「パルメザンチーズ、超展開でアール。まるで意味が分からんザウルス」
英国生まれの高速戦艦金剛は愛する提督が何を言っているのか理解出来なかった。頭の中がぐるぐると混乱している。その証拠にキャラ崩壊も甚だしい。両頬に両手を当てて大口開けてアッチョンブリケ。
確かに自分は偉大なるペガサス会長をリスペクトして、彼の口調を真似たりしているがこの世界は遊戯王の世界ではない筈だ。なのに本家遊戯王バリの超展開到来である。どうしてこんなことになってるんだ。
時間はレ級を討伐してからさほど経っていない。鎮守府に帰って来た金剛は嫌なことを忘れるようにルンルン気分でティータイムに洒落込もうとしていた。比叡たち姉妹だけではなく、今日一緒に出撃した皆で楽しもうじゃないかと準備をしていたのだ。
その時に提督からのお呼び出し。
どうしてか自分だけで、何か報告に不備があったのであろうか、もしかしたらついに提督が自分の愛を受け入れてくれるのであろうか、とムンムンモンモンしながら執務室へ。
提督、ユーを愛する金剛が来たのデース、とばかりに中へ入ったらそこには異様な光景が広がっていた。
執務室にいたのは提督だけではなかった。提督を含めれば数にして三人。提督と長門と身長からして駆逐艦の女の子。
何を以って異様な光景かと言えば、一言で言うならばだ。
長門が血の海に沈んでいた。
部屋中に鉄錆のごとき臭いを蔓延させて、彼女は右腕を投げ出した状態で倒れ込んでいる。まるで殺人現場のようであった。
そんな部屋で平然としている提督と女の子。
これは異様な光景だと断言せざるを得ない。一体誰が長門をこんな目に遭わせたのか、提督の仕業なのか、それとも女の子の仕業なのか。
口から血を垂れ流している長門を殺害した犯人は!
執務室の内情をここまで確認した金剛はこのことの思考をここで止めた。ぶっちゃけ長門がどうなろうがどうだっていいし。
提督が慌ててないという事は大したことではないのである。
長門にはこのまま死体になってもらうとして、金剛は本題に入ることにした。
「提督、一体どうしたのデース。私に何か問題でもあったのでしょうか」
「そういうわけではありません。実はこちらの吹雪ちゃんのことでお呼びしたんですよ」
この吹雪ちゃんとやらは何者であろうか。
駆逐艦娘であることを念頭に置けば、そこで血だまりの主となっている、『永眠せし駆逐艦娘の番人レッドバブーン』がまたぞろどこかから誘拐してきたと考えるべきだが、どうもそういうわけではなさそうだ。
「吹雪ちゃんは先ほど保護したんです」
「保護、ですか?」
「そうです。それでお話を聞いてみると、金剛のお知り合いみたいなのでお呼びしたんですよ」
「ミーの? 申し訳ありませんが、会ったことはありまセーン」
「へっ? でも吹雪ちゃんは会ったことあるって……それもただの知り合いじゃないって言ってましたよ」
提督がそう言うと、吹雪ちゃん改め吹雪は金剛に熱い視線を送った。彼女の金剛を見る目は確かにただの知り合いに向けるものではない。
どこかで会ったことがあるのか。
金剛が過去の記憶を必死に遡っていると。
「金剛。また会えたよ」
この時、金剛はゾワリと背筋に冷たいものが走るのを感じた。この感覚は真新しいものだ。三日前から感じているものと、そして今日鎮守府に帰る前に感じたものと同一。
そこで金剛は吹雪の全体像を詳しく脳に叩き込んだ。
容姿自体は見たことがない。これは間違いないのだ。でも身に纏っている雰囲気は既知のもののような気がする。ついさっき同じ雰囲気の人らしきものと会ったのだ。あんな特徴的な雰囲気は忘れようと思っても忘れられない。いや、忘れようとしてティータイムをしようとしていたのだ。
この吹雪って子、まさか。
「金剛」『金剛、私ノ愛ヲ感ジテヨ』
まさか、そんな筈は。
