金剛・J・クロフォード   作:フリート

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おかしな鎮守府 その④

 早くも大会当日である。

 長門が大会の開催を金剛たちに伝えたのは一週間前のこと。提督は今回の大会について二つ返事で了承したとのことで、このことを聞かされた鎮守府内の艦娘たちはここ一週間そうとうの盛り上がりを見せていた。訓練にもいつもより力が入り、自分達こそが絶対に優勝するという気持ちが伝わってきた。

 天気は快晴。大会をお天道様も楽しみにしてくれていたらしい。

 さて、最高のボルテージを伴った艦娘たちは、現在、金剛が長門に呼び出された大部屋に集結している。金剛たちが訪れた時にあった長机と椅子は片付けられており、艦娘たちは整列して前を見据えていた。艦娘たちの熱気で部屋の風景が蜃気楼のごとく歪んでおり、今回の大会にどれほどの期待があるか知れるものだ。 

 艦娘たちのぎらぎらと獲物を見付けた狼のような瞳が見つめる先には、マイクを片手に持った長門の姿があった。

 

「待ちに待った時が来たのだ。というわけで、本日の『駆逐艦の駆逐艦による駆逐艦のための大会、おまけもいるよ』の司会進行役を務めさせてもらう秘書艦の長門だ。本日はよろしく頼む」

 

 おお、と山を揺るがすような声。その声に負けないぐらいの拍手音も鳴り響く。

 

「それでは、先ずは提督からの挨拶だな。提督、よろしく頼むぞ」

 

「はい、分かりました」

 

 長門からマイクを受け取ったのは、駆逐艦から見ても小柄な女性だった。ふわふわのブロンドに纏っている柔らかな雰囲気は、どこぞのご令嬢を思わせる。お花畑で、風に飛ばされそうになる帽子を押さえながら微笑むと、絵になりそうである。

 この女性が艦娘の指揮をとって化け物と戦っているなんて、言われても信じられないだろう。だけど、この鎮守府の一員となった陽炎は知っている。かなり出来る人であると。

 人を見かけで判断してはいけないの良い例であった。

 

「ああ、提督。相変わらずお美しいデース」

 

 陽炎の隣で、金剛がぼんやりと呟いた。どうやら提督に見惚れているらしかった。

 金剛が提督に深い愛を抱いているという話は、この鎮守府内では有名な話である。金剛自身も公言しているし、同性愛も珍しくないので、みんなはその恋をそっと見守っている。

 唯一文句を言っているのは長門ぐらいなものだ。提督に対して劣情を抱いてはいけないというのが長門の言い分だが、盛大なブーメランであることに気付いて欲しいものだった。後、金剛の恋はそんな下劣な感情ではないと思う。

 いつも笑顔で可憐で、まるで自分を導いてくれるような提督に惚れたという金剛。陽炎は、仲間の恋路が上手く行ってくれたら良いと切に願う。

 

「皆さん。今日の大会では、自身の持てる力を精一杯出して、優勝目指して頑張ってください。優勝した隊の人には、私からもご褒美を差し上げます」

 

 ご褒美という言葉でさらに場がヒートアップした。

 そしてバーニングする者も現れる。

 

「マジで!? 陽炎! 時雨! 雪風! 負けられない理由が増えたわ。絶対に優勝は私たちのものよ!」

 

 地が出るほど嬉しいようだ。

 

「ふふ、皆さん頑張って、くれぐれも無理だけはしないようにしてください。私からは以上です」

 

 ふんわりと微笑んで最後を締めると、提督は長門にマイクを渡して元の位置に戻った。

 

「提督、ありがとう。さて、次の話だが提督のお言葉にご褒美という言葉が出た。そういうわけだから、景品の発表を行う」

 

 ビシッと全員が姿勢を正した。

 

「本来は優勝した隊だけにしようと思ったが、三位まで与えることにした。そのつもりでな……それでは第三位からだ。第三位は、間宮の料理一日食べ放題だ」

 

 ドッと歓声が上がった。三位でこれとは二位と一位が何なのか気になってしまう。太っ腹な景品である。空母が約二名ほど、先ほどの金剛のように荒ぶりを見せた。

 

「続いて第二位の隊には、間宮に一か月間好きな料理を作ってもらう権利」

 

 これもまた凄い。三位よりも良い景品である。

 

「最後に優勝した隊には……間宮に一か月間好きなデザートを作ってもらう権利だ。どうだ? 皆、欲しいだろ?」

 

