金剛・J・クロフォード   作:フリート

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おかしな鎮守府 その⑤

 場所は演習海域。

 太陽が燦々と照らす中で、金剛隊と赤城隊が距離を取って向かい合っていた。彼女たちはお互いに視認することは出来ない。それほど離れているのだ。これは空母である赤城に配慮してのことだった。最初から砲撃戦になれば不利なのは明白だからだ。

 そして安全な位置に大勢の艦娘たちと長門に抱きかかえられた提督が、両者の戦いの観客となっていた。

 

「いよいよ戦いの火蓋が切って落とされようとしています。彼女たちの胸の内から今か今かと溢れ出る闘志を、ビシビシと私感じ取っております。申し遅れました。本日の実況及びリポーターの青葉、重巡洋艦青葉です。よろしくお願いします」

 

 セーラ服に黄色のスカーフ、髪の色はグレー系のピンクでマイクを手慣れたように持つ少女。重巡洋艦の青葉は、まるで天職であるかのごとく振る舞っている。

 

「両隊共に四人ということで、数のところは互角。一体どうなるのでしょうか。それでは一人ずつ話を聞きましょうと言いたいところですが、時間が無いので金剛さんと赤城さんから一言ずつ頂こうと思います。では早速」

 

 青葉が先ず向かったのは赤城の下であった。そこには赤城の他に、漣、潮、曙の三人がいる。他の三人はあまりやる気がなさそうであった。

 さもありなん。一位と二位を赤城が取る気ない上に、三位の食べ放題を貰ったとしても赤城に食いつくされるのがオチである。

 彼女たちの思いは無様な戦いだけはしない。それだけだ。

 一方の赤城はやる気も気合も共に十分。メラメラと瞳に炎が見えそうであった。ずざざっと飛沫をあげてやって来た青葉が、マイクを赤城の口元に近づける。

 

「赤城さん、一言」

 

「ご飯」

 

「ありがとうございます」

 

 実に簡潔である。彼女らしさが詰められた一言であった。

 続けて金剛。彼女たちは四人全員が勝ってやるという強い意志を見せていた。赤城の時と同じように、金剛にマイクを近づける青葉。

 

「金剛さん、一言」

 

「私たちの敗北などありえまセーン。この大会を征し、名誉も景品も手にするのは私たちデース。ハハハハハ!」

 

「随分な自信の有りようですね。ありがとうございます」

 

 油断と取るのか余裕と取るのか、あるいはパフォーマンスと取るのか。判断に迷うところであるが、一つだけ言えるのは実力に裏付けされている発言ということだ。

 続いて青葉が向かったのは、赤城と同じ空母にして一航戦の加賀の下だ。本日加賀には解説役が授けられている。

 

「この戦いを加賀さんはどう見ますか?」

 

「赤城さんが取るべき戦術は二つ。金剛さんを先に片付けて、駆逐艦娘をじっくり料理するか。あるいは駆逐艦娘に攻撃を集中させて総大将を轟沈させるか」

 

 この大会では、隊の駆逐艦の中から一人総大将というものを選ぶ。この総大将を轟沈判定させれば勝ちというわけだ。言い換えれば総大将さえ生き残っていれば負けではないし、他が生き残っていても総大将がやられれば負けである。

 またお互いに、敵の隊の総大将が誰かは知らない。

 

「金剛さんの方は、赤城さんの最初の艦載機による攻撃を耐えて、主砲の射程に赤城さんたちを入れてしまえば勝ちは見えてくる」

 

「なるほど。この段階ではまだどちらが勝つのか、という確実な勝敗は見えてこなさそうですね」

 

「そろそろ皆が待ちきれないようだし、始めるとしようか」

 

 長門が加賀の隣に立った。それから顎で周りを指し示す。

 青葉が視線で追ってみると、観客の方がさっさと始めろと言いたげにこちらを見ていた。

 

「そうですね。開始の合図はどうしますか?」

 

「ここは提督に任せよう。提督、頼んだぞ」

 

 マイクを青葉から長門が受け取り、それを提督の口元へ。提督は軽く頷くと、一息置いてから開始の宣言を行った。

 

「それでは、金剛隊、赤城隊の試合を開始します――始めてください!」

 

