『激戦が続くタッグバトル・トーナメント幻想郷大会! 第3試合、早苗選手と菫子選手の勝利です!』
「やりました!」
「やった!」
「「イェ~イ!」」
一度は特性“かそく”で早苗のグライオンが撃墜されるも、菫子のメタグロスが上手くフォローに入った。
そのままグライオン“どくどく”のダメージが重なり、メタグロスのパワーも相俟って無事に勝利を獲得できたのであった。
……ただし観客からはブーイングの嵐である。
「あの、やっぱり無限グライオンはやめた方が」
「ですよねー……」
理由は早苗の取った戦術にある。
早苗のグライオンが取ったタクティクスは通称【無限グライオン】と呼ばれる嫌がらせにも等しい方法だ。
彼女のグライオンの特性“ポイズンヒール”は毒状態になるとダメージを受けずに回復するというもの。持たせる事で自動的に毒状態になるアイテム“どくどくだま”で毒状態を促し永続的に回復するのと同時、火傷や眠り状態になるのを防ぐオマケもある。
後は“みがわり”と“まもる”でダメージを受け流しつつ、“どくどく”“じしん”“ハサミギロチン”などで相手を倒していけば、グライオン1体だけで完封勝ちも可能なのだ。
無論、逃げてばかりの戦術として受け取られるため、相手からしてみれば面白くない。観客からも卑怯者としか映らなかった事だろう。
「幻想郷じゃ常識に囚われてはいけないのですよ!」
「信仰が減っても?」
「…………」
「………………」
「……自重します」
ちなみにリアルでも高確率で勝ちを狙えるが、当然嫌がられる。
☆
さて実はこの大会、会場が2つある。
人里の広場を使うAブロック、そして中央通りを利用したBブロックである。前者は勿論、後者も最低限弾幕ごっこを行う程度には十分な広さがあるため、大会の実行には困らない。
Aブロックと同時進行で行われているBブロックでは、既に第3試合が繰り広げられていた。
『ベロリンガ、“だくりゅう”よ』
『カブトプス、“がんせきふうじ”!』
第3試合、赤コーナーで猛攻を続けているのは白玉楼代表の幽々子と妖夢、そして彼女らが操るベロリンガとカブトプスだ。
『ユレイドル、耐えて!』
『オニゴーリ、受け身を取って!』
相対するは月都からの特別ゲストのサグメと、無理矢理パートナーにされたレティ。それぞれユレイドルとオニゴーリを駆使して必死に食いついている。
ちなみにサグメの能力だが、電脳空間では影響を及ぼさないらしく、思う存分喋って貰っている。
『“れいとうビーム”』
『あらあら。それならこちらも“れいとうビーム”』
『オォニゴォッ!』
『ベロォッ!』
幽々子の操るベロリンガは非常に鈍重で、一見するとパッとしないポケモンだ。
しかし彼女が持たせたアイテム“しんかのきせき”は進化前のポケモンに持たせる事で防御と特防を1.5倍にする。これによりベロベルトの進化前のベロリンガはノーマルタイプでありながらも相当な耐久力を得た。弱点のタイプが1つしか無い事がそれを手助けしている。
そしてその肝心の鈍さをカバーするのが妖夢のカブトプスだ。
『ユレイドル、“ストーンエッジ”!』
『“きりさく”!』
両手の鎌を縦横無尽に振るい、岩の壁を切り刻むカブトプス。事前に“つるぎのまい”で攻撃力を跳ね上げておいたお陰でパワーに困る事が無い。
『っ、“エナジーボール”!』
『“ハイドロポンプ”!』
激流がエネルギー弾を弾き飛ばし、ユレイドルの体力を大きく削る。
予め“ねをはる”で体力を回復し続けているが、そろそろ限界のようだ。
『決めるわよ、妖夢。ベロリンガ、“かえんほうしゃ”』
