金剛・J・クロフォード   作:フリート

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おかしくはない大激戦
おかしな金剛と報われた恋 その①


 金剛は目を凝らして青空を見上げた。

 海上にその姿をおいて、まるでお天道様が自分たちを祝福してくれているのではないかと勘ぐってしまうぐらい晴れやかな空に、視線を送る。

 波は穏やかで、深海棲艦も空気を読んでかその姿も気配すらも現さない。風でふわりと揺れる髪の毛を手で押さえながら、金剛は自分の隣に視線を移した。

 そこにいたのは、満面の笑みを浮かべながら金剛の腕に抱きついている吹雪。幸せいっぱいの姿がそこにあった。

 

「今日はグッドな天気、絶好のデート日和デース」

 

 その言葉に吹雪は抱きつく力を強くすることで答えた。

 金剛はそんな吹雪に限りない愛おしさを覚え、空いている方の手で頭を撫でる。くすぐったそうに、それでも嬉しそうな吹雪を力いっぱいにギュッと抱きしめたくなるのを何とかこらえた。

 提督に吹雪と夫婦扱いをされてから時は経った。最初はどうにかして提督の誤解を解くことに心中苦心していたわけだが、いつからだったか。吹雪から目が離せなくなったのは。

 鬱陶しいとさえ思っていた吹雪が可愛く見え始めて、いつしか吹雪と夫婦と言われるのも悪いようには思わなくなった。

 

 悪いように思わなくなったどころか、実際に夫婦になりたいとすら思うようになったのだ。その気持ちに気づかせてくれたのは陽炎である。

 自分は提督のことが好きな筈であると苦悩の日々を過ごした時期もあったが、比叡や榛名、霧島といった姉妹艦に助けられてその苦悩を乗り越えた。

 そして、陽炎や比叡たちの後押しもあって、金剛は吹雪に告白。吹雪は涙を流しながら金剛の告白に快諾して、二人は本当の夫婦になったのである。

 今二人の左手薬指には、決して高くはないけど確かな指輪が輝きを放っている。

 

「こんなことがあるとは思わなかったよ」

 

 吹雪はしみじみと呟いた。

 

「何がですか?」

 

「金剛とこうして夫婦になれるなんて思ってもみなかった。君の心はあいつに囚われていたからねぇ……正直、無理なんじゃないかと思っていたけど、まさか君の方から告白してくるなんて」

 

「ソーリー。今まで辛く当たってしまいましたね」

 

「良いんだよ。こうして君は私の下に帰ってきてくれたんだ。だから良いんだよ」

 

「吹雪」

 

 自分は何て幸せな艦娘なんだろう。こんなに自分のことを愛してくれる人と巡り合えた何て……金剛は高まった感情の赴くままに吹雪の頭に唇を落とした。

 

「これから君は私のものだよ、金剛。永遠に、そう永遠にだ」

 

「オフコース。その逆も然りデース。吹雪は私のものです」

 

「ああ、今私は君の愛を感じている。君の愛に包まれているよ」

 

「私もデース」

 

 吹雪は抱きついていた腕を離し、金剛と向かう形になった。

 お互いに愛しい人の瞳を見る。

 

「これからは一つになって、二人で頑張っていこう、金剛」

 

「ええ」

 

「愛してるよ、金剛」

 

「I love you 吹雪」

 

 腕を伸ばして吹雪の背中に回す。

 燦々と降り注ぐ陽光が二人を照らし、金剛と吹雪は一つになった――。

 

 

 

 

 

 

「オウノオオオオオ!!」

 

 陽炎を叩き起こしたのは、上の段で寝ている同居人の絶叫であった。音は完全に遮断出来ているとはいえ、隣の部屋にも聞こえていそうな絶叫は、同じ部屋の陽炎にはきつい。

 朝っぱらから何でこんなBGMで目覚めなくてはならないんだ、と不機嫌そうに目を擦った。

 のそのそとベッドから降りた陽炎は、カーテンをシャーとして朝の恵みを部屋に取り込んでから、ベッドに掛けられた階段を昇る。

 

 そこで見たのは、汗をだらだらと流して過去のトラウマを刺激でもされたのかというぐらい息が荒く、焦点が定まっていない金剛であった。

 そして金剛にしがみついて寝ている吹雪の姿もある。彼女はまだ夢の中にいるらしく、規則正しい寝息でぐっすり。

 

