東方電脳携帯獣   作:ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民

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その2

「サイビール、よく頑張ったな。ありがとう」

「あっちゃー、相撃ちかぁ。お疲れ様、ぎんじょう」

 

 わぁああああああああ!という大歓声を背負って2人の鬼、伊吹萃香と星熊勇儀のバトルが幕を下ろす。それぞれ繰り出したのはドサイドンとアイアント。超重量級同士の激突に加え、幾度と無く繰り返された幻想郷に馴染みの無い金属音や岩石の破砕音。最後は一撃必殺の“つのドリル”と“ハサミギロチン”が互いにヒットし合い、ドローという結果で幕引きとなったのであった。

 

『皆様、如何でしたでしょうか。これが次世代のポケモンバトルです! 幻想郷各地に設置してある装置を用いて行われるこのバーチャルリアリティーとソリッドヴィジョンを用いたゲームは期間限定! 皆様、どしどしご利用下さい!!』

 

 司会の席で九尾の狐・八雲藍がマイクを掴みながらアナウンスする。激しいバトルに魅せられたのか、彼女達の声や仕草にも熱が入っていた。

 そんな主の、完璧には至らないからこそ愛らしく尊敬できる点を、審判のコーナーボックスから妖猫の橙が微笑ましく見上げていたのであった。

 

 幻想郷全土を巻き込んだ大規模大会、ここに前座のエキシビションマッチが終了。

 本格的な戦いの火蓋が、いよいよ切って落とされる。

 

 

  ☆

 

 

「始まったわね」

「ああ」

 

 選手の控室で、神妙な顔をして画面を見入る紫と霖之助。

 一週間前、突如として香霖堂へ押し寄せて来た幻想郷の少女達。彼女らは皆、奇襲の末にポケモンを奪われたという。

 奪われたポケモンは皆、強い個体。ならばその力を発揮できる舞台を整えれば、犯人は自ずと現れる。そう考えた2人は選手として自らが開いた大会に潜り込み、事態の解決を図る事にしたのだ。

 

「私達の戦いは一番最後。今の内に他の選手達の情報を整理しましょう」

「ああ。作戦会議だ」

 

 各地で予選大会を開き、代表を16チーム集めて行われるトーナメント。2人は無所属が集まる予選を勝ち抜き、見事勝利したのだ。

 ちなみにあちこちから紫と組む事についてクレームが出たが、霖之助の「窓口業務の一環だ。文句があるならこの業務を代わってくれ。相方は紫だが」という言葉で全員沈黙してしまった。なお、最後の一言で紫は人知れず涙を流したという。

 

(紫、犯人の目星は?)

(微妙な所ね。変身の能力者はいないし……。別の角度から計算中よ)

 

 ヒソヒソと小声で相談する2人。

 予め「作戦会議」という単語を出しておいたので、小声での会話も不自然では無い。

 

(珍しいな、君が即答できないなんて)

(あら、私は別に万能でも全知全能でも無いんですよ?)

(紫が万能じゃなきゃ僕は何だ、無能か。それとも不能か)

(不能じゃないクセに、僻んで卑下しないの。それともお説教がお好み?)

 

 紫自身、自分の限界はよく知っている。おおよその目星はあっても確証が無い。無いなら伝えては無用な混乱を招く。ならば今はまだ推理タイムだ。

 そう結論を脳内で下した賢者は、画面に表示されている16チーム32名の内の2人を睨む。

 恐らく、彼女達が……。

 

 

  ☆

 

 

 選手入場用の通路を進むごとに、耳に届く歓声が少しずつ大きくなっていく。

 数ある予選の中の1つの代表として、などという高尚な決意は持ち合わせていない。ただ自分達を真似して悪事を働いた輩を締め上げるだけである。

 

「霊夢、顔怖いぞ」

「魔理沙こそ、無表情はやめなさい」

 

 ジャリッ、と靴底で砂を擦り、バトルフィールド一歩手前で立ち止まる。

 この大会のどこかに、自分や他の何某か、更には兄貴分に変装してポケモンの強奪という蛮行に及んだ奴らがいる。それがこの上無く許せない。

 