『御意のままに! カブトプス、“はかいこうせん”!』
決まったな、と霖之助と紫はモニターを見ていて思った。
その確信の通り、レティのオニゴーリは炎で焼かれ、サグメのユレイドルは強烈なビームに耐え切れず、ダウンしてしまった。
『オニゴーリとユレイドル、戦闘不能。よってベロリンガとカブトプスの勝ち!』
『決ッ着ッ! 第3試合は白玉楼の主従が勝利をもぎ取ったぁ! やはり即席の絆では無理があったかっ!』
それを言ったらこっちも即席だ、と司会のマミゾウのセリフに霖之助と紫は苦笑する。
審判役を押し付けられたアリスもまた、そんな狸の大将の言葉に苦笑いしていた。
「これでA・Bブロック共に、残り試合数は1つずつ。初日のトリを飾れるとは、何とも贅沢だね」
「あら、緊張してるのかしら?」
「まさか。何せ僕には最強にして無敵のパートナーがついているからね。水面のように落ち着いている」
Aブロック第1試合。娘組と妹組の戦いは、激闘の末に妹組の勝利。
第2試合。紅魔の従者達と緑髪のコンビは、危なげ無く幽香とリグルが相手を下した。
第3試合。JK(早苗は怪しいが)の2人組が里のカップルを撃破。
「それを言うなら、私もまた最強の相棒がいますわ。優勝は確実よ」
「僕が最強? ハハハ、冗談」
「いえいえ。貴方の実力は保証します。他の優勝候補達と遜色無いでしょう」
Bブロック第1試合。正邪・こいしペアとチルノ・大妖精ペア。カラマネロとギルガルドという悪人丸出しのコンビに、ラプラスとフラージェスで立ち向かうも、正邪とこいしに軍配が上がった。
『ヒャーハハァ! これで終わりだぜ、“サイコカッター”!』
『アァーイアァーンヘェーッド!』
『“サイコカッター”と“アイアンヘッド”がクリーンヒットォ! これは耐えられないっ!』
第2試合。慧音・妹紅ペアvs衣玖・ヘカーティアペアという異色のコンビ。バッフロンとブーバーンという予選をその2体だけで勝ち抜いて来た2人の実力は本物であり、ボーマンダとナッシーを難無く撃沈させ、即席コンビを倒した。
『やったね、慧音!』
『うむ! これで霖之助達との闘いに一歩前進だ!』
『決まりました! 予選をこの2体のみで勝ち進んだ強豪コンビ! その破壊力の前に敵は無しっ!!』
そして今の第3試合が終了。幽々子と妖夢がカメラに向けて笑顔を送っている。
「さて、いよいよ」
「私達の出番ね」
ゆっくりと2人は立ち上がり、大通りのスタジアムに向かう。
対戦表によれば、自分達の相手は――
『さあ皆様、お待たせしました。この夕焼けに照らされるスタジアム、本日最後の試合を迎えようとしています。赤コーナーからは命蓮寺・神霊廟合同予選より、白蓮選手と神子選手の登場ですっ!』
そう、白蓮と神子だ。
どちらも異変解決に自ら乗り出す程の猛者であり、その精神・肉体共に幻想郷の中でも群を抜いた熟練の戦士である。恐らくだが、こころ伝手にこちらの戦法が伝わっている可能性が高い。
『そして青コーナー! 今大会の企画者にしてポケモンブームの火付け役、紫選手! そしてその相棒、相談窓口を引き受けさせられた霖之助選手の入場です!』
だが、何も恐れる必要は無い。
自分の隣にいるのは妖怪の賢者、幻想郷最強と言っても過言では無い存在が味方なのだ。そう考えれば、不思議と勇気が湧いてくるというものである。
「さて、腹は括ったわね?」
「そんなもの、控室に入った時点で括ってる」
「それは重畳」
今は、観客の歓声も心地良い。
やるべき事も、戦術も決まっているのだ。後はそれを恙無く実行して勝利するのみ。