 最近のいつもの光景であった。

 戦艦レ級改め駆逐艦吹雪が鎮守府の一員及び部屋の住民になってから、陽炎の朝は最悪以外の何事でもない。目覚ましが、だいたい金剛の「オウノオオオオ!!」「止めてぇぇぇ!」「うわああああ!!」という三パターンの絶叫になっているのだ。

 時間帯が時間帯なので別に寝不足にはなっていないのだが、それにしても毎回そんな絶叫で目を覚まさせられるのは精神的に辛い。

 さらにその絶叫の中爆睡出来る吹雪が羨ましかった。

 

「はあはあ、ドリームデース。バッドエンドの方ではなくスマイルの方を所望しマース」

 

 何を言っているんだ。

 とにもかくにも陽炎にも我慢の限界というものが存在する。いい加減に目覚まし時計役を本物の目覚まし時計に譲ってやったらどうだ。

 無用の長物と化しては、折角お金出して買っているのに勿体ないのである。

 

「どうしたの、金剛さん」

 

「バッドドリームを見たのデース」

 

 それは分かっている。寧ろ悪夢以外で絶叫していたら大慌ての事態だ。

 それにしても今回はきちんと内容も話してくれるらしい。やっぱり陽炎としても気になるので、毎回どうしたと訊いてはいたのだが、悪夢を見たとしか金剛は話さなかった。だけれど今回はかなり詳しく語ってくれたのである。

 曰く、ここで金剛とは正反対に良い夢を見てそうな吹雪と結婚してお出掛けする夢。二人は仲睦まじく海の上で微笑み合い、最後にマウストゥマウスするらしい。

 

 あっそ、としか言いようがない内容であった。

 

「どうすれば解決出来ると思いますか?」

 

 金剛が真面目な表情で尋ねてきた。

 それに対する答えを陽炎は一つしか持ち合わせていない。

 

「本当に吹雪と夫婦になれば」

 

 見た夢の通りに仲睦まじくやれば悪夢から最高の夢に変わるではないか。陽炎も変な目覚ましで目を覚ますこともなくなるしバンザーイである。

 提督? 

 吹雪でもいいじゃん。

 

「ノー、私は提督を愛してマース。だから吹雪に応えることは出来まセーン」

 

「吹雪の何が駄目なの?」

 

 一緒に生活してみて分かったけど、吹雪は超優良である。笑顔が可愛らしくて、気遣いが出来て、料理も何気に上手で、強くて、さらに愛が深い。時々、雰囲気が怖いのと、行き過ぎた独占欲が玉に瑕だが、それすらも愛してみれば案外良いところになるのではないか。

 それは最初の方は金剛と提督の恋を応援したいとか言っていた陽炎だが、吹雪という存在を知ってしまえば心変わりするというものである。洗脳ブレインコントロールである。エネミーコントローラーである。

 

 陽炎は一途な愛が大好きなのだ。

 

「とにかく、起きる度に叫ぶのは止めてよね。私は迷惑してるんだから」

 

「前向きに善処するのデース」

 

 何もしないのと同義である。

 陽炎がため息をつくと、吹雪が静かに目を覚ました。どっかの絶叫マシーンとは大違いである。マシーン。艦娘、軍艦だけにマシーン。大して上手くはないと自分で思う陽炎だった。

 目を覚ました吹雪は先ずは金剛に挨拶をする。

 

「金剛、起きてる顔もやっぱり可愛いね」

 

 独特な挨拶である。

 

「ハロー、吹雪」

 

「うん。陽炎もおはよう」

 

「おはよう」

 

 ついでのように挨拶をされたが別に構わない。いちいちそこにつっかかるほど陽炎は狭量ではないのだ。

 

「そう言えば陽炎はそんなところでどうしたんだい? まさか、金剛の寝顔を見ようだなんて考えていたのかい? 残念だけど、それは私だけの特権だよ」

 

「別に、違うわよ。金剛さんが最近悪夢に魘されているらしくて、それでね」

 

「悪夢? 金剛、おかしいねぇ……私が一緒に寝ているんだからそんなもの見る筈が」

 

「……それが原因デース」

 

 金剛と吹雪がいちゃいちゃしだしたので陽炎は階段を降りた。

 早く着替えなくては朝食の時間がやってきてしまう。

 陽炎は上でドタドタドンドン、ベッドで運動している二人を余所に着替え始めるのであった。

 

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