「許せないわ。博麗神社と博麗の巫女の名声を地に落とすような事をしてくれちゃって」

「元からゼロだろ。それより霧雨魔法店の看板に泥を塗った方が問題だ」

「アンタの方こそ泥まみれでしょうに。でもまあ、それより……」

「ああ。そんな事よりも、だ」

「霖之助さんに疑われた」

「香霖に勝てって言われた」

 

 

――魔理沙、霊夢、僕は君達がやったとは思えない

――だがしかし、朱鷺子とこころが嘘を吐いているとも思えないんだ

――もし君達が犯人なら、僕は全力で君らを弁護するし擁護もする

――違うなら……

 

――勝て。僕らか君らがぶつかるであろう、真犯人に

 

 

「「負けるワケにはいかない!!」」

 

 地に落ちたものだと思う。ただ1人の男から、一番長い付き合いの男から疑われるとは。

 普段の行いは見逃してくれているのだと、改めて思い知った。怒られるよりも、悲しまれるよりも、失望されるよりも、見放されるよりも。

 疑われたという事実が胸に一番突き刺さったのだ。

 

『それでは、選手入場です!』

 

 だから、勝つ。自分達をもう1度信じてくれた彼のためにも。

 

『幻想郷最強をかけたAブロック第一試合、赤コーナーより入場するのは博麗神社予選を通過した博麗霊夢選手と霧雨魔理沙選手!』

「魔理沙、作戦通り行くわよ」

「霊夢こそ、ミスるんじゃねーぞ」

 

『そして青コーナーより入場するのは魔法の森予選を勝ち抜いた朱鷺子選手と秦こころ選手だぁー!』

「行くよ、ここ姉」

「頑張ろう、朱鷺子」

 

 互いの瞳に移るのは、強い決意。

 彼の信頼を再び勝ち取るためにも、まずは目の前の娘コンビを倒す!

 

「幻想郷の時代は――」

「妹萌えだぜ!」

「何ってんのよ!」

「娘萌えには勝てない!」

 

 バイザーを取り付け、大会中貸与される腕のホルダーに収納されているゲーム機をコネクタに繋ぐ。

 接続にエラーが出なければ、準備完了だ。

 

『それでは改めて説明しましょう! この大会のルールを!』

 

 ルールは簡単。トーナメント第1試合は2vs2のタッグバトル。第1回戦に限り交代とメガシンカは禁止、及び伝説級などの一部ポケモンは使用不可能。

 どちらかのポケモンを両方戦闘不能にすればバトル終了。勝利となる。

 バイザーと、そこから延びるマイクでリアルタイムに電脳世界を生きるポケモンに支持を出すこの戦い。単なる戦術論以上のものが要求されるのだから侮れない。

 

『それでは両者、ポケモンを出して下さい!』

 

 まるで脳内にもう1人自分がいるかのような錯覚。その自分が腰につけているボールに手を伸ばすように、リアルの自分もまた腰についていないボールを掴む。本当に手の中にボールがあるような感覚があるから不思議だ。手中にあるのはただのホログラフ、幻影なのに。それが堪らなく臨場感と興奮を引き出す。

 

「頼むわよ、マフォクシー!」

「勝って来い、ケロケロ!」

『フォァアアアア!』

『コウガァッ!』

 

「ヤコくん、メイク・アソルティ!」

「カボちゃん、ステージ・オン!」

『アァァアアアッ!』

『プジンッ!』

 

 ボールを放り投げれば飛び出してくる異形の、しかし可愛らしい生命体。

 霊夢はキツネ型のマフォクシー、魔理沙はカエル型のゲッコウガ、朱鷺子はハヤブサ型のファイアロー、こころはジャック・オ・ランタン型のパンプジンをそれぞれ繰り出した。

 さあ、早く始めようと言わんばかりに4人の視線が審判に集まる。

 それを受けて、しかし冷静に橙は大きく息を吸う。

 

「試合……」

 

 さあ、始めようか。

 

「開始ッ!!」

 

 ポケモンバトルを!

