色々あったが、解決した   作:華月鳥

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1月31日
001_召喚事故


 私、遠坂凛は「やっちまった」と盛大にため息をついた。

 私は自他ともに認める才女である。しかも他人にはできるだけ知られないようにしているが、努力型の才女だ。スタートダッシュで引き離し。追いすがる者は周回遅れにした上で振り切る。私はこの第五次聖杯戦争に参加するだろうあらゆるマスターの中で最高の魔術師であると自負している。しかし、遠坂には家伝の呪いが存在する。その名も「うっかり」。どうやら私は、あらゆる対抗者を周回遅れにした後、トラックに存在するはずのない小石に蹴躓いて、その勢いのままフェンスに直撃。しかもフェンスが老朽化したためか倒壊し、哀れその錆びついた網に身体を捕縛され、二進も三進も身動きの出来ないマグロにでもなってしまったようだ。

 で、具体的に何が言いたいかというと。

 

「いい加減目を覚ませ、この駄サーヴァント!!」

 

 午前一時。手違いで二時と誤解したまま進めてしまった、サーヴァント召喚の儀式。触媒を用意できなかったこととか、時間を間違えたこととか、ちょっと気合いを入れすぎたこととか、原因は多々あれどそれはこの際置いておく。儀式は失敗したが最低限成功もした。本来術者の目の前に現れるはずのサーヴァントは、なんだか知らないが屋敷の上空に出現し、どうやら訳の分からないまま落下。屋敷に大穴を開け、部屋のいくつかを瓦礫塗れにさせながらも着地は叶ったらしい。本人はどうも気絶しているようだが。

 これは自分の失敗だと自覚している。故に初めは腰を引き気味に、続いて目覚めぬサーヴァントを本気で心配し、数十分の時間の経過ののちに、先ほどのセリフと相成った。張り手の一つをおまけに付けて。あ、私の名誉のために言っておくけど、つつくとか揺するとかいう穏当なやり方はすでに全て試した後の話だからね。

 さて、罵声と張り手を同時に喰らったサーヴァントだが、その様や、目を白黒させるというのはこういうことかという模範例のごとく。

 

「え。なに。は」

「アンタは私のサーヴァントでしょうが。だったらちょっと召喚位置がずれたぐらいで何伸びてんのよ。そこは瓦礫の上に癪に障るくらい優雅に腰かけて、皮肉でもって私を揶揄するくらいやってみなさいよ!」

「――――なんでさ」

 

 サーヴァントは混乱している。そして私も混乱していた。

 ちなみにサーヴァントの召喚には大量の魔力を消費するので、召喚後数十分もわけのわからない状況で気を張りまくっていた私は、とっくの昔に魔力的な限界を迎えていた。

 

「とにかく。最初の命令。この部屋、片づけといて」

 

 なんかもう、いろいろな段階をすっ飛ばしてそう命じた私は、サーヴァントの返答も確認せぬままに自室に倒れこんだ。この状況で自室まで自力で迎えたことだけでも、私自身を褒めてあげたい。

 で、取り残されたサーヴァントはというと。

 

「――――なんでさ」

 

 同じ疑問を繰り返し、いそいそと片づけを始めるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 その翌朝。

 部屋は、否、屋敷はものの見事に片づけられるどころか一部の違いもなく修復されていた。

 そして起き抜けの頭で働かない私に、ミルクたっぷりの紅茶を差し出すサーヴァント。まさに召使い鑑。

 

「茶坊主を呼び出したつもりはないのだけど」

 

 そう文句を言いつつ、紅茶の旨さにちょっとプライドが傷つついた。さらにむかつくことに、サーヴァントはその様子をニコニコと、コイツなにも考えてないんじゃないかと勘繰られそうなほどのほほんと眺めているのだ。

 

「昨日は失態を見せたわ。そのことについては全面的に謝る。でもアンタだってサーヴァントの癖に全然目を覚まさないってどういうことよ」

「いや、流石に雲の上から初速が音速を超えて射出されたら対応できないぞ。自由落下だったらまだ余裕はあったんだが、むしろ現界を維持できていたことに感動を覚えていた状態?」

 

 そこまで酷かったんですか。

 

「まあ、こちらも召喚されて早々にマスターを放っておくことになったことは謝罪する。それでプラマイゼロってことでどうだ?」

 

 否はない。私としても、昨晩行えなかった建設的な会話を行いたいのだ。

 

「そう。それじゃ、改めて聞くけど、アンタは私のサーヴァントで間違いないのよね?」

「こっちの覚醒直後に命令しておいてそれか。もし違っていたら寝首を掻いた上で出奔しているぞ。魔力切れの魔術師ほど無力な存在はないからな。まあ、一部の例外はあるだろうが」

 

