ーーーどうしよう。
僕はまだ自由に動かせない腕で頭を抱えた。
だけど、それも仕方ないと思う。だって僕は…『転生』してしまったようだから。
それだけならまだ良いんだ。せっかく人生をやり直せる機会を手に入れたのだから、喜びこそすれ悩みなどしない。前世と違って家族は僕を愛してくれるし。それも僕はアルビノとして産まれてしまったにも関わらずだ。それを知って昨日は不覚にも泣いてしまった程だ。
では何が問題かというとーーー
「どうした、三春。頭が痛いのか?」
「ふあう?」
そう心配してくれる黒髪の美少女と、僕の隣で可愛い声を上げる赤ん坊。何を隠そう彼女と赤ん坊は僕の姉と双子の兄なのだが、その名前が問題だった。
「あらあら、千冬は一夏と三春にべったりね。」
穏やかに言う母さんの声に、不穏な固有名詞が混ざっているのに気付いただろうか。…そう『千冬』と『一夏』だ。(三春は僕の名前らしい)ついでに言えば、名字は織斑。
もうお分かりになられただろう。そう、僕はーーー
ーーー『IS』の世界で、織斑家に産まれてしまったのだ。
*****
「三春、千冬姉勝てるかな?」
「勝てるさ。相手も決勝まで来るほどの手練れだから、手こずりはするかも知れないけど。」
あれから速十余年。僕と兄さんは中学生になっていた。
産まれてすぐは自分の境遇に戸惑っていたけれど、こうやって産まれた以上自分なりに生きようと思って、事実その通りに生きてきた。
これまでいろんな事があったなあ。アルビノに伴う障害(視覚や皮膚)を治療したりその時突然起きた地震でお医者さんの手元が狂って後遺症で体力が落ちて上限も低くなったり小学校入学したら女の子と勘違いされたり箒と友達になったり両親に捨てられたり白騎士事件が起きたり箒が転校したり鈴が転校してきたり中学生になったり弾と和馬と友達になったり鈴が転校したり。本当に色々あった。
両親に捨てられるのは覚悟してたけど、やっぱりショックだった。姉さんと兄さんがいなかったら立ち直れなかったかもしれない。あと友人の存在も大きかった。皆良い人ばかりで、前世のぼっちだった頃とは雲泥の差だ。…箒も鈴も原作通り兄さん(唐変木)に熱視線を向けていた。…悔しくなんか無いですよ?ええ。リア充めなんて思っていませんとも。むしろ僕のほうが告白されたことは多いくらいだし。え?性別?…みんな男前だったよ…。
そして、白騎士事件とそれに伴う女尊男卑。これが僕に一つの決意をさせた。
即ち、この世界の矯正。女性の特権を廃し男性の権利を取り戻すことだ。
そのためにはISを上回る、もしくは匹敵する兵器を作らないといけない。無論男性が使える物を。…別にこれは、正義だの良心だので決意した訳じゃない。ただ単に、兄さんが昔ISを笠に着た女に嵌められそうになったから。その復讐と同じ事の予防のためだ。あの時は僕が女性のふりをして女を追い払ったけど(不本意ながら、僕が男性だと見た目で分かる人はいなかった)、そうじゃなかったら兄さんは警察に連れて行かれただろう。まあ姉さんがあの織斑千冬だと判明した瞬間に釈放されただろうけど。
問題はどんな兵器を作るかだった。ISの圧倒的性能に立ち向かうには、何が必要か。
絶対防御を打ち破る攻撃力。
ISに匹敵するほどの機動力。
様々な攻撃を耐えうる防御力。
ISと同じ、機体と操縦士の絆。
これらを兼ね備える兵器は、僕の知る中でただ一つ。
その名はーーー金属生命体、『ZOIDS』。
『ゾイド』、前世で好きだったロボット物だ。太陽系から六万光年先にある、惑星Zi。そこにはゾイドコアと呼ばれる器官を持ち、強い闘争本能をその身に宿す金属生命体、ゾイドが存在した。彼らは進化の過程で昆虫・猛獣・恐竜といった様々な種に分かれていき、そしてその星の人々は、彼らを改造、武装して戦いに用いた。それこそ戦闘機械獣、ゾイド。そう、僕は彼らを作る事に決めたのだ。