 

 

  ☆

 

 

「ヤコくん、マフォクシーに“ブレイブバード”!」

『ファアアアアアアアァッ!』

 

 先手必勝、赤い隼が青白く燃える炎に包まれマフォクシーに突撃する。

 朱鷺子のファイアローの特性は「はやてのつばさ」、ファイアローを猛者足らしめる強力な特性であり、飛行タイプの技全てに先制攻撃の追加効果を与える。

 攻撃技は勿論、回復などの補助技もこの効果が適用されるため、非常にスピーディに動けるのだ。

 

『ファイアロー、先制パンチを狙って突撃ィ! 果たして一撃必殺なるか!』

 

 ただし。

 

「ケロケロ、“みずしゅりけん”で撃退しろ!」

『コォォガァッ!』

『ファイィィィッ!!?』

「ヤコくん!!」

『ああっと、失敗! 効果は抜群、逆に大ダメージッ!』

 

 同じ先制技同士なら純粋に素早さ勝負になる。そしてゲッコウガは通称「御三家」シリーズの中では最速をマークする程に速いため、速度で上回るのは困難を極めるのだ。

 今も“ブレイブバード”で吶喊してきたファイアローを粘液で出来た手裏剣を無数に当てて撃ち落とした。飛行タイプのファイアローを上回る速度を出す、それがゲッコウガである。

 

「援護する。カボちゃん、“エナジーボール”!」

「“かえんほうしゃ”でブチ抜きなさい!」

『プジジジジィ~ン!』

『マ、フォオッ!』

 

 そしてファイアローの動きが止まれば、残る2体の相性は炎・エスパーと草・ゴーストで一見互角。しかしファイアローのフォローに回った事でくさタイプの技を出してしまい、それを掻き消される形でパンプジンが撃ち負けた。

 幸いにも“かえんほうしゃ”は命中しなかったが、次もそうだという保証は無い。

 

「ヤコくん、大丈夫?」

『アイッ!』

「カボちゃんは?」

『パン!』

 

「このまま行くわよ、マフォクシー」

『シィッ!』

「ケロケロ、次でファイアローを落とすぞ」

『コォガ!』

 

 場の流れを一気に持って行かれた朱鷺子とこころ。打開するため、朱鷺子はここで切り札を使う事にした。

 

「ここ姉、ちょっと早いけどアレを使う。マフォクシーをお願い」

「分かった。カボちゃん、“シャドーボール”!」

「ヤコくん、思いっきり飛び上がって!」

『プゥ~ジンッ!』

『アァイッ!』

「避けて!」

「躱せ!」

 

 影の砲弾を放つパンプジンだが、どちらにも当たる事無く土煙を巻き上げるだけに終わる。

 だが、それで良い。ファイアローが上空へ飛び立つ時間が稼げるのなら。

 

「魔理沙、上から来るわよ」

「日光で目晦ましを狙ってやがるな? そうは行かねぇ! ケロケロ、ジャンプだ! ファイアローを逃がすな!」

「え、ちょ、魔理沙!」

『コウ、ガッ!!』

『ゲッコウガ跳んだぁ! 凄いジャンプ力、空中にいるファイアローの目の前に躍り出ました!』

 

 カエルの跳躍力を活かし、空高く跳び上がるゲッコウガ。飛行タイプでも無いのに空中で目の前に現れ、思わずファイアローは面食らってしまった。

 

「“みずしゅりけん”!」

「避けて!」

『コウガッ!』

『ファアアッ!』

 

 パンッ!と太腿の印から粘液の手裏剣を生み出して飛ばすゲッコウガ。しかしそこは空中、跳べないゲッコウガでは安定性に欠き、上手く当たらない。

 

「撃って撃って撃ちまくれ! 数撃ちゃ当たるぜ!」

「バカ、誘われてんのよ! マフォクシー、“サイコキネシス”でゲッコウガを地上に下して!」

「させない。カボちゃん、“シャドーボール”!」

『プジジジジィ~ン!』

『マフォッ!?』

 