 ――――おや。言葉にも表情にも表さずに思う。どうやらコイツは正々堂々とかのタイプではないらしい。もしかしてアサシンでも引いてしまっただろうか。

 

「一応の通過儀礼だと思って答えて頂戴。次、アンタのクラスは?」

「ん? クラスは……アーチャーだぞ。うん。どうやらアーチャーのようだ」

 

 予想を外して三騎士の一人であるようだ。が、返答の仕方にもやもやする。まさか一晩かけて自分のクラスの確認を行っていなかったのだろうか。しかし――――。

 

「流石にセイバーじゃなかったか」

「そこは諦めてくれ。先に枠が決まっていた以上どうしようもない。俺自身、セイバー役が出来ないわけじゃないんだが…」

 

 つまりセイバー適正もあるということか。変な色の、鈍色というやつか、そんな外套を纏ってはいるが、同系色の鎧を着けている以上、騎士といわれてみればそういう風にも見える。が、その恰好でフードつけて顔を隠していたりとか、見た目だけならキャスターのように見えなくもない。

 それにしても、どうもおかしな言い回しを使う奴だ。まあ突っつくのは後にして、本命の質問をしましょうか。

 

「じゃあ次。アンタの真名と宝具を教えなさい」

「あ。それ無理」

 

 コツン。

 響いたのはティーカップをテーブルの上のソーサに置いた音だ。

 

「もう一度言うわ。貴方の、真名と、宝具を、答えなさい」

「うん。だから、それ無理」

 

 うがー。

 

「何よそれ! アンタは私のサーヴァントでしょうが! だったら真名と宝具ぐらちゃっちゃと教える。それとも頭打って忘れたとでも言うつもり!!」

「いやあ、流石にそうじゃないけど」

「だったら教える! もしくは教えられない納得できる理由を述べる! はいっ!!」

 

 ちょっと自分のテンションが高すぎている気がしなくもない。が、大体はこのへっぽこサーヴァントの所為だ。その私のテンションに恐れを成したのか、アーチャーが怯えながら説明を始める。よし。それでいい。

 

「まず、俺の宝具について。これは相当使いにくい。ランクでいえば評価規格外。EXとしか言いようがないんだが。発動条件が『俺以外の何者も、その効果を知ってはいけない』というものだ。これにはもちろんマスターである君も含まれる。もし漏れた場合、俺は一切宝具を使うことができなくなる」

 

 その出鱈目な内容に、私は息を呑んだ。嘘――――を言っているのではないかとすら疑った。そして、そんなことをしてなんになる、とも考えた。結論を出すには情報が足りない。

 

「次に真名だが。これも似たような理由だ。『俺の真名が誰かに知られた場合、それ以降宝具は1度しか使えなくなる。その残りの1回の宝具を使用した後、俺は強制的に敗退する』。何か質問は?」

 

 もしコイツの言っていることが本当なら、ここでこれ以上宝具のことを聞き出すことは不可能だし、そんな条件の嘘を吐いたのであれば、やはり今これ以上素直に話すとも思えない。とりあえずは保留だ。だがもし嘘だったなら――――後で絶対後悔させてやる。

 

「出鱈目すぎて言葉もないわ。ああ、でもひとつ。その言い方だと、宝具を発動したと知られなければ、何度でも使用可能ってこと?」

「その認識で間違いない。ちなみに俺は燃費がいいほうだから、消費魔力のほうは気にしなくていいぞ。というか、魔力消費によって宝具の発動がわかるってことはない」

 

 なるほど徹底している。でも燃費がいいというのは大歓迎である。得体の知れないサーヴァントであるが、そこは私が触媒を用意しなかったせいであるので、文句を言ってはいけないところだ。ならば最低限家訓すべきことは確認したことになる。後は実践でその実力を見せてもらうだけだ。

 

「了解したわ。じゃ、早速行きましょう」

「ん? 学校にでも行くのか?」

「今日は休むわ。こんな時間だ。それに、戦場の把握って大事でしょ」

「ああ、それはいいんだが、じゃあひとつ。俺からも質問していいか?」

「いいわよ。どうぞ」

「君のスリーサ……」

 

 サーヴァントの躾はマスターの役目のひとつである。故に、屑石とはいえ宝石を消費したことは間違いではない。令呪を使わなかったのだ。私は冷静である。

 ちなみに、アーチャーが尋ねなかったのは私の名前と聖杯に託す望みについてだったのだが、果たしてそれをちゃんと聞き出すために、どれほどの労力が支払われたかについては、ここに述べてもデータサイズの無駄だ。だって自業自得だし。

 

 さて、このような召喚事故により、己の命を預けるべきサーヴァントを得た私であったが、この時点で、私は最大のミスを犯していた。そのことについて死ぬほど後悔する羽目になるのだが、それは次のお話である。

 

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