金剛・J・クロフォード   作:フリート

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おかしな金剛 その③

 長門たちを見送った後、陽炎は金剛の案内で早速、自身の住む部屋に向かった。

 

「ここ、ですか」

 

 部屋は三階にあるらしく、階段を使って歩いて行く。

 着いた部屋は「321」の非常に覚えやすい数字。階段を上がってすぐの「320」のお隣の部屋であった。金剛はごそごそとどこからともなく鍵を取り出してドアを開ける。

 なんで金剛が持っているのかが果てしなく疑問だが、もしかしたら寮母さんだからかもしれない。陽炎は深く考えないことにした。

 

「陽炎ガール、さあ」

 

 金剛がそう言ったので、遠慮なく中へと入った。

 部屋の中を見回してみれば、文句は無いように思う。二段ベッドがあるところを見れば、この部屋は二人部屋なのだろう。上のベッドはかなり生活感あふれており、これから自分と同居する艦娘の物。誰かは分からないけど、結構独特な性格をしているのだと想像する。漫画にトランプ。しかも壁紙に女の子がでかでかとプリントされたもの。とてもではないが、軍人の物とは思えない。持ち主は男子高校生みたいな人なのか。ていうか、許可されるのか、こんな物が。

 

「陽炎ガールは下のベッドを使ってくだサーイ」

 

「は、はい」

 

 陽炎はぼふっとベッドに座った。弾力性抜群。

 

「そういえば、私と同じ部屋の人は誰なん……で、すか?」

 

 気になる。この独特な空間の持ち主は、そして自分と同居するのは誰なのか。

 尋ねてみれば、金剛は思いもよらない行動を取っていた。

 左目に装着していた趣味の悪い眼帯を、ポーンと上の段に放り投げていたのである。その行動が意味するのは、たった一つであろう。

 まさかまさかである。

 

「ふ~、あんまり長時間着けていると視力が……んっ? どうしたんですか、陽炎ガール?」

 

「もしかして、私の同居人って」

 

「言ってませんでしたか? 私です」

 

「ええっ!?」

 

「ハハハハ、吃驚しましたか? そんなわけですから、お手柔らかにお願いしマース」

 

 どうして同じ駆逐艦の人じゃないんですか、と訊いてみようと思ったけど止めた。ここから先、おかしいと思うことが多々あるだろう。ここまでの間にも、金剛、長門、部屋割り、とツッコミどころ盛りだくさんだった。この調子だと、もっと他にも目を疑うようなことがあるに違いない。その都度訊きまくっていたら仕方がないだろう。本当に大切そうなことだけ質問して、後はスルーしよう。陽炎は心に誓った。

 金剛がチラリと腕時計に目を落とす。

 

「さてと、鎮守府の施設案内はこれでおしまいデース」

 

 ニッコリと笑いながら言った。

 いや、おしまいデースって、これからどうすれば良いの。何も聞かされていないのだけど。

 

「私、これからどうすれば」

 

「私は聞かされていまセーン。あっ、そうです。私と一緒に来ませんか?」

 

「やはりこちらにいらっしゃいましたか、お姉さま」

 

 玄関から、呆れたような声が聞こえる。

 陽炎がそちらに視線を向ければ、一人の艦娘がスタスタと中に入ってきた。金剛と同じ巫女服に身を包み、眼鏡を掛けて如何にもな知的美人だ。

 金剛型四姉妹の一人、霧島に相違はないだろう。

 

「お姉さま。自分で言っておいて約束をほったらかしにしないでください」

 

「ソーリー。しかし、重大な用事がありまして」

 

 どうやら金剛は霧島と約束事をしていたらしい。それが、施設案内のせいで……陽炎が悪いわけではないけど、心の中で謝った。

 

「とにかく行きますよ」

 

「待ってくだサーイ。霧島、ゲストをお迎えしたいのですが」

 

「ゲスト?」

 

 言って、霧島は陽炎を見た。

 

「ああ、新しくやってきた」

 

「そういうことデース。よろしいですね?」

 

「お姉さまが良いとおっしゃるなら何も文句はありませんけど」

 

「決まりデース。陽炎ガール」

 

 なにか知らないけど、脇におかれて勝手に話が進んでいる。

 でもこれからどうすれば良いのか分からない陽炎にしてみれば、ありがたい話であった。どこに行くのかさっぱりだけど、付いて行くことにしよう。

 金剛に手を引かれて、陽炎は部屋を後にした。

 

 

 

 

「世界最高の紅茶に手作りのクッキー。それから世界最高の妹たち。このひと時こそが、まさに至福の時デース」

 

 金剛たちに連れていかれた場所は、どこか建物だったり施設だったりではなく屋外であった。そこには丸型のテーブルと椅子が用意されていて、テーブルにはクッキーとカップが並べられている。カップの中身は紅茶であった。

 金剛と霧島の約束とはティータイムのことだったのである。

 集まっているのは金剛型四姉妹であった。

 

「至福の時などとおっしゃいながら、遅刻するのはいかがなものかと」

 

 霧島がからかうように金剛に言った。

 

「ですからそれは不可抗力です。仕方ありまセーン」

 

「えへへ、榛名。マインド〇キャン!」

 

