東方電脳携帯獣   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

1 / 4
その1

「“れいとうビーム”!」

「掻い潜って“クロスポイズン”!」

『ガメェッ!』

『クゥ、ロァッ!!』

 

 一閃。

 猛毒の十文字切りがその甲羅に覆われた胴体に炸裂し、残った体力を削り取った。

 

「……カメックス、戦闘不能! クロバットの勝ち!」

『決まったぁ! クロバットがこれで2連勝だ! これでにとり選手の残るポケモンは1体のみ、後がありません!』

「戻って、カメたろー」

 

 ポケモン大会・紅魔カップ決勝戦。自らも選手として参戦したレミリアは先に出したヌケニンをにとりの一番手ルンパッパの“やどりぎのたね”で失うも、クロバットの速攻で素早く撃破。続くカメックスも難無く倒し、完全に形勢を逆転させていた。

 

「やー、流石は吸血鬼の女ボス、強いねー」

「アンタこそ。まさか私のヌケニンの“ヌーズベルト”が一瞬で沈むなんて予想してなかったわ」

 

 ちなみにレミリアが今繰り出しているクロバットのNN(ニックネーム)は「くーりっしゅ」。ネーミングセンスは相変わらず壊滅的であった。

 

「で、どうするのかしら? ドン臭いポケモンじゃくーりっしゅには勝てないわよ?」

「そうだねぇ……。ここはやっぱ、お気に入りで行くっしょ!」

 

 決勝戦、3vs3のポケモンバトルもいよいよ大詰め。まだ1匹を隠し持っているレミリアに対し、背水の陣と化したにとりが取り出したのは――

 

「ゴラたろー、GO! GO! GO!」

『アバァァァァ!』

 

 青いボディに黒い鎧のような甲羅を持つ亀型のポケモン、アバゴーラだ。

 

「へぇ、またそんな鈍そうなヤツを出すワケ? くーりっしゅの速さがまだ分からないみたいね」

「まさか。遅いなら、速くすれば良いだけさ! ゴラたろー、“からをやぶる”!」

 

 にとりが指示した技は自分の防御ステータスを削って、攻撃ステータスとスピードを上昇させる、いわゆる攻撃一本槍にするものだ。中途半端な防御は無駄と知り、倒される前に2体抜きを狙う作戦だろう。

 ただしそれは、相手の攻撃によって倒されやすくなるという危険も孕んでいる。後が無いにとりにとっては覚悟を示すものでもある。

 

「アンタの雨パ(“あまごい”を利用する戦術を取るパーティ)は見事よ。だから……ここで沈みなさい、忌々しい雨と共に! くーりっしゅ、“さいみんじゅつ”!」

「ハッ、冗談! ここで優勝して、副賞の『紅魔館の野菜セット』を胡瓜マシマシで頼むんだぁ! ゴラたろー、“アクアジェット”!」

 

 

  ☆

 

 

 弾幕ごっこに使うスペルカード、それは美しさを兼ねた自分の鍛え上げた腕の成果でもある。

 逃げ道が設定されているのは遊びだから当然だとも、隙間無く何分も弾幕を撒いていたら妖力の差が出て不公平だからとも言われているが、そこはどうでも良い。

 問題は、その弾幕の配置や構図、色合いから行動パターンに至るまでの全てを自力で考えるのが基本となる点にある。

 無論、他者の手伝いを得たりヒントを貰ったりする事は何の問題も無い。そういうタイプの弾幕があるのは事実であるし、記憶というものが存在する以上、何かしらのインスピレーションを受けるのは当然の事だ。

 そう、インスピレーションを受ける。そこが問題になっている。

 実は現在、幻想郷では新たなスペルカードが生まれにくくなっていた。

 新しいスペカを考案しても、既に誰かが所持しているものと酷似していたり、実用性に欠いていたりしているものばかりなのだ。長く弾幕勝負が流行した弊害と言える。

 これにより弾幕ごっこが廃れる事を危惧した妖怪の賢者・八雲紫は打開策を練り、そしてこう提言した。

「常に弾幕勝負の事を考えているから新しい案が浮かばないのです」と。

 紫は幻想郷各地に特別な仮想世界のバトルフィールドを展開できるシステムを配置し、同時にポケットゲームの『ポケットモンスター』シリーズを住人達に貸与してそれを連動。ゲームの基本であるターン制のバトルでは無く、リアルタイムで指示を出す事でポケモンが動き・躱し・泣き・笑い・飛び・そして戦う。そんな不思議な娯楽を提供したのであった。

 これが幻想郷に大ヒット。

 

