金剛・J・クロフォード   作:フリート

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その②

 陽炎は金剛の案内の下、提督の執務室を目指して歩いていた。ここで意外だったのは、金剛が人に気を遣えるような艦娘であったことだろうか。陽炎と金剛では一歩一歩の大きさ、早さが違う。陽炎の方が一歩が小さく、遅かったのだが、金剛はそれに合わせてくれたのだ。

 話方やお話に常識はないくせに、こういう気遣いの常識は持ち合わせているらしい。ほんのちょびっとだけ、陽炎は金剛の評価を上方修正した。

 そしてもう一つ意外だったのは、金剛が他の艦娘に好かれているということだ。

 陽炎の予想としては、腫れ物でも扱うような、あるいは触らぬ神的な、そんな立場にいるとおもっていたのだが、ところがどっこい、

 

「あら、金剛じゃない。こんにちは」

 

「会長! また一緒に遊ぼうね」

 

 と、まさに好意の嵐である。すれ違う艦娘皆が皆、金剛に好意的な眼差しや言葉を送るのだ。金剛の顔はこの鎮守府で広く知れ渡っており、どういうわけかもの凄く人気があるようだった。実は皆が演技をしており、丁度良いタイミングで、な~んちゃって、とか手のひら返しをする、そんな可能性を陽炎は真っ先に思い浮かべた。

 ところで、また気になる事が出て来たのだけど、金剛が会長って呼ばれていたけど何で? どっかの会社で会長でもやってるの? 軍人って副業ありなの? っていうか、艦娘って普通の仕事出来るの? 陽炎は頭の中が疑問でいっぱいになった。

 

「おっと、ここデース」

 

 疑問を頭の中で自己解答している内に、執務室に辿り着いた。結局、疑問は疑問のままに終わり何一つ納得の行く答えは出て来なかった。

 

(取りあえず、ここの金剛さんが色んな意味でやばい奴ということしか分からなかったわ。もう何がやばくてやばくないのか、境界がはっきりしないぐらい、何だかやばい)

 

 唯一導き出したのは、こんな答えにすらなってない、言葉遊びでもない、そんな結論であった。そして金剛の事を考え込み過ぎて、本来の目的をすっかり忘れていた。

 

「いらっしゃい、陽炎ちゃん」

 

「ひょ……ッ!?」

 

 思考の渦の中から突然掬いだされて、陽炎は色気の欠片もない悲鳴をあげた。

 おっかなびっくり声のした方を見れば、軍服を着た女の子がいる。そう、女の子だ。見た目中学生ぐらいの陽炎が、女の子と表現して全く違和感のないぐらい女の子している女の子だ。ふわふわとしているクリーム色の長髪、二重でぱっちり大きい瞳、ぷるぷるとぷりんのような唇、天使とは斯くの如しと言わんばかり。

 

「ふ、ふつくしい」

 

 知らず知らずに魅入られた陽炎であったが、偶然視界に入った金剛を見て、直ぐに正気を取り戻した。人は、怒りを抱いた時、自分以上に怒りを爆発させている人を見れば、何となく冷静になって落ち着きを取り戻すものである。まあ、つまりそういうことだった。

 

「ああ、テイトクゥ――」

 

 この後に何か言葉にしていたが、あまりにも聞き苦しい内容だったので、陽炎はシャットアウトした。にしても金剛、完全にこの女の子に恋してる。そりゃあもう気持ち悪いぐらいに恋してる。これが逆の立場であったら微笑ましかったのだが、あいにくと現実は非情であった。

 

(ロリコンでレズビアン? なんなのよこれぇ……)

 

 と、先ほど気持ち悪いぐらい見惚れていた自分を完全に除外して、金剛を蔑んだ。

これも中二病という病の所為であろうか。それとも、金剛は中二病罹患者と言動が似ているだけで、やっぱり素でおかしいのだろうか。だとすれば、単にやばい奴?

