕方なさそうに、担いでいた【聖威】に声を掛ければ、そんな思念が返ってきた。
そんな中、慌てて取り繕うような【真如】からの思念が流れ込んでくる。
【で、ですけど……『星天のエト=カ=リファ』と『原初存在・激烈なる力』、『原初存在・絶対なる戒』は見当たりません……きっと、第三階層『サラワ階層』の巨大なマナがそうだと思います】
「サンキュ、アイ……やれやれ、
第三階層は、最深層の真上だ。急いでエト=カ=リファを倒さねば、望班を危険に曝す羽目になる。
だからこそ、家族達の助力は不可欠であり――
「立ち止まらずに駆け抜ける。落伍は棄てていく。それが、誰でも」
故に、この力みは必要。より早く、より高く跳ぶ為には。
一様に表情を強張らせた、空班。そんな彼らに――
「なぁ、お前ら――――悪いんだけどよ、俺にお前らの命……くれ」
琥珀色の龍瞳を決意に染め、金の髪を靡かせながら。日本神話に残る、勝利をもたらす神鴉が。
「……へっ、馬鹿言いやがらァ」
「全くね」
「そうですよ、巽くん」
「あたし達を試すなんて、十年早いわ」
ソルラスカが、タリアが、スバルが、ヤツィータが。
「だな、あんまり舐めるなよ」
「はい、聞かれるまでもありません」
「そうとも。答えなど……」
「とうの昔に決まってるわよ」
「そうそう、アッキーはバカだな~」
クリフォードが、ミゥが、ルゥが、ゼゥが、ポゥが、ワゥが。
「ふふ、ここに来てる以上はね」
「うむ……元より、だ」
エヴォリアが、ベルバルザードが。一斉に相好を崩し――――――――
「「「「「「「「「「「――――――――生きて帰るから、無理!」」」」」」」」」」」
声を揃えて神剣を構え、殺到するエターナルアバターに向けた閧の声としてぶつけ――
「ハハ――――やっぱりてめぇら」
アキは笑いながら振り返り、鼻先まで迫ったエターナルアバターへと――――臨界まで回転速度を上げた
更に、オーラフォトンを纏う【聖威】が残ったアバターを両断する。
「最ッ高のクソッタレどもだぜ――――!」
実に嬉しそうなアキの咆哮と共に、狼煙が上がる。百にも及ぼうかという敵を前に、十一人の戦いの幕が。