勢いで書いていますけど。
おかしな金剛 その①
この鎮守府にはおかしな金剛がいるという。どこがおかしいのかと問われれば上手く答えきれないけど、でも何かおかしい。
転属する前からそんな噂を耳にして、馬鹿馬鹿しいと思っていた陽炎は、実際に噂の金剛と会ってみたらその曖昧な噂に納得がいった。
「ヘーイ、陽炎ガール。ようこそいらっしゃいました。鎮守府一同、ユーのことを歓迎しマース」
両手を大きく広げて歓迎のポーズを取る金剛。
確かにおかしい。
英国の生まれの金剛は、言動にそれを匂わせることがある。陽炎の元居た鎮守府の金剛も、少し独特な話し方をしていた。
だけど、それと比較するとこの金剛はどこかおかしい。何と言えばいいのだろうか、そうだ。似非感が強くなっているとでも言えばいいのか。ちょっと話し方にわざとらしさがある気がする。
「陽炎ガール」
その時、金剛の右目が輝いたように、陽炎には見えた。
金剛はニヤリと口元を歪める。
「ユーの考えていることはお見通しデース」
自身の左目の部分を指さしながらのその言葉。
一瞬ドキリとしたが、それよりも気になることがあった。さっきは触れないであげたけど、自慢げに指をさしている、趣味の悪い眼帯は何なんであろうか。
眼帯を着けている艦娘と言えば、天龍が真っ先に上がるというか天龍以外にいるのか不明だが、あれだって何か意味があって付けているのだろう。鋼鉄の身体の時代に何かあったとか。
だが、金剛のこれは明らかに趣味である。小学生が授業中寝るときにバレないようにと、瞼に落書きしたみたいな眼帯だ。
これはまさか、お洒落のつもりであろうか。
「あの、その眼帯何なんです?」
触れたからには、最後まで突っ切ろう。
「これは私の持つ力、ミレニア〇アイです。これでユーの心を読みました」
陽炎はポカーンと口を開けて固まった。
本気なのか、冗談なのか。なんちゃらアイはまだしも、心を読むだなんて。完全にオカルトじゃないか。科学で証明されていない艦娘の自分が言うことじゃないけど。
すると陽炎は閃いた。
確か、金剛みたいな言動の人を表す言葉を聞いたことがある。誰に教えてもらったんだか……そうだそうだ、曙に龍驤、それと神通だ。
曰く、
『世の中には中二病ってのがあってね。出来もしないことをやろうとして、自分には力があるだなんて馬鹿なことを言う奴らよ。あんたみたいな』
『ピーターパンや。永遠の少年たちや』
『えと、頭の中で考えていることを、常に演戯している人たち、と言えば分かりますか? 分かりませんか?』
こんなんだったろうか。
しかし思い起こせば曙はさらっと侮辱してきた。次会った時は、あの小憎たらしい顔に12・7cm連装砲をお見舞いしてやろう。
泣きながら噛みついてくる想像上の曙に、陽炎はくししと笑った。
それにしても中二病だ。
他にも、中学二年生ごろの子がかかりやすい不治の病であるとも聞いたことがある。中学二年生と言えば、今の自分ぐらいだろうか。だいたいの駆逐艦娘がそうだろうか。
病気。目の前の金剛が病気。そう考えるとそうかもしれない。
だから、普通の金剛とはおかしいのかも。
「あの、金剛さん。病気大変でしょうけど、頑張って下さい」
「ワッツ? 病気?」
「はい。中二病っていう病気だから、金剛さんはそんなおかしな言動をしてるんですよね」
ぴしりと金剛にひびが入った。
今までのおおらかでオーバーな感じが無くなり、額に手を当ててぶつぶつと何かを言い始める。
「……別に中二病じゃないわよ。偉大なる会長をリスペクトして……あれ、それを中二病って言うんじゃないっけか……でも、やっていると楽しいんだもん。本来の金剛だって似たようなもんなんでしょ。何が悪いって言うのよ……」
どんより。
何か地雷を踏んだかも、と陽炎は慌てふためくと同時に、軍艦の自分が地雷を踏むっていうのも何か新鮮と少しの嬉しさ。
五分後。ほっとくとこのままずっとぶつぶつ不気味なことになりそうな金剛に、原因の陽炎は声を掛けた。
「金剛さん、そろそろ」
「……だからって、中二病……オー、ソーリー。自分の世界に入ってしまいました。それよりも陽炎ガール」
復活した金剛は、ずいっと陽炎に顔を近づける。
「あんまり滅多なことを言わないことです。暗いくらい闇の世界に行きたくはないデショ?」
陽炎はぶるりと震えて、高速で頭を縦に振った。
声がマジトーンだった。
陽炎の反応に気を良くした金剛は、元の位置に戻る。
安堵にはふっと胸を撫で下ろす陽炎。
そこで、ふと思ったことがあって金剛に尋ねた。
「そういえば、何で金剛さんここにいるんですか?」
「んっ? オー、忘れてました。私は陽炎ガール、ユーの案内をするためにここに来たのデース」
「案内……? あっ」
思い出した。
鎮守府で最も偉い人物、鎮守府の王様たる提督に着任の挨拶をした後、ここで待っている様に言われたのだった。そして、言いつけ通り待っていたら、変人もとい金剛がテンション高めでやって来たのである。
つまり、この人が、この鎮守府の案内をするわけだ。陽炎は不安になった。
大丈夫だろうか。
この鎮守府はそこまで大きな鎮守府というわけではない。平均よりは大きいだろうけど、自分が元居た場所よりは小さいと思う。
だけど、言っては何だが金剛は信用に足らない。悪い人ではないのだろうけど、上手く案内してくれるのだろうか。
案内されて場所覚えていませんでした、よく分かりません、とかなれば怒られるばかりではなく、自分の元居た鎮守府の名誉にも関わって来る。その責任は自分にあるのだろうけど、でもわけの分からない案内をされては困りものだ。
考えて、陽炎は大丈夫か、と結論づけた。
任された以上はきちんとやってくれるだろう。あんまり心配する必要もない筈だ。
なんせ、腐っても金剛なのだし。
「それでは、よろしくお願いします!」
これからの生活の世話になるのと、今回の案内。二つの挨拶のために、陽炎は深々と頭を下げた。敬礼の方が良かっただろうか。反応が気になる。
金剛は「頭を上げて下サーイ」と軽やかに言葉を紡いだ。
そして握手を求めてくる。
「これからよろしくお願いしマース」
陽炎は差し出された手を握った。