 

 

 

 

 提督の開始の合図で、両者一斉に動きを見せた。動きが目立つのは空母の赤城である。長弓を構えて、それを天に向かって放った。すると放たれた矢は空中で分裂し、艦爆機や艦攻機、両者を護衛する戦闘機となって風を斬り裂き突き進む。

 その艦載機の姿が陽炎たちの目に入って来ると、彼女たちは前進していたのを停止してから迎撃態勢に入った。移動しながらの攻撃は、照準に問題が生じるからである。

 

「撃て撃て撃てぇええ! 撃ち落とせぇええええ!」

 

 普段のクールさを潜めさせた時雨が張り上げた声が辺りに響き渡る。それを号令として四人の対空砲による迎撃が始まった。

 弾幕を張ってとにかく敵艦載機の妨害をする。撃墜するのが一番良いのであるが、あいにく飛んできた飛行機全部落とせるほど、軍艦は万能じゃないのだ。艦娘であってもそれは変わらない。

 

「ワオッ! 流石に赤城ガールの……ユーたち、来ますよ!」

 

 多少の被害をものともせずに弾幕の中を突破してきた艦載機が投弾を行う。爆弾と魚雷が金剛たちに襲い掛かった。陽炎、時雨はしっかりと見極めて回避運動あるいは迎撃を行う。金剛もそれに倣おうした。

 が、そうはいかなかった。

 

「私の勘がこちらの方が良いと言っています。秘技、鋼鉄なるバリアーダイヤモンドフォース!」

 

「何をする気ですか雪風ガール! オーノー!」

 

 周辺一帯に水柱が立った。

 

「よし回避!」

 

「やったな」

 

 運が良かったのか実力か、上手く敵の攻撃をかわした陽炎と時雨。そして直ぐに周囲を確認すると、晴れた水柱の中から金剛と雪風が現れるのを見た。

 雪風は笑顔で陽炎たちにサムズアップ。何ともないところを見ると満足の行く結果を生み出せたらしい。一方の金剛は激痛で顔を歪めていた。至って傷を負っている様には見えないが、それはこれが模擬弾で行われているからである。金剛の現在の状態は中破。それ相応の痛みがある筈だ。

 

「よくもやってくれましたね、雪風ガール?」

 

 ぴきぴきとこめかみに青筋が浮かんでいる。

 

「私は最善の手を取ったと思います」

 

「仲間を盾にすることが最善ですか?」

 

「はい。金剛さんは運が良いですし、戦艦で防御力もある。それにこうした方が良いって私の勘が言っていました! てへっ?」

 

「てへじゃないわよ! まさかあんた、あの時のことをまだ根に持って」

 

「まあまあ金剛さん落ち着いて。こうして誰も轟沈判定受けてなかったんだから良かったじゃない」

 

「そうだな。運が良かった」

 

 全砲門を雪風に向けて今にもぶっぱなしそうな金剛を、陽炎と時雨が宥める。無傷だったのに味方の手で沈められるなんて馬鹿みたいな話だ。

 それに今回の総大将はこの雪風である。雪風が沈んだら負けである以上、雪風の判断もあながち間違ったものではないかもしれない。

 

「ほら、金剛さん。さっさと行かないと第二次があるから、早く行くわよ」

 

「……分かりました。では行きましょう!」

 

「「「了解!!」」」

 

 赤城たちがいるであろう地点まで全速前進。とは言っても全速の速度は一応金剛に合わせてあるけど。陽炎たちは赤城の二回目の攻撃に備えながら進軍する。

 そうして、二回目にさらされることなく赤城たちを金剛の大砲の射程に捉えることに成功した。陽炎たちの視線の先では、赤城が少し焦っているのが見える。

 金剛がそれを見過ごさない。

 

「誰が総大将なのかは、私たちにとってはアンノウン、すなわち未知デース。ですが、全員倒してしまえばノープロブレムデース! 砲門フルオープンーーファイア!」

 

 砲弾が爆音と一緒に赤城たちに襲い掛かる。しかし赤城たちとて屑鉄の案山子ではない。砲弾を軽々と回避してから反撃に移った。

 

「一航戦の名誉と誇りをやらせはしない! そして、間宮さんのご飯は渡しはしないわぁあああ! 漣、曙、行きなさい!」

 

