「何ダッテ?」
やりやがったな、あの女。
陽炎は今すぐにでも金剛の隣に向けて魚雷を叩き込みたくなった。
何を考えているのか分からない。何がしたいのか分からない。遠回しの自殺なのか。だったら他の人を巻き込むなよ。どうしてこういうことをするんだ。やって良いことと駄目なことの区別ぐらいつくと思うのだが。
今回は一番やってはいけないパターンである。
「私以外ニ好キナ人? ドウイウコトダイ、金剛」
「えっ? あっ、その」
わたわたと狼狽える金剛。どう答えるべきか迷っているのであろう。
正直に答えれば金剛の愛する提督の命が危ない。さりとて嘘を答えてもこういうタイプは確実に見破ってくる。限定的だが、ある意味金剛以上にマインド・〇キャンを使いこなすのだ。
中々答えない金剛にレ級の視線が鋭くなる。
「オカシイネェ……私ハコンナニ君ノコトヲ愛シテイルノニ、君ノ愛ハ私ニ向イテイナイ……」
「あの……」
「フフ、冗談ダヨ。私ハ分カッテルヨ。ソイツノ嘘ッテコトグライ」
「あ~」
「モシカシテ、本当ノコトナノカイ」
どう答えても待っているのはバッドエンドだ。嘘と答えれば強制的にレ級との純愛ラブストーリー。本当だと答えれば昼ドラ展開待ったなし。
「本当のことよ! あんたなんかよりずっと可愛らしい人なんだから」
だから余計なことを言うんじゃない。瑞鶴を何とかしなければ、このままでは被害が拡大する。そう思った陽炎は、瑞鶴の姉妹艦である翔鶴に視線を送った。
しかし翔鶴は俯いてぶつぶつ何か言っていて陽炎の視線に気がつかない。
「……妹の教育を間違えたわ。私はやっぱり不幸艦なのよ」
取りあえず使い物にならないのは確か。
ならば雪風でどうだ。一緒に来ていることを忘れていたが、腹の底で何を策謀しているか分からない彼女ならば、瑞鶴どころかレ級をどうにかする方法すら思いつくに違いない。そう思って陽炎が雪風の姿を探すが見当たらなかった。よく見ればかなり離れた位置に人影が。
雪風は既に逃げる準備が整っているらしかった。流石幸運艦。幸運は自分で掴み取るというわけか。
比叡は論外として、後は自分だけである。だけど出来るんだったら初めから他人に頼ろうとはしない。このまま黙って事態の推移を眺めているしか術はなかった。
「許セナイ、許セナイヨ……私以外ノ好キナ人ナンテ金剛ニハ必要ナイヨ。友達モネ!」
「何それ、意味わかんない」
「ダッタラ教エテヤルヨ。アノ日カラズット、金剛ハ私ノモノッテコトヲネ」
「ヨハンボーイ! あっ、間違えました、瑞鶴ガール! 後ろに下がるのデース」
言われた通り瑞鶴は後方にホバー。瑞鶴のいた場所にレ級の砲撃が炸裂した。
ていうか、ヨハンて誰?