「こんばんは、霖之助さん、紫さん。良いバトルにしましょうね」
「正々堂々の勝負、さあ! いざ、いざ、いざっ!」
「はい、こんばんは。悔いの残らないバトルにしましょう」
「……神子、ちょっと君こころに似てきてないか?」
『それでは両者、ポケモンを出して下さい!』
腰にセットしてあるボールを手に取る。スイッチを押せば小さかった待機状態が解除されて本来のサイズになり、後は投げれば良いだけだ。
チラリ、とお互いに目配せ。大丈夫、作戦は頭に入っている。
「サーナイト、行って貰います!」
「ヨルノズク、君の出番だ!」
「ホセ、バトルスタンバイ!」
「クリムゾン、お願いします!」
『サァッ!』
『ホホォーゥッ!』
『ボォォォォッ!』
『コジョォッ!』
放たれたボールから白い光が飛び出し、ポケモンの形を作る。
白蓮が出したのは白い人型、サーナイト。特殊能力が高いエスパータイプだ。ただし物理ステータスが低いという欠点がある。
神子が選んだのはフクロウ型のヨルノズク。飛行タイプでありながらエスパー技を豊富に覚え、特殊耐久にも優れる。
霖之助が相棒に選んだのは金属で覆われた巨体、ボスゴドラ。極めて頑丈なポケモンであり、生半可な物理攻撃ではビクともしない。
紫はカンフーのようなポーズを取るイタチ型のコジョンド。攻撃のステータスはズバ抜けているワケでは無いが、格闘タイプ随一のスピードがある。
ジリ、とお互い夕焼けに照らされながら睨み合う。
乾いた風が吹く中、審判の開始合図を今か今かと待つ。
互いに気迫は十二分、後はトレーナーの指示次第である。
「それではバトル……、開始っ!」
☆
合図を聞くや否や、先に動いたのは白蓮と神子だ。
「先手必勝! サーナイト!」
「先んずれば人を制す、ヨルノズク!」
「「“サイコキネシス”!」」
『まずは“サイコキネシス”をダブルで放った! これはいきなりボスゴドラがピンチか!?』
2体同時に放たれる念力の波動攻撃。特殊防御力の低いボスゴドラにヒットすれば致命傷は確実だ。
「紫!」
「はいは~い。クリムゾン、サーナイトに“ねこだまし”よ♪」
『コジョォッ!』
ただしそれは「高威力で命中」すればの話。
紫が指示した“ねこだまし”のエフェクトでサーナイトは驚き、攻撃を中断してしまった。
「怯んだ!?」
「だが私のヨルノズクの攻撃は止まらない!」
「構わないさ、受け止めろ!」
『ボォッ!』
両手をクロスして思念の波動を受け止めるボスゴドラのホセ。ものの見事に直撃したものの、ただの1ミリすら後退させる事は出来なかった。
『ドラァ……』
「何っ!?」
『あぁっと、全く効いてない! ボスゴドラ、不敵な笑みを浮かべた余裕の表情です!』
「鋼タイプにエスパー技の通りは薄い。この程度ならもう4~5発は楽に耐えられるよ」
「言ってくれる……!」
更に霖之助は言わなかったが、ボスゴドラには“とつげきチョッキ”というアイテムを持たせてある。変化技を使用不能にする代わり、特防を5割増しにする防御プロテクターだ。これでボスゴドラは文字通り要塞と化した。生半可な攻撃ではビクともしない。
「さあ、今度はこちらの番だ! ホセ!」
「クリムゾン、合わせて! せーの!」
「「“いわなだれ”!」」
『ドラァアアアア!』
『コジョォオオッ!』
攻め手が変わって霖之助と紫は上空から岩の雨を降らせる。相手2体を同時攻撃でき、怯みの追加効果も期待できる岩タイプの上位技である。
無論、防御力の低いサーナイトや飛行タイプのヨルノズクが受ければ最善で致命傷は免れない。