「オワタ! 完全に捨て駒な件について」

 

「言わないで、漣。せめて、盾。そう私たちはイージスの盾なのよ」

 

「あんまり変わらないよ!」

 

 艦載機は、赤城の場合は弓を放って分裂したものが艦載機に変化し、空中で集合して陣形を整える時間が必要なのだ。特に弓を放つ時は無防備であり、それを守護する他の艦娘が不可欠。この無防備な時間身を挺して守らなくてはならない。

 であるから漣と曙は、まあそういうわけである。

 

「こうなったら行くわよ、漣!」

 

「うん。こういう時はそうだね、これだ……バンザーイ!」

 

 覚悟を決めた漣と曙が急接近して来るのが見えた金剛たちも動き出した。陽炎ら駆逐艦三人が砲撃を開始。接近して来る二人の逃げ道を断った上で、本命の金剛である。

 三人の駆逐艦による砲撃で水柱が乱立し、金剛が放った砲弾は弧を描いて飛んでいき爆発した。

 

「また守れなかったけど、これは仕方ない気がするわ」

 

「メシマズ……」

 

 辞世の句というか最後の言葉を言い残して、漣と曙は退場した。

 

「やりぃ!」

 

「このまま一気に行こう」

 

「勝ちましたかね、これ?」

 

 先に先制点を取ったということで、陽炎ら三人の士気が上がる。二人の駆逐艦を撃破したことで、必然的に総大将は残りの一人潮だ。三人は潮に注目する。だがただ一人、金剛だけは平常を保って赤城に注目しその動きを察知していた。

 

「ユーたち、赤城ガールの第二次攻撃隊デース。注意しなサーイ」

 

 言っている間に上空から攻撃が降り注ぐ。

 金剛は雪風に視線をやり、生き残れそうなことを確認してから対処に入った。総大将の雪風と最悪自分だけ生き残っていれば勝てるという算段だ。

 金剛の予想通り雪風は小破しながらも生き残った。

 

「うく……ふぅ……死ぬかと思ったわ」

 

「痛い! 痛い! 痛いー!」

 

 生き残ったには生き残った陽炎と時雨だが、大破判定の轟沈一歩手前。これ以上動けそうにはなかった。

 

「その様子だともう無理そうですね? 大人しくしているのデース。雪風ガール、行きますよ!」

 

「了解です。金剛さん」

 

 金剛と雪風の主砲が火を噴く。轟音、それから着弾。

 第二次攻撃がある意味で失敗したことを悟った赤城は、なんとか起死回生の一手を講じようとするもいかんともしがたく。

 

「潮ー!」

 

 と、頼みの綱を総大将に託して散っていった。

 

「赤城さん……!」

 

 託された潮は、自分と同じ駆逐艦、そして巨大な戦艦へと対峙する。

 潮は二人に勝てるとも思っていない。だけれどもしかしたら万に一つの望みがあるかもぐらいは考えている。それは、速度で金剛をかく乱して、雪風に接近し攻撃するヒットアンドアウェイ。でも、雪風が総大将じゃなかったら終わりだ。

 

「フフ……」

 

 必死に自分たちに勝つ算段を考えている潮を見て、金剛が凄みがあるというか邪悪な笑みを浮かべた。

 

「潮ガールの考えていることが手に取るように分かりマース」

 

「顔に出やすいですからね、潮ちゃん。それじゃあ金剛さん。油断しないで全力で戦いますよ」

 

「勿論デース」

 

 二人ははっきりと潮を見据えた。

 お互いに睨み合ったまま停止している。

 すると、潮が動き出したのを機に砲撃戦が始まった。

 右へ左へかく乱しようとする潮。だが、金剛には通用しなかった。行動を先読みされて、移動予定場所に飛来して来た主砲弾に直撃。そのまま轟沈判定となった。

 

「そ、そんな呆気ない……もうちょっと戦えると思ったのに」

 

「赤城隊総大将潮の轟沈を確認! この勝負は金剛隊の勝利だ!」

 

 凛とした長門の声。

 この一瞬後に、勝者である金剛隊と観客となっていた艦娘たちの歓声が沸き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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