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翌日の9時半、現場は慌ただしくてんやわんやだった。突然の代役……それも芸能界にも入っていない普通の市民。その事を知らされていなかったファンは会場に入った際に知った事実に大騒ぎだった。
ファン1「おい!どうなってんだよ!?男の歌手が替わったって!?しかも一般人だと!?ふざけんなよ!?」
ファン2「シルヴィアちゃんとの共演だから観に来たのに何だよこれ!?」
ファン3「どうしてくれるのよ!?これじゃシルヴィアちゃんが居ても、男の人が居なきゃ意味無いじゃないっ!」
ファン4「共演楽しみにしてたのに!?」
スタッフ「み、皆さん!落ち着いてください!只今説明致しますのでっ!」
スタッフの呼びかけにも応じない程、ファンの心は乱れていた。当然であろう。来るはずだった人が居ないのだ。
八幡「………まぁ、こうなるわな。無理もないだろう。キャンセルが昨日なんだ。知らせられるわけがない。そうなったらご破算だからな。」
シルヴィア「うん……でも、当然だよね。私だけのファンじゃないし。」
八幡「あぁ、しかしこんな人が集まるもの何だな。正直コンサートやライブなんて行ったことなかったからな。」
シルヴィア「今日は少ない方だよ。会場がちょっと小さいからね。」
八幡「だがやる事は変わらん。俺達は歌うだけだ。たとえ罵られようとな。まぁ、罵られるのは俺だけだがな。」
シルヴィア「なら私が守るからね。八幡くんを傷つけさせはしないから。」
八幡「言っておくが、俺に何があっても手は出すなよ。たとえ物を投げつけられたとしてもな。当然の事だからな。」
シルヴィア「えっ、どうして!?」
八幡「考えてもみろ。一般人の俺がここに立つって事は、他の奴らにも可能性があったからだ。それも世界の歌姫との共演だ、怒らない方が逆に不自然だ。」
八幡「だから最初の曲を俺にしてもらったんだ。そうでなきゃブーイングが続いてライブどころじゃなくなる。」
八幡(正直に言うと、こいつのライブを失敗にはさせたくねぇからな。)
シルヴィア「………で、でも。」
八幡「いいな?」
シルヴィア「………うん、分かった。でも、側には寄らせてね?それくらいならいいでしょ?」
八幡「むしろ逆効果だと思うんだが……まぁいい、好きにしろ。」
スタッフ「比企谷くん、シルヴィアちゃーん!そろそろリハーサルだよーっ!」
シルヴィア「あ、はーいっ!じゃあ行こっか、八幡くん。」
八幡「あぁ。」
ーーーミーティングルームーーー
ペトラ「………以上だけど、何か質問はあるかしら?無ければ次に移るけど?」
シルヴィア(沈黙……多分皆は八幡くんの事を気にしてるんだと思う。質問なんて今更必要ないからね。いつも完璧だから無いし。)
ペトラ「なら次ね。八幡くんの事よ。」
ここで一気に雰囲気が重くなった。
ペトラ「八幡くん、会場に入ったら間違いなくブーイングが起きるわ。貴方はどう対処するつもり?」
八幡「……………」
シルヴィア「………………」
スタッフ一同「………………」
シルヴィア(嫌な感じ……こんな雰囲気は初めて。)
八幡「………俺は歌うだけですよ。もし何か飛んできても、何もしません。ただ俺の歌を聴いてもらって、そっからはファン任せですよ。」
ペトラ「何もしない?飛んでくるものをわざわざ受けるっていうの?」
八幡「はい。」
スタッフ1「け、けど比企谷くん。別に受ける必要はないんじゃ?」
八幡「いいんです。俺がこのステージに立つ時点で、ブーイングや野次は必然。俺が観客でもそうします。」
………………沈黙。
ペトラ「……分かったわ。」
スタッフ一同「!!?」
ペトラ「貴方は受けるのね?」
八幡「えぇ。他のファンの可能性を踏みにじったと思えば、軽いモンですよ。」
ペトラ「聞いたわね?彼はこう言ったのだからやらせてあげなさい!」
スタッフ一同「……………」
ペトラ「会議は終了よ。2人は控え室で待ってなさい。じきに始まるわ。」
八幡(ペトラさんがそう締めると、スタッフ一同は部屋を出て行く前に、俺に応援を送り立ち去った。そして俺も控え室に向かった。)
ーーー控え室ーーー
ガヤガヤワーワー
シルヴィア「こんなライブ初めてだよ。いつもはこんな雰囲気じゃない。」
八幡「………」
シルヴィア「あっ!別に八幡くんのせいだって言いたいわけじゃないからね!?」
八幡「分かってる。お前がそんな奴じゃないって事ぐらい知ってる。」
シルヴィア「う、うん。」
シルヴィア(嬉しいけど、こんな雰囲気じゃ素直に喜べない。でも、八幡くんは平気そうな顔してる。やっぱり六花に来る前の事があったから平気なのかな………あっ!ダメダメ!そんな事思っちゃっ!八幡くんは凄い優しい人だからだよ!うん!)