 地上からのフォローの牽制に成功すれば、朱鷺子の策は完了。

 ゲッコウガは飛べない、跳べるだけ。足場の無い空中では恰好の的だ。

 

「一気に決めるよ、ヤコくん、“ソーラービーム”!!」

『ファアア……!』

 

 全身に日光を溜めて砲撃用に充填するファイアロー。本来なら砲撃までに時間がかかるが……。

 

「大丈夫だ、ケロケロ! “ソーラービーム”は発動に時間が――」

「“ソーラービーム”、発射ァ!!」

『ファイアァアアアアアアアアアッ!!』

『ガァッ!!?』

「何ィ!?」

 

 朱鷺子がファイアローに持たせていたのは『パワフルハーブ』。チャージ用のエネルギーが込められている使い捨てのアイテムだ。

 本来吸収すべき日光をそれで補ったファイアローは、金色に輝くビームをゲッコウガに叩き込み、地面へ墜落させた。

 

『真正面から日光の光線を浴びたゲッコウガ、地面に叩き付けられた! これは戦闘不能か!!?』

 

 高いスピードの代わりに耐久力を持たない以上、これでジ・エンドかと思われた。

 

『コォ……、コウガッ!』

「そうだ! 私達はまだ行けるよな!」

「っ! “きあいのタスキ”……!」

『耐えたぁ! ゲッコウガ耐えましたぁ!』

 

 朱鷺子が攻めのアイテムを持たせていたなら、魔理沙が持たせたのは守りのアイテム。『きあいのタスキ』は体力全開から一撃で倒されるのを防いでくれるのである。

 

「「“かえんほうしゃ”ァッ!」」

『マフォォッ!』

『プゥジンッ!』

 

 朱鷺子の作戦が失敗に終わり、流れは変わらず霊夢と魔理沙が握る。マフォクシーとパンプジンの炎技同士の衝突はほぼ互角だが、場の空気は完全に霖之助の妹分2人が有利だった。

 

「ここ姉、ごめん……」

「謝ってるヒマあったらゲッコウガを倒して。“きあいのタスキ”って事は次の一発で落ちるから」

「……っ、うん! ヤコちゃん、次で決めるよ! 最大パワーで“ブレイブバード”ォッ!!」

『アァイィッッ!!』

 

 再び青白い炎に身を包むファイアロー。反動を受けるデメリットも“きあいのタスキ”の『体力を1だけ残す』という性質上、殆ど気にならない。

 

「迎え撃て! 最大パワーで“みずしゅりけん”だぁ!」

『コウガァッ!!』

 

 そしてそれは魔理沙も理解している。素早さで優る以上、先にファイアローを撃ち落とせばゲッコウガは負けない。残り体力が1であっても0では無いのなら勝ちだ。

 液体の手裏剣を放って撃破を狙うゲッコウガ。ただし“みずしゅりけん”は命中する弾数がランダムであり、もし少ない数しか当たらなければ、ファイアローが突破してくる可能性がある。

 

「行けぇ!」

『アァアアアアアアアアアアアッ!』

「かませぇ!」

『ガァアアアアアアアアアアアッ!』

 

 青い手裏剣と青い隼が正面からぶつかり合い、爆発。色濃い煙が周囲に広がり、視界を覆った。

 

『両者激突! 勝敗や如何に!!』

 

 もうもうと立ち込める黒煙。互いの目の前を遮られ、迂闊に指示の出せない状況。今か今かと煙の晴れる瞬間を待ち、そして……。

 

『キュァァ……』

 

 そこには片膝をつきつつ前を見据えるゲッコウガと、引っ繰り返って目を回しているファイアローの姿があった。

 

「あぁっ、ヤコくん!?」

「ファイアロー、戦闘不能!」

『水タイプと炎タイプの速攻アタッカー同士の対決! 軍配はゲッコウガに上がった!』

『コガッ!』

 

 まずは一匹、と小さくガッツポーズをするゲッコウガ。それが彼の体力が残り僅かである事を如実に示している。

 

