金剛・J・クロフォード   作:フリート

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おかしな鎮守府 その③

「長門さん、いつものシュガー入りコーヒーです」

 

 ダブルノックアウトから十分後である。

 雪風がほんわかほんわかしながら、長机の上にコーヒー入りのカップを置いた。

 

「ありがとう、雪風」

 

 会議の時に使うような椅子に腰かけている長門は、出されたコーヒーを美味しそうに飲む。

 

「雪風。ほらっ、ここに来い」

 

 カップを机に置き、長門は膝の上をぽんぽんと叩いて雪風を誘致する。雪風は誘蛾灯に誘われる蛾のように、というと女の子に使う表現ではないので、花々に誘われる蝶々のように長門の膝の上に収まった。花という比喩をこの長門に使うのは癪であるが。

 

「それで、私を呼んだ理由を説明してくだサーイ」

 

 心なしか冷めた表情の金剛。 

 それもそうだろう。いきなり罵倒され呼び出され、来てみれば殴られるのである。これで怒らない人が居るのなら、その人は間違いなく聖人か菩薩だ。

 ちなみに、どういうわけか金剛も長門も殴り合いをした痕は一切身体に残っていない。一体どういうつくりをしているのか、同じ艦娘として気になる陽炎であった。

 

「そんなの、あなたの胸に手を当てて考えればすぐに分かることだと思うが」

 

 こちらもまだ怒っているらしい。自分の愛する者を傷つけられて怒る長門。そう考えればかっこいいかもしれないが、実際は歪んだ性癖の延長線上の話である。

 金剛としてみれば、そんな性癖で殴られたなどと納得できるものではない。

 だが、長門とは長い付き合いである金剛だ。ここで何を言っても無駄だということをよく理解しているので、長門の望むとおりにしてやる。

 

「まあ、いいでしょう……アイムソーリー雪風ガール。次から気をつけマース」

 

 甚だ不本意だが金剛は頭を下げた。決して金剛が悪いわけではないけど、誰かが大人にならないと話が進まないのである。

 

「雪風。謝っているがどうする?」

 

「わ、私が悪いんです……ですから金剛さん……謝らないでください」

 

「雪風は優しいな。どれ、お姉ちゃんが頭をなでなでしてやろう」

 

「はうう。気持ち良いです」

 

 長門は雪風を宝物をギュッとするみたいに左腕で自分の方へ引き寄せ、右の掌で壊れ物に触れるかの如く雪風の頭を優しく撫でる。

 頬を真っ赤にして長門に身をゆだねる雪風。

 このシーンだけ見れば心温まる光景とかなんとか言えるけど、陽炎は見逃さなかった。雪風が微かに口角を上げたのを。

 親友の新たな一面を見付けた陽炎だった。

 女の子って怖い。自分も女の子だけど。

 

「長門さん。これで金剛さんへの用件は終わりかい?」

 

 置物になりかけていた時雨が、存在のアピールの為か長門へ問い掛けた。

 この長門のことだから、金剛を抹殺するためだけに呼び寄せた可能性は大なのであるが、長門の様子を見る限り違うらしい。

 相変わらず雪風を抱いたまま、長門は表情を正して言った。

 

「あなたたちが、昼食のデザートを賭けて大富豪をしていたと聞いてな」

 

 その言葉に、陽炎は怪訝な顔をする。

 もしかして、賭け事は駄目だと言うのであろうか。確かに、賭け事と聞けば良いイメージは湧かないけど、でもこの鎮守府ではお金を賭けさえしなければ認められている筈だ。

 まさか雪風が泣いた原因だから禁止だとか言いたいのか。

 

「長門ガール。それを咎めようと言うのですか?」

 

「違う」

 

 違うらしい。

 

「じゃあ、何なんだい?」

 

「いや、実は良い考えが浮かんだから、ちょっと話を聞いてもらいたくてな」

 

「話を聞いてもらいたい人の態度ではなかったですが?」

 

