金剛・J・クロフォード   作:フリート

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閑話 秘書艦長門のおかしな悩み事

 長門にはある悩み事があった。それはここ最近のものではない。随分前から頭を悩ませさらに頭痛の種となっているのだ。

 あんまり頭を使うのは得意ではないけどそれでも放置して良い問題ではないので必死に解決策を考える。考えて考えて考え抜いて、結局何も出てこない。

 長門が何に頭を悩ませ何を考えているのか、それはたった一つだ。

 

 ――この鎮守府は変な奴が多すぎる。

 

 これに尽きるのである。

 特に戦艦や空母クラスの大型の連中。奴らは一体何を考えているのか分からない。一回頭を解剖して覗いて見たいと真剣に考えた事もある。他の鎮守府ではそんな問題は聞いたこともないのに、どうしてここの鎮守府にだけ変な奴ばかりいるのか。

 今日も考えながら歩いていると。

 

「山城ぉぉぉぉぉ!!」

 

 廊下のど真ん中で姉妹艦の名前を叫ぶ戦艦扶桑に出くわした。ここ最近の彼女の動きは長門の理解の範疇を超えている。

 先日こんなことがあった。

 仕事がある筈なのに姿がなかったから探し回ってみれば、スカーフとサングラスで顔を隠していた扶桑が町に繰り出したのを見たという者がいたではないか。

 帰って来るのを待ってみれば、他三名と一緒にニコニコ顔の扶桑。仕事をさぼった分際で良いご身分だと思ったので即座に捕まえて折檻してやった。

 話を聞いて要約してみれば、妹をストーキングしていたと言うのだ。それは洒落になっていないのではないだろうか。

 とにかく、こんなところでいつまでも叫ばれては堪らないので話し掛けてみる。

 

「扶桑」

 

「あら、長門じゃない」

 

「お前はこんなところで何をしているのだ?」

 

「山城がいないのよ。もしかしたら誘拐でもされたんじゃ」

 

 されるわけないだろう。ここをどこだと思っているんだ。

 ここは鎮守府で山城は戦艦。一体どこの誰が攫おうと考えてどこの誰が実行に移せると言うのだろうか。

 それにしても山城であれば、ついさっき陽炎と一緒にどこかへ行くのを見た気がする。長門はそのことを扶桑に伝えた。

 すると。

 

「山城ぉぉぉぉぉ!!」

 

 叫びながら走り去って行った。

 危ないから廊下を走るのは止めてほしいのだが……長門は大きなため息を一つ吐いてから歩き出す。

 とどのつまり、先ほどの扶桑のような変な人ばっかりな実情に長門は頭を悩ませているのだった。

 本当にどうにかしたい。

 ちょっぴり痛み始めた頭を抑えながら長門はお腹が空いたこともあって食堂へと向かった。

 今日は何を食べようか。あっさりといくか、がっつりといくかどうしようかと少し気分を高揚させながら目的地を目指す。 

 嫌なことはご飯でも食べて忘れることにしよう。いや、忘れてはだめだ。でも取りあえずご飯を食べている間はゆっくりとしよう。

 

「さて、何を食すか……な」

 

 傍目で見ればそうでもないがルンルン気分で食堂へ乗り込んだ長門は、次の瞬間にどこかへと食欲が吹き飛んだ。

 

「美味しいわね」

 

「ええ、これだけが生きがい」

 

「もう、加賀ったら」

 

 色々と山盛りの食事を取っている空母の赤城と加賀を見つけた。文字通り山のように盛り上がった白米と竜田揚げを口いっぱいに放り込んでいる。

 見ているだけでお腹がいっぱいになってきたと言うか、気分が悪くなってきた。

 何をやっているんだ、大食い大会をやっているんじゃないんだぞ。

 そして長門は知っている。これが毎日の光景であることを。毎日毎日よくあれだけ消費出来るものだと、長門はある意味で感心した。

 長門は一時、二人の食べっぷりを眺めていたがやがて踵を返して食堂を後にする。

 今は食べ物を見たくなかった。

 