「サーナイト、“まもる”!」
「ヨルノズク、サーナイトの近くに!」
『フホォオオッ!』
『サァァァ、ナァアイッ!』
そのため防御するべくバリアを張るよう白蓮は指示。本来ならば自分だけを保護する技“まもる”も味方を巻き込んで発動させる事により同時にガードが可能だ。
『反撃の“いわなだれ”、防がれたっ!』
「残念でした、ダメージは通りませんよ」
「悪いが僕らの狙いは」
「そこじゃありませんの」
「何!?」
岩の雨が終わり、バリアも消滅。再度攻撃へ転じようとした白蓮と神子は2人の狙いを知った。
「これは!?」
「岩に囲まれてサーナイトが動けない!?」
“まもる”は確かにほぼ完全に攻撃を凌ぎ切れる防御技だ。しかしバリアという安全地帯以外は干渉しない性質を逆手に取られ、周囲を岩の壁にされてしまった。飛行能力を持たないサーナイトは、これでは脱出できない。下手に動けば的になるだけである。
「ホセ、アタックチャンスだ! “アイアンヘッド”!」
「クリムゾン、続いて!」
『ボォォォス、ゴォドラァアアアアアアアアアアアアッ!』
金属質の頭突きで岩の壁を貫き、サーナイトへ一直線に突撃するボスゴドラ。主食は鉄、角で岩盤を砕くという性質故に、岩の壁など何の障害にもならないのだ。
「させるか! ヨルノズク、“さいみんじゅつ”で動きを止めろ!」
「させるか、は私のセリフよ。クリムゾン、“とびひざげり”!」
『ジョォォンドッ!』
『フゥフォォォッ!?』
睡眠を誘発する念波で妨害を試みるヨルノズクだったが、勢いをつけた膝蹴りにより体勢を崩され失敗に終わる。
『ヨルノズク、カバー失敗! コジョンドの“とびひざげり”がクリーンヒットォ!』
「私のコジョンドのクリムゾン、特性は“すてみ”。反動の発生する技の威力が高くなります。もっとも、適合するのは“とびげり”と“とびひざげり”だけですが」
しかし攻撃を妨害させないという目論見は成功。ボスゴドラの鋼鉄の突貫は既にサーナイトの目の前にまで迫っていた。
「ヨルノズク、立て直せ! “リフレクター”だ!」
『フォオオッ!』
辛うじて持ち直すヨルノズク。物理技のダメージを半減するバリアを張り、サーナイトの耐久力向上に貢献を狙う。
だが。
『ドラァアアアアアアアアアアアアアッ!』
『サナァアアアアアアアッ!?』
「サーナイト!!」
『決まったぁ! 効果は抜群だ! 岩で逃げ場を失ったサーナイト、成す術無く吹き飛ぶっ!!』
200kgを超える超重量級の頭突きが炸裂。サーナイトは見事に吹き飛ばされ、目を回して倒れてしまった。
「……サーナイト、戦闘不能!」
エスパータイプの他にフェアリータイプを持っている事が今回は災いしてしまった。強力なドラゴン技を完全に遮断する代わりに、鋼という元々苦手だったタイプに更に弱くなってしまったのだから。
「ありがとうございました、サーナイト」
「くっ、これで2対1か……」
ボールに戻るサーナイトを見送りながら、神子は歯噛みした。
強烈な物理技を使うコジョンドに、有効打を与えられる技が無いボスゴドラ。ハッキリ言って敗北色濃厚である。
「ならば先にスピードのある方を倒し、上空から爆撃あるのみ! ヨルノズク、コジョンドに“サイコキネシス”!」
「クリムゾン、ボスゴドラの後ろへ」
「ホセ、ガードだ!」
苦し紛れに念力の波動を放つが、ボスゴドラが盾になりコジョンドには届かない。