決めた本当の理由は二つ。
一つ目は、ゾイドのその特性。ゾイドはそもそも生き物だ。だからISと同じように操縦者と絆を結べるし、戦いの中で成長できるのだ。
二つ目は、ゾイドコアの設計に、ISコアの仕組みを流用できると思ったから。生憎僕は天才じゃない。前世の努力は確実に力にはなるけれど、それはあくまでも秀才止まり。到底『天災』には及ばない。だから最大限利用する。幸い、姉さんの部屋には天災兎から渡されたor度が過ぎているから没収した物が山積みだったから資料、材料には事欠かなかった。おかげで昨日、遂に一機作ることができた。今は待機状態でヘアゴムになっているけど。
閑話休題。
僕達は今姉さんの試合、第二回モンドグロッソ決勝戦を見に行くところだ。
ーーーつまり、原作で兄さんが誘拐されたシーン。
「兄さんは逃がす。なんとしても。」
「ん?何か言ったか?」
「へ!?ううん、何も言ってないよ?」
失敗失敗…つい口に出てたみたいだ。気をつけないと。
ーーーそんな一瞬の隙を突かれた。
ガバッと後ろから拘束される。口を塞がれ、身動きもとれない。当然兄さんもだ。
抵抗する兄さん。それを疎ましく思ったのか、襲撃者の一人が兄さんを殴りつけるーーー!
「うぐっ!?」
後ろから拘束して、口を塞いでいた奴の手に思いっきり噛み付く。そして相手が怯んだ隙に拘束を解いて、兄さんを殴ろうとした奴に体当たりして阻止。更に兄さんを拘束している奴の頭に回し蹴りを放つ。これで兄さんの拘束も解けた。
「兄さん逃げて!」
「なっ!?お前を置いていけるか!」
兄さんも相変わらず頑固だ。だけどこればっかりは譲れない。
「兄さんは僕に体力無いの知ってるでしょ?…このまま二人で逃げてもどの道僕は逃げ切れない。だから先に逃げてこの事を誰かに伝えて。それが今最良の選択なのは、兄さんも分かってるでしょ?」
「だけど!」
「いいから早く!」
「…悪い。必ず助けるからな!!」
良かった。兄さんは運動できるしここら辺は人も多い。これなら逃げ切れるだろう。
なら僕がやることは一つ。
「さあ、できる限り時間稼がせてもらうよ!」
*****
「うっ…くぅ…」
意識が覚醒していく。と同時に全身に走る痛み。
「いたた…ずいぶん手酷くやられたな…」
まあ気絶するまで抵抗したのだから当然か。ああ、でも痣になったらやだなあ。綺麗な白い身体は一応自慢なのに。手足も、こんなにきつく縛られたら跡が残っちゃうよ。
「うーん、どうにかして此処にいることを伝えたいけど…」
今はどうしようも無い。奴らは捕まるのを恐れてかいなくなっていたから、待機状態のこの子を展開すれば伝えるどころか自力で逃げるのだって可能だ。…でも、それはできない。
ーーーこの子はまだ誰にも見つかる訳にはいかない。まだその時じゃないから。
「となると…待つしかないか。」
*****
ーーーどれだけの時間が経っただろう。一時間か。二時間か。それとももっと長い間か。
縛られて身動きできず、薄暗い廃墟で一人きり。気楽に寝てしまえと思っても、今一上手くいかない。
「ははは…これはなかなか堪えるね…」
原作じゃあ誘拐された兄さんをドイツ軍が見つけて、姉さんが助けに来るはずだ。それを知ってる僕でもすっかり参ってるんだ。原作の兄さんがどれほど辛かったかは、推して知るべしというものだろう。
ーーー静寂。疲れと痛みで限界が近い上、言いようのない不安が精神を蝕んでいく。
ーーーなんでまだ助けが来ない?まだ見つけられてないのか。それともまさか兄さんまで捕まってしまったのか。だから事実が早期に伝わらず、捜査に手間取っているのか。ああ、もっと粘って抵抗すれば良かったかなあ。兄さんに迷惑をかけて。嫌われたら嫌だな。
