金剛・J・クロフォード   作:フリート

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おかしな鎮守府 その⑥

「いたたたた……勝ったわね、皆」

 

 陽炎は意識を飛ばしたくなるような激痛を耐えて、時雨とお互いに肩を貸し合いながら金剛と雪風の下へ行く。

 初戦を見事に征することが出来て嬉しさが込み上げてくる反面、そういえば私は何もやってない気がすると何とも言えない思いも込み上げて来た。

 やったことと言えば、漣と曙に牽制程度の主砲を放っただけで頑張ったというか活躍したのは金剛ただ一人。金剛無双だった気がしなくもなかった。

 

「陽炎の気持ちはよく分かる……僕も基本叫んだだけだったしね」

 

 金剛隊には金剛以外にも人物がいることを分からせてやる、という意気込みで戦いに臨んだ時雨。でも結果としては、金剛流石の一言が飛び交いそうな内容だった。

 落ち込むのも無理はない。

 

「やりましたよ金剛さん!」

 

 身体も気分も優れない二人とは裏腹に、雪風は満面の笑みで海上を飛び跳ねている。彼女だって大したことはやってないけど、でもどんな手を使ってでも生き残ったというところは評価が出来そうだ。少なくとも自分や時雨に比べれば。

 そして本日のMVP。

 

「フフフフ、だから言ったではありませんか。私たちが負けることなどあり得ないと。粉砕! 玉砕! 大喝采デース! フハハハハハ!」

 

 勝ったことが嬉しいのか高笑いのレベルが上がっている。金剛だって中破判定の身体で無視は出来ない痛みがある筈なのにそれを一向に感じさせないタフぶりだった。

 と、馬鹿笑いしている金剛に、敗者とは思えない程スッキリとした表情で赤城が話し掛けて来た。赤城の背後には漣、曙、潮の三人もいる。

 

「今回は負けたわ、金剛」

 

「私たちも冷や汗ものな時が何回もありました。ユーたちは強敵でした」

 

「……この戦いで駆逐艦はほとんど何もしてない件について」

 

「……漣ちゃん、しっ」

 

 赤城の後方での会話を聞かなかったことにして、金剛と赤城は握手。

 

「他の隊の人たちも手強く、苦戦することは間違いないわ。だけど、私たちを下したあなたたちならきっと三位に入ることが出来る。私は信じてるわ」

 

 中々感動的な場面だが、ここで優勝ではなく三位とか言ってしまっては台無しだ。この後赤城が何を口にするのか、陽炎は何となく想像がついた。

 

「それでものは相談なんだけど……あなたたちが三位になって景品を貰ったら、それを私にくれないかしら。後日、百倍にして恩を返すから」

 

 やっぱり。

 この実に呆れた相談ごとに、陽炎たちだけではなく漣たちまで首を横に振ってやれやれ。また、こんな馬鹿な提案に金剛が乗る筈もなく。

 

「ソーリー、赤城ガール……私たちが目指すのは優勝ただ一つ。三位などさらさら取る気はありまセーン」

 

「そんな! 殺生なことを言わないで。お願い!」

 

 涙を垂れ流しそうな勢いで瞳をウルウルとさせる赤城。ご飯が関われば性格が変わることは知っていた陽炎だが、ここまで酷いのは見たことがない。赤城は腰に縋りついて上目遣いと持ちうる武器を全部使って金剛に懇願する。

 これに金剛はーー。

 

「ユーには一航戦としての誇りはないのですか?」

 

 苦笑気味である。

 今の赤城を見たところ誇りなんて埃と区別が付きそうにもないが、優先順位の問題だろう。彼女にとってご飯はそれほど大事なものということだ。

 

「誇りでご飯が食べれますか!?」

 

 赤城が咆哮した。魂の叫びだった。

 誇りでご飯が食べられないことに異論はないけれど、なんか赤城が言っても意味が違いそうなので同意はしない陽炎であった。

 さてと、次の試合があるためいつまでもここにいては大会進行の遅れの原因となりうる。赤城の醜態は見ていて楽しくはあるが、他の人に迷惑を掛けるわけにもいかない。

 

「一先ず、戻るわよ」

 

 ということで八人仲良く海上を滑る。

 出迎えてくれたのは、大勢の艦娘の拍手と赤城の負けで落ち込んでる私情入りまくりの解説役加賀、マイクとメモ帳を持った青葉に、笑みが可愛らしい提督と少し笑っている長門だった。

 赤城は真っ先に加賀の下へと向かって慰めてもらう。自分の胸の内で泣く赤城に、落ち込んでいた加賀は頬をうっすらと赤らめて、仲が良さそうで何よりだ。

 

「フッ、面白い試合だったな金剛」

 

 提督を抱きかかえた長門が金剛に笑いかける。

 

「特にあなたが爆発するところは大変笑わせてもらった。あのままくたばっていたらもっと面白そうなのだが……」

 

「フンッ……別にユーを笑わせるためにやったことではありまセーン。それより、提督を寄越しなサーイ!」

 

 乱暴な言葉とは裏腹に、長門の腕から優しく提督を抱く金剛。

 

「ヘーイ、提督? 私の活躍ぶりはどうでしたか?」

 

「とてもかっこよかったですよ」

 

「…………っ! そう」

 

 甘酸っぱい光景が目の前で広がっていた。見ているだけで胸がドキドキする。傍から見たら小さい少女に褒められて熱っぽくなる眼帯の女性の図だが、危険性が感じられないのは何故だろうか。

 比較対象を観察してみる。

 

「長門さーん、勝ちました勝ちました。私勝ちましたよ!」

 

「頑張ったな、雪風。凄いぞ」

 

「うぅ……負けちゃったわ、長門さん」

 

「残念だったな、曙。お姉ちゃんの胸で良ければ貸してやる。よしよし」

 

 自分と時雨を除いた駆逐艦四人が長門を取り囲んでいた。金剛とあまり変わりはない絵面なのに、こちらはそこはかとない危険性を感じる。

 不思議だ。

 

「はーい、ちょっとよろしいですか?」

 

 どうでもいいことに頭を悩ませる陽炎と、ぼけっとしていた時雨は声を掛けられた。

 声の持ち主はマイクを持った青葉。

 どうやら、周りはお忙しい中特にやることがなさそうに突っ立っていた二人に、今回の試合について一言もらいたいとのことだった。

 こういったことは初めての経験なので、何を話して良いのか分からない二人。最初に冷や汗流しながらしゃべり始めたのは時雨であった。

 

「が、頑張りました」

 

 次は陽炎の番。

 えっ? こんなんでいいのと思って自分も簡単に済ませようとしたが、青葉が目で語って来たのでそこそこの長文を話す羽目になった。

 

「えと……今回は金剛さんに頼りきりだったし、私はろくに戦っていません。こんな不甲斐ない真似を次は繰り返しません。自分に出来る事を精一杯やろうと思います」

 

 ありがとうございました、と青葉は踵を返して赤城の方へ行った。声音から判断する限りどうやら及第点は貰えたようである。

 青葉を見送った陽炎は、ふと自分が言った言葉を思い返してみた。

 

「頼りっきりか……」

 

 そんなことじゃいけない。自分たちは保護の対象ではなく轡を並べる戦友でなくてはならないのだ……って、何で妙な雰囲気になっているのだか。

 隣を見れば、時雨と視線があって、周りで盛り上がっている仲間たちを見ながら、二人で大きなため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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