「作戦通り行くわよエアームド、“ステルスロック”!」

「だったらこっちも最初から突っ走るぞ! ブーバーン、“かえんほうしゃ”!」

 

 山では盗撮に関して文と妹紅が熱いバトルを繰り広げ。

 

ヤンマくん(メガヤンマ)、“エアスラッシュ”!」

「また怯ませる気か! バッフロン、“アフロブレイク”!」

 

 寺子屋の授業としてリグルが慧音から指導を受け。

 

メガネ(フライゴン)、“ドラゴンクロー”! 真のゴーグルは貴方よ!」

「何の当てつけだい……。テイヤール(テッカニン)、“まもる”!」

 

 華扇が面会場所に選んだ香霖堂では暇潰しとしてバトルが店主と行われ。

 

モグワイン(ドリュウズ)、トドメの“ドリルライナー”だぁ!」

「受けて立つわ! ミミロップ、“きあいだま”で迎え撃って!」

 

 勇儀の暇潰しとして他人との関わり合いをあまり好まない鈴仙すら嬉々としてやっているのだから。

 まさしく、紫の持ち込んだポケモンブームは幻想郷全土を巻き込む奇跡の策だったのだ。

 

 

  ☆

 

 

「うふふ、大成功ですわね」

「君の慧眼には毎度寒気すら感じるね」

「あら酷い」

 

 香霖堂の薄暗い闇に照らされ、紫が妖艶に笑う。

 彼女はポケモンブームが到来した当日、ゲーム機1台の分解の許可と冬の灯油代を免除する代わりに、この店をゲームの相談窓口にしたのである。

 かく言う霖之助もまた、このブームに乗って懸命にポケモンを育てているクチであるのは言うまでも無い。

 

「……でも、そろそろ問題が起きる頃かしらね」

「問題?」

「交換システムは説明しましたね?」

「ああ、交換する事で進化するポケモンなどのためのものだろう?」

「他にも利用方法は色々ありますが、その名の通りポケモンの交換を行うシステム。ですが……」

 

 

 カランカランッ!

 

 

 香霖堂の扉が唐突に開け放たれ、2つの影が文字通り霖之助へ飛び込んできた。

 

「「り゛ん゛の゛す゛け゛ぇ゛ぇ゛~~~っ!!」」

 

 とうとう来たか、と紫は嘆息する。

 飛び込んで来たのは香霖堂の屋根裏部屋を住処とする朱鷺子、そして同じ部屋に半ば住み着いているこころだ。

 

「「ポ゛ケ゛モ゛ン゛と゛ら゛れ゛た゛~~っ!!」」

 

 半濁点と濁点を同時に発音するとは器用な子達だ。そんな場違いな感想を抱いた。

 話を聞いてみた所、どうも野良試合を仕掛けて遊んでいたところ、いきなり襲撃されて強制操作された後に一番強いポケモンを奪われたという。

 そしてその犯人というのが……。

 

「何、霊夢と魔理沙が!?」

「う゛ん……」

「あらあら、本当なの?」

「ぐすっ、他に紅い巫女と黒い魔法使いはいませんし……」

 

 紫はこれを危惧していたという。

 どうしても入手しにくいアイテムやポケモン、一方を手に入れれば他方が困難なケース、所持するソフトによる出にくさ出やすさ等々。そういった問題を解決するのが交換なのだが、当然それを悪用する事も容易い。

 

「うぅ、折角3Vコマタナの色違いをメイドさんから貰ったのに……」

「私はダゲキの5V……」

「それだけじゃないよ、キーストーン持ちのヤミラミもだよぅ……」

「こっちはメガシンカで活躍してくれてたギャラドス……」

 

 3Vだのキーストーンが分からなければ、兎に角取り分け強い個体だと思えば良い。

 紅魔館へ遊びに行った帰り道、咲夜の色違いの(青い)キリキザンと美鈴のダゲキを相手に1時間に及ぶ大激闘を繰り広げ、見事勝利したという。

 その記念にお互いポケモンを交換し、これから育てる新しい仲間にワクワクしながらスキップしていたところだった。何者かが物陰から襲撃されてゲーム機を略奪、子供でも労せずに捕まえられるポケモンと強制的に交換させられたという。

 

「「しくしく……」」

「2人が、ねぇ……」

 

 俄かには信じがたかった。確かに2人とも傍若無人だったり常に我を通すような性格だったりするが、そんな強盗のような真似をするとは考えにくい。これでも10年来の付き合いなのだ、そのくらい分かる。

 

「紫、どう思う?」

「うーん……、被害者がいますしねぇ……」

 

 

 カランコロンッ!

