もう何度目になるかは忘れたけれど、鍵を片手にアタシは夢と妄想で溢れる部屋を訪れた。
朝起きた時には殆どの内容を忘れていたりするけれど、それでもやっぱり全員分は体験したいという気持ちがあるわけで……己の欲望には勝てない。
「今日は誰だ…?」
ゆっくり開けた扉の隙間から、部屋の中を覗いて中にいる人物を確認しようとしたけれど、角度が悪いのかアタシの視界には誰もいない。
仕方ないから一気に扉を開けて部屋全体を見渡したけれど、誰もいない。
えっ、なんで?
「わっ!」
「ひいっ!?」
誰もいないと思ってたのにいたわ。
天井から縄を使って器用に宙ブラリンしてて、突然目の前に王馬が登場してきた。
………お前、何やってんの。
一瞬、お化けかと思った。
「もー、遅いよ入間ちゃん。オレ暇だったから1人遊びしてて部下達に『総統…友達いないんですか?』とか言われたんだよ?」
「はい、ダウトー」
そのまま放置してやろうかと思いながら、アタシはズンズンと部屋の中に入る。
これ、どういう設定なんだろ?
王馬の考えなんて、アタシには分からないぞ。
そう考えている間にも、王馬は縄を解いて見事に着地していた。
テメーは、猫か。
「にしし。ようこそオレの率いる組織のアジトへ!知ったからには生きて帰さないから覚悟してよねー」
「本当にここがアジトっつーなら、お前センスねーな…。オレ様なら、こんな総統は即クーリングオフだな」
ド派手な部屋の内装を眺めながら、ここがアジトっていう設定なのか…と思わず頭を抱えた。
まだ研究教室の方が雰囲気あるぞ。
「たっはー…いきなり痛い所つかれちゃったか。うん、オレもこの部屋のセンス最悪だなーって思ってるけど、これはこれで面白そうだからいいかなって」
面白そうって言ってるわりには、王馬は無表情の真顔だ。
これ、絶対面白そうとか思ってないやつだろ。
「まぁ、この部屋の事は置いといてさ…入間ちゃんの答えを聞かせてよ」
「はっ?オレ様の答え??」
何の事だとアタシが困惑していると、王馬は「えっ……まさか忘れちゃったの?」とアタシ事を哀れみの目で見ていた。
そんな目で見るんじゃない。
「仕方ないなー。大事な話しを忘れちゃった残念な記憶力を持っている誰かさんにも分かるように説明してあげるよ!」
「…残念な記憶力で悪かったな」
むしろ、このラブアパで繰り広げられる設定を知っていろってのが無理だから。
アタシ悪くない。
「入間ちゃんにとって、幸せなのはどっちだと思う?」
「あ?」
「その才能を生かして、オレの組織に入って好きなように発明品を作れる代わりに、たまにオレの依頼も受ける発明家になるか、それとも自分の利益の為に一方的に命令してくるだけのやつらの手足となって、好きな発明品が作れない発明家になるか……だよ」
「………………………」
なぁにそれぇ。
進路の就職先決めるみたいになってるじゃねーか。
なんでだよ。
「因みに、オレの組織に入れば衣住食は確保できるし娯楽もあるし、何より24時間365日オレと一緒にいられるオマケつきだよ」
ごめん、最後のオマケは個人的に困るかな。
振り回される未来しか見えない。
「ケッ、んなもん決まってんだろ」
とにかく、その2つから選べというのならば……
「オレ様はひとまず隠居して、やりたい事やるに決まってんだろ」
どれでもない別の道を作って、やりたいようにやる。
ゴーイングマイウェイってやつだ。
「ふーん……それでいいんだ。ところでさ、入間ちゃん。ここがどこなのか忘れてない?」
「ここがどこかって、そりゃあ……」
ラブアパートだろって言いかけて、止める。
そうだ、最初……王馬はこの場所を何て言っていた?
ニコニコというより、ニヤニヤと笑っている王馬を見て思わず「あー…」と呻いた。
そうだ、一応ここ王馬のアジトっていう設定だった。
「じゃ、オレ様は帰るから」
「本気で逃げられると思ってる?」
逃走条件はこの部屋を出るだけ、本当のアジトならムリゲーだけどこの程度の逃走中ならアタシでもいけるはずだ。
×××××
ベッドから飛び起きて、手元に置いてあったペットボトルを手に取る。
ゴクゴクと水が喉を通るたびに、少しずつ渇きがなくなっていく。
「ふー…」
それなりに喉が潤った所で一息ついて、目を閉じたまま再びベッドにダイブする。
なぜか、ベッドの方から「うっ…」ってくぐもった声が聞こえてきたけれど。
「…………」
これはベッドから離れた方がいいかもしれない。
いや、それよりもまずは正体を確認するべきか。
………なんにせよ、逃げたい。
目を開けて、やけに膨らんでいるベッドの布団を捲る。
なんとなく予想してたけれど、王馬の姿があった。
「なにしてんだよ…」
「あっ、バレた?寝起きドッキリするつもりだったんだけど」
悪びれもせずに笑っている王馬に再び布団をかけて、そのまま担ぐとアタシは部屋を出る。
バタバタと抵抗しようとする王馬は布団が邪魔なのか、上手く抜け出せないようだ。
ザマアミロ。ピッキングで人の部屋に入った報いだ。
階段を上り、目的の部屋の前に来るとピンポーンとインターホンを鳴らす。
運良く部屋の主はいたようで、すぐに部屋の扉は開かれた。
「あら、朝早くから珍しいわね。どうかしたの?」
「悪ぃ東条。これ頼んだ」
そう言って、アタシは布団と王馬を東条に差し出す。
それだけで東条は察したのか、王馬を逃がさないように掴みながら「朝食のリクエストはあるかしら?」と王馬については何も聞かずに朝食のリクエストを聞いてきた。
「んー…じゃあ、軽い軽食がてら卵サンドで」
「分かったわ。それと、まだ食堂が開くまで時間はあるから、彼の事は任せて頂戴」
ようするに、朝食を作るにはまだ時間が早いから、その間は説教しておくってことだな。