おかしな金剛と愛情 その①
「……ドコニイルンダ」
大海原を移動しながら少女は呟いた。
全身不健康そうな真っ白い肌に怪物のような尻尾を生やした異形の少女。キョロキョロと辺りを見回して何かを、いや誰かを探しているようだった。
頬を赤く染めているその表情はまるで愛しい人を求めるようで。いや、まるでではなく本当に愛しい人を求めているのだった。
愛しい人に出会ったのはほんの数か月前のことだ。いつも通り少女が天敵の群れを襲撃していた時だった。愛しい人は少女の前に姿を現すなり攻撃してきたのだ。その愛しい人も天敵だったので別段当たり前のことでそこは気にするところではないが、少女はその愛しい人の攻撃で生まれて初めて痛みを覚えた。
生まれてからずっと傷一つ負ったことがなく、天敵の攻撃も一切通用しなかったのに、愛しい人の攻撃は初めての傷をつくり初めての痛みを与えてきた。
少女はこの時、苛立ちよりも困惑を強く感じた。どうして痛みがあるんだ、という困惑もそうであるが胸がドキドキして身体が熱くなったからの困惑が大きかった。
それが恋だと、それが愛だと分かったのは愛しい人が既にどこかへ行ってしまった時。あの時は愛しい人が何をしに来たのか不明だったが、今思えばあれは最初に少女が襲っていた天敵の群れを助けに来たのであろう。
その日以来少女は愛しい人を思い続けた。
もう一度会いたい。
愛しい人から受けた傷を治した少女は、直ぐに愛しい人を捜索することを始めた。だけれど思うようにいかない。愛しい人を見つけたと思えば別の個体でがっかりしたこともあった。
初めて会った時からずっとずっと探しているのに、ずっとずっと見つからない。会えない時間が長引いて行くと、会いたい気持ちがどんどん溢れてきて我慢が出来なくなる。
会いたい。
会いたいよぅ。
何とか自分を抑えるために、少女は我慢の限界が来たら初めて会った時のことを思い出して何とか耐え抜いてきた。
愛しい人の顔を思い浮かべると、少女の胸がドクンドクンとときめいた。肌の色とマッチするように冷たい体温がマグマのように燃え滾る。
抑えきれなくなって時々基地の壁を粉砕したりして怒られたりもしたけど、少女にとってそんなことはどうでも良かった。
再会したら何をしようか、少女は心に決めていることがある。
それは、愛しい人を傷つけること。
少女は考えていた。
自分はこうして愛しい人を愛しているけど、愛しい人は自分のことをどう思っているんだろう。多分、ただの倒すべき敵としか見ていないのだろう。
そんなのは嫌だ。
自分のことも愛してほしい。
じゃあ、自分のことも愛してもらうにはどうすれば良いのか。愛しい人を傷つけることにしたのだ。自分は傷つけられて、愛しい人を愛しいと思うようになった。ならば愛しい人を傷つければ、自分のことを愛してくれるはずだ。
お互いに愛し合いたい。
傷をつけて、傷をつけられたい。
傷つけ合うことは愛し合うことなんだ。
少女は考えた結果そういう結論に至った。
そして今、少女は有益な情報を入手していた。何と、この辺りの海域によく愛しい人が現れるらしいのである。つまりこの辺りを探していれば、いずれ愛しい人の住む場所に辿り着けるかもしれない。
そういうことで、少女はこの近辺を探し回っていた。
だけど、探せど探せど一向に見つからない。折角もう少しで会えると思っていたのに歯がゆかった。
こんな時こそ愛しい人のことを思い浮かべるべきだ。
少女は愛しい人の笑顔を思い浮かべた。この笑顔は自分に向けたものではない。それを考えると胸の内が満たされると同時にこの笑顔を自分にだけ向けてほしいと思う。
その笑顔は自分にだけ、そう自分にだけ向けていれば良いんだ。
邪魔な奴は消しちゃおうか。
少女は決意した。
そうと決まれば早く会いに行かなくちゃ。
高まってきた少女は、愛しい人に向けて自身の思いの内を声に出して言うのであった。この近くにどこかにいるであろう愛しい人へ届けと願いながら。
「……大好キ……大好キダ――金剛」