 

 

「すみません、ここですかポケモンの相談所って!」

「魔女と吸血鬼にポケモン盗られましたー!」

 

 2人を慰めつつ紫と共に首を傾げていた所、再び来客が。今度は売り出し中の九十九姉妹だ。

 

「ごめんください、窓口ってここかしら? ウチのこいしが……あら?」

「霖ちゃん霖ちゃん、大変だよ! 天狗が2人来てポケモン奪っていったんだよ!」

「霖之助! お前、朱鷺子にどんな教育をしているんだ! 背後から襲うなど強盗じゃないか!」

「朱鷺子~、出来心だったんだよね~? 今ならもこたん怒らないから、素直に出ておいで~?」

「霖之助さん、ちょっとこころちゃんの教育方針でお話が」

「私は失望したよ、こころを預けられると本気で信じていたのに裏切られたのだから!」

「りぃ~んのすけぇ~? ちょっと顔貸しなさいな? 私がドSだって事、もう1度教えてあげるから?」

「酷いよ霖之助さん、私の大切に育ててたメガヤンマをバルビートと替えて、NNが“ごきぶり”だなんて……」

「紫様、大変です! 幻想郷各地で強盗が! ちぇええええええええええん!」

「わぷっ! わ、私は大丈夫ですから! ちょっとてーちゃんにニャオニクスを……」

「プリズムリバーを代表して参りました。事件を訴えるのってここで合ってます?」

「同じく、白狼天狗を代表して参りました。霖之助さん、あのタヌキに天誅を!」

 

 程無くして更に来店者が多数到来。皆が皆、ポケモンを取られたという。

 紫と霖之助は目を見合わせた。

 犯人はバラバラではあるが、誰もが突然襲われてゲーム機を奪われ、そのスキに強いポケモンを交換させられている。

 

「うーん、想定していたのより大事ねコレは」

「予想していたのかい?」

「取り敢えずは。どうしても強さだけに目が行くヒトはいますから。しかし、もっと個人同士の小規模なものを想定していたのだけれど……」

 

 藍と橙に興奮した群衆の鎮静化を命じつつ、紫は眉を顰める。

 嘆かわしい事である。ポケモンの魅力は強さのみならず、育て方を考えたり、どんな技を覚えさせたりするか想像したりと、バトル以外にも溢れているのだ。

 襲撃犯が強さのみを求めているのみならず、他人から暴力を以てしてまで奪うという、その精神の醜さに吐き気すら感じる。

 

「おどぉーざぁーん! あの紅白と白黒に言っでよぉ! 私のポケモン返せっでぇえ!」

「朱鷺子、落ち着け。ちゃんと話を聞いていたか?」

「くすん……私のギャラドス……。コイキングの時から一緒に強くなったのに……」

「おー、よしよし。取り替えそうね、ちゃんと」

 

「ホラ幽香。“おや”の名前とIDが同じなのにニックネームを変えられない。画面に出ない裏IDが一致しない証拠だよ」

「……分かった、信用するわ。ま、アンタじゃ私をリグルごと昏倒なんて無理だから疑わしくはあったんだけどね」

「え、じゃあ私のドラピオンは……」

「奪った奴が別にいるって事よ。……許せないわ、グラスミキサーからギガドレインしてハードプラントのコンボをダイレクトアタックで味わわせてやるんだから」

 

 霖之助の言う裏IDという単語には馴染みの無い人もいるだろう。

 トーレナーが捕まえたポケモンにはIDによる識別がふられ、これが違うとニックネームを変える事ができない仕様になっているのは一般によく知られている事だ。そして表に見えるIDとは別に裏IDというものがあり、これが色違いなどの出現に関してシステムに影響を及ぼしているのである。

 紫はそのシステムを利用し、互いに“おや”の名前が一致する相手にポケモンを譲渡させ、ニックネームを変えさせるよう指示。これが変えられないなら名前とIDの同じ別人である、という事になる事を証明し、犯人と疑われている人々の潔癖を証明した。

 

「……ちなみに聞くが、紫。IDが一致する確率は?」

「裏ID以外に表IDにも目に見えないケタがあるの。それまで一致するとなると、正直言って相当なレベルよ。幻想郷の全員に与えて1つダブりが出るかどうかってトコかしら。目に見える5ケタだけでも1/65536になります。

 そしてこの数が全て偶然だとすれば、その分母は天文学的どころじゃない確率になりますわ」

 