 欲しい、と部屋中で大合唱。あの間宮に好きなデザートをしかも一か月間作ってもらえるなんて、今大会の本気度が窺える。

 それにしても間宮ばっかりの負担だが大丈夫なのか、と思って陽炎が視界の端に映っていた間宮に視線を移してみると、間宮は腕まくりして力こぶをつくっていた。大丈夫みたいだ。まあしかし、艦娘全員が喜べるような景品と言ったら間宮のご飯関係しかないので仕方ないだろうか。

 これだけではないぞ、と長門が続ける。

 

「駆逐艦だけなのだが、優勝した隊には私からも景品だ。私と一日ずっと一緒券だ!」

 

「……それは要らない」

 

 時雨がぼそりと吐きだした言葉に、陽炎もつい頷いてしまう。だけれど、この反応は時雨たちだけであった。長門の駆逐艦人気というのは凄まじく、長門の用意する景品を聞いた駆逐艦の艦娘たちは一番喜んでいる。特に暁型の艦娘たちが。

 

「喜んでくれているようで何よりだ。それでは、一先ずこちらも準備があるので適当に近くの者たちと話でもしていてほしい」

 

 ということになったので、艦娘たちは前や後ろ、隣の人たちと会話を始める。

 陽炎の右隣の時雨は雪風と会話を始めたので、自分は左隣の金剛とでも、と思ったが先客が現れた。

 

「よう、金剛さん」

 

 話し掛けてきたのは、金剛の左隣に立っていた天龍である。金剛や、それに影響を受けた比叡とは違い、正統派眼帯イケメン系女子だ。

 

「今回はオレたちが貰ったぜ」

 

 ニッと白い歯を見せながら天龍は不敵に笑う。

 

「そうは行きまセーン、天龍ガール。戦いには何が起こるか分かりませんが、しかし、今回の私たちの勝ちは決まっていマース」

 

「言ってくれるじゃねえか。戦艦だからって調子乗ってると痛い目見るぜ」

 

「ノーノー、痛い目を見るのはユーたちデース」

 

「へっ、まあ良いさ。絶対に吠えずらかかせてやるからよ。まっ、正々堂々よろしく頼むぜ」

 

「こちらこそ」

 

 がっしりとお互いに手を握り合う。

 それから天龍は、金剛とは反対側の隣にいる龍田の方へ身体を向ける。

 入れ替わる形で、比叡が後ろに振り向いて来た。あの、ミレニア〇アイと呼称されている眼帯を装着している。今日は金剛も着けているので、改めて見るこのツーショットは、この鎮守府のノリに乗った陽炎とはいえ近寄り難いものがあった。

 

「フフフ、お姉さま。今回はお姉さまと言えど、容赦はしませんよ」

 

「比叡。良い機会デース。どちらが真のミレニアム〇イの使い手か決着をつけましょう。姉妹でも、戦いの場に行く事を決意すれば相手を潰すまで戦う。それがデュエルデース」

 

「闇のゲームの始まりです。陽炎もお手柔らかにね」

 

 何の話をしているんだ。陽炎は金剛と比叡の二人を見ながら思った。

 最後に、後ろから金剛の肩をぽんぽんと叩いてくる艦娘。空母の赤城だ。既に勝利した後のことを考えているのか、ふにゃりと幸せそうな顔をしている。

 

「金剛。もし、あなた方が三位になってしまったら景品は交換しましょう」

 

 予想通りと言うべきか、赤城は食べ放題という言葉に惹かれたようだ。

 まさかだと思うが、三位になるために最後あたりはわざと負ける気じゃないだろうか。陽炎が赤城の隣にいた駆逐艦の潮を見てみると、その視線に気づいた潮が苦笑した。

 なるほど。食べ物の為なら本気で手段は択ばないらしい。その清々しさにはある意味で感心する。

 そうこうしていると、長門たちの準備が整ったようだ。

 

「皆、注目! このボードを見ろ!」

 

 デカデカとしたホワイトボードにはトーナメント表が記載されていた。艦娘たちはこぞって自身と対戦相手、それから順番を探している。

 陽炎も例に漏れずに目を凝らして確認した。

 金剛隊と書かれていた場所は一番最初。大会の初戦である。相手は赤城隊と記されていた。

 

「あら、最初?」

 

 背後で赤城の声が聞こえた。

 どうやら景品の交換計画は早々と失敗に終わったらしい。それにつけても、初戦の相手がいきなり赤城の隊とは厳しいものになりそうである。

 陽炎は金剛を横目で確認。金剛は何とも思ってなさそうというか、ただの倒すべき敵としか見ていないみたいだった。

 マイクもなしに長門が声を張り上げる。

 

「それでは、早速だが試合を開始する! 金剛隊及び赤城隊のメンバーは直ぐに準備に取り掛かれ!」

 

 

 

 

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