金剛は吹雪の正体が分かって身も心もブリザードに襲われる感覚を味わった。
吹雪だけにブリザード。
ちょっとだけ上手いことを考えたな、と金剛は思った。
そんなことより吹雪の正体である。こんなことがあって良いのであろうか。いや、駄目。
固まった金剛に吹雪が抱きついてくる。子供がダッと走って来てギュギュっと抱きつくようなものではなく、優しく包み込むように。
「金剛、愛してるよ」
完全にレ級の意識を持っている吹雪は、上気した頬を金剛の胸に摺り寄せ、右手は背中を抱き、左手は頬を撫でる。
固まっている金剛はされるがまま。
その様子を見た提督はぽん、と手の平を打った。どうやらただの知り合いではないという疑問を彼女の中で解決したらしい。
「金剛の恋人さんだったんですね」
金剛の恋人さんだったんですね。
金剛の恋人さん。
恋人。
「恋人!?」
固まっていた金剛は提督が投下した爆弾に絶叫した。
どういう……ことだ……。
当事者が置いてきぼりの展開なんて感心しないのデース、と金剛は提督に視線を送ったが提督はニコニコと微笑ましそうにするだけである。
金剛は一先ず吹雪を身体から無理やり引き剥がした。
「あんっ」
見た目不相応の艶めかしい声を上げて吹雪は地面に倒れ込んだ。
ちょっと乱暴にし過ぎたかと罪悪感を覚えた金剛だがそれは一瞬のことであった。
「ああ、痛いよ。やっぱり金剛は私を愛してるんだね。だってこんなに私を痛めつけてくるんだ。あの時の砲撃だって愛だったんだね」
身体をしならせる吹雪。
こんなことよりも提督である。
金剛は提督を愛している。見た目も可愛らしく綺麗だが、それよりも内面の綺麗さに惹かれたのだ。その提督に吹雪と恋人なんて誤解されたのでは堪ったものではない。
何とかしなくては。
「提督、誤解しないでくだサーイ。ここにいる吹雪とは恋人同士ではありまセーン」
提督は目を丸くして後になるほどと頷き、吹雪は目を鋭くして怒ったように見つめてくる。
どうやら提督の方は誤解を解いてくれたらしい。だったらこれで一安心と金剛は息を吐いて、そして噴き出した。
「なるほどですね。金剛と吹雪ちゃんは、その……夫婦だったんですね!」
いやんいやんと恥ずかしそうに身体を揺らした。
悪化してしまったー!
金剛は絶望した。提督がどことなく天然が入っているのは知っていたがここまで酷いものだったとは。
「金剛」
再び吹雪が金剛に抱きついてきた。その顔に先ほどまでの鋭さはまったくなく、愛おしそうに金剛を見つめるばかりであった。
「そうだよ、金剛は私だけのものなんだ。私は金剛と一つになってこれから生きていくんだ。もう決して離れることはないよ。なんたって夫婦なんだからね。最初はあいつを消してやろうかと思っていたけど、良いこと言うじゃないか。ふふふ。金剛、君は永遠に私のものだ」
「何だって! 吹雪ちゃんと夫婦だって! そんなこと私が許さんぞーー!」
レッドバブーンが復活した。面倒くさいからもう少し寝ていてほしいと思う反面応援する自分がいる金剛であった。
しかし、吹雪が長門を一蹴する。
「本当に気持ち悪い奴だね。私は金剛のものなんだよ。どっか行けよ」
「ごはっ!」
明らかに致死量の血を口から吐きだした長門は再び血の海に沈んだ。
なるほど。執務室に入った当初、長門が倒れていたのはこれが原因らしい。どうでもいいことを知ってしまった上に、肝心な時に役に立たない奴めと金剛は内心で罵った。
それからどうすれば良いと焦る金剛に提督が追撃をかける。
「夫婦なんですから、お部屋は一緒の方が良いですよね? 陽炎ちゃんはどうしましょう。そこは三人で話し合って決めてください」
「相部屋かい? やったね、金剛」
「え、えぇぇぇぇ!」
金剛は思った。
おいおい、まるで意味が分からないじゃないか。