 表IDは表記されないものを含めて10ケタ、裏まで含めれば合計で20ケタに及ぶ。偶然の一致は無いに等しい。

 つまりそれは、故意にIDを変えなければ幻想郷内では有り得ないという事だ。

 誰かが悪意を持ってこの犯行に及んでいる、そうで無ければ説明がつかない。

 問題は、犯人が他人に化け、IDを随時変化させられる能力を持っているという点にある。ミスリードをバラ撒かれたこの状況、解決するのは容易では無いだろう。

 

「くすん、私のギャラくん……」

 

 だが目の前でめそめそと泣いているこころを始め、被害に遭っている少女が多数いる事もまた確かなのだ。森に来られないだけで被害者がもっといる可能性もある。放置は愚策だ。

 

「……で、どうするんだい、賢者様?」

「あら、霖之助さんはもう対策が分かってると思うのだけれど」

「ふむ?」

「犯人は強いポケモンを、鑑賞するために奪ったのかしら?」

 

 その一言でピンと来た。

 強いポケモンを育てるのはバトルで勝つためだ。ならその勝利がもっと大々的で栄誉あるものならば、勝利の陶酔感もより大きなものとなる。

 

「犯人の目星は?」

「まだついてません。しかし最低限2人組の可能性が高いでしょうね」

「エサは?」

「幻想郷最強の称号を。そうね、それと最上級のレアアイテムを何点か。リアルマネーの賞金も出します」

「タマゴもつけたらどうだろうか」

「妙案ですわ。6V個体の生まれるタマゴを用意しましょう」

「霖之助? 何を話している?」

 

 グズる朱鷺子をあやしていた慧音が不審に思って聞いてきた。

 それに対し、霖之助と紫はにっこりと笑って返す。

 

 

 

「「大会を開こうと思って」」

 

 

 

  ☆

 

 

 夕方になり日が沈むと、香霖堂を兼ねた相談窓口は終業となる。

 だが窓口が終わっても内部の営業は終わらない。普通の企業なら書類整備や報告書などを書かねばならないのだが、香霖堂は違う。

 

「名前は、そうね……『ポケモンバトル・タッグトーナメント幻想郷大会』とか?」

「シンプルかつ字面で全て分かるね、それが良い。今回は凝らずに分かりやすさを重視しよう」

「全員に監視をつけましょう。IDも接続する以上こっちからはモロバレですわ」

「いや、見るのは予選を突破したチームにしよう。報告された個体値を見れば初心者でも突破できそうだしね」

「あらあら、犯人が予選落ちしたらどうしますの?」

「再犯が発生するだろうね。だがこの一件が周囲に知られている以上、動きにくくなるハズだ」

 

 今、霖之助と紫は大会を開くべくその準備を推し進めている。

 犯人が強いポケモンを求めているのなら、その成果を確かめたいハズだ。そしてその強さを誇示したいという欲求は、暴行事件を起こしているのなら高い事は請け合い。優勝者には商品があるというエサがぶら下がっているなら垂涎の的だ。

 

「優勝者を狙う可能性は?」

「無いからそんな意地悪な質問をするのだろう?」

「あらあら、うふふ」

「タマゴは交換できないからね」

 

 優勝賞品は6Vという最強の個体が生まれるポケモンのタマゴと、レアアイテムを複数。タマゴは交換に出せないし、アイテムはポケモンに持たせてトレードするしか無いので、奪うとしても1つずつという手間がかかり過ぎる方法しかない。

 称号に至っては変身しては得られないし、幻想郷全土に告知を広めれば誰かが化けていてもいずれ誰が偽物かが分かってしまう。幻想郷全土にブームとして広がっている以上、不参加者を割り出すのも容易くなる。

 参加者が多くなるので予選は必至。だからこそ記名制度が生きてくるというものだ。

 

「犯人が裏IDの事を理解していないのは明白。となれば奪うとすれば孵化した後のポケモンだ。だから君は何が生まれるか知らせるつもりは無いんだろう? それが知られたら犯人が大会に出る理由が1つ無くなってしまうから」

「うふふ、ご名答」

 

 カサリ、と霖之助は1枚の紙を取り出す。今日報告に来た全員から聞いた、奪われたポケモンのリストだ。

 

「色違いのミカルゲ、限定配信のゾロア、ゴースト、カビゴン、ピィ、スターミー、ゼクロム……、いずれも高い個体値や優秀なタマゴ技を覚えている。使うなら絶好のチャンスか」

「使えば自分が犯人だと明言するようなものですけど、そこまで頭が回るかしらね」

「どうかな、何せ知識や手段から見えるのは中途半端な頭脳だ。黒幕が別にいるかも知れない」

「まったく……楽しく遊んで欲しいものですわ」

「確かに」

 