「良いぞ、ケロケロ! そのまま“れいとうビ――」

「魔理沙、ゲッコウガを下げて! パンプジンがいない!」

『プププジィ~ン!』

『ゲッ、コォオオオオオオオガァッ!?』

「なっ!?」

 

 だが次の瞬間、僅かに残っていた土煙に紛れて接近を許したパンプジンからの“シャドーボール”が炸裂。ゲッコウガもまたファイアローと同じ姿勢で崩れ落ちた。

 

『コ、ガァ……』

「け、ケロケロッ!?」

「バカ、2対2って事を忘れてたでしょ」

「……ゲッコウガ、戦闘不能!」

『しかしその決着の喜びも束の間! ゲッコウガもダウン! 勝負は1対1に持ち込まれました!』

「ありがとう、ヤコくん。お疲れ様でした」

「サンキュー、ゲッコウガ。ゆっくり休んでくれ」

 

 ボールから出る赤い光線によって姿を崩され、ボールに戻るゲッコウガとファイアロー。

 残るポケモンは霊夢のマフォクシーと、こころのパンプジン。相性はほぼ互角だ。

 

「……アンタとの真剣勝負なんて何時以来かしらね」

「随分、久し振り。だから……」

「まぁ待ちなさい。アンタの言いたい事は分かるわ。せーので行きましょう」

「ん。せーの……」

 

 

 

「「最強の座をかけて私と戦え!!」」

 

 

 

「カボちゃん、“シャドーボール”!」

「マフォクシー、“サイコキネシス”!」

『プッジィン!』

『クシィァアッ!』

 

 互いにニヤリと不敵に笑い、ブチかまされる攻撃。影の砲弾と思念の波動は互いにぶつかり合って互角、相殺される。

 

「「“かえんほうしゃ”!」」

『パァッ!』

『フォォ!』

 

 続いて放たれるは灼熱の炎。こちらも周囲に熱風をまき散らしながら相殺となった。

 

『技の威力は完全に互角! さあ、次はどうする! 決定打を先に決めるのはどっちだ!』

「そのパンプジン、やるじゃない。炎タイプに炎技で互角なんて」

「パパがくれたバケッチャを育てた。弱いワケが無い」

「……っ、ムカつくのよね。そうやってパパ、パパって。人の立ち位置ホイホイ奪っていって……、アンタは嫌いじゃないけど、そういう所はムカついてしょうがないのよ! マフォクシー、“めいそう”!」

 

 ギリ、と鳴るのは霊夢の歯軋りの音。

 そうだ、元々彼のそばにいたのは自分と相棒のハズなのに、今いるのは誰だ。娘を自称する(他称された?)小娘2人だ。年を経て香霖堂に寄り付く事が減ったのは仕方ないとして、信頼や心の中の最も親しい立ち位置すら奪ったのは許せない。

 ある意味、霊夢は今回の犯人に感謝していた。その何某共がいたからこそ、自分の立ち位置がすり替えられていた事に気付けたのだから。

 

「カボちゃん、パワーアップしてくる。“かえんほうしゃ”で倒される前に倒すよ」

『プパッ!』

「“やどりぎのタネ”!」

『プププププププッ!』

 

 体力を吸い取るべく、ドレイン効果のある植物の種を吐き出すパンプジン。

 これまでは互角の威力だった技も、“めいそう”で特殊ステータスを強化されてしまえば押し負ける。元々遅いパンプジンを速いファイアローでカバーするのが2人の常套手段だったのだが、それが瓦解した以上、無駄に手をかける必要は無い。

 

「“サイコキネシス”で瓦礫を盾に!」

『フォアッ!』

 

 そしてそれは、霊夢も同じ。まだトーナメントは続く。グダグダしているつもりは毛頭無いのだ。

 

「そう来るなら、カボちゃん、“やどりぎのタネ”連打! 撃って撃って撃ちまくって!」

『ププププププププププププププジィッ!!!』

「瓦礫を盾に!」

『フォォッ!』

 

 防がれたこころは、しかし動じない。石にしか当たらないと分かっていても“やどりぎのタネ”をパンプジンに連打させる。

 その意図が分からず、霊夢は顔を顰めた。

 

