八幡side
千葉………俺の生まれ育った場所であり、1年前まではそこに住んでいた。窮屈ながらも居心地の良い街だとは思っていたが、1年前の出来事でそれは一変した。その場所は、特に学校なんかは歪んで見えた。
その学校へ行くわけではないが、まさかライブの目的で千葉にか……
ペトラ「……?八幡くんどうかしたの?なんか顔色が良くないわよ?」
八幡「いや……そのライブを行う場所なんですけど、俺の故郷でして……」
ペトラ「故郷?じゃあ一足先に久しぶりの里帰りが出来るじゃない。」
今ふと思い出した。俺はペトラさんに自分の事を一切話してなかった事を。何も知らないペトラさんは嬉しそうに言うが、俺は全く正反対の気持ちだった。
シルヴィア「八幡くん……無理はしなくていいからね?これは受けない方がいいよ。あんなところには行かない方が良いよ。」
シルヴィアは悲しそうな顔で俺の手を握り締めた。俺に説得してくれたが、俺はそんな理由でライブを断りたくはない。
ペトラ「……何か訳あり見たいね。私に話してくれるかしら?勿論強制はしないわ。」
八幡「………はい。」
俺は1年前に起きた出来事を包み隠さずペトラさんに打ち明けた。話し終えると、ペトラさんは目を瞑り何かに耐えているような顔をしていた。シルヴィも同じ顔をしていた。
ペトラ「……そうだったの。ごめんなさいね、貴方の事情も知らずに。」
八幡「い、いえ……」
ペトラ「この件は無しにして頂戴。幾ら協力してくれるとは言われていても、嫌な所に無理矢理連れて行く程、私は愚かではないわ。」
八幡「ですが、その企画はもうそういう方向で進んでいるんじゃないですか?」
ペトラ「確かにそうだけど、今からでも何とかなるわ。八幡くん、無理はしないで頂戴。」
シルヴィア「そうだよ、私も反対。私も八幡くんと歌いたいけど、行きたくない所に連れて行ってまで歌おうなんて思わないよ。」
2人が俺に下がるように言う。だが何でだろう?俺はこの言葉を聞いた瞬間何か心から沸々と湧き上がっている気がする。
八幡「………いえ、そのライブ受けます。」
シルヴィア「え?………な、何で!?」
八幡「何でか分からんがこの感情、前にもあったような感じがしてな。無謀、無茶だと分かっていてもやってやりたい、って感じが。」
シルヴィア「で、でも……」
ペトラ「……八幡くん。私は無理強いはしてないのよ?貴方が不快に感じるのなら受けなくても良いのよ?」
八幡「別にそんな感情はありませんよ。ただ、あの場所に行くのに若干の抵抗があっただけです。でも、今はそんなのもありません。」
今はむしろ、やってやるって感情の方がデカい。千葉に行くとはいっても、別に学校の奴らと会うとは限らねぇからな。
ペトラ「………いいのね?」
八幡「えぇ、構いません。」
ペトラ「………分かったわ。シルヴィアもいいわね?八幡くんはこのライブ出演を受理したわ。」
シルヴィア「で、でも……私は心配です!」
ペトラ「シルヴィア、八幡くんを信じなさい。貴方の彼氏はそんな事で臆する程、弱虫で臆病な人ではない筈よ?」
シルヴィア「……………」
八幡「俺なら大丈夫だ。もし不安になったらお前の手でも握る。」
シルヴィア「……八幡くん。」
八幡「支え合っての俺たちだろ?」
シルヴィア「っ!」
八幡「シルヴィ、俺からも頼む。」
シルヴィア「……………」
不安そうな表情を隠せていないが、それでもどうするか考えているのだろう。
シルヴィア「………条件があるけど、いい?」
八幡「何だ?」
シルヴィア「1つ目は絶対に無理をしない事。この前のライブみたいな事にならないで。」
八幡「傷を受けるなって事か?」
シルヴィア「うん……2つ目は辛くなったらすぐに私のところに来て。」
八幡「分かった。」
シルヴィア「3つ目は……最後に1日空くから、その日にデートして///」
ガクッ……真剣だった室内が一気に残念な感じに。
八幡「………分かった、条件はそれだけか?」
シルヴィア「うん。今のところはそれだけ。」
今のところって事は、後に増えるかもしれないって事か?まぁそうなったらそうなったで良いか。
八幡「了解だ。」
シルヴィア「……それなら私もいいよ。」
ペトラ「じゃあ八幡くん、シルヴィア。歌の選曲は私たちがやるから、貴方たちは決まり次第その曲の練習をして頂戴。シルヴィアも……完成したかしら?」
シルヴィア「はい、詩なら一応。」
ペトラ「分かったわ、じゃあ後で見せて頂戴。少しチェックとか入れたいから。」
シルヴィア「分かりました。」
ペトラ「じゃあ2人ともお願いするわね。八幡くんもわざわざありがとう。」
そしてペトラさんは部屋から出て行った。
シルヴィア「……お願いだから無茶はしないでね?君の辛そうな顔なんて、私は見たくないんだから。」
八幡「分かってるよ。約束は守る。」
シルヴィア「絶対……だからね。」
そう言ってシルヴィは俺に抱き着いて、自分を落ち着かせるかのように頭を俺の胸に擦りつけた。
シルヴィを不安にさせない為にも、少ししっかりしねぇとな。