「流石金剛ダ。私ノ考エテイルコトガ分カルンダネ。ヤッパリ、私タチハ繋ガッテイル」
レ級は嬉しそうに笑った。
「金剛。私以外ニ好キナ人ガイルナンテ嘘ナンダ」
「それは……」
金剛は言い難そうに言葉を詰まらせると、やがて、ふうと息を静かに吐いた。覚悟を決めたように見える。それから先ほどまでの慌てぶりもどこへやら、真剣な目そのもので口を開いた。
「ごめん。私には好きな人がいるわ」
いつもの似非口調を仕舞った、本音の言葉。少しばかり歪んではいるがレ級の金剛に対する愛は本物だ。陽炎もそこのところは理解している。正直な話、提督がいなければレ級の応援をしていたと思う。
金剛だってそれは分かっているから、こうして偽りのない気持ちで答えを出しているのだろう。
「だから、あなたの愛は受け取れません」
深々と頭を下げる金剛。
この金剛の真摯な答えを受け取ったレ級は、ショックだったのだろう、ふらふらと崩れ落ちる。そしてゆっくりと立ち上がると、グワっと目を見開いた。
「ソウカイ、君ノ愛ハ私以外ノ奴ノモノナンダネ。デモ、金剛。ソンナ奴ヨリ私ノ方ガ良イニ決マッテルヨ。ソウカ、私ノ愛ガ足リナカッタンダネ。ダッタラ、モットモット私ノ愛ヲ感ジテヨ、金剛!」
レ級の尻尾から爆音と一緒に飛び立つ砲弾。
まあ、こうなると思っていた陽炎だった。
さて、ここから振り出しに戻るのであろうかとあくびの一つもしたくなる。が、どうやら本来の任務遂行の時間がやって来たらしい。
「このままでは埒があきまセーン。私は私自身の特殊能力で、場に艦娘たちを特殊召喚しマース。比叡、陽炎ガール、雪風ガール、翔鶴ガールを特殊召喚! これで場には私を含めて六人の艦娘が揃いました。総攻撃デース!」
何だこのノリ。
げんなりしつつも主砲をレ級に向ける陽炎。ちょっとだけ倒すのがかわいそうというか、やっぱり怖いというのがあるけど、赤信号、皆で渡れば怖くないの原理で戦おう。
「やっぱり怖い! 見捨てないでぇ!」
ドオン、と強烈な砲撃音が鳴り。
「それじゃ、雪風もちょこっとだけ本気を出すのです」
いつの間にか戻ってきていた雪風の主砲が火を噴き。
「行きなさい、艦載機たち!」
「行っけぇ!」
上空からこれでもかと爆弾が投下され。
「ネームシップの力を受けなさい!」
これも喰らっとけとばかりに魚雷が発射される。
ドドドドドドドドン!
これはやり過ぎではないかとばかりにレ級に襲い掛かった。全攻撃命中。レ級は爆炎の中に飲みこまれる。レ級の姿が見えるようになると、これだけやられるとダメージがあるのか息を荒げていた。
「コノ私ガ、ココマデ……」
縋るように金剛を見るレ級。
だけれどそれに応えることが出来る筈もなく。
「バーニングラーブ!」
止めの一撃がレ級を包み込んだ。レ級の認識する世界が炎と黒い煙に覆われる。
「さようならデース……そしてありがとう」
「オノレオノレオノレ、金剛!」
その言葉を最後にレ級は海上から姿を消したのであった。
「さあ、帰りましょう」
何とも後味が悪い気がするが、とにもかくにもこれで任務は終了。金剛は何か釈然としないまま、陽炎たちと一緒に鎮守府へと戻っていくのであった。
「おかしいのデース。やはり悪寒が……」
陽炎たちが去っていった後の海上。
そこには、潮風に優しく頬を撫でられながら、一人の艦娘が不思議そうに自分の身体を眺めていた。頭や首筋、お腹や背中を触って本当に自分の身体かどうか確認する。
確認が終わって自分の身体だということを認識すると、少女はうっとりと顔を綻ばせた。
こんなことが起こるなんて奇跡だ。これは神様からの贈り物かも知れない。
さっきは自分の愛を拒否されてしまったけど、きっと彼女は自分の愛を受け入れる準備が出来ていなかったんだ。
そうだ。
そうに決まっている。
彼女は自分のもので、自分は彼女のもの。これは不変の法則で何人も犯すことの出来ないものなのだ。
確か向こうの方だったね。
少女が視線を向ける先。そっちはとある鎮守府が存在する方向。
ゆっくりと少女はその方向に進みだす。
「君は私だけを見ていれば良いんだよ、ふふふ」