「何発撃っても同じよ、瓦礫からエネルギーは奪えない!」

「私の狙いはそこじゃない……、発芽しろ!」

 

 こころの叫び声と同時、瓦礫同士が“やどりぎのタネ”のツタで連結していく。伸びたツタは石同士を纏めて繋いで行き、一枚の岩壁と化してしまった。

 

『おっと、瓦礫が一塊になってしまった。こころ選手の作戦や如何に!』

「何を!?」

「今だよ、“エナジーボール”!」

 

 そしてそこに命中する、特大の緑のエネルギー弾。パワーを吸えずに弱ったツタはその衝撃でブチブチと千切れた。それはつまり、繋がっていた岩が再び瓦礫に戻る事を意味する。

 ガラガラガララッ!

 

「これは!?」

『おっと! “サイコキネシス”の限界値を超えた衝撃が瓦礫を襲い、岩の弾幕が降り注ぐぞぉ!』

「“サイコキネシス”で受け止めなさい!」

『マフォッ!』

 

 だが盾代わりにしていた岩は元々“サイコキネシス”で持ち上げたものだ。念力で再び持ち上げて防ぐ事など容易い。

 

「それを待ってた。最大パワーで“シャドーボール”ッ!!」

『パァァァァ……、ァッ!!』

 

 そしてそれを理解していないこころでは無い。

 いつの間にか懐に潜りこませていたパンプジンに影の砲弾を指示。過たずそれはマフォクシーにクリーンヒット、大爆発と共にマフォクシーの体力をゴッソリ削り取った。

 

『フォァアアアアアッ!?』

「ま、マフォクシー!!」

『キッツイ一撃が炸裂ゥ! これはマフォクシー、ダウンか!!?』

 

 こころの戦術は三段階に分かれる。

 最初の“やどりぎのタネ”は単純に体力吸収狙い。当たれば良し、防がれれば次へ。

 次の“エナジーボール”で作った疑似“ロックブラスト”は防がれる事が前提だった。防がれなければそれはそれでスキになる。

 最後の“シャドーボール”こそ本命。フルパワーかつ至近距離で当ててのワンショットキルを狙ったのだ。“サイコキネシス”で瓦礫を防ぐという事は、注意が岩に向くという事。つまり下からの攻撃には無防備になる。

 もしあそこでパンプジンに気付いても瓦礫をこちらに落とす前に接近する事は出来た。繋ぎとめた岩の板の陰に既に潜んでいたからだ。岩で無くパンプジンの攻撃を防げば、瓦礫の流星に身を晒す。

 

「どう? どう? パパのメタグロスと戦ってた時に編み出したの」

 

 こころにとってみれば、まさに一撃必殺。これで決まると完全に思っていた。

 もし彼女にとっての誤算があるのなら、“めいそう”だろう。

 

『フォォ……!』

『立ったぁ! マフォクシー、何とか立ち上がりましたぁ!』

 

 マフォクシーの使った“めいそう”で上昇するのは特殊攻撃力と特殊防御力。“シャドーボール”に対する抵抗も強くなっていたのだ。

 そして、体力がギリギリで持ち堪えたという事はつまり、マフォクシーの特性が発動する事も意味する。

 特性の名は“もうか”。その効力は「体力が残り少なくなれば、炎タイプの技の威力が上がる」というもの。そこに“めいそう”で得た強化を合わせれば……。

 

「ブラスト――」

「っ! カボちゃん、次で倒すよ! “シャドーボール”!」

「バァアアアアアアアアアアアアアンッッ!!!」

 

 霊夢の咆哮に合わせて叩き込まれる灼熱のエネルギー。大地を微塵に砕き叩き割るその爆炎は、パンプジンを飲み込み蒼穹すらも焼き尽くした。

 会場を深紅の熱気が襲い、先刻のものより更に黒い煙を伴って爆発が生まれる。そしてそれが晴れた時。

 

