金剛・J・クロフォード   作:フリート

13 / 23
おかしな金剛とお出掛け その③

 昼食を取るためにやって来たレストランは、時間帯が時間帯だったために閑散としていた。本来だったら、甘いものでティータイムの時間である。人はだいたいそちら方面の店に流れているのだろう。ちなみに、このレストランを勧めたのも金剛だ。

 店に入ってドアベルがからんからんとなる。すると、店員が満面の笑みで応対してくれた。お仕事用の笑みではない、本当に歓迎してくれているらしい。何て良い店だ。ここはお気に入りの店として脳内で登録しておこう。やけに金剛が推して来ると思えばこういうことだったのか。

 店員に案内されるまま、陽炎たちは一番奥の席へと向かった。途中、客が振り返って陽炎たちを見ていたが仕方ないだろう。スーツで眼帯のコスプレみたいな美女に、儚げな着物美人と中学生らしき子供。嫌でも視線が集まるというものだ。

 席に着いたら、店員が冷たい水を持って来てくれた。案内してくれた人とは別の人だったけど、この人の笑顔も素敵だ。水も格別に美味しく感じる。

 

「グッドなレストランでしょ?」

 

 陽炎の対面に座る金剛がニヤリと笑って足を組んだ。足が長い。後、行儀が悪い。

 

「ここのレストランは特別なサービスをしているわけではありませんが、接客がワンダフォ! 私が初めて訪れた時は、それはそれはびっくりデース! 唖然としました」

 

 水を一口。ガラスのコップで水を飲んでいるだけなのに、凄く絵になる金剛であった。

 

「そうね。私みたいな人にもあんな笑顔で。良いお店ね」

 

 金剛に同意するように山城が微笑んだ。さらりとネガティブ発言をするのは止めてほしい。

 

「さて、オーダーしましょう。味も保証しますから安心して頼んでくだサーイ」

 

 バッと金剛がメニュー表を広げた。そこにはさまざまな料理名が食べてくださいと主張するように記載されている。写真を見るとどれも美味しそうで直ぐに決められない。

 

「私は焼き魚定食で良いわ」

 

 山城は焼き魚定食のようだ。何を頼めば良いのか分からないから取りあえず和食系を選んでみた、という顔をしている。

 

「私はこれデース。ステーキ定食」

 

 金剛はステーキ。

 これで決まっていないのは陽炎だけである。どうしようかと思ったが、ここは定番で行くことにしよう。

 

「私はハンバーグ定食にするわ」

 

「決まりですね? ヘーイ、そこのガール! オーダーデース。焼き魚定食、ステーキ定食、ハンバーグ定食を一つずつ。OK?」

 

 偶然近くを通りかかった店員を呼び寄せて金剛が注文した。実に日本らしくない注文だった。流石欧米生まれである。店員は笑顔で注文の内容を繰り返してから厨房へ向かって行った。

 

「そういえば、金剛さん。ボディーガードって誰なのよ?」

 

 料理が届くまでの間暇なので、書店の時から気になっていたボディーガードのことについて金剛に尋ねた陽炎。それに反応したのは、質問された金剛ではなく何のことか分からない山城であった。

 

「ボディーガード?」

 

「山城さんは知らないの? 何だか山城さんにボディーガードが付いてるって金剛さんが言ってたけど」

 

「私は知らないわ? 誰にも頼んでないし」

 

「ふ~ん。金剛さん、知ってるんだったら教えてよ」

 

 無言である場所を指さす金剛。

 指を指している先を視線で辿ってみると、出入り口を指していることが分かった。そして出入り口で、店員が何やら揉めている。

 誰と揉めているのか考えれば、それはだいたい客しかないだろう。こんな良いレストランに一体何者がケチをつけているというのか。

 

「あ……っ!」

 