 妹に必死に弁解する金剛の横では、二番艦の比叡が三番艦の榛名に対してよく分からないことをやっている。おそらくは金剛の真似ごとだろう。比叡は金剛大好き艦娘として有名である。尊敬する姉に近づきたいと思って、あんな趣味の悪い眼帯をお揃いにしているのだろう。まあ、現在金剛は眼帯は外しているけど。

 

「榛名はノーコメントで」

 

 いまいち理解できない攻撃らしきものを姉から受けた榛名は、苦笑いしながらカップに口をつけた。どうやら榛名は、眼帯とかをこころよく思っていないらしい。

 常識人だ。

 金剛とそして比叡を見ていると強く感じる。

 

「ユーは飲まないのですか?」

 

 その言葉に、四姉妹全員の視線が陽炎に集まる。

 

「いや、頂きます」

 

 四姉妹の観察をやっていたらついつい夢中になってしまった。ペコリと一礼してからカップに一口。紅茶には全然詳しくないので違いがどうこうは分からないけど、多分美味しいのだと思う。続けてクッキーに手を伸ばして、一枚パクリ。チョコチップクッキーだったか、チョコの苦みが絶妙なアクセントになっていてこちらは美味しい。

 思わず顔がほころぶ。

 

「どう?」

 

 霧島が問う。

 

「美味しいです」

 

「それは良かった」

 

「美味しくない筈がありまセーン。これは霧島が用意したのです。これに勝るものなど、この世には存在しまセーン」

 

「そういえば陽炎さんは、前の鎮守府ではどうでした?」

 

 金剛の一大アピールをスルーしてから、榛名が陽炎に言った。

 

「この鎮守府に転属して来る駆逐艦の人たちは、みんな最初は人間関係というかそういうものに驚くことが多いです。陽炎さんはどうです?」

 

 確かにそういった面で驚いたのは驚いた。

 前の鎮守府での生活を思い出す。そこでは、陽炎はだいたい自分と同じ駆逐艦の子たちと一緒につるんでいることが多かった。他の重巡だったり軽巡だったりは、プライベートで話すような人は少なかったと思う。こうやって戦艦の人たちとお茶を飲むなんてことはまずあり得ない世界。

 

「確かに驚きました。こうやって戦艦の方たちとお茶したりってことは初めてです」

 

 それに長門と駆逐艦たちのあの距離の近さも初めて見る光景だった。

 

「それがうちの良いところなんだよ。やっぱり私たちも、駆逐艦の子たちに変な壁を作ったりしてもらいたくなくてさ。やることきちんとやっとけば、こういうほんわかしたのも良いと思うんだよね」

 

 比叡の言葉に他の三人が頷いた。

 

「そういうわけですから、陽炎ガール。気軽に声を掛けてくだサーイ」

 

「確か、陽炎さんはお姉さまと同じ隊に配属されるのよね。委縮して声を掛けれないとかなったらやりにくいわよ」

 

「オウリアリー? ワンダフォー! イッツミラクル! 部屋も一緒ですし楽しくなりそうデース」

 

「同じ隊ですか?」

 

「そだよ。お姉さまがあなたたちの隊の嚮導艦だから。そうなんだよね、霧島」

 

「はい。と言いますか、あの時お姉さま聞いてなかったんですか?」

 

「あっ、いや……聞いてたわよ! 今のは演戯。勘違いしないでよね」

 

「金剛お姉さま、素が出てます。まあ、榛名はそっちのお姉さまの方が好きですけど」

 

「しまった……! おほん……ん、勘違いしないでください霧島。ジョークです、英国ジョーク。ハハハハハ」

 

「はいはい」

 

「ちょっと待ってください!」

 

 陽炎が突如声を張り上げた。

 なぜなら、早速スルー出来ないおかしなことがあったからである。

 

「金剛さんが嚮導艦ってどういうことですか!?」

 

 駆逐艦隊を指揮する役目を持つ嚮導艦。通常その任が与えられるのは、軽巡洋艦である。百歩譲って重巡洋艦。それが何を血迷って戦艦にやらせるんだ。確かに、金剛には高速戦艦とかいうくくりがあるけど、嚮導艦をやらせるような軍艦じゃない。

 答えを出してくれたのは智将霧島だった。

 

「どこかのロリコン秘書艦のおかげで駆逐艦が異常に増えてるから、人手が足りないのよ」

 

 だからと言って。それにあの人やっぱりロリコンだったんだ。薄々そんな気はしていたけれど。

 

「金剛お姉さまはこれでも優秀ですから安心してください。榛名が保証します」

 

「こんなのとは何ですか、榛名?」

 

「ふふ、別に」

 

 そういう問題じゃない気がするけど、ここまでで陽炎は考えるのを止めた。自分もこの鎮守府の一員となったのだから、ここのやり方に従おうということにしたのだ。

 そうしてみると、何だかスッと肩の荷が下りたようであった。

 

「どうしたの?」

 

 比叡が小首を傾げる。

 金剛が榛名につっかかり、霧島が笑みを浮かべながらその様子を見ている。そんな光景を見ながら、陽炎は比叡に答えるのであった。

 

「なんだか、楽しくなりそうです」

 

 

 

 

 

 

 

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