「これからどうしようか……」

 

 今日の分の書類仕事は既に終わらせており、提督からも用事は仰せつかっていない。

 何をしようか迷った長門。いつものところに行こうか……長門がそう思った時、その長門の前にある艦娘が立ち塞がったのだった。

 巫女服を上手に着こなし左目に眼帯を着けた戦艦である。

 長門は彼女のことを一番の親友であると認識している。彼女もそう認識しているだろう。それと同時にこうも認識している。

 おかしな奴筆頭。

 

「金剛、か」

 

「ヘーイ、長門ガール。こんなところで何をしているのですか?」

 

 相変わらず変な口調であった。

 金剛という軍艦が英国で作られたことは周知の事実である。だから英国訛りというかそういうものが出ていても仕方ないと思うし長門も気にはしない。

 だけどこの金剛は違うのだ。明らかに英国訛りというよりは米国訛りである。というか日本人が想像する米国人の日本語の話し方みたいなのだ。しかも普通に日本語で話せるくせにわざわざそんな話し方をしているというのがミソである。

 何の意味があってそんなことをしているのか問いただしてみたい。長いつき合いだからさして気には留めなかったのだが、悩み事のことを考えていると非常に気になるのだ。

 

「長門ガール?」

 

 ガールって何だよ、ガールって。 

 普通に長門って呼べよ、と言いたくなったが言わない。言ったところで直るとは思わないし、それよりも今は話を長引かせたくない。

 頭の痛みが増してきたから一刻も早く金剛から離れたいのである。

 

「すまんな。私はこれで失礼する」

 

「ワッツ?」

 

 だから失礼するって言ってるんだよ。

 長門は金剛の隣を通り抜ける。背中に金剛の視線を感じるが全面的に無視した。

 くそっ、頭が痛い。この頭の痛みの原因を早く取り除きたいが何も妙案が浮かんでこない。戦艦も空母も重巡洋艦も軽巡洋艦もどこかおかしい。救いはないのだろうか。

 長門が頭を押さえていたその時だった。

 

「どうしたの長門さん」

 

 耳に入って来る少女の声。蕩けるように甘いそのボイスは、長門のかち割りたくなるような頭の痛みを彼方へと吹き飛ばした。

 ああ、救いはあったのだ。

 頭を下げて視線を下に向けると、そこにいたのは泣きそうなぐらい長門を心配している少女の姿。駆逐艦娘の暁であった。

 

「暁」

 

 思わず長門はその少女を抱き上げた。苦しくないようにそれでもしっかりと宝物を抱くように。

 

「長門さん?」

 

 よしよし。

 暁が長門の頭をなでなで。長門は鼻から血を噴き出しそうになったが気合で止めた。

 刺激が強すぎる。

 

「嫌なことでもあったの?」

 

 あったのだ。だけどもう構わない。嫌なことがあるしそれは解決していないけれど、今救われているのだから。もうどうだって良い。

 ああ、マイスイートエンジェル。

 

「暁こそ、何かあったのか?」

 

「うん。これから間宮さんのデザート食べに行くから、長門さんと一緒に行こうと思って」

 

 長門は自分に出来る最高の笑顔で了承した。

 扶桑が妹ラブでも、赤城と加賀が食糧吸引艦でも、金剛が似非米国人でも構わない。他の艦娘たちがおかしくても構わない。悩み事が解決出来なくても構わない。何故なら救いはあるのだから。

 天使はいるのだ。

 

「行くわよ長門さん! ゴー!」

 

「ああ」

 

 長門はすっきりとした頭で恐らく響、雷、電が待っているだろう場所に向かって行くのであった。

 

 

 その様子を見ていた陽炎は言った。

 

「長門さんは相変わらずね」

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

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