金剛・J・クロフォード   作:フリート

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おかしな鎮守府 その②

「雪風の奴、遅いわねえ」

 

 悲惨すぎる昼食後一時間と言ったところ。本日、特にやることが無い第十なんちゃらなんちゃら隊、通称金剛隊は、金剛と陽炎の部屋でたむろっていた。

 たむろっていたと言っても、部屋の住居人以外には時雨しかいないけど。昼食の前は、他もう一名も加わってカードゲームで盛り上がっていたわけだ。

 その一名であるが、食堂を泣きながら飛び出して行ってから戻って来る気配がない。前にも何度か似たようなことはあって、だいたい駆逐艦の艦娘は落ち込めば長門の下に駆け込み慰めてもらうのが慣例である。落ち込んだ理由を述べて、抱きしめてもらって、頭を撫でてもらい、頬にキス。十分ぐらいで終わることだ。

 だけど一時間が経過している。一体何が起きているというのだろうか。

 

「長門さんを探すのに手間取った、という可能性はないかい?」

 

「あるにはあると思いマース。but、長門ガールは基本的に寮の部屋、提督の執務室、広場の三か所にいることが多いデース。可能性としては低いでしょう」

 

「もしかしたら、長門さんの熱いパトスが抑え切れなくなってしまったとか?」

 

 しつこいようだが長門はロリコンである。小さくて可愛らしい女の子たちに目がない。今まで一線を踏み外したところは見たことが無いけど、もしかすれば裏では、なんてことに。

 雪風の安否が心配な陽炎だった。

 

「それは大丈夫デース。長門ガールの安全性は、私が保証します」

 

 長門とは長い付き合いの金剛が、陽炎の最悪を否定した。一か月見たところ、金剛と長門の関係はマブダチというのが一番近い気がする。その金剛が長門を大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。

 じゃあどうして遅いんだろう。

 三人が頭を悩ましていると、タイミング良く長門から放送が入った。

 

『……秘書艦の長門だ。ゴミ野郎、もとい金剛。今すぐ私の下へ来い。私は大部屋の方にいる。繰り返す。虫けら、来い……』

 

 ピンポンパンポンと放送が終わりを告げる。

 何やら長門は金剛に対して怒っている様子だった。それにプラスして、いきなり放送で罵倒された金剛も少しイラッと来ている。

 ゆらりと立ち上がった金剛は、静かに部屋を後にした。

 陽炎と時雨はお互いに顔を見合わせる。そしてニヤッと口元を歪ませた。面白いことになってきた、と言いたげだ。二人も金剛の後を追って部屋を出る。

 そうして三人は、長門とついでに雪風が居るであろう部屋のドアの前に立った。

 

「一体どうしたんだろうか、長門さん」

 

「金剛さん、何か怒らせることしちゃった?」

 

「分かりません。長門ガールには事情を聞く必要がありそうデース」

 

 それもそうだ。先ずは長門の話を聞かなければ話は進まない。金剛にしても、いきなり罵倒されたのではたまったものではないのだ。

 金剛がドアをノックしてから開ける。

 すると、金剛を最初に出迎えたのは長門の怒り顔でも雪風の泣き顔でもなく、ナックルであった。

 

「ぐほえ……っ!」

 

 突然の不意討ちに金剛も、後ろでニヨニヨしていた陽炎と時雨も反応出来なかった。

 ナックルは金剛の左頬をクリーンヒット。金剛は乙女にあるまじき声をあげてから、身体を仰け反らせた。

 

「いきなり何すんぐぼ……っ!」

 

 間髪入れずにもう一発。それから連打連打連打! もう滅多打ちである。途中から殴られている方は声もあげれていない。

 何発放たれたのであろうか、ナックルの持ち主は止めの為の決め台詞に入った。

 

「あなたの死因は一つだけだ、金剛……あなたは私を、怒らせた」

 

 どっかで聞いたような決め台詞だった。だがそれにツッコミを入れる者はこの場にはおらず、力を溜めた右拳が金剛に向かう。

 が、あいにく金剛はやられてばかりではなかった。

 

「死ねぇ、金剛!」

 

「おらぁあああ!」

 

 クロスカウンター。綺麗に決まった。

 一撃で大ダメージを負った長門は、足ががくがくと震えだす。ここからが金剛の反撃であった。

 殴る、蹴る、殴る、殴る、蹴る、殴る、距離を取ってトランプのカードを投擲、接近して殴る。先ほどまで好き勝手にやられた鬱憤を晴らすかのようである。

 長門も応戦。

 観客は大盛り上がり。

 観客Aの陽炎は、腕をぶんぶん振り回してもっとやれえ、と叫んでいる。

 観客Bの時雨は、偉そうに腕を組んで実況及び解説役に回っている。

 観客C、部屋の奥の方で覗き見るようにしている雪風は、一見あわあわしている様に見えるが、しっかりと楽しんでいた。

 

「……羊羹とご飯の恨みです」

 

 昼食の時のことを言っているらしい。

 逆恨みも良いところである。

 先ず、今日の昼食のデザートを賭けて大富豪をしようと言い出したのは雪風だ。羊羹が金剛に奪われたのも言い出しっぺが敗北した結果である。ご飯を取ったのは空母の赤城で、ここに関しては金剛は関係ないうえに、食べかけとはいえ羊羹を分けようとしているのは実に優しいことだ。

 でも、雪風にしてみれば金剛に羊羹を奪われたという事実が重要なのだ。過程はどうだっていい。

 そうこうしている内に、戦いは決着を迎えた。

 ダブルノックアウト。

 ばたりと戦艦二人が床に大の字で倒れ伏す。部屋の中で倒れ伏す長門はともかく、廊下で倒れている金剛は通行の邪魔だった。

 

 

 

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