雪乃side
それにしても由比ヶ浜さん遅いわね……まだ目が覚めていないのかしら?それとも夜襲に?いえ、それは考えられないわね。星武祭の間は普段よりも警備が強化されているのだし、もし何かしようものなら《
………少し連絡を入れてみましょうか。
pipipi…pipipi…pipipi…pipipi…
……出ないわ。まだ起きていない、という事かしらね。その場合、治療院に運ばれることになるのだけれど………大丈夫なのかしら?
雪乃sideout
由比ヶ浜side
………今は何もしたくない。考えたくない。動きたくない。動いたとして戸が開いた瞬間あの化け物がいたら?もうやだよ!!なんで私がこんな思いしなくちゃならないし!!
由比ヶ浜「なんで私がこんな目に………」
冬香「その様子ですと、まだ物足りないようですかね?」
由比ヶ浜「っ!!?」
声の方向に体と顔を向けると、今私の1番会いたくない人物が目の前にいた。
冬香「貴女は、何故八幡様に敵意を向けるのですか?あれ程素晴らしいお方に敵意を向ける理由が分かりません。過去に元聖ガラードワース学園に葉山隼人という人物がいましたが、その方も八幡様に敵意を向けておられました。一体何故なのです?」
由比ヶ浜「………実は」
私は梅小路さんにこれまでの事を全て話した。流石に《鳳凰星武祭》の事は伏せたけど、それ以外の事は全て話した。
冬香「………成る程、そういう事だったのですね。だからあの時の八幡様の目は薄暗かったのですか……事情は理解しました。ですが修学旅行の件に関しては、貴女の身勝手が引き起こした事だと思われますが?」
由比ヶ浜「な、なんでそうなるしっ!!」
冬香「お分かりになりませんか?では考えてみてください。あの時、進んで依頼を受けていなかったら?あの時、あの言葉をかけてなかったら?今どうなっていますか?このような悲劇にはなってはいないはずです。いいえ、これでもまだ優しい方です。」
由比ヶ浜「こんなの優しくないし!ヒッキーがした事なんてサイテーな事だし!!」
冬香「では、貴女は総武高校で起きた事実を公表しても良かったと?もしそうなっていれば、貴女は毎日白い目で見られることはほぼ確実ですよ?それでも、あのお方が優しくないと仰いますか?」
由比ヶ浜「全然優しくないしっ!!男なら女の子に優しくするもんじゃん!!」
それが当たり前じゃん!ヒッキーが優しいって何さ!?前と比べたら全然優しくないし!!
冬香「……そうですか、ならば私から言うことは何もございません。失礼致しました。」
由比ヶ浜「なんだしあの女!ヒッキーの事八幡様って!!ヒッキーは神様じゃないしっ!!バッカみたい!!」
なんか此処にいんのもバカらしくなってきたし、寮に戻ろっと。
由比ヶ浜sideout
ーーーーーー
冬香「………はぁ、彼女は成長しないようですね。あれだけのヒントを与えたのに自分が正しいと思っているようですし。八幡様が仰っていた内容と随分違いますね。」
八幡『そりゃ悪かったな。』
冬香「っ!!」
突然の声に周りを見回すが誰もいない……だが確実に聞こえた彼の声だった。
八幡『普段はこんな事しないが、俺の能力の1つは影を操る事だって忘れたか?』
冬香「っ!」
冬香は自身の背後にある自分の人影を凝視した。するとそこから黒い物体が現れ、やがては人型になった。最後には比企谷八幡そのものになっていた。
八幡「よっ。」
冬香「は、八幡様っ!陰口とはいえとんだご無礼なお言葉をっ!!申し訳ございません!!」
八幡「いや、別にいい。俺もあいつとお前の会話を聞いていたからな。おあいこだ。」
冬香「し、しかし……」
八幡「あぁー……本当に気にしなくていいぞ。俺も奴がこんなに捻じ曲がってるとは思ってなかったからな。まぁ奴の言っていたことに嘘はないから安心しろ。」
冬香「そ、そうですか……しかし八幡様、私からもお1つよろしいでしょうか?」
八幡「何だ?」
冬香はかなり緊張していた。今から発する言葉は少なからず主人を否定するような言葉だからだ。
冬香「お、恐れながらも申し上げます!八幡様はもう少しお考えになるべきでした!なぜあのような方法を取られたのですか?」
八幡「……時間があればそうした。葉山の依頼が良い例だ。その日に言われてその日に解決しろなんて余程簡単なものでないと無理だ。だが……そうだな、あの時降りるべきだったのかもな。」
冬香「そうすべきだと私は考えております!聡明な八幡様であれば出来たはずです。」
八幡「その頃の俺は聡明とは思えないけどな。だがな冬香、それをもしきっていたら、俺にとって最悪のカードになっていた。何故か分かるか?」
冬香「い、いえ……」
冬香には全く見当がついていなかった。自分の考えを肯定していながらも否定している八幡を見つめることしかできなかった。
八幡「それはな……此処にいるかどうか分からないからだ。」
冬香「……え?」
八幡「確かに受けないようにするのが最善だったのかもしれない。だが、もしそうしていたら、おそらく俺は六花に来てはいないだろう。それもアリだったかもしれないが、そうなったら俺は静かな学校生活を送っていたことになる。青春なんて感じることもなくな。」
八幡「だがあの選択をしたことによって、俺は此処に来られたし、大切な仲間や家族が出来た。血縁なんかよりも固い絆で結ばれた家族だ。そう考えれば、あの時の依頼を受けて良かったと俺は自信を持って言える。こうやって沢山の仲間や家族、そして最高の彼女にも巡り会えたんだからな。」
冬香「………」
冬香(なんて……なんて心の広きお方、なんて器の大きなお方なのでしょう。私は八幡様の人生を否定してしまった。受けない方が良かったなどと申してしまった。でも八幡様は受けて良かったと仰った。受けていなければ私たちには会えていない、そうお告げにもなられた。あぁ……全くその通りでございます。)
冬香「八幡様。」
八幡「ん?」
冬香「八幡様の歩んでこられた道を否定するような言動を致しましたことを謝罪いたします。本当に申し訳ございませんでした。」
八幡「いいって。お前が俺のために言ってくれたのは分かってる。例えそうでなくても、俺としてはありがたい言葉だ。」
冬香(あぁ………やはり貴方様はとてもお優しい。八幡様、私は八幡様により一層の主従を誓います。)
八幡(………なんかすげぇ見られてるな。それと、《様》付けと、忠誠とかそういうのはやめて欲しいんだがな……本人はマジだから止められないんだけど……)