憑依してしまった以上、救いたいと思った   作:まどろみ

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紅鮭団完結!
ここまでのご愛読、ありがとうございました!!
やり切った感で灰になりそうです。

さぁ、僕はいろいろと落ち着くまで読む専門になるぞぉー


卒業

期日を迎えて朝から体育館に呼び出されたアタシ達が全員揃ったのを見ると、モノクマは「今日で約束の10日が経った訳ですが……」と話し出した途端、明らかに落ち込んだようにショボンとしだした。

 

「オマエラは全員……卒業できる事になりました」

 

やったと内心でガッツポーズを取りながらも、アタシは周りの反応を見ていく。

嬉しいと思いながらも、みんなモノクマの真偽をはかりかねているようで、この後に変などんでん返しが起きたりしないか不安になっているみたいだ。

けれどモノクマが「サブモードで無駄などんでん返しを、起こしたりはしないよ。全員卒業って言うのは、確かにボクとしては不本意だけどね…。まぁ、視聴者がそんな結末を望んだ結果だから、今更どうしようもないんだけど……」と話しながらヨヨヨと泣き真似をしだす。

 

おい、今サラッと息をするかのようにメタ発言出たぞ。

この意味に気づいているのがアタシだけだということで、変に発言できないのが辛い。

だけど、心の中で言うぐらいなら文句ないだろうと納得すると、アタシは腕を組むと口には出さずに叫んだ。

 

メタ発言も大概にしやがれ!!!

 

「ねーねー、なんでそいつらが、アンジー達の結末を決められるのー?」

 

「もうっ!そんな事はどうでもいいんだよ!夢野さんの魔法がどう見ても手品だってくらいどうでもいいんだよ!」

 

アンジーが出した疑問に、モノクマは顔を真っ赤にすると追求は許さないとばかりに大声で叫び、なぜか夢野に飛び火する。

すかさず夢野が「どうでもよくない!ウチが使うのは魔法じゃ!」と抗議するが、モノクマは聞いていないのか「この結末は、決して敗北って訳じゃないからね!」と誰に向かってなのかよく分からない事を言い出した。

 

「オマエラ全員に卒業されても全然悔しくないし、むしろ想定の範囲内っていうか…収まるべきところに収まって、逆によかった気がするっていうか……」

 

ブツブツと言葉を並べるモノクマの姿にドン引きしながらも、赤松がぽそりと「…完全に負け惜しみだね」と呟いた。

それがモノクマにはバッチリと聞こえてたらしい。

 

「だとしてもだよ!ボクは転んでも、タダで起きるようなクマじゃないからね。次にこういう企画を催す事があったら、その時に活かす事にするよ」

 

できれば、その次というのは今回のよりも平和であってほしい。

本編的な問題でだけど。

ていうか……アタシも結構メタ発言を心中でしてる。

モノクマの事言えない。

 

「まぁ、これ以上喋って本編と被るネタばらしをしても仕方ないし、ボクはこの辺でおいとまさせてもらうことにするよ。それじゃあ、バイナラ~!ダンガンロンパとモノクマは永久に不滅だよ~!」

 

そう言い残すとモノクマは姿を消し、残されたアタシ達は『よくわからない事を残して、モノクマ本当に消えやがった』という空気が流れた。

前言撤回。

やっぱりモノクマの方がメタ発言しすぎだわ。

 

「結局、俺らはここから出られるって事でいいのか?」

 

確認するかのように聞いた星に百田は「当たり前だろ!」と即答した。

 

「やっぱりナシだなんて言い出したら、オレが惑星軌道までぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

拳を握り力説する百田のすぐ隣で、春川が呆れたように溜め息を吐きながら「あんたは最後まで口だけたね」と聞こえるかどうか微妙なほどの小声で零した。

 

「でも、ちょっとだけ…本当にちょっとだけなんだけど…ここを出るの、地味に寂しくない?」

 

白銀の呟きに「そう?普通に出られて嬉しいけどネ…」と真宮寺が首を傾げた。

 

「いや、わたしも当然嬉しいんだけど、もう少し、ここにいてもよかったって言うか…。ほら?ここの景色ってコスプレ映えするのが多いから、もう少し浸っていたいんだよね。みんなもない?そういう名残惜しい気持ち」

 

………本編の黒幕怖いって思ったアタシは仕方ないと思う。

だって、白銀の目からハイライト消えてる。

黒幕の顔出てるよ、頼むから引っ込めてください。

 

「…オレはここを出たら、もう1度檻の中だ。そういう意味では…確かに、ここでの生活に名残惜しさはあるな」

 

「離れ離れになるのは…ゴン太も寂しいな…」

 