『パン、ジィ……』

「か、カボちゃんっ!!」

「パンプジン、戦闘不能! よってマフォクシーとゲッコウガの勝ち!」

『決ぃまったぁぁーっ! Aブロック第一試合、速攻と火力の勝負は霊夢選手と魔理沙選手が勝利をもぎ取ったっっ!!』

 

 

  ☆

 

 

「お疲れ様、マフォクシー。良い“ブラストバーン”だったわ」

『フォック!』

「悪いな、霊夢。トドメ頼んじまって」

「アンタがファイアローを倒したからこそ、遠慮無く“めいそう”に移れたのよ」

 

 タッグバトルのような相手ポケモンが複数いる戦いにおいて積み技、つまりステータスをバンプアップ(強化)する技は迂闊に使えば集中攻撃の的となり、非常に危険なのだ。

 またトドメに放った大技、“ブラストバーン”は炎タイプ最強の威力を誇る反面、使用後は暫く反動で動けなくなるデメリットがある。

 魔理沙が先にファイアローという高速アタッカーを倒したお陰で生まれたスキを存分に活かしてパワーアップし、草タイプという相性も相まって霊夢はパンプジンを倒せたのであった。

 

「じゃ、次もサクっと倒しちまおうぜ」

「バカ言わないの。次はもっと強い奴が来るんだから、無闇に突っ込んで勝手にピンチになるのはやめてよね」

「へっへっへ、この魔理沙さんはそんなヘマしないぜ」

 

 ケラケラと笑う魔理沙に毒気を抜かれたのか、霊夢も溜息を一つ吐いてそれ以上の言及をやめた。

 そして2人は視界の端に射命丸文が操る中継カメラを見つけると、勝利の笑みを浮かべてVサインを映してやるのであった。

 

 

 

 一方の朱鷺子とこころサイドでは、敗北による悲痛な雰囲気が漂っていた。

 偽物だったとは言え自分達からポケモンを奪った犯人に負けた事、父代わりの人から教わった役割分担の戦術を相手も使用した事に対応が遅れた事が心を苛む。

 何より朱鷺子は焦りから自身より早い相手にスピード勝負を挑んだ事が、こころは勝ったと思って油断してしまった事が突き刺さっていた。

 

「……朱鷺子」

「ここ姉……」

「「ごめんなさいっ!」」

 

 え?と2人ともきょとんとした顔で首を傾げる。

 

「なにでここ姉が謝ってるの?」

「朱鷺子こそ」

「……だって、最初に何も考えずに“ブレイブバード”で特攻しちゃったし」

「“やどりぎのタネ”を最初から使っていれば、タスキでゲッコウガは持ち堪えなかった」

「“ソーラービーム”で仕留め損なったし……」

「作戦が失敗したのは私も同じ」

「あの後、焦らないで上空から“だいもんじ”で爆撃してれば多分2対1で勝てた」

「そもそもヤコくんは最初から不利だった。私がもっとちゃんとフォローするべきだった」

「…………」

「………………」

「「ぷっ」」

 

 あはははははははは! と軽快な笑い声が響く。

 結局、お互いまだまだ修行不足だったのだ。たられば話に頼るようでは猶更。

 次は頑張ろう、お互いにそう誓い合い、朱鷺子とこころは力強く抱き締め合った。

 

 

 

 

 

「あーらら、娘さん達、負けてしまわれましたわね」

「娘じゃないってば」

「似たようなものでしょう?」

「……まあ良いや」

 

 第1試合から熱戦を繰り広げた幻想郷大会、2回戦は霧の湖代表の咲夜・美鈴ペアと太陽の畑代表の幽香・リグルペアが鎬を削っていた。

 

『キリキザン、“つじぎり”!』

『ダゲキ、“ストーンエッジ”で連携攻撃よ!』

『ビビちゃん、“まもる”!』

『タケりん、“キノコのほうし”』

 

 中継によって映し出される画面の中では、どうやら幽香とリグルが優勢のようだ。

 

「ふむ、“ふくがん”のビビヨンか。“ねむりごな”が良く当たる」

「攻守交替のスイッチが上手ね。幽香が合わせているんでしょうけど、リグル・ナイトバグもリグル・ナイトバグで上手く切り替えてる」

 

