憑依してしまった以上、救いたいと思った   作:まどろみ

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書いてる最中、ずっと『は!か!た!の!塩!!』というフレーズが頭から離れなかった


4日目・夜

もう今ではお馴染みとなってしまった愛の鍵を握りしめて、目の前の扉をゆっくりと開ける。

最初はゲームでのネタが見たかったからという理由だったけれど、アタシと最原ではやっぱりみんな妄想というか対応が違うのだと気づくとほぼ毎日使っている。

 

……次の日の朝には、半分ぐらい内容忘れてるけど。

 

「今日はだれ、だ………?」

 

少しだけ開けた隙間から部屋の中を覗き込むと、アタシの身体は金縛りにでもあったかのようにピシリと固まった。

 

「おや、来たんだネ」

 

そんなアタシに気づいた本日の相手、塩……じゃなくて、真宮寺が『おいで』とばかりに手招きする。

いやいやいや……天海に負けない程のシスコン&ネタを持ちながらヤバイ奴が相手とか……。

 

「実家に帰らせていただきます」

 

「いきなり何を言っているのかナ?それに、フィールドワークの話しを聞きたいと言い出したのは、入間さんだよネ?」

 

それはお前の妄想の中のアタシであって、アタシではない!

それに、嫌な予感しかしないっ!!

何かおかしなことが起きたら逃げようと心に決めて、アタシはワザとらしく咳払いをした。

 

「で…そのフィールドワークの話しって、面白いのか?オレ様を満足させてくれるんだろうな??」

 

「ククク…今日はとびっきり、入間さんが好きそうな話しをしてあげるヨ」

 

アタシが好きそうな話しと聞いて、ピクリと反応する。

おぉ…どんな話しなんだろう。

 

「どの文献を探しても名前が見つからない事から『名も無き集落』って呼ばれていたある集落で、鬼子と呼ばれる子供が産まれたんダ」

 

……おっ?なんかいつもの民俗学講座じゃなくて御伽噺みたいなのが始まったぞ??

 

「曰わく、ある日を境に歳を取らなくなったとか、どんな方法でも死なないとか、色々言い伝えがあってネ…。まぁ、それを気味悪がった集落の人達に鬼子は舌を抜かれて話せなくなった上に、人が立ち入らない山奥に作った地下室に閉じ込められたんダ。そして今も尚、その山奥には鬼子が生きて住んでいて、人がその山に足を踏み入れると長年の怨みから殺されると言われているその山に、この前行ったんダ」

 

「………う、うん?」

 

えっ、何それ。

民俗学というより、完璧にオカルトなんじゃないの?

何その心霊写真撮るために心霊スポットに行ってきましたみたいなノリは…。

 

「ケッ、テメーが生きてるって事は、その伝承はガセって事かよ」

 

「そうとも限らないヨ。伝承があるという事は、必ず何か元となる事が起きたという事だからネ…。実際に気味悪がられて舌を抜き取られた子供の話しはよくあるし、昔は鬼がいたとされるからネ。村人が鬼に襲われるというのは、よくある事だヨ。それに、確かに僕はその山で鬼子らしき人物と出会えたヨ」

 

えーっと……あー、うん。

一気に喋るからよく分からなかったけど、なんとなくは分かった。

前半はチンプンカンプンだったけど、後半はよく分かった。

だから、アタシはあえてこう言おう…

 

「会ったのに、テメー生きてんのかよ!?」

 

「危ない所だったけれど、なんとか助かりヨ…。実はね、鬼子が暴れた時の捕縛手段のやり方も伝承には書かれていてネ…」

 

……なんだろう。

真宮寺が怪しく笑うもんだから、嫌な予感がしてきた。

そろそろ逃げるべきか??

 

「見ておくんだヨ。こういう普通の縄を使うんだけれど…」

 

「待て!タンマ!ストップ!!その場で動かずステイ!テメーその縄、今どっから出した!?」

 

手品みたいに気づいたら持ってたぞ!?

まさか、アタシがここに来た時には隠し持っていたとかいうパターンか!?

 

「あぁ…怖がる事はないヨ。ただ縛り方をレクチャーするだけだかラ……」

 

「あーっと、そうだ!オレ様この後用事があるんだった!」

 

これ以上は駄目だ。

そう感じ取ったアタシは予定通りに部屋から出て行こうとドアに駆け寄った。

 

「まだ終わっていないヨ」

 

ククク…と笑う声が聞こえたと思えば、アタシの身体に何かが巻きついた。

何かっていうか、縄だったけど……。

 

「な、なんで一瞬で縛れるんだよぉ…」

 

「こうやって、僕は殺そうとしてくる鬼子を縛り上げて無事だったんだよ」

 

くっそ、こいつ人を縄で縛っておいて普通に話してやがる…っ!

どんな神経してんだよ。

 

「あぁ、そうだ。変に動いて縄を解こうとしない方がいいヨ…。余計締め付けるカラ」

 

それをもっと早く言え。

 

 

×××××

 

 

身体の節々が痛い。

これが愛の鍵を使ったせいなのか、アタシが変な寝方をしていたせいなのかは、考えない方がアタシの為だろう。

食堂に行くと既に何人か来ていて、東条が作った朝食を食べている。

アタシも東条から朝食を貰うと空いている席に座って黙々と食べながら、今日は何をしようかと思考する。

 

「入間さん、悪いんだけど塩を取ってもらえるかナ?ゆで卵に少しかけたいんダ」

 

同じように朝食を食べていた真宮寺に声をかけられ、アタシのすぐ側に塩の入った瓶が置かれていた事に気づいた。

それと同時に、アタシの中で真宮寺=塩という方程式が組み込まれ、瓶を手に取ると「オレ様がかけてやるよ」と言って、真宮寺の皿に載っていた卵に塩をかけた。

……というか、盛り塩にしてやった。

 

「……これはどういうつもりかナ」

 

「えっと………ゆで卵の盛り塩」

 

遊び心でやったのがいけなかったのか真宮寺がアタシに何か言う前に、いつの間にか後ろに立っていた東条に怒られるハメになった。


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