「でも…ここを出たって、みんなで過ごした時間がなかった事になる訳じゃないよ?ここで手に入れたものを胸に、これからの生活を頑張っていけばいいんじゃない?」

 

励ますかのように言った赤松に「…手に入れたもの?」と春川が首を傾げた。

赤松はそれに答えずに「最原くんはわかるよね?私達がここでの生活で手に入れたもの」と話しを振った。

 

「…う、うん」

 

自分の方に来るとは思ってなかったのか、言葉に詰まりながらも頷いた最原を見て、思わず悪戯心が湧いたアタシはこっそり耳打ちするかのように「恋愛スキルと視聴率の事か?」と小声で最原に聞いてみると、最原は驚いたような顔をしたかと思えば何を考えたのか赤くなりながら勢いよく首を振った。

 

「…絆、だよね。こんな滅茶苦茶な事に巻き込まれなければ、僕達が一緒にいる事はなかった。でも、だからこそ…生まれた絆があるんじゃないかな?」

 

最原へのミスリードに失敗した事に残念な気持ちになりつつも、よくもまぁ、そんな恥ずかしい事が言えるものだと目を逸らす。

けど、そんな最原だからこそみんなが頼り、一緒にいて心地いいと思ってしまうんだろう。

 

「名残惜しいのは変わりねーが…あんたらとの記憶があれば、檻の中での生活も、少しは楽になりそうだ」

 

「ゴン太も、紳士を目指してますます頑張れそうな気がしてきたよ!」

 

名残惜しいとさっきまで言っていた2人の変わりように、東条が微笑んだ。

 

「それに、ここを出たからといって、永遠に離れ離れになるわけではないわ。依頼があれば、私はいつでも駆けつけるわよ」

 

東条のそんな一言に感化されたかのように、王馬が「みんなに会えて、本当によかったよおおおおぉ!みんなの事、これからも大好きだからねー!」と泣きじゃくりながら、アタシの制服の袖で顔を擦る。

アタシの衣服は、テメーのハンカチでもタオルでもねーから今すぐ止めろと言いたかったが、黙り込んだ白銀が気になって何も言わなかった。

 

「そっか…みんながそれでいいなら…」

 

そこから先は聞き取れず、アタシはふっとこの10日間を思い返す。

 

フィクションのような滅茶苦茶な状況で生まれた絆。

 

アタシという存在がいつこの身体から消えるか分からないという恐怖と、もし本当の入間美兎が主導権を取り戻した時の不安。

 

でも、それでもみんなならば乗り越えられるんじゃないかという信頼。

 

ならば、そんな時が来るまでアタシは彼らと同じように、ここで得た嘘偽りのない絆を大事に抱えていこう。

だけど………真実はいつかちゃんと語ろう。

今はまだ無理だとしても。

 

決意を胸に秘め、アタシの……アタシ達の才囚学園での不思議な生活は終わりを告げた。

この後にどんな日常があるのかなんて分からない。

 

 

それでもきっと……

 

 

 

 

 

 

 

その日常はとても、輝かしくて、愛おしいものなんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

「テメー!またオレ様を除け者にしやがって!」

 

「はい~~!?アタシは忠告したけど?『天才のオレ様に限って、同じ間違いはねーぜ!』とか言ってアタシの言った事無視してマシンを起動させたのは、ど こ の ど な た でしたっけ?」

 

もはや日常となっているアタシ達の姉妹のような言い合いに、一室に集まった面々は『また始まった』とばかりに笑って見ていた。

それに不服だとは思ってはいないが、そういう素振りだけ見せようとアタシは「フン!」と鼻で笑ってそっぽ向くと、まだ何か文句を言ってくる彼女の声を遮断するかのように、こちらからの操作でパソコンの電源を落としてやった。

 

今ごろ彼女は地団駄しているだろう。

ザマアミロってやつだ。

 

そんな事を考えていると、フフと自然と笑みがこぼれた。

今頃、みんなさっきの恋愛バラエティーの紅鮭団の話題で盛り上がっているのかな。

これを機に、素直じゃないあの人達の関係に進展があればいいな。

後でこっそりみんなの元に戻って確認しよう。

 

楽しみだとばかりにテンションが上がっているアタシだったが、ふと気づいた気配に平静を取り戻す。

 

アタシの居城たるこのネットワークエリアに、来客が来たようだ。

そうだ、折角だし彼女に頼んで作って貰った……彼らの学園、又は修学旅行のifの絆を育むゲームを振る舞おう。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、アタシの退屈でツマラナイ……けど、希望と絶望が行き交い、真実と嘘が混ざり合う、そんな愛すべき日常で…。誰も知り得ないその先を確かめるとしようかな!」

 

 

まずはその一歩を。

以前よりももっと、固い絆で結ばれた16人と一緒に。


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