これが2人の立てた作戦。重量級のポケモンを多く操る霖之助が、軽量級の紫のポケモンの盾になる。攻める時は紫から霖之助の順に、守る時は霖之助が盾となり紫がそれをサポートする。攻防のテンポを合わせるという、ダブルバトルでは基本中の基本にして最も重大な戦術だ。
『“サイコキネシス”、ボスゴドラに阻まれ届かずっ! その鉄壁さはまさに要塞っ!』
「ボスゴドラを踏み台になさい。クリムゾン、“どくづき”」
『コ、ジョッ!』
そして重量級という事は体が大きいという事でもある。
ボスゴドラの頭をジャンプ台にコジョンドは空高く跳躍、猛毒のエネルギーを溜めた突きで狙う。
「躱せ、ヨルノズク!」
『フォォオオッ!』
間一髪で緊急回避に成功するヨルノズク。だが空中で攻撃を避けられる事など、紫にとっては想定内だ。
「逃がさず再び“どくづき”!」
『ジョンドォッ!』
『フフォォオオオッ!?』
「よ、ヨルノズク!?」
『伸びたー! コジョンド、長い腕の毛を生かしてヨルノズクを逃がしません!』
見た目から間違われる事が多いのだが、コジョンドの腕は実は非常に短い。外から見て腕だと思っているのは長くしなった体毛である。故にある程度の制動の自由が利き、回転を交える事でリーチを伸ばしつつ追撃を放てるのだ。
「立て直せヨルノズクッ! ボスゴドラに狙われるぞ!」
「霖之助さん、お願いしますわ」
「ああ。ホセ、“れいとうパンチ”!」
『ボォオオオオオオオッ!』
強烈な冷気を腕に纏って突撃していくボスゴドラ。対するヨルノズクはダメージのせいでまだ姿勢の制御が覚束無い。
「くっ、“ゴッドバード”で迎え撃て!」
「遅い!」
『ドラァッ!』
『フォォォォオオオオオオッ!!?』
そのまま冷たい鉄拳を浴びせられ、ヨルノズクもまた地面に倒れてしまった。
元々防御力の低いヨルノズク、“リフレクター”越しでもボスゴドラの体重の乗った一撃は耐えられなかったようだ。
「ヨルノズク、戦闘不能! よってコジョンドとボスゴドラの勝ち!」
『K.O.! ボスゴドラの鉄拳がヨルノズクをバトルフィールドに沈めたぁ! これでBブロック初日、全ての試合が決着しましたぁ!』
☆
「えー、それでは皆様。タッグバトル・トーナメント幻想郷大会の初日終了の健闘を祝しまして、乾杯!!」
『『『かんぱぁ~い!』』』
博麗神社と聞けば、誰もがこう答えるだろう。『妖怪神社』と。
そのあだ名の通り妖怪少女が多数現れるという、何とも霊夢泣かせの実態である。
今も初日の勝利を祝し、また敗退を慰問する形で細やかな酒宴が開かれているのだから。
「はーい、霖之助さん、飲んでますぅ?」
「ちびちびとだけどね」
「チビって言うなー!」
「なー!」
自分の背丈を気にしているであろう、霖之助の言葉に過剰反応した魔理沙と朱鷺子。そんな可愛い妹分と娘代わりの少女を宥める霖之助を微笑ましく見守りながら、紫は視線をゆっくりと動かす。
「お疲れ様です」
「はい、お疲れ様でした」
その視線の先にいたのはAブロック第4試合で敗退した鈴奈庵の一人娘・本居小鈴と、タッグパートナーをしていたショタもとい人間の少年に化けた妖怪狐の子供。偽名を使って潜り込んでいたようだが、紫を騙すには格が違いすぎた。
(……まぁ、悪さするような精神年齢でも無いから良いんだけどね)
元々が勉強したいがための潜入。いつか人間に存在がシフトしてしまうのかも知れないが、それでも今はまだ動くべき時では無い。
問題はその2人の奥に陣取っている、Aブロック第4試合の勝利チーム。
「うまうま。これ美味い!」
「寺じゃ、んぐ、肉も酒も、はむっ、食べられないから、もぐもぐ、今の内に、あぐぐ、食い溜めしておかないと、ごくん」