ガチャッ
スタッフ2「2人共、そろそろ準備お願いします……それと比企谷くん。」
八幡「はい?」
スタッフ2「その……会議室では上手く言えませんでしたが、頑張って下さい!」
シルヴィア(八幡くんは少し驚いたような顔をしていた。多分だけど、正面から応援を受けたことないからだよね。)
八幡「………ありがとうございます。」
そして………
『皆様!大変長らくお待たせ致しました!本日は急遽の歌手代役の件、誠に申し訳ありませんでした!』
『それでは、2人の登場です!歌姫、『シルヴィア・リューネハイム』さん、そして『
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八幡side
それと同時のブーイング。そんなにカッカしないでくれよ。いや無理か。
冷静にいかないとな。
シルヴィア「八幡くん、頑張ろうね!」
スタスタッ
おわっ……マジか……こんなにいるのか。
さらに上がるブーイングの嵐。観客の怒りは既に頂点なのだろう。
八幡「……ご来場の皆様、今回のライブを行う予定だった男性歌手、ーーーー様の代役になりました、八代界人です。この度は、皆様の期待に添えることが出来ず、誠に申し訳ありませんでした。」
一応、45度腰を曲げての謝罪。
ワーワー
だが、それでも会場の騒ぎは止むことはなかった。
ファン1「お前の謝罪なんかどうでもいいんだよ!さっさと出てけっ!」
ファン2「そーだそーだ!お前なんかに代役が務まるかってんだよっ!」
この掛け声を筆頭に様々な野次やゴミが俺の方へ飛んでくる。
八幡「ッ!」
飛んできたのは空き瓶。俺の左側の額に当たり、出血している。
ファン1「オラッ!!」
八幡「ッ!」
次に来たのは飲みかけであろう、飲み物の入った紙コップだった。身体中びしょ濡れになり、会場からはどっと笑いが起きた。
ファン1「いよっしゃ!命中!」
ガヤガヤッ!
軽蔑の笑い声が会場を包み、八幡に向かって帰るように全体がブーイングしていた。
シルヴィア「八幡くんっ!」
直ぐにシルヴィアが駆け寄ってきた。
シルヴィア「大丈夫!?直ぐ替えの服を用意して「いや、いい。」……え?」
ファン1「シルヴィアちゃーん!そこ早く退けてよー。第2弾いくよ〜!」
シルヴィア「もうやめ「いいからやめろ。」…っ!」
八幡「大丈夫だから元の場所に戻れ。このままやるぞ。いいな?」
シルヴィア「え!?で、でも……」
八幡「いいからやるぞ。」
シルヴィア「っ!……う、うん。」
………ちょっと強く言い過ぎだな、後で謝るか。けどまずはこっちを終わらせねぇと。
八幡「皆様のお怒りもご尤もです。そこで、どうか一曲私の歌を皆様に聞いて欲しいのです。その後の判断で私はこの会場を去ります。お付き合い願えないでしょうか?」
さらにブーイング。最早誰も言う事を聞かないな。せめて一曲歌わねぇとな。
ファン2「早くいなくなれよ!いねぇならシルヴィアちゃんだけで十分なんだよ!テメェなんざさっさと帰れっ!」
また空き瓶か?それとも中身入りか?どっちでもいい、もう覚悟は決めてる。
パシッ!
俺の目の前で空き瓶をキャッチした客がいた。それは俺も知ってる人物だった。
虎峰だった。
ファン1「おいっ!何すんだよ!?」
虎峰「何故そこまで責める必要があるのですか!?彼は自分の責任でもないにも関わらず、謝罪をしたのですよ!こんなことする必要はもうないじゃないですかっ!!僕はこれ以上、彼やシルヴィアさんのライブを穢したくはありません!」
虎峰「先程彼は、一曲歌ってから会場の雰囲気で立ち去ると言っていました!納得出来ないのならそれでいいではありませんか!」
静まり返る会場……虎峰の気迫に圧されたのだろうか、誰も物を投げたり、野次を飛ばそうとはしなかった。
シルヴィア「虎峰くん……」
八幡「虎峰……」
すると虎峰は、俺の方へ向いた。
虎峰「八代さん。僕は貴方の歌を聴いてみたいです。聴かせてくれませんか?その代わり、貴方が歌っている最中は僕が守ります!ですので、お願いします。」
………前々から思っていたが、こいつって本当に良い奴だよな。
マジで最高の友人だな。
八幡「ありがとうございます。しかし、これは私のケジメのようなもの。お守りして頂かなくても結構です。ですので、席に戻って頂いて結構です。それと、再度お礼申し上げます。ありがとうございます。」
虎峰「いえ、とんでもないです。貴方と似たお方が学院にいるもので。そういう人を見ると、無性に応援したくなるのです。」
虎峰はそう言ってから観客のいる方へと戻っていった。
サンキューな。それと騙してごめんな。
八幡「僭越ながら歌わせて頂きます。ご視聴ください。『Wherever you are』」
だが、やっと始められる!
どうでしたか?
次は歌から入ります。
-追記-
ご存知かもしれませんが、
One ok rockの「Wherever you are」です。