…嫌われる?いや、まさかそんなはずはない。人の思ってることを察するのは前世で散々やったから慣れてる。姉さんも兄さんもそんなふうじゃなかった。だから違う。そんなはずない。そんな『嫌われてるから助けが来ない』なんて、あるわけ無い。
…でも、それならなんでこんなに遅い?アニメだと兄さんが助けられる時、外から日差しが差していた。だけどもう、外からは少しの光も入って来ない。夜になったのは間違いないだろう。いや、原作より遅いからって、疑うのは良くない。僕達は家族なんだから。
…それがまず幻想だとしたら?初めから二人は僕を家族なんて思ってなかったら。それなら助けが来ないのも納得だ。
…やだ。やだ。やだ。嫌われたくない。嫌われていたくない。もう一人は嫌だ。そんなの前世で人一倍体験してる。もうこれ以上あんな体験したくない。怖い。怖い。嫌われてるんじゃないかと思うと体が震える。縛られた体をぎりぎりまで丸めて縮こまる。寒い。なんだかとても寒い。それでも体からはいやな汗が止まらない。
ーーー嫌だ。
「兄さん…」
ーーー怖い。
「姉さん…」
ーーー寒い。
「……たすけて」
ーーーーードガァッ!
突然、轟音と共に壁が崩壊した。と同時に、眩い光が辺りを照らす。
ーーーそれは日の光ではなく、無機質なライトのものだったけれど。その光に浮かぶ二つの影は、おそらく物語の中で彼の兄が見たものと同じ…いや、それよりも頼もしいものだっただろう。
「三春!」
駆け寄って、堅い装甲の収納も忘れて抱きしめる女性。
「…ねえ…さん?」
「こんなに傷だらけになってっ…!すまないっ…!すぐに助けられなくて。すまないっ…!」
片脚を引きずりながら、できうる限り早く近づいて来る少年。
「悪い…ドジっちまって伝えるのが遅くなった…。ごめんな…俺のせいでこんなになって…ごめんっ…!」
「…にい…さん?」
「三春…一夏を攻めないでやってくれ。こいつは…脚を銃で撃たれたんだ。そして捕まった後、脚を縛られなかったからと、怪我を厭わず自分で脱出して伝えてくれたんだ。これも全ては前回優勝なんかした私のせいだ…二人共すまないっ…!」
「千冬姉のせいじゃない…俺がドジりさえしなければ三春をこんな目に遭わせなくて済んだのに…。三春…ごめんっ…!」
ーーー思わず涙が溢れ出る。疑っていた自分が腹立たしくて。助けられたことにほっとして。…何より、自分をこんなにも愛してくれていることが嬉しくて。
ーーーああ。声が出ない。涙で声が掠れてしまう。これじゃあ二人に言えないじゃないか。迷惑かけて、疑ってごめんなさいと。助けてくれてありがとうと。そして何よりも…『大好き』と。
「うくっ…うわあああああ!」
「三春…俺、もっと強くなるよ。もうこんな事にならないように。お前を守れるくらい。」
ーーーただ泣きじゃくる僕を抱きしめて、兄さんはそう言ったのを覚えている。
アルビノとは、体中の色素が無い個体のことで、動物・植物ともに発生する可能性があります。身近なものだと白米や飼育用の兎などですね。あ、無論人間にもアルビノの方はいらっしゃいますよ。
アルビノの方は、色素が無いため肌や髪は真っ白、目は血管の色で赤いです。また日光に弱く、すぐに肌が真っ赤に焼けてしまうほか、皮膚ガンなどになるリスクが高かったり、周りが眩しく見えてしまったりするそうです。色、症状ともに個人差がありますが。…といっても、この作品において重要なのは色だけですので、他の身体的特徴は無くしました。実は結構問題があるらしい荷電粒子砲を実用化した世界ならば医療も優秀だろうと思いまして。というわけで一夏君も脚は完治して、後遺症も残りません。健康体です。
あ、ちなみに三春の髪型は東方のパチュリーさんと同じです。つまり二つのヘアゴムのうち片方が待機状態のゾイドです。
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