片方は特徴的な翼を持つ黒髪の少女、封獣ぬえ。1回戦ではカバルドンを繰り出していた。体色が黄色では無く黒だったので、あの個体はメスだ。
そしてその相棒。
赤と白のストライプ、青地に白の星。星条旗を思わせるデザインの服を身に着けている少女、クラウンピース。主のヘカーティアに反し、1回戦を無事に勝ち抜いた最強の妖精である。
(彼女達、かしらね)
無論、まだ証拠は無い。あくまでも見当がついているだけだ。
しかしながら紫は、もう少し泳がせれば尻尾を出すと確信していた。
この先、トーナメントが進めばより強い相手と戦う。ならば他人から貰ったという、普通より強くなりやすいポケモンで戦う事を誘発しやすくなる。
電脳空間で出したポケモンの全てのデータはこちら側で管理されている。ポケモンの種類とIDが被害届と合致すればそこでお縄だ。
(ま、捕まえるのは大会が終わってからにしましょう。皆楽しんでる事だし)
それにこれは推測でしかない。もし犯人が別にいたら、彼女達に割いた労力が無駄になる。
何より……もう少し、自分もポケモンバトルを楽しみたい。
「さぁ、ここで1回戦のハイライトです!」
香霖堂からツケで持って行かれた8台のテレビにそれぞれ映し出される、今回の試合。こうして後から岡目八目で見てみると、自分の指示も改善点が分かるというものだ。
勝利したチームは各々が「あそこでああすりゃ良かった」という感想を抱き、相棒と意見交換に入る。が、紫の視線は当然ながらクラウンピースとぬえの試合に釘付けである。
『カバルドン、“ストーンエッジ”から“はかいこうせん”!』
『ソルロック、“めいそう”で凌いで“サイコショック”!』
(ふぅん、粗削りだけど良い腕ね)
息の合い具合なら両者は互角。だが本当に幼い小鈴・子狐ペアに対し、それこそ海千山千の妖怪と妖精だ。戦術の引き出しの数が違う。ジリジリと追い詰められ、怒涛の破壊力で勝利を奪っている。
幸か不幸か、彼女達が所属しているのはAブロック。自分達がいるのはBブロックなので、決勝まで勝ち進まなければバトルする事は出来ない。そしてその前に立ちはだかるのは恐らく霊夢と魔理沙のペアだ。幽香とリグルかも知れないが、何方にせよ勝利するのは容易じゃない相手が待つ。
(そこで負けてくれれば万々歳。勝ってこっちに来るなら……)
懐からゲーム機を取り出し、画面を操作する。
手持ちの内の1体のステータス画面を開くと、紫は小さく微笑んだ。
(大人げないけど、この子の出番になるわね)
手にしたお猪口を煽ると、紫は明日の作戦会議を行うべく、霖之助の隣に座りなおす事にしたのだった。
つづく
戦術解説
無限グライオン
技構成:どくどく、まもる、みがわり、好きな技1つ
持ち物:どくどくだま
特性:ポイズンヒール
最初のターンを「まもる」で防ぎ、「どくどくだま」で猛毒になる。ポイズンヒールでダメージは回復になり、毎ターンの終わりにHPの1/16が回復していく
後は相手を「どくどく」や「ハサミギロチン」で倒しつつ、「みがわり」で技を受け流す。「みがわり」で減るHPは最大値の1/8なので「みがわり」→「まもる」で1/16を2度回復し、必要分のコストを補う。
相手に突破力が無ければこのグライオン1匹でパーティ封殺も可能という害悪にも等しい戦術。
ただし「こおりのつぶて」のような先制技、グライオンより早いポケモン、エアームドや第6世代までのゲンガーのような毒・地面・「がんじょう」「ふゆう」持ちには弱いため、残ったパーティにそれを補う仲間が必要。過信は禁物。