 その後もトントン拍子で話が進み、あっと言う間に要綱がまとまった。

 予選にかける日にちや大会のステージ、配るチラシなどなど。殆どが紫におんぶに抱っこなのが歯痒いが、ただの半妖に出来る事では無いので仕方ないだろう。

 

「こんな所かしら」

 

 企画書を纏めてホチキスで留める紫。かなり分厚くなったが、彼女曰く「外界の物に比べればまだ薄い方」らしい。

 疲労で凝った肩を軽く揉み解す賢者に、霖之助は兼ねてから考えていた事を告げた。

 

「紫」

「はぁい?」

「付き合ってくれ」

「はーい」

 

 

 ……。

 …………。

 ……………………。

 

 

「えっ!!!??」

 

 唐突な告発が紫を襲った。

 何故に? どうして? WHY? そんな空気だっただろうか? 共同で作業する内に恋愛感情が芽生えてしまったのだろうか?

 いきなりの事態に目を白黒させるスキマ妖怪。

 

「ありがとう。これで僕もタッグパートナーが出来た、大会に出られる」

「……はぁ」

 

 もっとも、そのピンクな空気は数秒で霧散してしまったのだが。

 つまり『大会に出るから相棒になって欲しい』というだけだったのだ。

 

「霖之助さん、貴方いつか背中から刺されますよ?」

「ん、何故だい? 僕はいつだって誠実に生きてるよ?」

「ギャグで言ってないからタチが悪いですわ……」

 

 返せ、さっきのドキドキを。

 

「でも霖之助さん、貴方ちゃんと強いんでしょうね? こう見えても幻想郷の母、弱いパートナーなんてお断りよ?」

「ん、僕の腕を疑っているね? 良いだろう、朱鷺子とこころに努力値や役割理論を教えたのは僕だという事を教えてあげようじゃないか」

 

 にっこり、と笑う紫に対してニヤリ、と笑う霖之助。

 そうと決まれば、香霖堂にもセッティングしてある機具を使うまで。

 

「使用ポケモンは?」

「大会ルールに慣れるためにも、2対2のダブルバトルで行きましょう。交代は無しの一本勝負」

「良いだろう」

 

 自分のゲーム機と機械をコネクタで接続したら、後は備え付けのゴーグルを装着するだけ。このゴーグルにはウサギの爪に使用したのと同じ魔術的GPSが施されているので持ち逃げされない便利な一品である。

 

「じゃ、良いバトルにしましょう?」

「悔いを残さないようにしよう」

「それじゃあ……クリムゾン(コジョンド)レイン(フライゴン)、お願いします!」

エピクトテス(エレキブル)プラトン(プテラ)、バトルスタンバイ!」

『コジョォッ!』『フラァァァ!』

『レキブルゥ!』『プゥテェェ!』

 

 

  ☆

 

 

 某所。

 そこには奇妙なシルエットを持つ、2つの人影があった。幻想郷は異形の者達の土地ではあるが、その姿は人間のものに近しい、もしくは人間と獣の姿を合わせたものが多い。

 だがそこにある2つの人影は、そのどちらにも当てはまらなかった。

 

「……ねぇ、これで……勝てるよね」

「勝てるに決まってるじゃん。この大会で名を挙げて、幻想郷最強の称号を得るんだ!」

「うん……」

 

 片や意気消沈。

 片や燎原の火。

 テンションの差に気が付いたのか、一方が他方に対して訝しげな視線を向ける。

 

「……怖気付いた?」

「ううん、違う。ただ……これで良いのかなーって」

「なーにを今更」

 

 テンションの高い影が嘆息する。

 

「勝って友達作るんだろ! 強い奴には人が集まる! 月でも地上でも地獄でもそれは変わらないんだから、しゃんとしろ!」

「……うん」

 

 尻を叩いても効果無しと悟ったのか、再び溜息を吐いて片方の人影はその場を去った。

 残されたもう片方の影は、ゲーム画面を眺めながら呟く。

 

「確かに強い、強いよ……。でも……、間違ってるよこんなパーティ……」

 

 その時、月光が少女の姿を照らし出した。

 赤と青の触手がそれぞれ3本ずつ背中に生えているが、しかしそれはよく見れば翼だと分かっただろう。

 髪の毛と同じ黒のピッチリしたワンピース、赤い三叉の槍。

 

「マミゾウ、聖……、ごめん……」

 

 封獣ぬえの呟きが、夜風に溶けて消えた。

 

 

つづく




各人のNNの法則

にとり:○○たろー

レミリア:それっぽいカリスマ(笑)名

紫:フライゴンを除き、自分や式の色(美鈴が八雲にいた、というネタから苗字の紅→クリムゾン)

霖之助:哲学者の名前

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。