 陽炎は、さっきちょっとだけ上げた評価を一気に落下させた。もう奈落の底、落ちるところまで落ちている。

 因みに金剛の愛の告白を受けている提督はというと、

 

「もう、金剛ったら」

 

 と、満更でもなさそうだった。

 普通だったらあまりの気持ち悪さと恐怖で泣き出したり、気が強ければ罵詈雑言の嵐を吹かせたり、クールな人だったら電話に手が伸びてとある国家権力に連絡を入れたりするのであろうが、この提督はどうも一味も二味も違うらしかった。

 そうか、こういう感じでおかしい人だったのか。陽炎は拍子抜けしたような、嬉しいような、そんな複雑な感情を抱いた。良く言えば天然でピュア、悪く言えば馬鹿、思っていたより百分の一ほどのおかしさだったので、

 

(ちょっと人より感性がずれているのね)

 

 ぐらいの感想に落ち着いた。

 比較対象の桁があまりにもかけ離れているので、この程度のおかしさでは、最早普通の人と断定しても問題は無い。陽炎の中で提督の印象は、ピュアで可愛らしい天使みたいな女の子ということになった。

 陽炎が結論づけていると、提督が困った様に眉をひそめて言った。

 

「ごめんなさい。金剛ったら、私に何時もこんな恥ずかしいことばっかり言って来るのよ。私もその、嬉しいけど、人がいるところでは止めてほしいなあ」

 

 普通の人だったら、

 

「何なのこの人……イラッとくるぜ!」

 

 と、冷たく言いそうなものだが、人よりほんのちょっと感性がずれている提督だったので、普通の人より数百倍言葉が優しかった。

 陽炎は満足そうにその提督を眺めている。金剛と比較してしまうと聖人にしか見えないので、もう感心するばかりだ。

 

(この金剛さんを案内役にするような人だから、視界がモザイクがかっているような人だと思ったけど、安心したわ。良かった)

 

 陽炎が安堵のため息を吐くと同時に、妄言を垂れ流しにしていた金剛が現実世界に帰って来て、やたら決め声で言った。

 

「陽炎ガール、ユーも燃え上がる様な恋をしたら私の気持ちが分かるネ。こう自分で自分を抑え切れないのデース。つい、我を忘れて思いの丈をぶつけてしまいマース」

 

 余りにも意味不明な自己弁論であった。こんな弁論では、カードの中に閉じ込めてチュッチュしたい的な発言は正当化出来ないだろう。

 それはどうかな、と反論する気にもなれなかったので、陽炎は聞こえてない振りをして聞き流した。

 

「それで、これから私はどうすれば?」

 

 取りあえず提督に挨拶を済ませた形だが、これから何をすれば良いのか。陽炎が訊ねると、提督はニッコリと微笑んで言った。

 

「そうですね。でしたら、一通り鎮守府内を歩き回ってみて下さい。案内は金剛がやってくれますから」

 

 それを聞いて、

 

(ええ……)

 

 と、内心嫌そうな声を陽炎はあげた。勿論、顔に出すようなへまはしない。

 別に金剛のことが、この短い付き合いで嫌いになったというわけではない。ただ、今日はお腹いっぱいだなあ、という本音があるのだ。あんまり長時間一緒に居たくはない。

 この場に居るのが金剛だけだったらそれとなく本音が表情に出そうだけど、ここには提督も居るのだ。金剛にどう思われようが結構だけど、この提督に嫌われたくはなかった。

 

「陽炎ちゃんって、ちょっと苦手な子だなぁ」

 

 とか提督に思われた暁には、人生もとい艦娘生がおわったビングである。

 すると陽炎の、そんな金剛さんにこれ以上付き合ってもらうのは悪いですよ、というオブラートに厳重に包み込まれた気持ちが神様に届いたのだろうか。金剛は残念そうに首を横に振って、案内役を拒否した。

 

「ソーリー、私には、今から外せない用事がありマース」

 

 そうか、ならば仕方がないな。陽炎と提督が気落ちした様な表情を同時に見せた。無論のこと、陽炎は演技である。

 だったらどうしようかと提督は本気で悩み、陽炎は心の中でランランしていると、何の脈絡もなく、案内役をかって出てくれる人が現れた。

 

「良かれと思って、私がやってあげようか?」

 

 ひょっこりと現れたその人物は、これでもかとばかりに爽やかな善人面をして、執務室に入って来る。

 

「げっ、瑞鶴ガール……」

 

 と、金剛が嫌な奴を見たとばかりの口調で、人物の名前を紹介してくれた。とは言うものの、陽炎は別個体の瑞鶴を知ってるから特に要らない紹介である。

 それはさておき、金剛が苦手としているだろうこの瑞鶴。色々と詳しい話を聞かせてもらおうじゃない、とわくわくしている陽炎の中では、既に彼女が案内役になっていたのだった。

 

 

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