 陽炎が思わず叫んで立ち上がった。この一連の動作で、陽炎に客からの注目が集まる。ぺこぺこ頭を下げながら席に座る陽炎。

 しかし、あの店員と揉めている人物は間違いない。

 書店の二階で見た、あのスカーフサングラスの謎の人物である。

 あれは、あまりにも怪しすぎて店員に止められたに違いない。思えば、書店で堂々と本を読んでいたのもおかしかったのだ。何で書店の人は追い出しにかからなかったのか。やっぱり陽炎と同じで怪しすぎて逆に信頼出来ると判断したからか。

 ともかく、謎の人物と店員が揉めている。

 待てよ。先ほど金剛にボディーガードが誰なのか質問した時、彼女が指さした先には店員と謎の人物がいた。あれが答えだと言いたげだった。

 店員がボディーガードということはないだろう。そしたら必然的に残るのは謎の人物。ということは、謎の人物こそが山城のボディーガードだったのか!?

 

「仕方ありまセーン」

 

 やれやれと首を振ってから金剛が立ち上がった。何をする気かと思えば、出入り口に向かい店員と何か話を始める。それから、謎の人物を無理やりこちらに連れて来た。

 陽炎の目の前に謎の人物が出現する。

 

「というわけで、彼女が黒咲もといボディーガードデース」

 

 近くで見ると凄い。

 それにしても謎の人物が山城のボディーガードだったとは。全然ボディーガードに見えない上に完全に襲う側の恰好である。というか黒咲って誰?

 その時、謎の人物を間近で見た山城が驚いたように呟いた。

 

「……お姉さま」

 

 今明かされる衝撃の真実! 

 謎の人物、ボディーガードの正体は山城の姉妹艦扶桑だったのだ。

 

「私は扶桑ではないわ」

 

 否定するその声は完全に扶桑のものだった。それに否定したところで、妹を誤魔化すことなど出来ないのである。

 

「嘘をつかないで」

 

「あっ」

 

 スカーフとサングラスを山城が取り上げると、その下から出て来たのは山城にそっくりな扶桑の顔であった。これで扶桑は言い逃れが出来ない。

 山城が悲しそうな表情で言った。

 

「どうしてこんなことを」

 

 どうしてこんな不審者みたいな恰好をして妹をストーキングしていたのか。まあボディガードとか言っても本人が知らないんじゃストーキングと大差ない。しばらく黙っていた扶桑であったが、観念したのかぽつりぽつりと語り始めた。

 

「あなたのことが心配だったの。あなたにもしものことがあったらと思うと夜も眠れなくて、それで……金剛に相談したら、良いものがあるって」

 

「それがこれ?」

 

「ええ」

 

 扶桑がこんなことをやったのは妹を心配する姉心が原因のようだ。陽炎的には間違っている行為だけど、妹を心配するその気持ちは同感を持てる。だけど、扶桑の隣で笑いを堪えている人に相談をしたのは早まったのではないだろうか。

 姉の気持ちを聞かされた山城は感極まったように、瞳に水分を含ませる。

 

「嬉しいわ、お姉さま」

 

 山城が扶桑をきつく抱きしめた。

 嬉しい、ありがとう、と繰り返し言っている山城を、扶桑もおずおずと抱きしめ返す。

 いきなりの感動シーンである。

 

「はぁ……はぁ……お姉さま、すんすん」

 

 だからこれは見なかったことにしよう。鼻息を荒く姉の首筋に顔を埋めて匂いを嗅いで欲情している妹がいたことを。

 美しい話として終わらせよう。

 感動の光景にこちらをがん見していた客から拍手喝采が沸き起こった。

 

「そういえば、私もお腹が空いたわ」

 

 それから扶桑も一緒に昼食を取ることになったので適当に注文を頼んだ。どうやら扶桑も食べていないらしかった。早々と伝票と料理を持って来た店員はやはり惚れ惚れする笑みを浮かべていて、流石と思ったと同時に多分もう店に来れないとがっくりする陽炎であった。

 

 

 余談だが、遅い昼食を食べ終って鎮守府に帰って来た一同を待ち受けていたのは良い顔をした長門であった。レストランの店員に負けず劣らずの笑顔だった長門は、扶桑の首根っこを捕まえるとどこかへと消えて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。