「悪いんだけど、オレ様には誰か1人とか選べねーから、3人で仲良く卒業とかできたり……しない?」
朝食バイキングが終わってから、アタシは赤松と最原を連れてと図書室にやってくるなり真っ先にそう言った。
最後の方が弱気になってしまったのは、断られた時の不安が出てしまったせいだ。
別にアタシが小心者というわけではない。
「「別にいいよ」」
一度お互いの顔を見合わせた赤松と最原は、アタシのそんな不安は余計だとばかりに即答したので、すぐに脱力することになったけれど。
「えっ、マジで?本当にそれでいいのか??オレ様の我が儘に付き合ってくれるの???」
「もちろんだよ!入間さんと最原君と私の3人で仲良く卒業っていいと思うよ。それに私からすれば両手に花!なんなら、この気持ちをピアノで表そうか!?」
「いや、そこまでしなくていいっつーの」
というか、両手に花なのはどちらかというと最原の方じゃねーの?
赤松からすれば、最原はヒロインなの?
否定はしないけど。
「僕としては思う事は色々あるけれど…それでもいいんだ。だって、悩んだ末の我が儘を言ってくれるってことは、少しは…その、他のみんなよりは僕らの事を想ってくれているって事なんだし」
言ってて恥ずかしくなったのか、頬を赤くした最原に思わず「はぅ…」と言葉にならない返事をしてしまう。
いや本当にすみません。
アタシは最原の心の広さに感謝すべきかもしれない。
「それじゃあ、これで決まりだね!私達は3人で卒業して…その後は同棲生活を始めるでしょ。で、最原君の探偵業を手伝ったり、私の演奏会で他のみんなと集まったり、入間さんの発明品のアイデアを出し合ったり……うんうん、いいんじゃないかな!」
「赤松さんのその日のオススメで、事務所に流す音楽を変えるってのも面白そうだよね。モノクマーズ達も来るんだよね?探偵事務所のマスコット的な存在になりそうだな…。依頼内容によっては、もしかしたら入間さんの発明品が活躍するかもしれないね」
「私もそれ思った!今から楽しみだよ!!」
どうしよう、赤松と最原の間でもう未来図が出来上がってきている。
気が早いというべきか、誰かこの流れを止めてくれと願うべきか……アタシ置いていかれてる。
そんな未来の話しで盛り上がっている中で、図書室の入り口から「話しは聞かせてもらったっすよ」と第三者である天海が割り込んできた。
どっから聞いてたのかは、怖いので聞かないでおく。
「あっ、天海君。天海君はやっぱりここから出たら海外を回るの?」
「そうっすね。もしかしたら、たまに最原君を借りる事になるかもしれないっすけど、その時はよろしくっす」
「妹さんの事だよね?もちろんだよ」
最原が力強く頷くと同時に、天海は「そういえば、最原君と赤松さんに言っとく事があるんすけど」と言いながら、なぜかアタシの頭にポンッと片手を乗せた。
あー……なんか面倒くさい事になる予感がする。
「入間さんと同棲したいというならば、兄である俺を納得させてからにしてほしいっす」
奇声を上げなかったアタシを誰か誉めてほしい。
今アタシの頭を撫でているこの人は、なんて言った??
「だとしたら、入間さんがもし誰かと付き合う事になるとしたら……」
「その時は、俺を倒せるような人なら許可するっすよ」
当たり前だと言わんばかりの顔で言い切った天海を見て、最原が「天海君が壁になるのか…。僕も少しは鍛えないと……」と深刻な顔で言ってたのは、この際聞かなかった事にする。
「天海君……いくら妹の入間さんが大事だからって、私達の素敵な未来に口出しするのは可笑しいんじゃないかな」
「待って、オレ様妹じゃねーよ?」
「赤松さん達は知らないみたいなんで、この際だから言っておくっす……妹達の口癖は『将来はお兄ちゃんと結婚する』なんすよ」
「なぁ、だからオレ様は…」
「天海君、兄気質の君なら『義兄さん』と呼ばれるのも悪くはないと僕は思うんだ。だったら…」
「俺をそう呼ぶ人が現れるには、まだ100年は早いっすね」
「…………オレ様泣いていい?」
誰もアタシの言葉を聞いてくれない。
お前らアタシの知らない所で誰かに洗脳でもされてるの?