 リグルが操る蝶型のポケモン、ビビヨンは特性「ふくがん」で技が普通より当たりやすい。命中精度に難がある“ねむりごな”を使って今も上手く咲夜の青いキリキザンを眠らせてしまった。

 西洋鎧を纏った武人の隣で、空手着の戦士が必死にフォローしているが、ジリ貧なのは明白だ。

 

『キリキザン、起きて! 起きなさい!』

『今だよビビちゃん、キリキザンに“むしのさざめき”!』

『させない! ダゲキ、もう1度“ストーンエッジ”!』

『タケりん、“いかりのこな”!』

「しかしあのモロバレル、凄い耐久力だな。これまでに3度は攻撃を受けているのにまだ耐えている」

「持ち物は“くろいヘドロ”かしら。とすると交替前提の“さいせいりょく”持ちね」

 

 幽香の操るキノコ型のポケモン、モロバレルが使った技“いかりのこな”は自分に集中を向けさせて攻撃を誘導する効果を持つ、パートナーをサポートするための技。耐久の低いビビヨンをこれで守りつつ、毒タイプ専用の永続回復アイテム“くろいヘドロ”で持久力を高めているのだ。

 

「しかし“くろいヘドロ”は地味に凄いね。“たべのこし”と違って奪われても回復されない」

「他のタイプが持てばスリップダメージ(ターン毎に重なっていくダメージの事)にしかなりませんから。あ、そろそろ決着よ」

『“ねむりごな”!』

 

 緑色の鱗粉を吸い込み、キリキザン同様に倒れたダゲキ。これで紅魔の従者達のポケモンは2体とも眠ってしまった。

 

『フィニッシュ行くわよ、リグル! “ギガドレイン”!』

『はい! ビビちゃん、全力で“むしのさざめき”!』

 

 そのまま体力を奪われるダゲキと、音の攻撃で吹き飛ぶキリキザン。攻撃終了と同時に2匹の体力は尽きた。

 

『キリキザンとダゲキ、戦闘不能! よってモロバレルとビビヨンの勝ち!』

『決着ッ! 巧みに相手を眠らせるというイヤガラセのような戦術で、紅魔ペアを成す術無く下したUSC! 彼女は兎も角、果敢に戦った小さな蛍の少女に、盛大なる拍手を!!』

『おいコラそこのキツネェ! 司会がヒトをこき下ろしてんじゃないわよ!!』

 

「酷い言われようだね……」

「ま、あんな戦術ではね。ブーイングが来ないだけマシですわ」

「それはそうだが……」

 

 さて、と霖之助は立ち上がった。

 

「あら、どちらへ? 次の里の八百屋の息子さんと、婚約者の居酒屋の一人娘さんのバトルが始まるのに」

「相手は宇佐見君と早苗だろう? だったら勝敗は見えてるよ」

 

 言うが早いか、眼鏡の相棒はスタスタとスタジアムへ続く通路へ歩いて行ってしまった。

 

『グライオン!』

『メタグロス!』

『『君に決めた!!』』

『早苗選手はグライオン、菫子選手はメタグロスで勝負に来ました。しかもこのメタグロス、色違いの銀色です!』

 

 奇妙に思った紫はこっそりとスキマで覗いて後を追う。画面では人里のカップルがメガヤンマとマンムーを繰り出したがお構い無しだ。

 果たして、その答えはすぐに分かった。

 

『皆、頑張ったね』

 

 左から順に霊夢、魔理沙、こころ、朱鷺子。4人が勝利と今後の健闘をそれぞれ称えられる形で、彼の大きな腕で抱き締められていたのだから。

 それを覗き続けるのは無粋。静かに紫は、スキマを閉じたのであった。

 ほんのちょっとだけ、羨ましいと思いながら。

 

 

つづく




NNの由来

勇儀:洋酒

萃香:日本酒

魔理沙:鳴き声

朱鷺子とリグル:性別に応じて○○くん/○○ちゃん

こころ:見た目から連想される物体+○○くん/○○ちゃん

幽香:○○りん
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