 金剛がもっともなことを言った。

 話を聞いてもらいたい人がいきなり殴りつけてくる。それで話を聞いてくれる人を見てみたいと思っていたら、その人は陽炎の隣に座っていた。

 

「ふぅ……それで話とは一体?」

 

 ため息を吐いて金剛が先を促す。

 言動に奇天烈なところが多い金剛だけど、根っこのところは優しいというか苦労人というか。これは陽炎が一か月間の生活の序盤あたりで知ったことである。

 

「実はな、大会を開こうと思っていてな」

 

「ワッツ? 大会?」

 

「そうだ」

 

 長門が饒舌に語る。

 曰く、全駆逐艦を対象にした演習。駆逐艦は同じ隊のメンバーと一緒にトーナメント形式で戦い、優勝した隊には景品を与えるという単純明快なもの。

 駆逐艦以外の艦娘たちは、同じ隊の駆逐艦に協力するという形だ。隊に駆逐艦がいない艦娘たちはスタッフとして働いてもらう。

 前者は金剛のような艦娘。陽炎たちと同じ隊に所属しているので演習に参加である。後者は長門のような艦娘。駆逐艦以外の艦娘で構成された隊の艦娘である。

 泣きわめく雪風から賭け事の話を聞かされた時、ピンと来たらしい。

 これを聞かされた金剛は、不機嫌そうな顔から新しいおもちゃを手に入れた少年の表情へと早変わりする。

 

「長門ガール、ユーにしては素晴らしい考えデース」

 

「だろう? 後、私にしてはってどういうことだ」

 

 そういうことである。

 とにもかくにも賛成気味の金剛。長門はさらに当事者となる駆逐艦の意見を聞きたいと、今ここにいる金剛隊の三人に賛成か反対かの意見を求めた。

 結果。

 

「私は賛成よ。だって面白そうだし」

 

 賛成派の陽炎。戦いやお祭りみたいなものが好きな陽炎なので、今回の長門の提案に反対する気はさらさらない。

 

「別に僕も良いと思うけど。本番さながらに訓練するのは悪いことじゃない。それに僕も仲間たちと戦ってみたいと思っていた」

 

 こちらも賛成の時雨だ。幸が薄そうな雰囲気をしているのに血の気は濃ゆいらしい。

 

「私も賛成です。皆で一つのことをやるなんてとても楽しそうです。これでさらに私たちの絆も深まると思います」

 

 これまた賛成な雪風。思わず微笑みたくなるような賛成理由だが、本心から本当にそう思っているのかは不明である。

 これで駆逐艦三人も全員が賛成と相成った。

 

「よし、それでは決定だな」

 

「長門ガール、景品はどうするのデース? これをしっかりとしたものにしなければパーフェクトとは言えまセーン」

 

 気になるのか長門に視線が集まった。雪風は場所の都合で長門に視線をやれないので、聞き耳を立てる。

 

「それは当日になってからのお楽しみだろう。ここで言ってしまっては、あなたたちにとっては興ざめではないのか?」

 

 それもそうだと、こういうゲームやイベントごとには一家言がある金剛はそれ以上追及しなかった。他の三人は聞きたそうであったが、空気を読んで金剛を真似ることにする。

 

「さて、私はこの提案を提督に認めてもらわなくてはならないから、これで失礼するぞ」

 

 長門は膝の上の雪風を隣の席に座らせてから、満足げに退室して行った。

 四人は長門を見送ってから、自然と顔を合わせる。

 

「このトーナメント、絶対に優勝するわよ」

 

 戦いが好きで負けず嫌いな陽炎は、勝利の決意を胸にグッと拳を握った。

 もとより初めから負けようと考える人は少数である。言われるまでもないとばかりに、他の三人も力強く頷いた。

 

「フフ、私はどんなことでも負けたくありまセーン。勝つのは私たちデース」

 

「勿論だよ。僕たちの力を、今こそ知らしめる時だ。金剛隊には金剛さん以外にもいるってことを教えてやるさ」

 

「頑張りましょう」

 

 四人はガッと拳を突き合わせた。

 

 

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