なんで妹として認識されてるの?
もう本当になんなのさ。
誰が特するんだよ、こんな謎の会話。
よく分からないけど、モノクマのせいにしておこう。
そうだ、全部モノクマのせいなんだ。
思い出しライトを影で製造していた白銀の可能性もあるけれど。
「いいっすか、入間さん。赤松さんや最原君と卒業するのは認めるっす。2人とも良い人達っすからね。けど、卒業した後の同棲はお兄ちゃん認めないっすから!」
「何でオレ様が怒られてんだよ!?つーか、誰が誰の妹だよ!?」
シスコンこじらせすぎた天海には、今すぐ治療が必要だと思う。
主に本物の妹さんが今すぐ現れる勢いの荒治療で。
×××××
疲れた。
主にツッコミに。
なんでオレ様以外の全員に、アタシが天海の血のつながらない妹の1人と認識されているんだ。
誰だよそんな意味のない洗脳を施したのは。
ざっけんなチクショウ。
アタシが1人だけ間違えているみたいじゃないか。
いつからそんな認識がされていたからは知らないけれど、眠って明日になれば消える事を願う。
いざとなれば忘れろビーム(物理)を茶柱に頼む。
「うぷぷ……明日には期日だけど大丈夫ー?視聴者はだいぶ盛り上がっているみたいで、どこかで『誰が卒業するのかー!?卒業できないやつはいるのかー!?』って賭け事も起きてるみたいだよ。学園長のボクとしては、オマエラ全員留年させたいんだけどね。そしたら、ドッキドキのワックワクな学校イベントが……ハァハァ、想像しただけで……」
「モノクマかー……」
部屋で1人寛いでいると、ベッドの下からモノクマが突然飛び出してきてマシンガントークを始めた。
そういえば、モノクマはアタシ達のこの10日間の生活の中では余計な事は何もせずに、見守っていくポジションを徹底的にしていたなぁ……。
まぁ、本編みたいに暴れられるのは困るから、これぐらいがちょうど良いのかもしれないけれど。
「久しぶりに話し相手になってやったのに、その『なんだお前かよ』みたいな態度……。流石のボクもこれにはしょんぼりするんだけど」
「むしろ絶望できて嬉しいんじゃねーの?」
「イヤイヤイヤ……この程度じゃ、まだ絶望なんてできないね!むしろ絶望できない事に絶望するしかないっていうか……もう!何を言おうとしたか忘れちゃったじゃないか!」
なぜかモノクマに理不尽な事でキレられて、思わず「なんで怒るのぉ…?」と弱腰になってしまう。
こればかりは条件反射だ。
でもまぁ、モノクマの話しを聞くのが久しぶりな事は否定しないから、マスコットキャラクター扱いされてそうな学園長の話しに耳を傾ける事に……
「えーっと……そうそう、やり残した事とかはないよね?泣いても絶望しても明日は卒業式!このボクのキュートでプリティーで絶望を振り撒く姿が久しぶりに視聴者の目に写る日でもあってーーーー」
「さーて、明日に備えてもう寝るかー」
前言撤回。
どうでもいい話しをしそうだから寝よう。
「ちょっとー!?人の話しは最後まで聞かなきゃオシオキしちゃうんだからねー!?えっ、そもそも人じゃなくてクマだって?ヤダなー、ボクは学園長だよ?生徒は話しを聞くのが当然な義務なのさ。アーッハッハッハ!!まぁ、別にこれといって話す事なんてないんだけどさ。明日の発表をお楽しみにーー!!」
ベッドの下に引っ込んだモノクマを見送ってから、もしかして全員の所にああやって今夜は回っているのだろうかと考える。
変な所で律義というか、なんというか……
「で、この置いて行ったと思われる隠れモノクマはどーしたらいいんだよ!?」
ゲームしてた時には集めていた隠れモノクマだけど、リアルでは置き場所に困るというか、別にいらないかな…。