色々あったが、解決した   作:華月鳥

3 / 25
003_幕間弓兵

 ごそごそごそ。

 ああ。死ぬかと思った。いや、実際死んでいた。上手く死ぬことができたみたいだ。あの槍兵が獲物を逃がすなんてありえない。それこそ一度死んで、蘇るくらいのことをしなければ逃げることもできないのだから。

 廊下に転がったマスターである少女であったモノを見る。綺麗な死体だ。心臓を一突き。よかった、これなら簡単だ。

 彼女は俺を恨むだろうか。恨んで当然だな。きっと酷く怒られるだろうけれど。きっと許してくれないだろうけれど。それでも、彼女がマスターでよかった。本当に、そう思う。

 風穴に手を置く。別にそんなことをする必要はないのだけれど。今は、そこにない鼓動が、再び伝わってくるという瞬間に触れていたかった。

 

「さあさ。戻っておいでなさい、なんてな」

 

 無意味な呪文。ちょっとやってみたかった。素敵な魔法。俺には絶対に使えない。

 

「――――参照(ライブラリ)投影(トレース)

 

 俺の呪文を紡ぐ。己にのみ許された呪文。己にのみ許された奇跡。――――いや、誰であろうと許されざる奇跡。

 手のひらに鼓動を。流れを。熱を。止まっていた時間が動き出す。

 鼓動とほとんど同時に、胸が少し上下した。きっと軌道は血まみれだろうから、ちゃんと拭っておこう。息苦しさで目を覚ますなんて、そもそも寝起きの彼女にはつらいだろう。というか、そんなふうに目を覚ましたら、俺が何されるかわからない。うん。本当にわからない。

 つ――――と。こんなものか。よし、目覚める気配はないな。ああ、これで安心だ。

 と。彼女から零れ落ちたものに気づいた。正確には彼女の手のひらから。槍兵から逃れるために使おうと思って握りしめていたのだろう。タイミング悪く使いようがなかったもの。その赤い宝石が、ポロリと落ちたのだ。

 悪戯を思い付いた。宝石に手を伸ばし、ソレを懐へと滑り込ませる。そして彼女のポケットの中に、別の宝石を入れておいた。さて、彼女はいつ気づくだろうか。今夜は流石に目を覚まさないかもしれないから、お楽しみは明日以降だと、楽しい未来絵図を描いていたら。

 かつかつかつ、と。音がした。

 その音がこちらへ向かって来る。さてどうしよう。

 その音がこちらに気付いたようだ。よしこうしよう。

 

「少年。もし君が『正義の味方』なら、どうか我が主を助けてやってくれないか?」

 

 間抜け面を浮かべた、いつか至る「正義の味方」は、否応なく運命の夜を迎えることになるのだろう。もっともそれは、次の話だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。